ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

受精(fertilization)

2020年07月30日 | 生殖内分泌

排卵により卵丘細胞・卵子複合体(COC)が腹腔内に放出され、その後卵管内に入る。卵子は第二減数分裂中期で停止し、卵管膨大部で精子を待つ。

一方、腟内に射精された2~3億個の精子は早いものは5分後に卵管内まで到達し、最終的には200個以下が卵管膨大部に達する。

精子は、卵胞液の刺激を受けると受精能を獲得(capacitation)する。受精能獲得完了の指標として精子の運動性の変化があり、hyperactivationと呼ばれる。精子鞭毛の大きな振幅と非対称性を特徴とする。この運動は透明帯進入において物理的推進力となると考えられる。卵丘細胞を通過し透明帯(zona pellucida)に近づいた精子は先体反応(acrosome reaction)を起こす。先体反応により、精子の頭部から酵素の放出が起こって精子が透明帯を通過できるようになる。ただ一つの精子が透明帯を貫通し、卵子に横対横で接着・結合し、狭義の受精が成立する。

卵細胞内では反復性かつ一過性の細胞内カルシウム濃度上昇(カルシウムオシレーション)が起きる。カルシウム濃度の上昇は即時的に卵巣表面顆粒の開口分泌を誘導し、透明帯蛋白ZP3の精子結合部を分解する。これにより次の精子が先体反応を起こせず、多精拒否機構が成立する。

細胞内カルシウム濃度の上昇により停止していた卵の減数分裂が再開し、第二極体(second polar body)が形成され、減数分裂が完了する。卵子由来の遺伝子が入っている雌性前核(female pronucleus)と、精子由来の遺伝子が入っている雄性前核(male pronucleus)が形成され、最終的にこの2個の前核が融合して広義の受精が完了する。

卵活性化(egg activation)
受精後に起きる表層顆粒の開口分泌第二減数分裂の再開前核形成などの一連の現象を卵活性化という。卵細胞内に取り込まれた精子ファクター(PLCζ)は、小胞体からのカルシウム遊離を誘導し、遊離されたカルシウムは他の小胞体からのカルシウム遊離を次々に引き起こし、細胞内カルシウム濃度は上昇・下降を繰り返す。これをカルシウムオシレーションといい、前核形成まで継続する。

参考文献:
1)データから考える不妊症・不育症治療、竹田省ら編、メディカルビュー社、2017
2)生殖医療ポケットマニュアル、吉村泰典監修、医学書院、2014


黄体(corpus luteum)

2020年07月29日 | 生殖内分泌

黄体形成
排卵後の卵胞は黄体(corpus luteum)となり、プロゲステロンエストロゲンを分泌する。

黄体退縮
妊娠が成立しなければ、黄体は約14日で退縮する。黄体後期にプロゲステロン産生が低下し黄体細胞のアポトーシスが起こる。黄体が退縮し白体(corpus albicans)が形成される。

妊娠黄体(corpus luteum of pregnancy)
妊娠が成立すると、将来胎盤を形成するようになる絨毛組織からhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)が分泌される。hCGがLH/FSH受容体を介して黄体のプロゲステロン産生を促進し、黄体機能の延長を起こす。黄体は妊娠黄体として妊娠12週頃まで存在し、プロゲステロンを分泌し続ける。


   妊娠黄体

参考記事:
卵胞発育
卵胞におけるエストラジオールの産生
排卵(ovulation)
月経周期とホルモンの変化
黄体機能不全
天然型プロゲステロン製剤

参考Webサイト:不妊College(データに基づく不妊治療の基礎知識)、フェリング・ファーマ株式会社

参考文献:
1)データから考える不妊症・不育症治療、竹田省ら編、メディカルビュー社、2017
2)基礎からわかる女性内分泌、百枝幹雄編、2016


排卵(ovulation)

2020年07月29日 | 生殖内分泌

卵丘細胞・卵子複合体
COC : comulus oocyte complex

成熟卵胞に向かって数十個の卵胞が発育していくが、通常、1回の排卵タイミングで排卵できるのは1個の卵胞のみでこれを主席卵胞という。主席卵胞以外の残りの数十個の発育途中の卵胞は閉鎖卵胞となる。

主席卵胞から産生されるエストラジオールが増量して、200~400pg/mlに達した時点でポジティブフィードバックによるLHサージが起こる。排卵前に卵胞内では卵丘細胞と顆粒膜細胞に解離が起こり、卵丘細胞・卵子複合体(COC)が卵胞液内に浮遊する。卵胞壁はプロスタグランジンの作用により平滑筋が収縮して卵胞内圧が上昇し、産生されたプラスミンの影響で卵胞壁が菲薄化し破裂する。排卵により卵丘細胞・卵子複合体(COC)が腹腔内に放出され、その後卵管内に入る。

排卵の起きるタイミングLHサージの立ち上がりから30~36時間後エストラジオールのピークの24~28時間後LHサージのピークの12~18時間後に起こる。

参考記事:
卵胞発育
卵胞におけるエストラジオールの産生
月経周期とホルモンの変化
排卵日推定法

参考Webサイト:不妊College(データに基づく不妊治療の基礎知識)、フェリング・ファーマ株式会社

参考文献:データから考える不妊症・不育症治療、竹田省ら編、メディカルビュー社、2017


卵胞におけるエストラジオールの産生

2020年07月27日 | 生殖内分泌

“two cell, two gonadotropin theory“
2細胞2ゴナドトロピン説

エストロゲンはエストロゲン受容体に結合してホルモン作用を示す化合物の総称である。ヒトのエストロゲンは、エストロン(E₁)、エストラジオール(E₂)、エストリオール(E₃)などがあるが、エストラジオールが最も強い生理活性を持ち、その活性はエストロンの2倍、エストリオールの10倍である。発育中の卵胞はエストロゲン(エストラジオール)を分泌する。

“two cell, two gonadotropin theory”
卵巣におけるエストロゲンは、FSHとLHの2種類のゴナドトロピンと、莢膜細胞と顆粒膜細胞の2種類の細胞との相互作用で産生される。


“two cell, two gonadotropin theory”

LH受容体は莢膜細胞に存在し、FSH受容体は顆粒膜細胞に存在する。莢膜細胞ではLHの作用によってコレステロールからアンドロゲンが産生され、このアンドロゲンが基底膜を通過して顆粒膜細胞に移行し、FSHの作用で誘導されたアロマターゼによりエストロゲンに転換される。エストラジオールはFSHの作用下に顆粒膜細胞で産生され、排卵の24~36時間前にピークとなる。

参考記事卵胞発育

参考Webサイト:不妊College(データに基づく不妊治療の基礎知識)、フェリング・ファーマ株式会社

参考文献:データから考える不妊症・不育症治療、竹田省ら編、メディカルビュー社、2017


卵胞発育

2020年07月26日 | 生殖内分泌

遺伝的な女性(XX)の原始生殖細胞は、発生5~6週頃に卵巣原基に移動して卵原細胞卵祖細胞)へと分化する。卵巣内で卵原細胞が多数産生され、卵原細胞は複数回の体細胞分裂を起こし第一次卵母細胞となる。

第一次卵母細胞は周囲を一層の扁平上皮様細胞が取り囲んだ状態で原始卵胞が形成される。胎生期に第一次卵母細胞は減数分裂を開始し、第一減数分裂の前期の網状期でいったん休止し、この状態で出生し、思春期にいたるまでこのままである。卵細胞はすべてが減数分裂の途上にある。

思春期に入り、主席卵胞の卵子のみがLHサージにより第一減数分裂を再開し、排卵の直前に第一減数分裂が完了して第二次卵母細胞と第一極体になり排卵される。第二次卵母細胞はすぐに減数第二分裂を始めるが中期で再び休止する。

卵巣皮質にある原始卵胞数は、胎生20週頃で最大の700万個であり、出生時には80万個に減少し、月経開始時に30~40万個となり、閉経期頃には1000個程度となる。女性が一生のうちに排卵する卵子の数は約400個で、排卵しなった卵細胞はアポトーシスによる細胞死に至る。ほとんどの卵胞は排卵せずに閉鎖卵胞となる。

卵胞は形態により原始卵胞一次卵胞二次卵胞に分類される。原始卵胞は第一次卵母細胞とそれを囲む一層の扁平な上皮とからなる。一次卵胞は一層の立方状の顆粒膜細胞に囲まれる。二次卵胞は数層の顆粒膜細胞に囲まれる。二次卵胞のなかで、顆粒膜細胞から分泌された卵胞液により囲卵腔が形成されたものが胞状卵胞である。

原始卵胞から一次卵胞へ発育するのに約150日間、一次卵胞から二次卵胞へ発育するのに約120日間を要する。二次卵胞は約85日間で排卵直前の成熟卵胞(グラーフ卵胞)まで発育する。

最初の原始卵胞から前胞状卵胞に至る発育は,ゴナドトロピンに全く依存せず自律的に進行する(ゴナドトロピン非依存性)。続く前胞状卵胞から小卵胞腔を有する初期胞状卵胞への移行期は、卵胞がゴナドトロピンに反応し始めるものの生体内での発育には必ずしもゴナドトロピンを必要としないといわれている (ゴナドトロピン感受性)。最終的に胞状卵胞がリクルートされ選択→発育→排卵に至るプロセスは、ゴナドトロピン(性腺刺激ホルモン)が完全に主導する(ゴナドトロピン依存性)。卵胞刺激ホルモン(FSH)に対する受容体は前胞状卵胞の段階で発現するが,卵胞が実際にゴナドトロピン依存性に発育するのは胞状卵胞以降である。すなわち前胞状卵胞から胞状卵胞への移行期は,卵胞発育を制御するメインシステムが,卵巣内の局所調節因子からゴナドトロピンへと切り替わる重要なターニングポイントと考えられる。

単一排卵機構:
ヒトは月経周期のにおいて1つの排卵が起こる単一排卵機構が特徴的である。月経周期の初期の卵巣には3mm前後の十数個の二次卵胞が存在し、FSH依存性に発育成熟するが、卵胞期中期以降FSHの分泌が減少し、この変化に耐えられる1個の卵胞(主席卵胞)のみが閉鎖を免れて成熟卵胞(グラーフ卵胞)となり排卵に至る。成熟卵胞以外は閉鎖卵胞となる。

減数分裂(成熟分裂)
月経周期とホルモンの変化
排卵日推定法

参考Webサイト
不妊College(データに基づく不妊治療の基礎知識)、フェリング・ファーマ株式会社

参考文献
1)データから考える不妊症・不育症治療、竹田省ら編、メディカルビュー社、2017
2)基礎からわかる女性内分泌、百枝幹雄編、2016、p10


飯田下伊那地域における産科医療提供体制の変遷(平成の30年間を振り返って)

2020年07月23日 | 飯田下伊那地域の産科問題

私は岐阜県瑞浪市の出身で、自然科学者になりたいという幼少時からの夢を実現するために、最初は名古屋大学理学部に進学しましたが、卒業を前にして医学を勉強したくなり医学部を再受験しました。受験科目の関係でたまたま信州大学を受験しましたが、入学試験の前日まで長野県内に足を踏み入れたことは一度もありませんでした。信州大学卒業後は岐阜県に戻る予定でしたが、岐阜県内の行き先がなかなかみつからず、とりあえず母校の大学院に進学して長野県に残留しました。というわけで、私は長野県の中でも松本市内しか住んだことがなく、飯田市立病院への赴任を命ぜられた35歳になるまで飯田市を訪れたことは一度もありませんでした。平成31年3月に私は65歳で市立病院を定年退職しました。無我夢中で働いて本当に楽しいあっという間の30年間でした。最初のうちはいつか地元の岐阜県に戻りたいと思ってましたが、今となっては岐阜県に戻っても知り合いはほとんど皆無です。今ではこの飯田下伊那地域に非常に多くの知り合いができて、この地が世界でいちばん居心地のいい場所となり、死ぬまでこの地で暮らしたいと思ってます。

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平成元年4月に飯田市立病院(市立病院)に産婦人科が開設されることとなり、信州大学産婦人科より教授命令で初代市立病院産婦人科部長として赴任し、それから平成の30年間を市立病院で勤務しました。

市立病院に産婦人科が開設された当初は産婦人科医1人、助産師2人の診療態勢でした。平成3年4月にN医大講師(医局長)だったH先生が就任し常勤医2人となりました。H先生とは、その後14年間よき相棒として苦楽を共にし一心同体となって働きました。

飯田下伊那地域では、平成元年には分娩を取り扱う施設が13施設(4病院,9診療所)ありましたが、産婦人科医の高齢化により地域の分娩取り扱い施設は年々減り続け、平成10年頃には地域の分娩取り扱い施設は計6施設(3病院、3診療所)となり、その6施設で地域の分娩(年間1500~2000件)を分担して取り扱っていました。平成17年の夏頃に、その6施設のうちの3施設(2病院、1診療所)がほぼ同時に分娩の取り扱い中止を表明しました。この3施設分を合計すると、年間約800~900件の分娩受け入れ先が突然なくなってしまうことになり、地域から多くのお産難民が出現する最悪の事態も予想されましたので、関係者たちは非常に大きな危機感を持ちました。

そこで、平成17年8月に当地域の各自治体の長、医師会長、病院長、産婦人科医、助産師、保健師などが集まって産科問題懇談会を立ち上げ、この問題に対して今後いかに対応していくかを話し合いました。市立病院(平成17年当時の常勤産婦人科医3人、小児科医4人、麻酔科医3人)は、県より地域周産期母子医療センターに指定され、地域における唯一の二次周産期施設として、異常例を中心に年間約500件程度の分娩を取り扱ってました。産科問題懇談会での話し合いの結果、周辺自治体からの資金提供もあり、市立病院の産科病棟・産婦人科外来の改修・拡張工事、医療機器の整備などを行ってハード面を強化し、常勤産婦人科医数も信州大学からの人的支援が得られて常勤医3人態勢から4人態勢に強化されました。また、分娩を中止する産科施設の助産師の多くが市立病院に異動することになりました。分娩取り扱いを継続する2つの産科一次施設にも、できる限り(低リスク妊婦管理を中心とした)産科診療を継続していただくとともに、地域内の関係者の協力体制を強化して産科医療を支えあっていくことになりました。具体的には、市立病院で分娩を予定している妊婦さんの妊婦健診を地域の産婦人科クリニックで分担してもらうこと、地域内での産科共通カルテを使用し患者情報を共有化すること、市立病院の婦人科外来は他の医療施設からの紹介状を持参した患者さんのみに限定して受け付けること、などの地域協力体制のルールを取り決めました。また、産科問題懇談会は継続して定期的に開催し、いろいろな立場の人達の意見を広く吸い上げて、何か問題が発生するたびにそのつど対応策を協議し、その結果を情報公開して市の広報などで市民全体に周知徹底させてゆくことが確認されました。

平成18年4月以降、飯田下伊那地域の分娩取り扱い施設は3施設(市立病院、2診療所)のみとなり、予想通り市立病院の年間分娩件数は倍増し約1000件となりましたが、共通カルテを用いた地域の産科連携システムが比較的順調に運用され、それほど大きな混乱もなく地域の産科医療を提供する体制が維持されました。また、平成19年6月には市立病院の常勤産婦人科医は5人となりました。

当時、長野県内の他の医療圏でも、産婦人科医不足の状況は急速に悪化し、各地域を代表する基幹病院産婦人科が、次々に分娩取り扱い休止に追い込まれる異常事態となりました。そして、比較的順調に推移していると考えられていた飯田下伊那地域の産科医療提供体制にも、平成19年10月以降は急速に暗雲がたちこめ始めました。市立病院と連携して妊婦健診を担当していた2病院の常勤産婦人科医が県外に転勤し、1診療所が休診となりました。さらに市立病院産婦人科の複数の常勤医が平成20年3月末で辞職したいとの意向を表明しました。平成19年11月に開催された産科問題懇談会にて、平成20年4月からの分娩制限(里帰り分娩と他地域在住者の分娩の受け入れ中止)を決定しました。

その後、信州大学からの人的支援に加えて、他県より2名の産婦人科医が就職し、市立病院は常勤産婦人科医5人態勢を何とか維持できることとなり、平成20年3月に開催された産科問題懇談会にて、翌4月から実施が予定されていた分娩制限を解除することを決定しました。また平成20年4月より、助産師外来を大幅に拡大し、超音波検査を専任の検査技師が担当するシステムも導入しました。平成22年4月、市立病院産婦人科は常勤医6人態勢となりました。

H医院が平成23年2月をもって分娩の受け入れを中止し、近い将来に地域の全分娩が市立病院に集中する事態も想定し、分娩受け入れ数の更なる拡大に対応できるように施設を整備する計画を策定し、平成25年に県内最大規模の周産期センターが完成しました。実際に平成28年7月からは市立病院が飯田下伊那地域で唯一の分娩施設となり、年間1200~1300件の地域のほぼ全分娩を取り扱うようになりました。平成31年1月より市立病院産婦人科は常勤医7人、助産師50人以上の態勢で産科診療を行ってます。

飯田下伊那地域では、初期~中期の妊婦健診は4診療所で行い、後期以降の妊婦健診および分娩業務は主に市立病院で行って、市立病院と地域の産科医療機関とが緊密に連携し協力して互いの業務負担を軽減してます。平成30年度の県と市の予算で、当地域に病診連携のための産科電子カルテシステムを導入するプロジェクトが採択され、平成31年3月より地域産科電子カルテシステムの運用が開始されました。今後、試行錯誤で数年かけてシステムを完成させていく必要があると思います。

平成の30年間、飯田下伊那地域の産科医療提供体制は大きく変遷しました。幾度となく壊滅的な危機的状況にも直面しましたが、その度に信州大学産婦人科からの支援や地域の多くの人々の協力体制の構築によって、危機を一つ一つ乗り越えてきました。産科医療を取り巻く地域の状況はこれからも常に大きく変化します。今後もその時その時の状況に応じて臨機応変に対応し、時代とともに変革を続けていく必要があるでしょう。令和の時代も、多くの人々が協力して、また新たな歴史を切り開いていくことでしょう。

長野県・飯田下伊那地域における産科問題の変遷


経口排卵誘発剤

2020年07月23日 | 生殖内分泌

クエン酸クロミフェン(クロミッド®):
クエン酸クロミフェン(クロミッド®)は、選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)であり、弱いエストロゲン作用と強力なエストロゲン拮抗作用を有する経口剤である。視床下部のエストロゲン受容体に対して内因性エストロゲンと競合的に結合することにより、エストロゲンによるネガティブフィードバックを阻害する。これにより、視床下部からの性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)の分泌を促進する作用がある。GnRHは下垂体からの黄体形成ホルモン(LH)、卵胞刺激ホルモン(FSH)の分泌を促進し、その結果、卵巣を刺激して卵胞の発育を促進する。内因性のエストロゲン分泌が保たれている第1度無月経多嚢胞性卵巣症候群無排卵周期症の排卵誘発時に適応となる。月経5日目から50mg~100mg(1錠~2錠)/日を5日間連続服用する。クロミフェン®投与時は、卵胞径20~25mmまで発育してもLHサージが起こらないことがあり、その場合はhCGもしくはGnRHアゴニスト点鼻薬などで排卵誘起を行う。クロミッド®の排卵誘発率は60~90%と高いが、副作用として抗エストロゲン作用による子宮頸管粘液の分泌低下と、子宮内膜の菲薄化が問題となり、妊娠率は10~40%にとどまる。内因性エストロゲン分泌が低下している第2度無月経には無効である。したがって、クロミッド®投与で妊娠が成立しない場合には6周期を目処として中止し、ゴナドトロピン療法や体外受精へのステップアップを考慮する。


 クロミッド錠50mg、富士製薬工業株式会社

レトロゾール(フェマーラ®):
アロマターゼはアンドロゲンをエストロゲンへ変換する生合成酵素で、女性では卵巣顆粒膜細胞に主に限局するほか脳や乳腺などにも存在する。アロマターゼ阻害薬(レトロゾール)は全身のアロマターゼに作用し、アンドロゲンからのエストロゲン産生を低下させる。その結果、視床下部に対するエストロゲンのネガティブフィードバックが阻害され、視床下部からの性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)の分泌が促進され、卵胞刺激ホルモン(FSH)の産生が増加する。レトロゾールはアロマターゼ阻害薬で、抗エストロゲン作用による閉経後乳癌の治療薬である。レトロゾールの投与によりFSH分泌が促進され卵胞が発育する。排卵誘発剤として使用する場合、通常月経3~5日目より2.5mg(1錠)/日を5日間連続服用する。排卵率は90%で単一卵胞発育の割合が高い。クロミッド®と異なり子宮頸管粘液の減少や子宮内膜の菲薄化はほとんどない。レトロゾールを排卵誘発剤として使用する際は、本来の治療薬としての適応外使用であり保険適用がない。


 フェマーラ錠2.5mg、ノバルティスファーマ株式会社


緊急避妊法

2020年07月21日 | 生殖内分泌

emergency contraception (EC)
レボノルゲストレル( LNG) 1.5mg 製剤

緊急避妊法(emergency contraceptive : EC)とは、妊娠を望まない女性が、避妊せずに行われた性交または避妊したものの避妊手段が適切かつ十分ではなかった性交(unprotected sexual intercourse : UPSI)の後に、緊急避難的に妊娠成立を阻止するものである。

わが国では、レボノルゲストレル( LNG) 1.5mg 製剤が唯一の緊急避妊薬として2011年に正式に承認されており、緊急避妊法(EC) の第一選択として推奨される。

服用方法:LNG 単剤 1.5mg 1錠を性交後 72 時間以内に1回服用する。有効性を考えれば、できるかぎり速やかに服用することが望ましい。

服用後2~3時間以内に嘔吐した場合は、再度内服するか内服以外の方法に変更する必要がある。また、緊急避妊法の成功後も妊娠を望まない場合は、経口避妊薬(OC)、レボノルゲストレル放出子宮内システム(LNG-IUS)など、より確実な避妊法の選択を勧める必要がある。

レボノルゲストレル( LNG)は合成黄体ホルモン(プロゲスチン)である。

   レボノルゲストレル( LNG)

産婦人科診療ガイドライン・婦人科外来編2020
CQ403 緊急避妊法の実施法と留意点は?

Answer
「緊急避妊法の適正使用に関する指針」(日本産科婦人科学編、平成28年度改訂版)を参考に、緊急避妊法(emergency contraception : EC)について情報を提供し、必要に応じて実施する。
1. 性交後72時間以内にレボノルゲストレル(levonorgestrel : LNG)単剤1.5mg錠を確実に、できるだけ速やかに1錠服用する。(B)
2.内服以外の方法として、性交後120時間以内に銅付加子宮内避妊具(copper intra-uterine device : Cu-IUD)を使用する。(B)
3. ECの効果は完全ではなく、施行後も妊娠の可能性があることを説明し、必要に応じて来院させ妊娠の確認を行う。(A)
4. 以後、より確実な避妊法の選択を勧める。(B)

参考文献:
1)緊急避妊法の適正使用に関する指針、日本産科婦人科学編、平成28年度改訂版
2)産婦人科診療ガイドライン・婦人科外来編2020、日本産科婦人科学会/日本産婦人科医会、2020
3)ノルレボ錠1.5mg、添付文書、あすか製薬株式会社


子宮内黄体ホルモン放出システム(ミレーナ®52mg)

2020年07月20日 | 生殖内分泌

レボノルゲストレル放出子宮内システム(LNG-IUS)

LNG-IUSミレーナ®52mg)は、プロゲスチン(合成黄体ホルモン)製剤であるレボノルゲストレルの子宮内留置型の薬剤放出システムです。約20μg/日のレボノルゲストレルを子宮内に約5年間放出します。本システムの特徴は、プロゲスチン単独の製剤であること、局所療法であることです。

ミレーナ®52mgは、2007年に避妊薬として国内で承認されました。2014年からは過多月経、月経困難症の治療に対してミレーナ®52mgが保険適用となりました。

LNG-IUS装着の目的:
① 避妊(自費診療)
② 過多月経の治療(月経血の減少)
③ 月経困難症の治療(月経痛の軽減)

LNG-IUSの利点
① エストロゲンが配合されていないプロゲスチン単剤のため、血栓症リスクの上昇は懸念されない。
② 局所療法であり、血中に移行するレボノルゲストレル量は軽微であるため、乳癌術後や腎機能不全例にも使用可能である。
③ 従来の子宮内避妊用具(IUD)とは異なり、LNG-IUSは子宮機能に関しては可逆性が担保されており、抜去後の妊孕性は十分に保たれる。
④ 子宮内膜増殖症(単純型)に有効性が認められている。子宮体がんに対する予防効果が期待できる。子宮内膜症・子宮腺筋症の症状緩和に有効である。
⑤ コストパフォーマンスが良好である。同じ目的で経口避妊薬(OC)や低用量ピル(LEP)を5年間服用した場合と比較しても明らかに安い。

LNG-IUSの短所:
① 3ヶ月以内の自然脱出例が4%ある。
② 粘膜下筋腫、骨盤内感染症症例への使用は禁忌である。
③ 子宮頸管狭窄例では挿入困難である。

産婦人科診療ガイドライン・婦人科外来編2020
CQ402 子宮内避妊用具(IUD)・レボノルゲストレル放出子宮内システム(LNG-IUS)を装着する時の説明は?

1. 避妊を目的とする場合、完全な避妊はできないこと。(A)
2. 妊娠の疑いがある場合にはただちに受診すること。(A)
3. 位置の確認と交換のために定期的に受信すること。(B)
4. 出血、感染、穿孔などの有害事象および自然脱落が起こりえること。(B)

参考Webサイト:
ミレーナ®52mg ご使用中の皆様へ、バイエル薬品株式会社

参考文献:
産婦人科診療ガイドライン・婦人科外来編2020、日本産科婦人科学会/日本産婦人科医会、2020

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天然型プロゲステロン製剤

2020年07月19日 | 生殖内分泌

  天然型プロゲステロンの化学構造式

天然型プロゲステロンは、経口投与した場合、肝臓で代謝されその約90%が失活する。そのため、人工的に合成された黄体ホルモン作用を持つホルモン類似物質を治療目的で投与する場合があり、これらの黄体ホルモン類似物質はプロゲスチンと総称される。黄体ホルモンの内服薬はすべてプロゲスチンである。それに対して、注射薬、腟剤は天然型プロゲステロンでも肝臓での代謝を受けず、子宮に作用できる。注射薬より投与が容易である腟剤外用ゲル剤が我が国でも2014年以降に承認、販売開始され、生殖補助医療(ART)における黄体補充の適応で使用されている。

注射薬
プロゲホルモン 筋注10mg、25mg (持田製薬)
プロゲステロン 筋注25mg、50mg (富士製薬工業)
腟剤
ルティナス 腟錠100mg (フェリング・ファーマ)
ルテウム 腟用坐剤400mg (あすか製薬)
ウトロゲスタン 腟用カプセル200mg (富士製薬工業)
外用ゲル
ワンクリノン 腟用ゲル90mg (メルクバイオファーマ)

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黄体機能不全

2020年07月18日 | 生殖内分泌

luteal phase defect
luteal insufficiency

胚が着床するためには、プロゲステロン、エストロゲンの2種類のホルモンが十分に必要である。これらのホルモンは、排卵後に卵巣に形成される黄体から分泌されるものである。黄体からのプロゲステロンとエストロゲンの分泌不全により、子宮内膜の分泌性変化が適切に起こらないもの黄体機能不全という。妊卵の着床障害の原因になると考えられる。

実際には、黄体からのホルモン分泌に異常がなくても子宮内膜の変化に異常がある場合もあり、子宮内膜自体の異常も含めて黄体機能不全を取り扱っているのが現状である。すなわち広義の黄体機能不全(luteal phase defect)には、黄体からのホルモン分泌に異常がある狭義の黄体機能不全(luteal insufficiency)と、黄体からのホルモン分泌には異常がないが分泌期子宮内膜自体に異常がある子宮内膜機能不全が含まれると考えるほうが理解しやすい。

黄体機能不全は、不妊症、反復流産の原因として重要である。頻度は、不妊患者においては10~50%、反復流産患者においては25~60%で認められている。

天然型のプロゲステロンは経口投与した場合、肝臓で代謝されその約90%が失活する。そのため内服薬はすべて合成型プロゲスチン)である。それに対して、注射薬、腟剤は天然型でも肝臓での代謝を受けず、子宮に作用できる。注射薬より投与が容易である腟剤外用ゲル剤が我が国でも最近承認され、生殖補助医療(ART)における黄体補充に使用されている。

黄体機能不全の診断:(統一した診断基準はない)
① 基礎体温上、高温相が10日(~12日)以内
② 黄体期5~7日目のプロゲステロン値が10ng/ml未満
子宮内膜日付診の異常
のうちいずれか1つでも該当する場合を黄体機能不全と診断する

黄体機能不全の治療:
黄体機能不全は単一の病因による疾患ではなく、多くの病態や病因が含まれている。黄体機能不全の原因を考え治療に臨むことが重要である。
1)高プロラクチン血症を伴う場合
カベルゴリン(カバサール®)、ブロモクリプチン(パーロデル®)、テルグリド(テルロン®)などのドパミン作動薬の内服治療を行う。
2)高プロラクチン血症を伴わない場合
① 黄体補充療法
 a)hCG投与による黄体賦活
 黄体期2~6日目の間にhCG 3000単位を2回程度投与する。
 b)プロゲスチン製剤の投与
 (1) 注射薬(黄体期に週2回使用する)
 ヒドロキシプロゲステロン(オオホルミンルテウムデポー®、プロゲデポー®)
 (2) 経口薬(黄体期2~3日目より10日間使用する)
 ジドロゲステロン(デュファストン®)、メドロキシプロゲステロン(プロベラ®、ヒスロン®)、クロルプロマジノン酢酸(ルトラール®)
② 卵巣刺激療法
 クロミフェン療法、ゴナドトロピン療法
③ 卵巣刺激療法+黄体補充療法

参考文献:
1)生殖医療ポケットマニュアル、吉村泰典監修、医学書院、2014

 

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受胎前後における葉酸摂取により神経管閉鎖障害の発症リスクが低減する

2020年07月17日 | 生殖内分泌

神経管閉鎖障害(NTDs : neural tube defects) 
葉酸(folic acid)

葉酸は水溶性ビタミンであるビタミンB群の一種です。数多くの疫学研究から、受胎前後における葉酸摂取により胎児の神経管閉鎖障害(NTDs)の発症リスクが低減することが報告されています。

神経管閉鎖障害は、神経管が作られる妊娠4~5週頃におこる先天異常です。我が国では、出生1万人に対して約6人の割合でみられます。神経管の下部に閉鎖障害が起きた場合、これを「二分脊椎」といいます。二分脊椎の起きた部位では、脊椎の骨が脊髄の神経組織を覆っていないため神経組織が障害され、下肢の運動障害や膀胱・直腸機能障害がおきることがあります。神経管の上部で閉鎖障害が起きると、脳が形成不全となり、これを「無脳症」といいます。無脳症の場合、流産や死産の割合が高くなります。

現時点で、神経管閉鎖障害の発症予防の有効性が示されているのは葉酸のみですが、神経管閉鎖障害の発症要因は多因子であり、妊娠前から葉酸を摂取しても、すべての神経管閉鎖障害の発症が予防できるわけではありません。

米国やドイツなど欧米諸国では減少傾向にある二分脊椎症ですが、日本においては1974年には10,000人に2名未満の発症率であったのに対し、2010年には10,000人に6名近くとなっており、発症率が減っていません。

プレナタル・ナビ(バイエル薬品株式会社)より

産婦人科診療ガイドライン・産科編2020
CQ105 神経管閉鎖障害(二分脊椎、脳瘤、無脳症等)と葉酸の関係について説明を求められたら?

Answer
1.妊娠前から市販のサプリメントにより1日0.4mgの葉酸を摂取することで、児の神経管閉鎖障害発症リスクの低減が期待できると説明する。(B)
2.特に神経管閉鎖障害児の妊娠既往がある女性に対しては、医師の管理下に妊娠前から妊娠11週末まで、1日4~5mgの葉酸を服用することで、同胞における発症リスクの低減が期待できると説明する。(B)
3.神経管閉鎖障害の発症は多因子によるものであり、葉酸摂取不足のみが発症要因ではないと説明する。(B)

参考文献
1)産婦人科診療ガイドライン・産科編2020、日本産科婦人科学会/日本産婦人科医会、2020
2)国立保健医療科学院、葉酸情報のページ、Q&A
https://www.niph.go.jp/soshiki/07shougai/yousan/Q_A/q_a.html

3)葉酸と二分脊椎症、プレナタル・ナビ、バイエル薬品株式会社
https://www.prenatal-navi.jp/cat04/2016-11_what-is-spina-bifida.php

 

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妊婦のトキソプラズマ症

2020年07月15日 | 周産期医学

トキソプラズマ(Toxoplasma gondi)は、ネコ科動物を終宿主とし、ヒトを含む哺乳動物や鳥類などの恒温動物を中間宿主とする人畜共通寄生虫のひとつである。胎児感染すると、水頭症、頭蓋内石灰化、小頭症、腹水、肝脾腫、胎児発育不全などを起こすことがあり、これらの所見が胎児超音波検査で見られた場合、トキソプラズマ感染が疑われる。妊娠中のトキソプラズマ初感染は先天性トキソプラズマ症の発症につながる。日本におけるトキソプラズマの抗体陽性率は、低下傾向にあり、2013~2015年の妊婦の抗体陽性率は6.1%との報告だった。わが国での先天性トキソプラズマ症の発生数は10,000出生当たり1.26人と推計されている。妊婦のトキソプラズマ抗体保有率が高いフランス(44%、2003 年)では、全妊婦に対する抗体スクリーニングや、抗体陰性者に対して抗体検査を月1回行う感染予防プログラムが実施されている。全妊婦を対象としたユニバーサルスクリーニングは主に欧州諸国で実施されている。わが国では現時点で全妊婦対象のユニバーサルスクリーニングまでは推奨されてない(推奨レベルC)が、実際には妊婦取り扱い施設の約半数程度でトキソプラズマ抗体スクリーニングが実施されている。

妊婦抗体スクリーニングの目的は以下の2つである。
1)トキソプラズマIgG陰性妊婦に対して感染予防􏰄の教育・啓発を行う。
2)初感染の可能性が高い妊婦を抽出し、妊娠中の治療、新生児の精査・診断、フォローアップを行う


   トキソプラズマのライフサイクル

産婦人科診療ガイドライン・産科編2020
CQ604 妊婦のトキソプラズマ感染については?
Answer
1. 妊婦には感染防止のための情報を提供する(表1参照)。(C)
2. IgM抗体陽性が長時間持続する妊婦(persistent IgM)がいることに留意し、IgM抗体陽性妊婦では感染時期を推定するための精査を行う。(B)
3. 妊娠成立後の感染と考えられる場合、スピラマイシンを投与する。(B)
4. 羊水PCR検査で胎児感染が確認できた場合、ピリメタミンとスルファジアジン投与を考慮する。(C)

(表1)トキソプラズマ感染予防のための妊婦教育・啓発の内容


   トキソプラズマの妊婦スクリーニング法

参考文献:
1)トキソプラズマ妊婦管理マニュアル(第4版)、母子感染に対する母子保健体制構築と医療技術開発のための研究、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、成育疾患克服等総合研究事業、平成28~30年度
http://cmvtoxo.umin.jp/doc/toxoplasma_manual_20200116.pdf
http://cmvtoxo.umin.jp/doctor_04.html
2)産婦人科診療ガイドライン・産科編2020、日本産科婦人科学会/日本産婦人科医会、2020

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抗精子抗体(男性不妊)

2020年07月15日 | 生殖内分泌

antisperm antibody (ASA)

男性の抗精子抗体保有率は約3%と言われています。男性では抗精子抗体が自己抗体として産生されて、免疫性不妊の原因となることがあります。抗精子抗体の生物活性は多様で必ずしも男性不妊の原因となるわけではありませんが、不妊男性の抗精子抗体が強陽性であれば顕微授精の適応が推奨されます。

男性にとって精子は自己が産生する細胞で、血液-精巣関門により精子免疫が誘導されにくい環境にあります。しかし、過去に、精巣、精巣上体に炎症や損傷があった場合などに、精子が自分の血液と接して抗精子抗体が産生される可能性があります。

男性が抗精子抗体を保有する場合、精液が射精された時点で精子にはすでに抗体が付着し、精子の運動率が著明に低下している場合も多いです。精子自体に受精能があることを必要とする体外受精では受精率が低下するので、基本的に顕微授精の適応が推奨されます。

参考記事:
フーナー検査
不妊症の原因
抗精子抗体(女性不妊)

参考文献:
1)今すぐ知りたい!不妊治療Q&A、医学書院、2019、p117
2)生殖医療ポケットマニュアル、吉村泰典監修、医学書院、2014

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抗精子抗体(女性不妊)

2020年07月13日 | 生殖内分泌

antisperm antibody (ASA)

抗精子抗体とは精子を障害する抗体で、男女とも持っている可能性がある。この抗体は妊娠に必要な様々なステップを障害する場合がある。女性不妊のすべてをスクリーニングした場合の抗精子抗体の検出率は2~3%である。精子抗原には多様性があり、それに対する抗体も多様である。現在、不妊症の発症と最も関連する抗精子抗体測定法として一般の検査機関で測定されているのは、精子不動化抗体である。

精子不動化抗体の検査方法:
検査のタイミングは月経周期と関係なく随時可能で、採血で行う。患者血清中の精子の運動性が対象に比較して50%に低下した場合を抗体陽性(SIV2)と判定する(定性試験)。定性試験で陽性の場合の抗体価を表現するために、血清を希釈して測定し、SIV2になった希釈倍率をSI50値として表現する(定量試験)。

精子不動化抗体による不妊症発生の原因
① 頸管粘液内精子通過障害
② 子宮~卵管内精子通過障害
③ 受精障害
④ 胚の発育・着床障害

精子不動化抗体を産生する女性では、抗体が頸管粘液内にも分泌され、精子の通過を妨げる。また卵管内にも精子不動化抗体は分泌され、人工授精で精子を子宮腔の奥まで注入しても卵管内でその通過が妨げられる。さらに精子不動化抗体は受精を妨害し不妊症の原因なる。

治療方針:
精子不動化抗体価は同じ患者さんでも自然変動するため、抗体測定を少なくとも3回反復して検査を行い、その結果により治療方針を決定する。SI50値が常に10以上の高抗体価群の場合には、人工授精までの治療では妊娠は困難であるので、体外受精・胚移植を行う。中抗体価群あるいは低抗体価群の場合は、人工授精または反復人工授精を行い、妊娠成立しない場合は体外受精・胚移植を選択する。

   精子不動化抗体陽性不妊女性の診療方針

高齢の不妊患者には精子不動化抗体測定による治療の迅速化が求められる:
精子不動化抗体価が常に10以上の不妊症女性は体外受精・胚移植の適応である。不妊患者の高齢化が顕著である現在の不妊治療は、時間との闘いである。不妊診療の早期の段階で抗精子抗体による不妊症をみつけることで、抗体の存在を知らずに段階的な治療を経て生殖補助医療に至る「時間の浪費」を防ぐことができる。

参考記事:
フーナー検査
不妊症の原因

参考文献:
1)今すぐ知りたい!不妊治療Q&A、医学書院、2019、p117
2)生殖医療ポケットマニュアル、吉村泰典監修、医学書院、2014

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