ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

?2012年の仕事納めの日にふと思ったこと

2012年12月29日 | 日記・エッセイ・コラム

私は現在59歳でもうすぐ還暦を迎えます。私は高校卒業後、最初は科学者にあこがれて名大理学部に進みましたが、22歳の時に人生行路を大きく変更して信大医学部に再入学したので、医師としての活動のスタートは28歳と大きく出遅れました。

高校や名大理学部の時の同級生の多くは60歳定年を迎えるので、皆そろそろ現役引退の準備をしている頃だと思います。

幸か不幸か、今の私の職場の医師の定年は65歳なので、現役引退までにあと6年間は残ってます。その6年の間に、新しい周産期センターを立ち上げて、それを軌道に乗せるという大事業を達成する必要があります。今の調子で患者さんが来てくださると仮定すれば、残された6年間で、おそらく分娩7000~8000件、婦人科手術も1000件程度は取り扱うことになると思います。

職場の多くの仲間たちと共に常に最新の医学を学び、チームでよく話し合い、我々に課せられた日々の任務を淡々と遂行していきたいと思います。また、定年退職を前にして途中で倒れたりすると周囲に大きな迷惑をかけて大変なことになるので、日々の体調管理には細心の注意を払っていきたいと考えています。


飯田市立病院市民医療フォーラム 講演会(がんと向き合う、「仁科亜希子さん」を囲んで)

2012年12月14日 | 婦人科腫瘍

先日、市内で飯田市立病院創立60周年、新病院開院20周年記念事業・飯田市立病院市民医療フォーラムが開催され、講演会(癌と向き合う、仁科亜希子さんを囲んで)とパネルディスカッションがあり、市民約三百人が参加しました。まず、仁科さん御自身の、子宮頸がん治療や今も続く治療の後遺症と向き合う状況、子宮頸がん検診や子宮頸がん予防ワクチンの重要性などについての講演会がありました。引き続いて開催されたパネルディスカッションでは、まず、市保健課の保健師より市の子宮頸がん検診、子宮頸がん予防ワクチン接種の実施状況などについて説明し、次に、私が専門医の立場から主に子宮頸がんの診断と治療の現況などについて説明し、次に、放射線治療科部長より子宮頸がんの放射線治療などについて説明しました。最後に仁科さんの追加コメント、ディスカッション、質疑応答、院長の総括コメントなどがあって、盛会のうちに市民医療フォーラムを無事終了ました。

「子宮頸がん検診受けて」 仁科亜季子さん、飯田で体験語る

****** 講演会(仁科さん)の様子

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「子宮頸がん」―経験したからこそ伝えたい! 「子宮頸がん」―経験したからこそ伝えたい!
価格:¥ 1,365(税込)
発売日:2011-10-01

**** パネルディスカッションで使用したスライドの一部 

子宮頸がんの診断と治療について

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妊婦の心停止

2012年12月05日 | 周産期医学

妊婦の心停止における心肺蘇生は、一般成人における方法におおむね準ずるが、以下のようないくつかの相違点がある。
①子宮左方転位を行う。
②胸骨圧迫部位をやや頭側に置く。
③早期に確実な人工呼吸を確立する。
④急速輸液を考慮する。
⑤死戦期帝王切開術を考慮する。

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● 子宮左方転位:
妊婦20週以降では、妊娠子宮が下大静脈と大動脈を圧迫し、静脈還流量と心拍出量を抑制することが知られている。従って、妊娠20週以降の心肺蘇生では、まず子宮左方転位を行う。子宮による下大静脈と大動脈への圧迫を避けるために15°の左側臥位で心肺蘇生を行うことがあるが、仰臥位で心肺蘇生を行う場合に比べて胸骨圧迫が不十分になる可能性があり、30°を超えると十分な胸骨圧迫は困難となる。左側臥位にする代わりに、仰臥位のままで、子宮を用手的に左方へ圧排して、妊娠子宮による下大静脈と大動脈の圧迫解除を試みることがある。

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30°の左側臥位

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用手的な子宮左方圧排

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● 胸骨圧迫:

妊娠子宮によって横隔膜は押し上げられ胸腔や心臓も頭側に偏位しているため、胸骨圧迫の位置は一般成人よりやや頭側の、胸骨中央となる。圧迫の深さは一般成人と同様に5cm以上である。

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● 除細動

妊婦においても一般成人と同様の適応で除細動を行うことが推奨されている。パッド貼付位置や放電ジュール数も一般成人と同様である。

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● 薬剤投与

妊婦においても一般成人と同用量の薬剤を投与する。心停止の際に最もよく用いられる薬剤はアドレナリンである。

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● 死戦期帝王切開術(perimortem cesarean section):

死戦期帝王切開術とは、心停止に陥った妊婦に対して、母体蘇生処置の一つとして実施する緊急帝王切開術である。児を娩出することにより子宮を小さくして下大静脈と大動脈の圧迫を解除し、母体血行動態を改善することが目的である。

腹の大きな(およそ妊娠20週以降の)妊婦が心停止に陥った場合、ただちに死戦期帝王切開術の準備を始める。母体心停止後4分の時点で死戦期帝王切開術開始の判断をする。児の予後も考慮すると、心停止後5分程度のうちに娩出が行われることが望ましいが、心停止後15分までの母体生存例もある。

死戦期帝王切開術は、子宮底が臍に達していない(およそ妊娠20週未満)場合や、母体救命の可能性が全くない場合には適応にならない。一方、胎児の生死は問わない。

死戦期帝王切開術はAHAのガイドライン2000においてすでに推奨されているが、日本における施行数はきわめて少ない。これを施設で実際に施行するためには、施設において死戦期帝王切開術を行う体制を構築する必要があり、施設内の関係科でよく話し合い、シミュレーションを行っておくことが非常に大切である。

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● 参考文献

加藤里絵: 妊産婦における心肺蘇生法の啓発、日本臨床麻酔学会誌、Vol.32 No.7、858~865、2012

救急蘇生法の指針2010 医療従事者用、監修:日本救急医療財団心肺蘇生法委員会(へるす出版)、2012年2月発刊


院内のICLSコースに参加しました

2012年12月03日 | 日記・エッセイ・コラム

昨日、職場で開催された日本救急医学会認定のICLSコースを受講しました。

ICLSコースは、突然の心停止に対する適切なチーム蘇生を習得するためのシミュレーション・トレーニングを中心とした講習会です。たまたま心停止の現場に居合わせた医師、歯科医師、研修医、看護師、救命救急士などのいろいろな職種の医療関係者が、即製の蘇生チームを結成して、心停止が発生してから最初の10分間にチームで何を実行すればよいのか?を学びます。昨日は8:30から17:30まで非常にタイトなスケジュールで、身近でリアルなシナリオ・シミュレーションで学び、講習会の最後には試験も行われました。非常に疲れましたが楽しい充実した1日でした。

院内で心停止が発生した場合、緊急コールが発動され、集まった職員で即製の蘇生チームを結成し、最初の蘇生を行います。緊急事態発生時に誰が現場にいあわせるのか全くわかりませんから、多くの職員がコースに参加して蘇生の基本を学んでおく必要があります。また、せっかく勉強していろいろ覚えて蘇生の基本を習得したとしても、普段の仕事で蘇生を経験してない場合、講習会後しばらく経過すると学んだことをすぐに忘れてしまいますし、コース内容も数年ごとに改訂されますから、シミュレーション・トレーニングをたゆまず繰り返しておく必要があります。次は来年2月にACLSコース(2日間コース)を受講する予定です。

参考:妊婦の心停止

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周産期救急への対応

2012年12月01日 | 周産期医学

当科では、分娩件数が急増している関係上、最近は異常分娩に遭遇する機会も大幅に増えました。

全身麻酔下の超緊急帝王切開例も、今年に入ってから6例経験しました。6例中5例は勤務時間外(平日の準・深夜帯や休日)の発症でしたが、帝切決定から児娩出までに要した時間は全例で30分以内でした。6例中5例は常位胎盤早期剥離の突然の発症でしたが、発症直前まで特に妊娠高血圧症候群などの症状は認められず、低リスク妊娠と判断していた妊婦さん達でした。超緊急帝王切開例を経験する度に、周産期チーム(産婦人科医、小児科医、麻酔科医、助産師、産科病棟看護師、NICU看護師、手術室看護師など)が一堂に会して、臨床経過を振り返り、超緊急帝王切開対応マニュアルの改善点をチーム全員で検討しています。

また、最近、分娩時の母体脳出血の症例を経験しましたが、発症直後から周産期チームに加えて脳神経外科医らとも緊密に連携して、病院の総力を挙げて全力で治療に当たりました。

周産期の緊急異常事態は突然発症し、発症直後からチームで一致団結して迅速に対応する必要があります。発症時にチームの誰が勤務しているのかは全く予測できません。従って、周産期の緊急異常事態がいつ発症してもチームで適切に対応できるように、常日頃からチーム全員で対応する手順をよく話し合って、シミュレーション・トレーニングを繰り返して、周産期救急への対応にチーム全員が習熟しておく必要があります。

現在、新生児蘇生法(NCPR)講習会を院内で定期的に開催し、スタッフの新生児蘇生法のシミュレーション・トレーニングを繰り返し実施してますが、可能であれば将来的には、ALSO(Advanced Life Support in Obstetrics)コースも定期的に開催し、スタッフの産科救急への対応についてのシミュレーション・トレーニングを繰り返し実施できるようにしたいものだと夢想しています