ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

男性型および女性型脱毛症の治療ガイドライン

2022年03月01日 | 健康・病気

男性型脱毛症(AGA)の場合、治療ガイドラインの推奨度Aの治療法が、①フィナステリド内服②デュタステリド内服③5%ミノキシジル外用④自毛植毛術であり、①(または②)と③の併用療法が著効し、3~4カ月の治療で効果を実感できることが多いです。私の場合は、②+③を実施し比較的短期間で効果を実感できました。それに対して、女性型脱毛症(FPHL)の場合は、推奨度Aの治療法が1%ミノキシジル外用のみであり、しかも短期間ではなかなか治療効果を実感できない場合が多いようです。閉経後の女性型脱毛症の場合はエストロゲン欠落症状の可能性もあり、女性ホルモン補充療法(HRT)が実施される場合もあります。

男性型および女性型脱毛症診療
ガイドライン(2017年版)

推奨度分類 
A:行うよう強く勧める、B:行うよう勧める
C1:行ってもよい、D:行うべきではない

1. フィナステリド内服
推奨度:A(男性型脱毛症)、D(女性型脱毛症)

2. デュタステリドの内服
推奨度A(男性型脱毛症)、D(女性型脱毛症)

3. ミノキシジルの外用
推奨度:A(男性 5%ミノキシジル外用、女性 1%ミノキシジル外用

4. 自毛植毛術
推奨度:A(男性型脱毛症)、C1(女性型脱毛症)

5. LED及び低出力レーザー照射 推奨度:B

6. アデノシンの外用
推奨度:B(男性型脱毛症)、C1(女性型脱毛症)

7. カルプロニウム塩化物の外用 推奨度:C1

8. t- フラバノンの外用 推奨度C1

9. サイトプリンおよびペンタデカンの外用 推奨度:C1

10. ケトコナゾールの外用 推奨度:C1

11. かつらの着用 推奨度:B

12. ビマトプロストおよびラタノプロストの外用 推奨度:C2

13. 成長因子導入および細胞移植療法 推奨度:C2

14. ミノキシジルの内服 推奨度:D


男性型脱毛症(AGA)の治療

2022年01月08日 | 健康・病気

数年前から頭頂部の薄毛がだんだんひどくなってきましたが、これは老化現象だから仕方ないとあきらめてました。最近、男性型脱毛症(AGA)の治療法があることを知って、試しに自分自身に投薬治療(デュタステリド内服+ミノキシジル外用)を始めてみました。昨年10月初旬から治療開始して約3カ月ほど経過し、頭頂部の薄毛があまり気にならないレベルとなってきました。効果が実感できるまでに最低でも1年くらいはかかるだろうと覚悟してましたが、予想よりかなり早く効果を実感してます。

 
2021/10/2  2021/11/26

 
2021/12/26  2022/1/8


ヨガ教室

2021年04月24日 | 健康・病気

週2回(月、木)の水中運動教室に加えて、この4月から週1回(水)のヨガ教室にも通い始めました。水中運動教室では体はどこも痛くなりませんが、ヨガ教室ではどんな超基本的ポーズをやろうとしても背中や腰が痛くなってしまい全然できません。二十歳頃に大学のヨガ研究会に所属してヨガのポーズをいろいろ練習した記憶があります。当時は簡単にできたような基本的なポーズでも、今は全くできなくて、ヨガインストラクターの先生に「体が相当に硬いですね」とあきれられています。ウォーキング、ジョギング、水中運動、登山などは特に支障なくできるようになってきましたが、やはり歳のせいで体に相当ガタがきていた事に改めて気がつきました。めげずにこれからも気長にヨガの基本ポーズを練習していこうかと思ってます。孫は体が柔らかくヨガのどんなポーズでも簡単にできそうでうらやましいです。

週1 回のヨガ教室で1時間やってるだけでは体は絶対に柔らかくならないので、おうちでも無理をしないで毎日少しづつやっていこうと思っています。1〜2年後には今より多少は柔らかくなっているといいなと気長に考えてます。

有酸素運動の組み合わせ
ダイエット効果のある運動は?


長寿遺伝子の活性化 健康長寿への道

2013年06月26日 | 健康・病気

寿命に影響を及ぼす長寿遺伝子(サーチュイン遺伝子)は、種を超えて地球上の多くの生物に存在し、適度のカロリー制限の状態で活性化することがわかってきました。長寿遺伝子が活性化すると、細胞の若返りや代謝の増進をはじめとする、老化を抑制するさまざまな効果が発現します。細胞中のミトコンドリアを活性化させてエネルギー効率を高め、活性酸素の害を防ぎ、免疫力低下、動脈硬化、高血糖、認知症、骨粗鬆症、脱毛・白髪などの老化の症状を防ぎ改善して、美肌と持久力と抗がん作用を高めます。そのため、長寿遺伝子を活性化させることで寿命を延ばすことが可能になると期待されています。

アメリカのウィスコンシン大学で、アカゲザルでのカロリー制限の実験が1989年から開始され、20年経過した2009年に中間発表がありました。「通常のエサを与えるグループ(38匹)」と「30%カロリー制限するグループ(38匹)」に無作為に分けて実験が開始され、中間発表の時点(20歳、人間だと70歳に相当)での生存率は、通常グループが63.16%、カロリー制限グループが86.84%でした。がんの罹患は、通常グループが8匹、カロリー制限グループが4匹でした。糖尿病の発症は、通常グループが5匹、カロリー制限グループが0匹でした。心臓病の罹患は、通常グループが4匹、カロリー制限グループが2匹でした。見た目でも毛並みや動きに明らかな差が見られ、カロリー制限グループのアカゲザルの方が通常グループのアカゲザルよりはるかに若々しく見えました。通常グループのアカゲザルは毛が抜けシワがあり見るからに老いていたのに対して、カロリー制限グループのアカゲザルは毛ツヤがよく、肌も張りがあって元気で若々しく、脳の断層写真でも萎縮はなく、記憶力もよく、持久力も優れていました。

Akage

人間の場合でも、25%程度のカロリー制限で長寿遺伝子を活性化できると考えられています。

また、赤ワインに含まれるレスベラトロールが長寿遺伝子を活性化することがわかってきました。レスベラトロールによる寿命延長作用の研究が、酵母、線虫、ハエ、魚類で報告され、2006年にNatureにてレスベラトロールがマウスの寿命を延長させるとの成果が発表され、種を超えた寿命延長作用として大きな注目を集めました。

米国では、レスベラトロールのサプリメントが現在大ヒットしているそうです。レスベラトロールのサプリメントを毎日服用することにより、食事制限なしで長寿遺伝子を活性化することが期待されます。

最近、私もamazonで購入したレスベラトロールのサプリメント(米国製)を1日2粒(レスベラトロール500mg)内服し始めました。

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認知症の予防対策(個人的見解)

2012年08月13日 | 健康・病気

認知症の最大の危険因子は加齢です。65~69歳での有病率は1.5%ですが、以後5歳ごと倍に増加し、85歳では27%に達します。現時点で、我が国の65歳以上の高齢者における有病率は8~10%程度と推定されています。専門家の間では、認知症の有病率はすでに65歳以上人口の14%に達しているという意見もあります。今後、超高齢化社会の到来とともに認知症の患者数も急増すると考えられています。
http://www.carenet.com/news/28214

最新の医療で認知症の進行を大幅に遅らせることができるようにはなってきましたが、認知症がいったん発症したら現在の医学では完治は見込めません。そこで、認知症の発症を予防することが大切であると多くの人が考えるようになってきました。認知症の予防対策としては、食生活、運動、生活習慣、頭の使い方などが非常に重要な要素と考えられます。

私自身(59歳)もこれから加齢とともに認知症の発症リスクが年々高くなっていきますので、自分なりに認知症の予防対策を工夫して、日々実践していきたいと思います。実際に認知症予防効果があるのかどうかは全く不明ですが、例えば、食生活では穏やかな糖質制限を続けて健康体重を維持したいと考えてます。運動では、太極拳、スロージョギング、登山などを生涯スポーツとして地道に続けていきたいと考えてます。また、頭の使い方では、かつて若い頃にのめりこんでいたことのある数学研究、ピアノ演奏、クラシックギター演奏、英語学習などを脳トレーニングとして死ぬまで続けたいと考えてます。


中年期の過体重・肥満が高齢期の認知症のリスクを上昇させる可能性がある

2012年08月12日 | 健康・病気

「中年期の過体重や肥満により、高齢期の認知症のリスクが高まる」という研究結果が発表されました(Neurology, May 2011)。

調査対象者の中年期の体重を「やせ」(BMI≦20)、「正常体重」(20<BMI≦25)、「過体重」(25<BMI≦30)、「肥満」(BMI>30)に分類すると、高齢期に認知症または認知症の疑いと判定されるリスクは、「正常体重」と比べて、「やせ」では0.79倍と高くなかったが、「過体重」では1.71倍、「肥満」では3.88倍と高かった。

https://aspara.asahi.com/blog/medicalreport/entry/rpDnLoxG7Y

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Midlife overweight and obesity increase late-life dementia risk
A population-based twin study

W.L. Xu, MD, PhD, A.R. Atti, MD, PhD, M. Gatz, PhD, N.L. Pedersen, PhD, B. Johansson, PhD and L. Fratiglioni, MD, PhD

Abstract
Objective: The relation of overweight to dementia is controversial. We aimed to examine the association of midlife overweight and obesity with dementia, Alzheimer disease (AD), and vascular dementia (VaD) in late life, and to verify the hypothesis that genetic and early-life environmental factors contribute to the observed association.

Methods: From the Swedish Twin Registry, 8,534 twin individuals aged ?65 (mean age 74.4) were assessed to detect dementia cases (DSM-IV criteria). Height and weight at midlife (mean age 43.4) were available in the Registry. Data were analyzed as follows: 1) unmatched case-control analysis for all twins using generalized estimating equation (GEE) models and 2) cotwin matched case-control approach for dementia-discordant twin pairs by conditional logistic regression taking into account lifespan vascular disorders and diabetes.

Results: Among all participants, dementia was diagnosed in 350 subjects, and 114 persons had questionable dementia. Overweight (body mass index [BMI] >25?30) and obesity (BMI >30) at midlife were present in 2,541 (29.8%) individuals. In fully adjusted GEE models, compared with normal BMI (20?25), overweight and obesity at midlife were related to dementia with odds ratios (ORs) (95% CIs) of 1.71 (1.30?2.25) and 3.88 (2.12?7.11), respectively. Conditional logistic regression analysis in 137 dementia-discordant twin pairs led to an attenuated midlife BMI-dementia association. The difference in ORs from the GEE and the matched case-control analysis was statistically significant (p = 0.019).

Conclusions: Both overweight and obesity at midlife independently increase the risk of dementia, AD, and VaD. Genetic and early-life environmental factors may contribute to the midlife high adiposity?dementia association.


活発な身体活動によって認知症リスクが低下する可能性がある

2012年08月11日 | 健康・病気

Bowen氏は活発な身体活動と認知症リスクとの関係を検討し研究結果を報告しました(Am J Health Promot, 2012 July)。

この研究の主な結果:
・ 認知症リスクと活発な身体活動には顕著な関係が認められた。
・ 最終的には、活発な身体活動を行っていた高齢者では認知症と診断されるリスクが21%低くなると考えられる(p≦0.05)。
・ 活発な身体活動は、認知症リスク低下の独立した危険因子の可能性がある。

http://www.carenet.com/news/risk/carenet/30257

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A prospective examination of the relationship between physical activity and dementia risk in later life.

American journal of health promotion, 2012 Jul;26(6); 333-40

Author: Mary Elizabeth Bowen

Abstract Purpose . To examine the relationship between vigorous physical activity and dementia risk. Design . Prospective study design utilizing physical activity data from the Health and Retirement Study and cognitive outcome data from the Aging, Demographics, and Memory Study. Setting . Community-based. Subjects . Adults age 71 and over (N ?=? 808) with 3 to 7 years of physical activity information prior to dementia/no dementia diagnosis. Measures . Physical activity was measured by participation in vigorous activities such as aerobics, sports, running, bicycling, and heavy housework three or more times per week (yes/no). Dementia diagnosis was based on an expert panel (e.g., neuropsychologists, neurologists, geropsychiatrists) who performed and reviewed a battery of neuropsychological tests. Analysis . Binary logistic regression models were used to account for demographic characteristics, genetic risk factors (one or two apolipoprotein E ε4 alleles), health behaviors (e.g., smoking, drinking alcohol), health indicators (body mass index), and health conditions (e.g., diabetes, heart disease) in a sequential model-building process. Results . The relationship between vigorous physical activity and dementia risk remained robust across models. In the final model, older adults who were physically active were 21% (p ? .05) less likely than their counterparts to be diagnosed with dementia. Conclusion . Vigorous physical activity may reduce the risk for dementia independently of the factors examined here. This study's findings are important given that few preventative strategies for dementia have been explored beyond hormonal therapy and anti-inflammatory drugs.


炭水化物中心の食生活で認知症の発症リスクが増加する可能性がある

2012年08月11日 | 健康・病気

食生活は認知症の発症にも関係する可能性があると言われてますが、Roberts氏らは、どのような食生活が認知症リスクを高めるのかを検討し研究結果を報告しました(J Alzheimers Dis, 2012 Jul 17)。その研究で、炭水化物からのカロリー摂取率が高く、脂質およびタンパク質からの摂取率が低い高齢者では、軽度認知障害または認知症の発症リスクが増加する可能性が示唆されました。

http://www.carenet.com/news/30280

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Title: Relative Intake of Macronutrients Impacts Risk of Mild Cognitive Impairment or Dementia.

Journal: Journal of Alzheimer's disease. 2012 Jul 17

Author: Rosebud O Roberts, Lewis A Roberts, Yonas E Geda, Ruth H Cha, V Shane Pankratz, Helen M O'Connor, David S Knopman, Ronald C Petersen

Affiliation: Department of Health Sciences Research, Mayo Clinic, Rochester, Minnesota and Scottsdale, AZ, USA.

Abstract: High caloric intake has been associated with an increased risk of cognitive impairment. Total caloric intake is determined by the calories derived from macronutrients. The objective of the study was to investigate the association between percent of daily energy (calories) from macronutrients and incident mild cognitive impairment (MCI) or dementia. Participants were a population-based prospective cohort of elderly persons who were followed over a median 3.7 years (interquartile range, 2.5-3.9) of follow-up. At baseline and every 15 months, participants (median age, 79.5 years) were evaluated using the Clinical Dementia Rating scale, a neurological evaluation, and neuropsychological testing for a diagnosis of MCI, normal cognition, or dementia. Participants also completed a 128-item food-frequency questionnaire at baseline; total daily caloric and macronutrient intakes were calculated using an established database. The percent of total daily energy from protein (% protein), carbohydrate (% carbohydrate), and total fat (% fat) was computed. Among 937 subjects who were cognitively normal at baseline, 200 developed incident MCI or dementia. The risk of MCI or dementia (hazard ratio, [95% confidence interval]) was elevated in subjects with high % carbohydrate (upper quartile: 1.89 [1.17-3.06]; p for trend = 0.004), but was reduced in subjects with high % fat (upper quartile: 0.56 [0.34-0.91]; p for trend = 0.03), and high % protein (upper quartile 0.79 [0.52-1.20]; p for trend = 0.03) in the fully adjusted models. A dietary pattern with relatively high caloric intake from carbohydrates and low caloric intake from fat and proteins may increase the risk of MCI or dementia in elderly persons.


産婦人科の話題あれこれ(自ブログ内リンク)

2007年08月04日 | 健康・病気

産科:

妊婦の栄養指導

産科領域における肺血栓塞栓症について

羊水塞栓症について

常位胎盤早期剥離について

常位胎盤早期剥離による児死亡

前置胎盤の出血

癒着胎盤について

癒着胎盤の定義について

癒着胎盤に関する個人的な経験談

肩甲難産について

当科における帝王切開後の経膣分娩(VBAC)についての説明書

帝王切開後の経膣分娩(VBAC)を実施する施設が満たすべき条件

前回帝王切開時の子宮切開方法とVBACにおける子宮破裂の発生率

会陰切開についてのインフォームドコンセント(説明と同意)

出産のリスクを点数化

新生児科医の分娩立会いについて

「無過失補償制度」の産科医療への導入について

日医が「分娩に関連する脳性麻痺に対する障害補償制度」の制度化に関するプロジェクト委員会を設置

「分娩に関連する脳性麻痺に対する障害補償制度」の制度化を提言(日本医師会)

医療ADR(裁判外紛争解決)について

医療不審死、究明機関設置へ(読売新聞)

出産時の医療事故、過失立証なくても補償…政府検討へ(読売新聞)

産科における無過失補償制度の創設

お産の事故に「保険」制度 産科医不足解消ねらい厚労省

日本の周産期死亡率:過去、現在、未来

朝日新聞: 帝王切開20年で倍増

帝王切開、なぜ増える 20年で1.6倍に (朝日新聞)

助産師問題:

助産所業務ガイドライン

神奈川県警による堀病院強制捜索に関して(周産期医療の崩壊をくい止める会)

堀病院事件・続報

無資格内診 助産師確保を急がねば(信濃毎日新聞)

無資格助産:「堀病院」とは別の診療所でも 横浜市、立ち入りへ(毎日新聞)

お産難民 助産師が足りない 人材、大病院に集中(東京新聞)

無資格内診事件 激務の産科に打撃(中日新聞)

助産師はいま (読売新聞)

横浜・堀病院事件、捜査批判に県警が異例の反論 (読売新聞)

助産師の養成について

堀病院・無資格助産事件 捜査の停止求める見解公表 (毎日新聞)

日本産婦人科医会からお知らせ

夜学で助産師資格の取得 (厚労省方針)

大淀病院事件:

2006/10/18 転送拒否続き妊婦が死亡 分娩中に意識不明

10/19 奈良県警が業務上過失致死容疑で捜査へ 妊婦死亡問題

10/20 産婦人科医会「主治医にミスなし」 奈良・妊婦死亡で県産婦人科医会 (朝日新聞)

10/21 妊婦転院拒否、断った大阪に余裕なし 満床や人手不足 (朝日新聞)

10/22  <母子医療センター>4県で計画未策定 国の産科整備に遅れ

10/25 奈良の妊婦死亡、産科医らに波紋 処置に賛否両論

10/26 医療機関整備で県外派遣産科医の撤収へ 奈良・妊婦死亡 (朝日新聞)

2007/5/4 転院断られ死亡の妊婦、詳細な診療情報がネットに流出(読売新聞)

5/24 周産期医療システムの不備は、誰に責任があるのだろうか?

6/27 大淀病院事件・第1回口頭弁論の報道

育児:

乳幼児突然死症候群(SIDS)について

あおむけ寝がいいか,うつぶせ寝がいいか?(歴史的変遷)

婦人科:

婦人科腫瘍学・必修知識

性器クラミジア感染症

子宮内膜症について

外陰原発の悪性腫瘍

臨床試験進行中の子宮頸がんのワクチン

子宮頸がん予防ワクチンについて

補足(子宮頸がん予防ワクチンについて)

子宮頚がんワクチン 米国で認可

子宮頸がん、最近の話題

子宮頸癌について

子宮体癌(子宮内膜癌)について

卵巣がんについて

卵巣癌のFIGO臨床進行期分類(1988年)

上皮性卵巣癌に対する標準的化学療法

卵巣がん 治療ガイドライン

正常大卵巣癌症候群

胞状奇胎について

胞状奇胎後に絨毛癌が続発する可能性について

日本婦人科腫瘍学会より市民の皆様へ

PET-CTのご紹介

2007/04/18 執刀医ら2人を書類送検 子宮摘出手術の死亡事故で (共同通信)

本の紹介

『産婦人科研修の必修知識2007』、日本産科婦人科学会

がん疼痛治療のレシピ(2007年版)、春秋社

医療崩壊MRICインタビュー:もはや医療崩壊は止まらないかもしれない

EBMを考えた産婦人科ガイドラインUpdate、改訂第2版

卵巣腫瘍病理アトラス

婦人科腫瘍の臨床病理 改訂第2版

その他:

妊婦が輸血拒否で死亡 「エホバの証人」信者

親拒んでも15歳未満輸血、信仰より救命優先…学会指針案

日本法医学会:「異状死」ガイドライン

問題は医師法21条にあるのではない

根拠に基づいた医療(EBM)

メタボリックシンドロームについて

メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候)についての報道

内臓脂肪症候群 なめてはいけない『お腹のサイズ』

肥満とダイエットについて

EMS運動とは?


子宮頸がん、最近の話題

2006年05月22日 | 健康・病気

子宮頸がんに関する最近の2大トピックスとしては「子宮頸がん検診でのHPV検査」および「子宮頸がん予防のためのHPVワクチン」が挙げられます。

子宮頸がん予防のためのHPVワクチンがついに米国で販売承認される見込みのようです。16~26歳の約2万人を対象とした臨床試験で、偽ワクチン接種者の約0.6%に発生した子宮頸がんの前がん病変が、ワクチン接種者には全く発生しなかったということです。

これが日本でも認可され、学童期の女子全員に接種されるようになれば、将来的には子宮頸がんが撲滅されることも十分に期待されます。もしかしたら、定期的な子宮頸がん検診も将来的には全く必要がなくなるのかもしれません。

しかし、現時点で成人となっている世代の女性では、子宮頸がん検診(子宮頸部細胞診+HPV検査)を定期的に受けてゆく必要があります。

参考:子宮頸癌について


子宮頸癌について

2006年02月05日 | 健康・病気

子宮頸癌は子宮の入り口(頸部)にできる癌で、最近では20~30歳代の若年女性に急増しています。 初期子宮頸癌ではほとんど自覚症状がありませんが、 癌が進行すると不正性器出血や性交渉時の出血などの症状がみられることもあります。

子宮頸癌は他の癌と異なり、定期的な検診で前癌病変のうちに発見することが可能です。前癌病変で発見し、治療を行えば、ほぼ100%完治します。また子宮を温存することも可能なため、その後の妊娠・出産も可能です。

子宮頸癌の原因は、ヒトパピローマウイルス(HPV)というウイルスです。 このヒトパピローマウイルス(HPV)は性交渉により感染します。このウイルスはとてもありふれた存在で、性交渉の経験のある女性であれば、ほとんどの人が感染したことがあると考えられています。 このウイルスに感染しても多くの場合は、免疫力によってウイルスが体内から排除されます。しかし、何らかの理由によってウイルスが持続感染した場合、長い年月(ウイルス感染から平均で約10 年以上)をかけ、子宮頸癌へと進行する危険性があります。

ヒトパピローマウイルス(HPV)には100以上ものタイプがありますが、全てのタイプが子宮頸癌の原因となるのではありません。子宮頸癌は高リスク型HPVと呼ばれている一部のヒトパピローマウイルス(HPV)によって引き起こされます。高リスク型HPVは性交渉により人から人へと感染します。 この高リスク型HPVが持続感染した場合、子宮頸癌へと進行する危険性があります。持続感染する原因はまだ明らかにはなっていませんが、その人の年齢や免疫力などが影響しているのではないかと考えられています。

ヒトパピローマウイルス(HPV)に感染した人の中で、およそ10人に1人がウイルスを排除できず持続感染することがあります。その場合、子宮頸部の細胞に異常な変化を起こすことがあります。この細胞の変化を異形成といいます。異形成になってもウイルスが排除されれば、それに伴い異形成も自然に治ります。しかし、ウイルスが持続感染した場合、異形成の程度が進行することがあります。異形成の程度が軽い場合(軽度異形成)は自然に治癒することが多く、程度が重くなった場合(中等度~高度異形成)は自然治癒しづらくなります。

高度異形成を治療せず長期間放置した場合、病変が進行し子宮頸癌になる恐れがあります。子宮頸癌は早期癌であれば、手術により高い確率で治癒することが可能です。しかし、癌が進行しているほど、手術をしても癌をとりきれなかったり、他の臓器へ癌が転移している可能性が高くなり、治癒が難しくなります。

子宮頸癌は定期的に癌検診を受けることで予防することができます。現在、子宮頸癌検診では細胞診での検査が主流です。しかし、細胞診のみでは検診の精度にやや問題があり、細胞診とHPV検査を併用することで、検診の精度がほぼ100%になり、将来の子宮頸癌のリスクも知ることができます。アメリカの婦人科検診のガイドラインでは細胞診、HPV検査の両方が陰性の場合は、その後3年間は検診の必要がないとされています。従って、子宮頸癌検診では、できれば、細胞診とHPV検査を併用することをお勧めします。(HPV検査の費用は自費となります。)

子宮頸癌検診の結果、精密検査の必要性があると判断された場合、コルポスコープ(膣拡大鏡)検査を行います。コルポスコープ検査で異常が疑われる箇所があれば、その部分の組織を一部採取(生検)して病理専門医が診断します(病理組織診断)。

異形成の病変は、軽度、中等度、高度と長い時間をかけて進行し、上皮内癌を経て最終的に浸潤子宮頸癌になる恐れがあります。異形成/上皮内癌/浸潤子宮頸癌の治療法は病変の進行状態によって異なります。

軽度異形成は、ウイルスが免疫力によって排除されると、異形成も自然に治癒する可能性が高いため、通常、治療の対象にはなりません。異形成がさらに進行した場合には癌への進行を防ぐため、円錐切除術という治療を行います。高度異形成~上皮内癌までの段階であれば、円錐切除術で治癒が可能で、子宮を温存できるのでその後の妊娠・出産にもほとんど影響はありません。

高度異形成~上皮内癌の段階で発見されず浸潤子宮頸癌に進行してしまうと、円錐切除術では病変を取りきれなくない場合が多く、子宮の摘出が必要になります。病巣の大きさ・拡がり具合によっては、子宮だけでなく基靭帯、膣壁、骨盤内リンパ節なども同時に摘出する拡大術式(広汎性子宮全摘術)の必要があります。また、進行、転移の状況、年齢、病理組織型などによって、放射線療法、化学療法などを実施する場合もあります。症例によっては、複数科の専門医が協力して、手術療法、放射線療法、化学療法などを組み合わせて実施する場合(集学的治療)もあります。個別の症例の治療方法につきましては、もよりの婦人科腫瘍専門医とよく御相談になってください。


正常大卵巣癌症候群

2006年02月04日 | 健康・病気

はじめに

進行した癌性腹膜炎の状態の女性患者で,術前検査では原発巣不明,開腹時肉眼所見でも卵巣は正常大で明らかな原発巣を見出せないような臨床的状況に遭遇することがある.Feuerら1)は,このような臨床的状況を呈する症候群を,Normal-sized ovary carcinoma syndrome(正常大卵巣癌症候群)と命名した(1989年).本症候群はいくつかの悪性疾患を包括し,病理組織学的診断を確定するのは必ずしも容易ではない.本稿では,本症候群の定義と意義について述べる. 




本症候群の定義

提唱者であるFeuerらによる本症候群の定義は,次のような条件を満たす複数の疾患から構成される群である.すなわち,

1. 開腹時の所見で,腹腔内にはびまん性に転移巣がひろがっている.
2. 卵巣は正常の大きさで,外表は細顆粒状ないし平滑である.
3. 術中または術前の探査で明らかな原発巣が認められない.
4. 化学療法,放射線療法,卵巣にかかわる手術などの治療歴がない.

本症候群の定義は概括的であるので,さまざまな疾患が含まれる.Feuerらの報告によれば,後の解析によって本症候群には以下の疾患が含まれることが判明した.すなわち,

1. びまん性悪性中皮腫 diffuse malignant mesotheliomas(以下,DMM)
2. 性腺外ミュラー管腫瘍 extragonadal muellerian tumors
3. 転移性腫瘍 metastatic tumors
4. 卵巣腫瘍 ovarian tumors

Feuerらは,上記以外の疾患が本症候群に含まれる可能性も認めている.


本症候群を構成する疾患とその鑑別診断

本症候群の病理組織診断の鑑別はきわめて困難であるが,臨床所見,腫瘍マーカー,開腹時の肉眼所見,ヒアルロニダーゼ反応,免疫組織化学,電顕所見などを総合して判定する必要がある.また,臨床医と病理医との密接なコミュニケーションが不可欠である.

本症候群を構成する疾患のうち,DMMと性腺外ミュラー管腫瘍が比較的多数を占め,Feuerらの報告では全症例11例中6例がDMMと性腺外ミュラー管腫瘍に該当した(表1).

表1 正常大卵巣癌症候群と診断された疾患の内訳

Feurerら(1989)1)

山崎ら(1995)2)

びまん性悪性
中皮腫

性腺外ミュラー管
腫瘍

転移性腫瘍

卵巣腫瘍

DMMは,男女の胸膜,腹膜に発生するきわめて悪性の腫瘍で,上皮型,肉腫型,混合型に分類される.腹膜発生例では上皮型が多いとされている.胞体内にアルシアン青染色やコロイド鉄染色陽性物質が証明され,ヒアルロニダーゼでその染色性が消失ないし低下し,ヒアルロン酸の存在が証明されれば,DMMの診断の重要な根拠となる.電顕所見(多数の細長い微絨毛,中間フィラメント,デスモゾームなど)も診断の参考になる.

女性の腹膜は発生学的にsecondary mullerian system(第2のミュラー管系)とされており,ミュラー管系への分化を示す病変の発生することが知られている.最近,性腺外ミュラー管腫瘍に分類される腹膜原発乳頭状漿液性癌primary serous papillary carcinoma of the peritoneum (以下,PSCP)の報告3),4)が増えている.PSCPは組織学的に卵巣乳頭状漿液性腺癌と類似し,しばしば砂粒体を有し,乳頭状あるいは腺管状構造を呈する.電顕的には,上皮性分化,すなわち細胞質内粘液,短い直の微絨毛などがみられる.PSCPの予後は卵巣癌よりも悪いが,CDDPを中心とした化学療法にある程度反応し長期生存例の報告もある.PSCPの組織発生,特に卵巣原発の表在性乳頭状腺癌5)との関係などについては,なお問題が残されている.

上皮型DMMとPSCPとの鑑別は一般に困難であるが,H-E染色でPSCPに多数の砂粒体が認められること,ヒアルロニダーゼ反応の結果,免疫組織化学的検討でBer-EP4染色はDMMで陰性,PSCPで陽性を示すこと,特徴的な電顕所見などが重要な鑑別点となる.

本症候群は、特に組織像が漿液性腺癌であれば,卵巣癌と診断される傾向がある.しかし,卵巣癌は,Feuerらの報告では全症例11例中1例のみであった.卵巣癌は本症候群の一部を構成するに過ぎない点に留意する必要がある.



本症候群の意義

従来,本症候群に該当する患者の多くは,原発巣の検索が十分には行なわれないまま,安易に診断は『卵巣癌』とされる傾向もあった.Feuerらは,そのような対応に対してより的確な診断を求める努力を要請して本症候群を提唱した.本症候群は予後不良だが,適確な診断が下されれば,各疾患ごとにより適切な治療法が選択でき,症例によっては生存期間の延長などが期待できる場合も少なくない.本症候群の原発巣の検索方法,鑑別診断,治療法などはいまだ確立されていないので,今後は症例を蓄積し各疾患別に最適な取り扱い指針を構築してゆく必要がある.


文  献

1) Feuer GA, et al: Normal-sized ovary carcinoma syndrome. Obstet Gynecol 73: 786-792, 1989
2) 山崎,波多野,他:Normal-sized ovary carcinoma syndrome,14例の病理組織学的解析.日産婦誌47:27-34,1995
3) Ranson DT, et al: Papillary serous carcinoma of the peritoneum. A review of 33 cases treated with platin-based chemotherapy. Cancer 66: 1091-1094, 1990
4) Fromm G, et al: Papillary serous carcinoma of the peritoneum. Obstet Gynecol 75: 89-95, 1990
5) 日本産科婦人科学会・日本病理学会.卵巣腫瘍取り扱い規約第1部,pp21-23,金原出版,1990


常位胎盤早期剥離について

2006年01月24日 | 健康・病気

常位胎盤早期剥離は、『正常位置に付着している胎盤が、妊娠後半期または分娩経過中に、胎児娩出前に子宮壁から部分的または完全に剥離し、ときに重篤な臨床像を呈する症候群』と定義されます。

通常、胎盤は児娩出後に自然に子宮から剥がれてきます。ところが、常位胎盤早期剥離という病気では、まだ胎児が子宮の中にいるのに胎盤が子宮から剥がれてしまいます。胎盤が剥がれると子宮の壁から出血し胎盤後血腫という血の塊が子宮壁と胎盤の間に形成されます。

常位胎盤早期剥離は、正常の分娩経過中に病院内で突然おこることもあれば、まだ臨月にもなっていない時期に自宅で突然おこることもあります。胎盤が子宮から剥がれてくると、胎児への酸素と栄養の供給は突然ストップしてしまいます。剥がれる面積が小さいうちは胎児は何とか生きていますが低酸素のため弱ってきます。広い範囲で剥がれると胎児死亡となります。 発症直後に胎児死亡となる例もめずらしくありません。胎盤後血腫のために母体の血液の状態が変化してDICという状態になると、血が止まらなくなり、出血のために母体の生命が奪われることもあります。

常位胎盤早期剥離の典型的な自覚症状は、動けなくなるぐらいに激烈な下腹痛で、お腹は板のように硬くなります。 性器出血がみられることもあります。 胎動が減少または消失します。症状が典型的でない場合も多いです。以上のような症状があった場合には、自己判断で様子を見ないで夜中でも必ず産婦人科での診察を受けることが大切です。 診断するためには胎児心拍をモニタリングする必要があります。超音波検査で胎盤後血腫が認められた場合の診断は確実ですが、実際には超音波検査ではっきりした所見が認められないことの方がむしろ多いです。

常位胎盤早期剥離は母児の命にかかわる非常にこわい病気ですが、いつ誰におこるのかは全く予想ができません。いかに医学が進歩したとはいえ、この病気の発症を予測することは未だに不可能です。重症の妊娠高血圧症候群(旧称:妊娠中毒症)がある場合におこりやすいといわれていますが、実際には妊娠高血圧症候群と関係なく発症することも多いです。 適切な予防法もありません。常位胎盤早期剥離がおこった場合に発症後できるだけ早く診断して緊急帝王切開などの母児の緊急救命処置を行うことが、我々にできる唯一かつ最善の道です。たとえ来院時にすでに胎児死亡になっていたとしても、母体のショック状態、DICを早急に改善させて、大量輸血の準備が整い次第、直ちに帝王切開で胎盤及び胎盤後血腫と胎児を子宮から取り出さないと、胎児ばかりではなく母体の生命にも危険がおよびます。

常位胎盤早期剥離は全妊娠の0.44~1.33%程度に発症すると言われてます。胎盤の剥がれる面積が小さかったり、進行がゆっくりであれば母児とも無事に助かる場合もありますが、来院時にすでに胎児が弱りきっていると、緊急帝王切開で児を娩出して新生児科医に蘇生処置を実施してもらっても脳性麻痺などの障害が残る場合もあります。自宅で発症した場合や他院からの母体搬送例では、来院時にすでに胎児死亡となっている場合が非常に多いです。

常位胎盤早期剥離の母体死亡率は4~10%児死亡率は30~50%といわれています。発症のリスク因子としては妊娠高血圧症候群、絨毛羊膜炎、骨盤位に対する外回転術などがあります。また、前回の妊娠でこの病気を発症した場合には、今回の妊娠での反復率は5~10%と極めて高率となり発症率は約10倍に増加するので厳重な管理が必要となります。

一次医療施設から高次医療施設への母体搬送の時期ですが、妊娠週数とは関係なく、常位胎盤早期剥離が疑われた場合は直ちに高次医療施設へ母体搬送することが望ましいと考えられます。この病気では、児死亡が非常に高率であり、母体にもDIC、多臓器不全などの重篤な合併症が高率に発症しますから、大勢の専門医の力を結集して治療にあたる必要があります。

常位胎盤早期剥離は発症の予知がきわめて困難で、妊婦であれば誰にでもいつでも発症する可能性があり、母体死亡や児の周産期死亡に密接につながる緊急性のきわめて高い病気であり、発生頻度も比較的多いです。気になる症状があれば、自宅で様子を見ることなく病院にすぐに連絡しましょう 


羊水塞栓症について

2006年01月19日 | 健康・病気

羊水塞栓症は、8000~30000件の分娩に1回の割合で起こる非常にまれな疾患です。分娩中や分娩直後に、突然、急激に血圧が下がり、呼吸循環状態が悪化してショック状態になるものです。重篤なものは引き続き呼吸停止、心停止となります。非常にまれな疾患ではありますが、もし発症した場合には、致死率は60~80%にも及ぶとされています。事前に発症を予測することは不可能です。

羊水塞栓症で亡くなった方を解剖すると肺などの組織から羊水の成分が見つかることから、分娩時に羊水が血液に入ったことにより肺などの血管が詰まって(塞栓して)発症すると従来は考えられていました。しかし、最近の研究により、分娩時に羊水が血中に入ることは珍しくないことがわかりました。その中のごく一部の人が、羊水成分に対して激しいアレルギー症状を起こすことが羊水塞栓症の原因との学説が最近は注目されています。

すなわち、分娩時などに微量の羊水が母体の血中に入ります。羊水は胎児側のものであり、母体にとっては他人のものということになります。その(自分のものではない)羊水に対して激しいアレルギー症状を起こすことによりショック状態になるという説が有力です。

羊水塞栓症は、分娩中または分娩直後に主に発症し、臨床症状がアナフィラキシーショック症状に類似していること、アトピー性皮膚炎の妊婦に多いこと、また男児に多く、破水直後に発症しやすいことなどが特徴としてあげられています。

羊水塞栓症が発症した場合は、発症直後にショックに対応した治療を迅速に行い、引き続いて、集中治療室(ICU)での集中的な呼吸や血圧の管理、DICの治療などが不可欠となります。しかし、重篤例での母体の救命はきわめて困難な場合が多いのが現状です。

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羊水塞栓症は非常にまれな疾患であり、産科医もこれまでは身近な疾患とは考えてませんでした。しかし、昨今、産科医療訴訟は増加の一途にある中で、羊水塞栓症は、非常にまれとはいえ、これがいつ起こるかは全く予測ができないわけですし、母体死亡率は86%、周産期死亡(妊娠22週以降の死産+生後1週間以内の新生児死亡)率は50%とも言われてますので、産科業務に従事する以上は我々もこの疾患に対して全くの無関心では済まされなくなってきました。少なくとも、『羊水塞栓症という疾患がこの世の中に存在し、妊婦であれば誰にでも起こり得る。非常にまれとはいえ、いったんこの疾患が発生すれば母体の救命は現時点ではほとんど不可能である。』という事実を、自施設で分娩を予定している妊婦さんとそのご家族に対しては周知徹底させておく必要があると私は考えています。


胞状奇胎後に絨毛癌が続発する可能性について

2006年01月19日 | 健康・病気

従来、胞状奇胎娩出後の1~2%に絨毛癌が発生すると言われてきましたが、胞状奇胎後の徹底した管理の普及により、現在わが国では胞状奇胎後に絨毛癌と確定診断される人はほとんどいないと考えられます。

胞状奇胎後は、みんな用心してhCGが陰性化するまで厳重に経過観察し、hCG値の再上昇がみられた時点ですぐに化学療法を開始するので、はっきり絨毛癌だと確定診断できるような状態になることはほとんどないわけです。

それに対して普通の妊娠の後には誰もhCG値の経過観察などしないので、万一、正常妊娠後に絨毛癌が続発した場合、全身転移した状態でもなかなか絨毛癌と診断されず、手遅れに近くなってしまいます。

当科で以前に治療したある患者さんの場合は、無数の肺転移があり呼吸困難におちいっていて、前医の診断は『肺癌末期』で余命あと1週間以内と言われていたのが、たまたま担当医が妊娠反応陽性に気づき当科に紹介され、絨毛癌と診断されました。その患者さんの場合は胞状奇胎の既往はありませんでした。その患者さんは当科で化学療法を実施して完全治癒し、後にお子さんを出産されました。

また、他の患者さんの場合、正常分娩後まだ半年の人で、脳転移、肝転移、脾転移、小腸転移まである人でしたが、当科に紹介される直前までは他院の内科で原発不明の癌の全身転移という診断でした。やはり担当の内科の先生がたまたま妊娠反応陽性に気づいたのが診断のきっかけでした。その患者さんも現在では完治し年に1度の外来経過観察中ですが、発病前と同様に元気に働いてらっしゃいます。

このように絨毛癌は、化学療法の奏効率がほぼ100%近くになったと考えられていて、現在ではほぼ100%近く完全寛解が期待できる病気です。(ただし、抗癌剤抵抗性で治療困難な例や、完全寛解後に再発する例などが一部にあります。)

胞状奇胎は日本人には比較的多い疾患です。当科でも2~3ヶ月に1度の頻度で経験します。胞状奇胎娩出後のhCG検査の間隔は、検査値が再上昇してきたらなるべく早めに化学療法を開始した方がいいので、最初のうちは週1回くらいで、経過順調であれば、2週に1回、月に1回とだんだん検査の間隔を長くしていきます。また、胞状奇胎娩出後、約半年は避妊が指示されます。