ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

Ebstein奇形

2011年07月31日 | 周産期医学

Ebstein anomaly

定義: 三尖弁のうち中隔尖と後尖が、正常の弁輪部より心尖部方向に偏位して右室内に付着する右室流入部の異常で、先天性心奇形の約0.5%とまれな疾患である。右室は右房化した部分と本来の右室機能を持つ部分に分けられる。

Ebsteinsdiagram

Ebstein

臨床症状: 症状は、生涯無症状のものから、胎児期から胎児水腫などの重篤な症状を呈するものまで種々ある。半数の例で、新生児期にチアノーゼや心雑音を有している。頻脈発作などの不整脈が多くみられ、時には突然死をきたすこともある。

病態:
・ 三尖弁は通常逆流を有し、約3/4に心房中隔欠損を合併する。
・ 右心不全徴候(肝腫大、頸静脈怒張)・チアノーゼ・心房性不整脈を呈する。
・ 本症の約20%にWPW症候群(発作性上室性頻拍を生じる)の合併をみる。

検査所見:
・ 著明な心拡大(箱型心陰影 "box shape")

Ebsteinxp

・ 胎児心エコー: 四腔断面像で右房が拡大し、僧帽弁に比べ、三尖弁が右室内に下降しているように見える。

Ebsteinecho

・ 全収縮期雑音(三尖弁閉鎖不全)、単一Ⅱ音(ⅡPの音が減弱するため)、心尖部に奔馬性調律(gallop rhythm)

治療: 軽症例は治療対象とならない。低酸素血症や重症不整脈を示した場合は治療の対象になる。外科的治療の成績は一定してない。三尖弁挙上転移術、三尖弁置換術などの手術治療がある。合併疾患のある場合は症例ごとに手術の方針を決める。

予後: 新生児期に高度の心不全・心拡大をきたした症例の予後は不良である。肺低形成をきたした場合も予後不良である。


レジナビフェア2011 in 東京(医学生向け)

2011年07月17日 | 地域医療

本日は、東京ビッグサイトでレジナビフェア(医学生向け)が開催されました。当院からは、脳外科医、産婦人科医、初期研修医2人、事務職員1人の計5人で参加してきました。約10名の医学生(主に4年生、5年生)が当院のブースを訪れてくれました。

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肥厚性幽門狭窄症

2011年07月16日 | 周産期医学

hypertrophic pyloric stenosis

● 概念

生後2~3週頃より嘔吐が始まり、回数、量が次第に増加し、1~2週間で噴水状となる。無胆汁性の嘔吐で、嘔吐の直後から飲みたがる。飲ませないと嘔吐しない。嘔吐により体重増加不良、脱水、低Cl血症と低K血症を伴う代謝性アルカローシスをきたす。

Ps_2

● 発症頻度

頻度は出生1000人に対し1~2人で、男女比は4~5:1、男児では第1子に多い。家族内発症例もみられる。

● 病因

輪状筋を主とした幽門筋肥厚により、幽門管が延長・狭小化し、胃内容の通過障害をきたす。出生直後には肥厚は存在せず徐々に肥厚して来る。幽門筋が肥厚する機序は未だ正確には解明されてない(神経原説、筋原説、消化管ホルモン説などがある)。

● 診断

触診: 右上腹部にオリーブ状の腫瘤を触知。

腹部エコー: 長軸像では幽門が狭小化し、肥厚した幽門輪状筋が前庭部に突出して、子宮頸部様に描出される(ultrasonic cervix sign)。短軸像では低エコーの肥厚した幽門輪状筋が高エコーの粘膜面を取り囲むように描出される(doughnut sign)。幽門筋厚4mm以上、幽門管長14mm以上で確診される。

Psus
ultrasonic cervix sign

Pyloricstenosis3_2
doughnut sign

消化管造影検査: string sign、umbrella signなどが特徴的。

Stringsign
string sign

Pyloricstenosisumbrellasign
umbrella sign(幽門が十二指腸へ突出した像)

● 治療

アトロピンによる内科的治療も試みられているが不確実である。

Ramstedt(ラムステット)手術(幽門筋切開術)が劇的に有効である。術後24時間で経口摂取可能で、創も臍部アプローチ(臍部弧状切開法)でほとんど目立たない。腹腔鏡を用いたアプローチで幽門筋切開術を行なう施設もある。

******

日本小児外科学会のホームページ:肥厚性幽門狭窄症の解説
http://www.jsps.gr.jp/05_disease/gi/hps.html

MyMed:肥厚性幽門狭窄症
http://mymed.jp/di/rei.html


未熟児網膜症(ROP)

2011年07月16日 | 周産期医学

retinopathy of prematurity (ROP)

● 概念

ROPは早産児の未熟な網膜を基盤として、さまざまな要因が加わり発症する血管増殖性病変で、大部分が無治療で軽快するが、一部のより未熟性の強い児では網膜剥離を起こし視力障害を残すこともある。

● 発症率

在胎26週未満では約90%ときわめて高率であり、在胎週数の増加とともに減少し、32~34週では約12%である。

● ROPの国際分類

stage 1:境界線形成
stage 2:境界線の隆起
stage 3:網膜外に線維血管性増殖を伴った隆起
stage 4A:中心窩外網膜剥離
stage 4B:中心窩を含む部分的網膜剥離
stage 5:全網膜剥離

aggressive posterior ROP: 網膜血管の発育が著しく未熟で早期に治療をしなければ、すみやかに網膜全剥離にいたるもの

● 厚生省未熟児網膜症研究班による新臨床経過分類(1986)

Ropstage

● 病因・病態

早産児では網膜の血管が周辺まで発達せず、無血管領域を残している。ROPでは、さまざまな病因により、網膜血管先端の未熟な血管芽細胞が異常な方向へ成長や増殖をすることによって、有血管領域と無血管領域の境界に厚い組織(境界線)を形成する。軽症の場合は境界線を越えて鋸歯状縁まで血管が伸びるが、重症例では増殖組織の牽引によって網膜剥離を起こし広範囲になると失明に至る。

ROPのリスク因子としてよく知られているのは、不適切な高濃度酸素投与、低炭酸ガス血症、輸血、重症感染症、過剰輸液などである。

● 診断・治療

在胎34週以下、出生体重1800g以下であった早産児に対して、生後3週より定期的に眼底検査を行う

網膜剥離のリスクが高い場合(国際分類stage 3)には、アルゴンレーザーによる光凝固術を開始する。

網膜剥離が拡大傾向にあるときは硝子体手術や輪状締結術を行う。

1990年に出生した超低出生体重児(1000g未満)の6歳時全国調査では、ROPによる両眼失明の頻度は2.2%と報告されている。


完全大血管転位症( complete TGA)

2011年07月16日 | 周産期医学

complete transposition of great arteries (complete TGA)

● 定義

大動脈が右室、肺動脈が左室から起始する心奇形である。

● 分類

Ⅰ型:心室中隔欠損を伴わないもの。
Ⅱ型:心室中隔欠損を伴うもの。
Ⅲ型;心室中隔欠損と肺動脈狭窄を伴うもの。

Tga
完全大血管転位症(Ⅰ型)

● 血行動態

いずれの型においても、体静脈血は、右房→右室→大動脈→全身→大静脈→右房、肺静脈血は、左房→左室→肺動脈→肺→肺静脈→左房と、各々の血行が並行に潅流する。したがって、心内の有効シャント量により症状が異なる。

● 心エコー

左室から肺動脈(血管が分岐する)が、右室から大動脈(血管がアーチを描く)が出ていることを確認する。正常では肺動脈が大動脈の左前方を走るが、完全大血管転位症(complete TGA)では大動脈が左前方を走る。合併する心室中隔欠損(VSD)、肺動脈狭窄症(PS)、動脈管開存(PDA)を描出し、各型の分類をする。

Tga1

Ctga

● 治療

1. BAS (Balloon Atrial Septostomy)

左房内に入れたバルーンを右房内に引き抜くことによって、卵円孔(左右の心房の間の交通)をひろげて、出生後早期に低酸素血症の改善を図る。

Bas

2. 外科的手術

①大動脈スイッチ手術(arterial switch operation: ASO)、Jatene(ジャテーン)手術:

Ⅰ型、Ⅱ型が対象。大動脈と肺動脈を弁のすぐ上で付け替え、冠動脈も走行がねじれないよう付け替える。

Aso
大動脈スイッチ手術後

②Rastelli(ラステリ)手術:

Ⅲ型が主な対象。左心室-大動脈トンネル作成+右室流出路作成(心室中隔欠損を利用し、右心室と肺動脈を人工血管を用いて通路を作成する)。

Tgarastelli
Rastelli手術

3. 内科的治療

BASを行うまで、あるいは出生後早期の外科手術の間、動脈管を介する血流を確保するためにプロスタグランジンE1を使用する。

● 予後

出生直後にBASなどの治療が行われなければ、きわめて予後不良である。また、出生前に卵円孔および動脈管が狭小化もしくは閉鎖している症例は予後不良である。

大動脈スイッチ手術の後の完全大血管転位症の予後は比較的良好である。ただし、大動脈弁閉鎖不全、肺動脈・大動脈の狭窄、冠動脈の吻合部の狭窄の有無などについて、注意深く経過を観察する必要がある。 再手術やカテーテル治療が必要になる場合がある。


Fallot四徴症(ToF)

2011年07月15日 | 周産期医学

tetralogy of Fallot (ToF)

四つの形態的特徴:
①肺動脈狭窄、
②心室中隔欠損、
③大動脈の心室中隔への騎乗、
④右室肥大

日本では先天性心疾患の約14%を占める。

Tof_2

● 血行動態

強い右室流出路狭窄と大きい心室中隔欠損があるため、右室からの血液が大動脈に流れ、動脈血の脱飽和とチアノーゼを生じる。

● 症状

典型例では、生後数か月後より徐々にチアノーゼが出現する。体重増加は正常である。チアノーゼは成長するにしたがって次第に増強する。生後3カ月ころからチアノーゼ発作(低酸素発作)が出現する。肺動脈狭窄の程度によってチアノ-ゼの程度はさまざまで、人によってはほとんどチアノ-ゼのでない場合もある。

歩行などの体動時に蹲踞姿勢(squatting)をとる。これによって下肢から戻ってくる酸素飽和度の低い静脈圧が減少し、大腿動脈を圧排することで体血管抵抗が増加し、肺血流が増えて動脈の酸素飽和度が上昇する。

● 胸部X線所見

特徴的な木靴型(boot shape)像

Tofchest
木靴型像

② 肺血管陰影の減少
③ 20~30%程度に右側大動脈弓

● 心エコー

①大きな心室中隔欠損
②右室流出路狭窄部位の診断(2D)と程度の診断(ドプラ法)
③大動脈の心室中隔欠損部への騎乗
④合併心奇形の診断:ASD、ECD、右側大動脈

Gr3midi
大きな心室中隔欠損(矢印)と騎乗した大動脈(AO)

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●合併症

①脳血管障害
②脳膿瘍
③感染性心内膜炎

22q11.2欠失症候群

22q11.2欠失症候群は、第22番染色体長腕q11.2領域の微細欠失を原因とするもので、複数の臓器の発生異常や奇形を特徴とする。本症候群においては、①心血管異常、②特有の顔貌、③胸腺低形成、④口蓋裂、⑤低カルシウム血症、という5つの主要症状を呈する。

心疾患として、Fallot四徴症、総動脈幹症、心室中隔欠損を伴う肺動脈弁閉鎖、大動脈弓離断、右側大動脈弓、右側肺動脈の大動脈起始などを伴っている。

● 治療

1. 内科的治療
① 鉄欠乏性貧血の改善
② 低酸素発作の治療
③ 感染性心内膜炎の予防

2. 外科的治療
①BT(Blalock-Taussig)シャント術(乳児期)
鎖骨下動脈と肺動脈の間を人工血管につなぐ手術(modified BT)。チアノーゼ性心疾患に対する姑息手術で、肺血流量を増やし左室の発達を促す。

Bts_pavsd

②根治手術
心室中隔欠損孔閉鎖と右室流出路形成術を行う。
従来は1~2歳で行われてきたが、最近は乳児期に行う施設もある。

③バルーンによる肺動脈拡張術
重症例に対して乳児期に行う施設がある。

● 予後

乳児期にチアノーゼ発作で死亡する例もあるが、外科的治療を受けなくても40~50歳くらいまで生存する例もある。高度に日常生活や運動の制限を必要とする症例もある。青年期に再手術が必要となる症例も存在する。


先天性チアノーゼ型心疾患

2011年07月14日 | 周産期医学

cyanotic congenital heart disease

● 概念

静脈血(肺動脈側)が動脈血(大動脈側)に右→左シャントするためチアノーゼを呈する疾患である。

50%以上のシャント率がある場合には、100%酸素を投与しても動脈血酸素飽和度90%以上に上昇しない。

● 診断 

全身性のチアノーゼを認める場合には、必ず心臓超音波検査を実施して診断する。

先天性チアノーゼ型心疾患の典型例:
・ 大血管転位症 transposition of great arteries (TGA)
・ 総動脈幹症 truncus arteriosus
・ Fallot四徴症の重症型 tetralogy of Fallot (ToF)
・ 三尖弁閉鎖症 tricuspid atresia (TA)
・ 総肺静脈還流異常 total anomalous pulmonary venous connection (TAPVC)

● 治療

動脈管開存により肺血流が保たれている症例(動脈管依存性チアノーゼ型心疾患)では、プロスタグランジンE投与によって、手術の適応となるまで動脈管を開存させる。

※ 動脈管依存性心疾患では、解熱薬である抗炎症薬(インドメタシンなど)を使用すると、内因性のプロスタグランジンEの産生が減少し動脈管が閉鎖する危険性があるので使用は不可である。


未熟児動脈管開存症

2011年07月13日 | 周産期医学

patent ductus arteriosus (PDA) due to prematurity

動脈管は成熟児では生後1~2日で閉鎖するが、早産児では在胎週数が若いほど閉鎖しにくい。動脈管を介する左右短絡血流による肺血流量増加に未熟な心臓は耐えられずに心不全をきたしやすい。また動脈管を介する左右短絡血流による体血流量減少は未熟な全身臓器で虚血性病変を生じ得る。

動脈管閉鎖遅延の早産児で、肺血流量増加による心不全症状や肺うっ血に伴う呼吸障害、体血流量減少に伴う尿量減少や消化管機能低下症状などがある場合に症候性の未熟児PDAと診断する。

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● 頻度

在胎週数が若ければ若いほど、出生体重が少なければ少ないほど発症頻度が高くなる。在胎27週以下では約40~50%が発症、RDSを合併した例ではさらに発症頻度が高くなり、56%に未熟児PDAが発症したとの報告がある。

● 病因

未熟児の動脈管閉鎖遅延が、未熟児PDAの原因である。未熟性がその最大の素因である。

● 症状 (生後数日の早産児)

拡張期血圧の低下、bounding pulse(脈圧の増大)、尿量減少、心雑音(連続性雑音)、心尖拍動、頻脈、呼吸障害、腹部膨満、代謝性アシドーシス、肺出血など。腎不全、壊死性腸炎、消化管穿孔などの要因となり得る。

● 検査成績

① 心エコー:
PDAは左肺動脈-主肺動脈接合部と下行大動脈の間にある。カラードプラー法を用いると容易に肺動脈内に左右短絡血流を検出することができ、これをガイドにするとPDAが直接描出される。短絡血流量の増加に伴って左房、左室、上行大動脈の拡大が観察される。ドプラー法で示される短絡血流の最大流速により肺高血圧症の程度が評価できる。

② 胸部Xp:
左右短絡血流量が多い場合、肺血流量の増加に伴って肺血管陰影が増強し、左房、左室の拡大による心陰影の拡大、上行大動脈の拡張を認める。

● 治療

未熟児PDAにおける動脈管の収縮を促す治療としては、インドメタシンが保険適応となっている唯一の薬剤である。

インドメタシン0.2mg/kgを12~24時間ごとに3回静注するのが1クールであるが、閉鎖した時点で以後の投与は中止する。

インドメタシンはプロスタグランジンの生合成を抑制することで動脈管の収縮を促す。副作用としては乏尿・腎障害、低血糖症、血小板機能低下、消化管穿孔などがある。インドメタシンの動脈管収縮効果は投与量依存性であるが、重篤な副作用も有するため少量投与が原則とされている。インドメタシンを使用するに当たっては、動脈管閉鎖のことばかりでなく副作用の発現への注意が必須である。

インドメタシンが無効のときは、外科的結紮またはクリッピングを考慮する。

●予後

インドメタシンを使用した薬物学的閉鎖は80~90%の症例で有効である。閉鎖した動脈管が再開通するものもある。自然に閉鎖するものもある。


脳室周囲白質軟化症(PVL)

2011年07月12日 | 周産期医学

periventricular leukomalacia: PVL

PVLは、早産児(主として在胎32週以下)の脳室周囲の白質に起こる虚血性脳病変である。早産児では、脳血管とグリア形成が未熟であるため、脳の血流(灌流)が低下するとPVLを起こす。

PVLの特徴:
①基本的に左右対称の病変である。

②大脳白質が選択的に障害を受ける。

③大脳白質の脳室壁に近い部位に主な病変があり、拡大する場合には皮質下へと広がる。

● 病態生理

PVLの好発部位である脳室周囲の白質は、脳表面から脳室に向かう動脈と、脳室周囲から深部白質に向かう動脈の灌流境界領域にあたる。早産児では、脳室側からの血管の発達が遅れており、グリア形成も未熟であるため、脳血流が減少すると、容易に虚血性の組織壊死がおこると考えられている。このPVLの好発部位は大脳の運動領野からの錐体路系にあたるため、脳性麻痺(CP)の原因となる。特に脳室の近くには下肢にいく神経繊維が通っているため、この部位の障害によりPVLでは下肢の痙性麻痺が多い。

● 臨床的危険因子

①出生前因子:双胎間輸血症候群、胎児発育不全(FGR)、胎児機能不全(NRFS)など。

②出生時因子:新生児仮死、緊急帝王切開を要する母体出血(常位胎盤早期剥離、前置胎盤など)など。

③出生後因子:徐脈を伴う無呼吸発作、敗血症、低炭酸ガス血症、動脈管開存症、気胸など。

④その他の因子:PVLは前期破水や羊膜絨毛膜炎のある例に多いことから、感染とそれに伴うサイトカインの影響が、発症に関与しているのではないかと考えられている。

● 臨床症状

生後数か月は無症状のことが多く、生後6か月以降に下肢優位の痙性麻痺が出現してくる。障害の程度はさまざまであり、知能障害を起こさない症例もある。

PVLが原因のCPの症状は、痙性両麻痺(下肢の痙性が強く、上肢では軽い麻痺を示す)が最も多い。PVLが原因のCP例では、他のCP例(成熟児の低酸素性虚血性脳症が原因のCPなど)に比して、精神発達の遅れは軽度である。特に、痙性両麻痺例は、全く知能障害を認めないことも珍しくない。しかし、四肢麻痺例では中等度から重度の知能障害を認めることが多い。四肢麻痺例の一部は、West症候群などのてんかん、視空間認知の傷害、学習障害などを合併する。

1. 頭部超音波検査

頭部超音波検査での初期の所見としては、脳室周囲高エコー輝度(PVE)がある。PVE出現の1~3週間後に、多くは多発性の嚢胞形成を認め、嚢胞性PVL(cystic PVL)と診断される。ただし、明らかな嚢胞を認めない場合もある。

2. 頭部MRI

頭部MRIでは、超音波検査で診断できないPVLの診断が可能であるが、検査室への移動や検査中の全身管理など、NICU入院児にはむずかしい面が多く、新生児期の適応は限られる。したがって、主に新生児期以降、状態が安定してから、超音波検査で診断されたものの経過観察と、診断されなかったがリスクの高いものについての検査に用いられる。

● 発症頻度

PVLの発症頻度は、本邦NICUでの33週未満の児に関する調査によると、超音波検査では約5%、CT/MRIでは8~9%にのぼっている。

● 治療

PVLの診断時には虚血性病変が起きたあとであり、これを修復する有効な治療法はない。

CPになったら運動療法リハビリが不可欠となる。

● 予防法

予防策は、この疾患が早産による未熟性に起因することから、早産を避けることに尽きる。また、出生前、出生後を通じて、脳血流の低下をきたさぬよう血圧の維持に留意する。

出生前の母体へのステロイド投与がPVLの予防効果があると報告され、RDSの予防も兼ねて行われている。ステロイドの中でもベタメタゾン(商品名:リンデロン)のみにて有効性が認められており、PVL予防に至る機序は明らかではない。


壊死性腸炎(NEC)

2011年07月12日 | 周産期医学

necrotizing entero-colitis: NEC

NECは、主として低出生体重児にみられる腸管壊死を伴う重篤な腸炎である。未だ死亡率も高く、新生児における最も重篤な病態の一つである。腸管の未熟性、血行障害、細菌感染などが発症の要因となっている。

● 疫学

男女比は1:2と女児に多い。

90%が生後10日までに発症する。

十二指腸を除く全腸管に発生しうるが、好発部位は回腸下部、盲腸、上行結腸である。

母乳栄養児に比較して人工栄養児で高い発生率を示す。

日本での発生頻度は、NICU入院中の児で0.15%で、出生体重が小さいほど高くなり、出生体重1000~1499gでは0.46%、出生体重1000g未満では1.49%とされている。

● 臨床所見

大部分の症例は授乳開始後に発症する。初発症状は、腹部膨満、嘔吐、下痢、下血、不活発、発熱、低体温などであるが、急激な経過で腸管穿孔をおこすことが多い。

Necabd
著明な腹部膨満

● Bellの病期分類

Ⅰ期(NEC疑診例):
非特異的な症候で、胃残乳増加、血性胃残、腹部膨満増強など、いわゆる未熟児でみられる重篤だが非特異的な症候を認める。

Ⅱ期(NEC確診例):
Ⅰ期で認める症候に加え、X線所見として、腸管の壁内ガスや門脈ガスがみられると、臨床的にNECの確定診断に至る。

Ⅲ期(NEC進行例):
腸管穿孔によって、Ⅱ期よりもさらに進行した重篤な状態であり、全身的なショックの所見を呈する。X線所見で腹腔内遊離ガスの存在を認める。

● 腹部単純X線所見

初期の腹部X線像は軽度の腸閉塞像で、びまん性の腸管ガス像、拡張腸管ループ、腸管壁の肥厚像などを示すが、Bellの病期分類Ⅰ期に相当する時期ではNECの確定は困難で、鑑別のため便・吐物・血液の細菌検査、血清電解質、生化学、血液・凝固機能検査を行い、X線撮影を繰り返して経過観察する。腹部単純X線所見で腸壁気腫像(pneumatosis intestinaris)が認められれば診断が確定する。門脈内ガス像が認められれば最重症新生児の状態で、一般的には高度の壊死を伴う。腹腔内遊離ガスがあれば腸管穿孔の所見であり手術適応となる。

Necperforatecone
腸壁気腫像(pneumatosis intestinaris)

Portalvenousgas
腸管穿孔を起こしたNECの症例
腹腔内遊離ガス(free air)
門脈内ガス像(portal venous gas)

● 血液検査所見

特異的な検査所見はない。白血球数の増加もしくは減少、白血球分画の左方移動、顆粒球減少、血小板減少、アシドーシスの進行、電解質異常、CRPの上昇などを、病態の進行に伴い認める。Ⅰ期では正常であることも多い。

● 予防

Probiotics(生菌製剤)の使用、母乳による超早期授乳によるNEC予防効果が期待される。

● 治療 

NECは早期診断、早期治療が重要で、多くの症例では疑診の段階からの治療が必要になる。NECが疑われればまず内科的治療が主体となり、外科的治療は穿孔例や、内科的治療に反応せずに状態が増悪した症例に行われる。

1. 内科的治療

基本は腸管の安静と合併症や敗血症の予防で、状態の悪化を防ぐことにある。絶食(経腸栄養の中止)、経鼻胃管を挿入し消化管の減圧、電解質バランスおよび蛋白補給に留意した輸液、適切な抗生剤、抗真菌薬の使用、積極的な呼吸・循環管理を行う。DICの所見を認めた場合は、新鮮凍結血漿や濃厚血小板を輸血する。保存療法で全身状態の改善を認めれば、症状、特にCRPの改善を目安にして慎重に経腸栄養を再開する。

2. 外科的治療

腸管穿孔は手術の絶対適応である。腸管病変に対する内科的治療にても腸管の損傷が強く、イレウス症状が改善しない場合も外科的治療が必要になる。穿孔性腹膜炎を来す前での早期の外科治療の介入が生存率向上に関与するとされるが、穿孔する前での腸管壊死の臨床所見は不正確であり、手術適応には議論がある。手術の基本は壊死腸管の摘出と二次感染巣の除去で、最も病変の強い腸管の切除と一時的腸瘻造設が標準とされるが、一期的に腸吻合を行うこともある。状況によっては、まずドレーン留置のみを行い、炎症所見や全身状態をみながら、必要に応じて腸瘻造設などの腸管への治療を行う場合もある。

● 予後

汎発性腹膜炎,敗血症,DICなどを高率に合併し,予後は不良である。治癒しても腸管の狭窄や短腸症候群などの後遺症を残すことがある。日本小児科学会で5年ごとに行っている新生児外科全国集計では、1998年から2008年までの低出生体重児のNECの死亡率は42~50%で推移している。

****** 参考となるサイト

日本小児外科学会ホームページ:壊死性腸炎の解説
http://www.jsps.gr.jp/05_disease/gi/nec.html

腸管壁内ガス像( Professor Fujioka's Files )


先天性食道閉鎖症

2011年07月08日 | 周産期医学

congenital esophageal atresia

● 概念
 
胎生期に、前腸に由来する気管原基と食道原基の分離障害(正常では胎生5~6週ころに分離する)により起こる。

● 病型分類(Gross分類)

Cea

気管食道瘻 tracheo-esophageal fistula(TEF)

A型:上部・下部食道が盲端
B型:上部食道が気管と交通(TEF)、下部食道は盲端
C型:上部食道が盲端、下部食道はTEF
D型:上部・下部食道ともTEF
E型:TEFのみで食道閉鎖はない

C型:85~90%
A型:約10%

● 疫学
出生3000~4000に1人の頻度である。
・  明瞭な性差はない。(男女比ではやや男児に多い)
・ 約30%は低出生体重児。
・ 遺伝的背景はない。

● 症状
 出生直後より口腔内に泡沫状貯留物があり、哺乳時の嘔吐やチアノーゼ、呼吸困難の出現に加え、胎児エコーにて羊水過多の存在があった場合には、まず本症が疑われる。

● 合併(約30%に奇形が合併)
・ 先天性心疾患
・ 消化管奇形: 十二指腸閉鎖症、鎖肛。
・ 泌尿器奇形
・ 脳・脊椎奇形
・ 染色体異常: 18トリソミーや13トリソミーの合併がみられる。

VACTERL連合(VACTERL症候群):
VACTERL連合は、脊椎の異常(V)、鎖肛(A)、心臓の異常(C)、気管食道瘻(TE)、橈骨異形成(R)、四肢の異常(L)から成り、しばしば致命的となる。本症候群と診断するには、これらの異常のうち3つ以上が該当する必要がある。これらの異常に関連して、尿道下裂および腎の異常がみられる場合もある。腎の異常としては腎無発生(もっとも高頻度)、閉塞性病変、膀胱尿管逆流、嚢胞性腎疾患がある。正確な遺伝様式は不明である。

● 検査

Coilup

・ E型を除けば、胃に挿入しようとしたカテーテルが上部食道盲端で反転する所見(coil-up sign)が、単純X線像で認められる。このX線撮影時、造影剤の使用は禁忌である(上部食道と気管にTEFがあれば、造影剤の使用で致死的な呼吸器合併症を引き起こす)。
・ 胃内空気像(胃泡)を認めればC型、認めなければA型の可能性が大きい。
・ 胎児エコー: 羊水過多、胃泡を同定し難い(AおよびB型)。

● 治療
?C型の場合、
上部・下部食道間の距離が短く、TEFから気管への胃液の流れ込みがあるので、直ちに根治手術をするのが原則である。TEFの切離と食道の淡々吻合が行われ、多くは一期的に可能である。

?A型の場合、上部・下部食道間の距離が長いlong-gap症例が多く、一期的な吻合が行えないため、まず胃瘻を造設し、上下食道の延長術を行い、乳児期以降に食道を吻合する多段階手術となることがある。

****** 参考となるサイト

日本小児外科学会のホームページ:先天性食道閉鎖症の解説
http://www.jsps.gr.jp/05_disease/gi/esph_atrs.html

****** 問題

出生直後から泡沫状の唾液排出と呼吸困難とをきたすのはどれか。

a. 食道憩室
b. 食道アカラシア
c. 先天性食道閉鎖症
d. 肥厚性幽門狭窄症
e. 先天性十二指腸閉鎖症

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正解 c.

a. 食道憩室の主な症状は食物の逆流であり、出生直後にみられる疾患ではない。

b. 食道アカラシアは嚥下障害が主な症状であり、通常は20歳以降に発症する。

c. 泡沫状の唾液排出は食道閉鎖症のキーワード。気管との交通のために呼吸困難を呈する。

d. 肥厚性幽門狭窄症は生後2~4週に無胆汁性嘔吐で発症する。

e. 先天性十二指腸閉鎖症は、新生児期の胆汁性嘔吐が典型的な症状である。

****** 問題

出生直後の男児。母親が妊娠中に羊水過多を指摘されていた。出生直後から泡沫状唾液の流出とチアノーゼとがみられる。この疾患でみられるのはどれか。

a. 粘液便
b. 腹部陥凹
c. 左胸部のグル音
d. double bubble sign
e. coil-up徴候

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正解 e.

a. 粘液便は腸重積に多い。新生児期にはまれ。

b. 腹部陥凹は、先天性食道閉鎖症のA型またはB型(気管と下部食道との交通のない型)でみられる。

c. 左胸部のグル音は、横隔膜ヘルニアや横隔膜弛緩症などでみられる。

d. double bubble signは、先天性十二指腸閉鎖症の典型的X線所見である。

e. coil-up徴候は、細いネラトンカテーテルを挿入したときに、食道の盲端でそれが反転する所見である。

****** 問題

気管食道形成異常の病型を示す。頻度が最も高いのはどれか。

Ea

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正解 c.

C型:85~90%、A型:約10%。

****** 問題

正しいのはどれか。3つ選べ。

a. 新生児期にも食道アカラシアがある。
b. 小児食道狭窄の原因は筋性線維性肥厚が多い。
c. 気管原基迷入は食道アカラシアの原因となる。
d. Gross B型食道閉鎖症は腹部膨満を伴う。
e. Gross D型食道閉鎖症は呼吸器系合併症を伴いやすい。

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正解 a. b. e.

a. 食道アカラシアは、食道の筋層のAuerbach神経叢の変性が原因である。

b. 小児食道狭窄原因の比率は、気管原基迷入:筋線維性狭窄:膜様狭窄=10:10:1。狭窄の部位は下部食道に多い。

c. 気管原基迷入は、先天性食道狭窄症の原因となる。

d. Gross A・B型では腹部は陥凹している。C型では腹部膨満が起こる。

e. Gross D型は食道気管瘻を伴い唾液と胃液が気管に入り、呼吸器合併症を生じやすい。

****** 問題

正しいのはどれか。3つ選べ。

a. 嚢胞状リンパ管腫は頸部に好発する。
b. 先天性食道閉鎖症では下部食道が気管に交通する型が多い。
c. 正中頸嚢胞は胸腺の遺残から発生する。
d. 肥厚性幽門狭窄症では胆汁を混じた嘔吐が頻回に起こる。
e. 胎便イレウスでは汗のクロール濃度が高い。

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正解 a. b. e.

a. 嚢胞状リンパ管腫はリンパ嚢の発生異常で、乳児期の頸部、顔面に後発する良性腫瘍である。

b. Gross C型が85~90%。下部食道と気管が交通し、胃腸管ガス像を認める。

c. 正中頸嚢胞は甲状舌管の遺残である。

d. 肥厚性幽門狭窄症では、噴水状の嘔吐をきたし、吐物には胆汁を混入しないのが特徴である。

e. 胎便イレウス(メコニウムイレウス)では、粘稠(ねんちゅう)な胎便のため、腸閉塞症を起こす。汗のNa、Cl濃度が60mEq/L以上であれば確定的である。


DOHaD( Barker説 )とは?

2011年07月03日 | 周産期医学

Developmental Origins of Health and Diseases (DOHaD)

近年、DOHaDという概念が注目されている。1980年代にBarkerらがはじめに提唱したのでBarker説ともいわれる。世界中の多くの疫学的な検討がこの学説を支持している。

これは、「胎生期から乳幼児期に至る栄養環境が、成人期あるいは老年期における生活習慣病発症リスクに影響する」という考え方である。

具体的には、「胎児期に低栄養環境におかれた個体が、出生後、過剰な栄養を投与された場合に、肥満・高血圧・2型糖尿病などのメタボリックシンドロームに罹患しやすくなる」というものである。

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我が国における出生時平均体重の推移

1975年以降の約30年間で、日本人の出生時平均体重は200g近く減少している。 これは、日本人の胎児期の栄養状態が悪化していることを意味し、今後、日本人のメタボリックシンドロームの発症率が増加する危険性が極めて高いのでは?と懸念されている。

出生時平均体重の減少の主因が、妊婦の栄養摂取不足によるとの説が有力である。我が国ではこれまで長年にわたって、多くの産科施設において妊婦健診で厳格な体重管理を行ってきた。しかし、厳格に体重管理を行う根拠は必ずしも充分ではない。今後は、妊娠中の栄養状態が児の将来の健康に影響を及ぼすことを、十分認識しなければならない。

Weight

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妊娠中の食事摂取

・ 妊娠中の栄養摂取量は、非妊時の所要量に、妊婦自身の基礎代謝の亢進と胎児の発育に要する量を加えて計算する。

・ 非妊時の必要量に加え、妊娠初期には1日約50kcal、妊娠中期には約250kcal、妊娠後期では約500kcalが必要である。

・ 1日栄養摂取量は、妊娠初期2000kcal、妊娠中期2250kcal、妊娠後期2450kcal程度を目安とする。

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妊娠中の体重増加量

・ 妊娠中の体重増加の推奨値に関しては統一見解がなく、介入研究も極めて少ない。したがって、厳しい体重管理を行う根拠となるエビデンスが乏しく、慎重な姿勢が求められる。 厳格に体重管理を行う根拠は必ずしも充分ではないと認識し、個人差を考慮してゆるやかな指導を心がける。

・ National Collaborating Center for Women's and Children's Health(英国)のガイドラインでは、初診時に身長体重を測定して評価を行い、栄養状態に問題がある場合のみ定期的に体重を測定し、通常の妊婦健診では体重を測定しないことを推奨している(定期的な体重測定は妊婦に不必要な心配を与えるに過ぎずメリットがないとしている)。

・ 日本人の食事摂取基準(2010年度版、厚生労働省策定)では、普通の体格の妊婦(非妊時BMI 18.5~25.0)が妊娠40週の時点で約3kgの単胎児を出産するのに必要な体重増加量は11kgとしている。

・ 妊娠中の体重増加は、妊娠前に痩せていた人(BMI 18.5未満)では9~12kg、普通の体型の人(BMI 18.5~25.0)では7~10kg、太っていた人(BMI 25.0以上)では5~7kg程度を目安とする。【日本産科婦人科学会周産期委員会、1997年】

******

妊娠高血圧症候群の食事療法は有用ですか?

Answer
・ 食事療法に関するエビデンスはない
・ 極端な塩分摂取制限はしない
・ 水分制限やカロリー制限もしない

******

妊娠高血圧症候群の予防法はありますか?

Answer
・ 現在のところ、有効な予防法がない


双胎間輸血症候群(TTTS)

2011年07月03日 | 周産期医学

TTTS: twin-twin transfusion syndrome

【定義】TTTSとは、双胎の一児から他児へ何らかの原因により血液が移行し、供血児(donor)では循環血液量減少、尿量減少、羊水過少をきたす腎不全型を示し、受血児(recipient)では循環血液量増加、尿量増加、羊水過多をきたす心不全型を示す症候群である。

Ttts1_3

【診断】 羊水過多児、過少児の最大羊水深度が、それぞれ>8cm、<2cmで、同時にみられた場合にTTTSと診断する。

羊水過多・羊水過少をきたす疾患(胎児消化管閉鎖、泌尿器疾患、前期破水など)は除外される。

【頻度】 TTTSは一絨毛膜二羊膜(MD)双胎の5~15%に発症し、一絨毛膜一羊膜(MM)双胎での発症はまれである。

TTTSは胎盤上での吻合血管の存在が必須であるために二絨毛膜二羊膜(DD)双胎での発症はまずない。

【予後】
・ 周産期死亡率は60~100%におよぶ。
・ 受血児は循環血液量の増加により心拡大を起こし、うっ血性心不全となる。悪化すると胎児水腫となる。また、尿量の増加によって羊水過多となる。
・ 供血児は循環血液量の減少からFGRとなる(stuck twin)。また、尿量減少によって羊水過少となる。
・ 受血児、供血児ともに胎児機能不全に陥り、子宮内胎児死亡となることがある。

※ TTTSは16週未満にも発症する。早期発症TTTSは放置すれば極めて予後不良なので、発症有無確認のために一絨毛膜双胎では頻回の外来受診(少なくとも2週間に1回以上)が勧められる。

【治療】
(1) 体外生活が可能な時期(妊娠26週以降)であれば娩出後に新生児治療を行う。

(2) 妊娠26週未満の治療法
① 羊水除去(AR: aminio reduction)
・ 子宮内圧の減圧により妊娠期間を延長し児の生存率を改善する。
・ ARによる成績は児生存率60%、神経学的後遺症を残す割合は25%である。

② 胎児鏡下胎盤吻合血管レーザー凝固術(FLP: fetoscopic laser photocoagulation)
・ FLPは、TTTSにおいて供血児と受血児との間の胎盤吻合血管をYAGレーザーにより凝固・遮断させる方法である。TTTSの原因と考えられている吻合血管を遮断することで、両児間の血流不均衡を是正できる根治療法で、近年注目されている。
・ 欧米と日本でのFLPとARの治療成績を比較した報告をまとめると、少なくとも一児が生存する割合は80%対60%とFLPがやや上回る程度であるが、助かった児がその後神経学的後遺症を残す割合が5%対25%というようにFLPの方が有意にすぐれていると言える。
・ 欧州における前方視的無作為試験でも、Stage Ⅰ~Ⅳにおいて、FLPはARに比較して児生存率を上昇させ、神経学的後遺症を減少させた。
・ 米国での前方視的無作為試験では、FLPのARにたいする有用性は示されなかったが、レーザー手術の治療成績が悪く、手術手技の未熟によるためと考えられた。
・ 本邦においても26週未満TTTSに対してFLPが限られた施設で行われており、児生存率80%、流産率5%、神経学的後遺症5%前後と良好な成績である。

****** TTTSのStage分類(Quintero)

Ttts

注1:Stage Ⅰは、「供血児の膀胱がみえること」かつ「血流異常がないこと」。
注2:血流異常は、1) 臍帯動脈拡張期途絶逆流、2) 静脈管逆流、3) 臍帯静脈の連続する波動のいずれかを、供血児および受血児のどちらか一方に認めれば、stage Ⅲと診断してよい。
注3:血流異常を認めるが供血児の膀胱がみえるものは、Stage Ⅲ atypical と亜分類し、膀胱がみえないStage Ⅲ classical と区別する。
注4:供血児および受血児のどちらか一方に胎児水腫を認めればStage Ⅳと診断する。血流異常や供血児の膀胱の確認は問わない。
注5:供血児および受血児のどちらか一方が胎児死亡となったものはStage Ⅴと診断する。血流異常、胎児水腫の有無、膀胱の確認は問わない。

****** 

本邦におけるFLPの適応と要約
Jpan Fetoscopy Group(JFP)

適応:
・TTTSである(MD双胎、羊水過多>8cm、羊水過少<2cm)
・妊娠16週以上、26週未満
・Stage Ⅰ~Ⅳである

要約:
・未破水である
・羊膜穿破・羊膜剥離がない
・明らかな切迫流早産兆候がない(頸管長20mm以上を原則とする)
・重篤な胎児奇形がない
・母体が手術に耐えられる(重篤な合併症がない)
・母体感染症がない(HIVは禁忌)
・研究的治療であることを納得し同意している

※ 適応は病態の厳密な評価後に決定されるので、病態の評価は超音波・ドプラ検査に習熟した施設で行われ、FLP施行可能な施設への紹介はそれら施設を介して行われている。

※ 本邦でのFLPは、現在、Japan Fetoscopy Group(JFG)に所属する7施設(北海道大学、宮城県立こども病院、国立成育医療センター、聖隷浜松病院、国立長良医療センター、大阪府立母子医療センター、徳山中央病院)にて行われている。

Flp_2

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不均衡双胎(discordant twins)

・ 一般に、双胎で児の体重差が大きい児の25%以上を呈した場合、discordant twinsと診断される。
・ 胎盤内の血管吻合を介する血流移行が成因と一般的には理解されやすいが、出生した児のヘマトクリット値も、大きい児が必ずしも多血症で小さい児が貧血とは限らない。胎盤内血管吻合のない二絨毛膜二羊膜性双胎でもdiscordant twinsは起こりえる。
・ concordant twinsと比較してdiscordant twinsでは、羊水過多症、前期破水、早産、帝王切開分娩が高率に合併する。