一般目標
婦人科腫瘍患者の診断、治療にあたり最も重要な項目である病変の肉眼的および細胞診断並びに病理組織診断学的評価を細胞診、生検、手術摘出標本で十分に理解することを目標とする。特に婦人科領域の良性疾患と悪性あるいは境界悪性病変を鑑別できることを目的に修練をすすめる.。更に以上の修練を通してこれらの病変の発生、進展や細胞生物学的動態についても良く理解し、その特徴や臨床的予後について認識することができるようにする。その他、剖検、凍結切片診断、免疫染色診断、分子病理学的診断についても十分な知識を有することも望まれる。
行動目標
1. 婦人科腫瘍の摘出標本の切り出しから、最終的な病理組織報告書作成までの過程を病理専門医の指導の下で体験する。
2. 婦人科腫瘍領域の生検、細胞診断について病理専門医、細胞診専門医の指導の下で最終的な報告書の作成までの流れを十分に習得する。
3. 迅速診断、免疫組織化学、分子病理学的診断の実際を見学し、これらの診断技法の意義及びその実際を理解する。
4. 修練期間中に婦人科腫瘍患者の剖検例を経験することが望ましく、CPC などを通して疾患の終末像を理解する。
A. 外陰
1. 以下の外陰疾患について、肉眼および病理組織学的、一部では細胞診断学的所見を把握し、病理組織診断並びに細胞診診断の報告書の内容を適確に理解してその疾患の診断、治療に応用できる。
a. 良性疾患
(1) 増殖性病変や硬化性苔癬などの萎縮性病変
(2) 顆粒細胞腫などの良性腫瘍
(3) 尖形コンジローマ
b. 上皮異形成(VIN)および上皮内癌
c. 扁平上皮癌
d. 腺癌
e. Paget 病
f. 悪性黒色腫
g. 肉腫
h. Bartholin 腺に発生する疾患
嚢胞、扁平上皮癌、移行上皮癌、腺癌、腺様嚢胞癌
i. その他の稀な疾患
2. ウイルス感染と上皮の増殖、癌の発生との関係を理解し記述できる。
3. 扁平上皮内癌と浸潤癌の差異をよく理解しており、初期浸潤の特徴を認識し記述できる。
4. 種々の外陰腫瘍の自然史、病因、分子病理学的背景や生物学的態度をよく理解し記述できる。
5. 外陰の部位における癌の発生頻度やその進展様式を理解し記述できる。
6. 外陰癌と他の性器癌との関連について理解し記述できる。
B. 腟
1. 以下の腟疾患について、肉眼および病理組織学的、一部では細胞診断学的所見を把握し、病理組織診断並びに細胞診診断の報告書の内容を適確に理解してその疾患の診断、治療に応用できる。
a. 良性疾患
(1) 子宮内膜症
(2) アデノーシス
(3) 扁平上皮乳頭腫、尖形コンジローマ
(4) その他
b. 扁平上皮異形成(VAIN)および上皮内癌
c. 扁平上皮内癌
d. 腺癌
e. 悪性黒色腫
f. ブドウ状肉腫・胎児性横紋筋肉腫とその転移病巣
g. その他の稀な疾患
内胚葉洞腫瘍, 肉腫など
h. 転移性癌
2. 妊娠中の母体にdiethylstilbestrol (DES) を投与した結果、その女児に起こり得る性器異常についての知識を有し記述できる。
3. 腟癌について、その自然史、病因、分子病理学的背景、発生部位と頻度、およびその進展様式について記述できる。
C. 子宮頸部
1. 細胞診標本について、以下の細胞所見を理解し形態学的特徴を記述できる.
a. 正常上皮
b. 上皮内腫瘍
c. 扁平上皮癌
d. 腺癌
e. ウイルスによる変化
f. トリコモナスおよび真菌の同定
g. 異型腺細胞の同定
2. 以下の子宮頸部疾患について、肉眼および病理組織学的、一部では細胞診断学的所見を把握し、病理組織診断並びに細胞診診断の報告書の内容を適確に理解してその疾患の診断、治療に応用できる。
a. 扁平上皮化生
b. 微小頸管腺過形成
c. コイロサイトーシス
d. 上皮内腫瘍(CIN):異形成、上皮内癌
e. 微小浸潤扁平上皮癌
f. 扁平上皮癌
g. 腺癌
h. その他の稀な腫瘍
i. 転移性癌
4. 上皮内腫瘍の発生と上皮内癌、浸潤癌に至る過程を、発生部位の移行帯の特性を理解して記述できる。
5. 子宮頸部上皮のウイルス性変化と上皮内腫瘍との関係を認識できる。
6. 上皮内癌の腺管侵襲と間質浸潤の生物学的並びに臨床的意義を理解し記述できる事。
7. 微小浸潤癌の定義とその治療の原則を理解し記述できる。
8. 子宮頸部上皮内腫瘍と癌について、コルポスコピー所見、細胞診所見、病理組織所見の関連性について記述できるともに、不一致についても説明できる。
9. 子宮頸部腺癌と子宮内膜腺癌の病理学的鑑別について説明できる。
10. 子宮頸癌の脈管侵襲の病理組織学的意義に関して記載できる。
11. 子宮頸癌の自然史とそれを規定する病理学的要因について記述できる。
12. 妊娠中の子宮頸部上皮内腫瘍および子宮頸癌について、診断、管理について理解し記述できる。
D. 子宮体部
1. 疾患について、肉眼および病理組織学的、一部では細胞診断学的所見を把握し、病理組織診断並びに細胞診診断の報告書の内容を適確に理解してその疾患の診断、治療に応用できる。
a. 正常、非増殖性変化
(1) 増殖期内膜
(2) 分泌期内膜
(3) 萎縮性内膜
(4) 妊娠時の内膜
(5) Arias-Stella 変化
(6) 腺筋症
b. 増殖性変化
(1) 子宮内膜ポリープ
(2) 単純型増殖症
(3) 複雑型増殖症
(4) 異型増殖症
c. 癌
(1) 類内膜腺癌
(2) 扁平上皮成分への分化を伴う類内膜腺癌
(3) 漿液性腺癌
(4) 明細胞腺癌
(5) 粘液性癌
(6) 扁平上皮癌
d. 子宮内膜間質腫瘍
(1) 子宮内膜間質結節
(2) 低悪性度子宮内膜間質肉腫
(3) 高悪性度子宮内膜間質肉腫
e. 癌肉腫
(1) 同所性
(2) 異所性
f. 平滑筋肉腫
g. 転移性癌
h. その他の悪性腫瘍
2. 子宮内膜細胞診について以下の細胞像を認識でき記述できる。
a. 正常、周期性変化
b. 増殖性変化
c. 内膜腺癌
3. 子宮内膜増殖症と子宮内膜腺癌の関連について理解し記述できる。
4. 以下の疾患について、自然史、生物学的態度、進展様式を理解し記述できる。
a. 子宮内膜腺癌
b. 子宮内膜間質肉腫
c. 平滑筋肉腫
d. 癌肉腫
5. 子宮内膜異型増殖症と腺癌の鑑別をその限界点とあわせて理解し記述できる。
6. 良性の平滑筋腫と平滑筋肉腫の鑑別の基準や子宮内膜間質肉腫のgrading について記述できる。
7. 内膜腺癌の筋層浸潤と腺筋症の病理組織学的差異を理解し記述できる。
8. 子宮内膜癌患者に対するホルモン補充療法についてそのメリット、デメリットを理解し記述できる。
E. 卵管
1. 以下の疾患について、肉眼および病理組織学的、一部では細胞診断学的所見を把握し、病理組織診断並びに細胞診診断の報告書の内容を適確に理解してその疾患の診断、治療に応用できる。
a. 良性の類腫瘍病変
(1) 高度の慢性卵管炎
(2) 嚢胞性卵管炎
(3) 上皮性変化を伴った結核性卵管炎
(4) 結節性峡部卵管炎
b. 良性の類内膜性病変
(1) 子宮内膜症
(2) 偽脱落膜変化
c. 妊娠に関連した変化
(1) 子宮外妊娠
d. 腺癌、癌肉腫
e. 転移性癌
2. 原発性腫瘍と転移性腫瘍の鑑別について理解し記述できる。
F. 卵巣
1. 以下の疾患について、肉眼および病理組織学的、一部では細胞診断学的所見を把握し、病理組織診断並びに細胞診診断の報告書の内容を適確に理解してその疾患の診断、治療に応用できる。
a. 表層上皮性・間質性腫瘍
(1) 良性腫瘍
(2) 境界悪性腫瘍
(3) 悪性腫瘍
b. 性索間質性腫瘍
c. 胚細胞性腫瘍
d. 転移性卵巣癌
e. 類腫瘍病変
2. 種々の卵巣腫瘍についてその自然史、分子病理学的背景を含む細胞生物学的態度について理解し記述できる。
3. 種々の卵巣腫瘍についてその発生頻度、両側発生の可能性について理解し記述できる。
4. 原発性卵巣腫瘍を転移性卵巣癌と区別するための特徴を理解し記述できる。
5. 境界悪性、悪性卵巣腫瘍において、嚢腫摘出術や片側付属器切除術に止め妊孕能を温存できる適応を理解し記述できる。
G. 絨毛性疾患
1. 以下の疾患について、肉眼および病理組織学的、一部では細胞診断学的所見を把握し、病理組織診断並びに細胞診診断の報告書の内容を適確に理解してその疾患の診断、治療に応用できる。
a. 正常の初期妊娠像
b. 胞状奇胎
(1) 全胞状奇胎
(2) 部分胞状奇胎
c. 侵入奇胎
d. 胎盤部トロホブラスト腫瘍
e. 絨毛癌
2. 種々の絨毛性疾患についてその自然史と生物学的態度を理解し記述できる.
H. リンパ節
1. 組織学的に以下の疾患を認識し記述できる.
a. 転移性癌
b. 良性の上皮成分(子宮内膜症、卵管内膜症)
2. リンパ節穿刺細胞診による悪性上皮細胞を認識できる.
I. 大網
大網の転移病巣について、肉眼および病理組織学的、一部では細胞診断学的所見を把握し、病理組織診断並びに細胞診診断の報告書の内容を適確に理解してその疾患の診断、治療に応用できる。
J. 腹水、腹腔洗浄細胞診
腹水あるいは腹腔洗浄液の細胞診断学的所見、結果を理解できる。細胞診断の結果にもとづいて、その疾患の診断、治療に応用できる。