ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

脳性麻痺に対する無過失補償は2000万~3000万円、保険料分に一時金3万増額

2006年11月30日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

来年度にも創設されるという「無過失補償制度」では保険料を誰が負担するのか?ということが問題になってきましたが、結局、健康保険組合から妊産婦に支払われる出産育児一時金を3万円増額して38万円とし、分娩料を増額しやすくした上で、医療機関が保険料を支払うという方式になるようです。

出産育児一時金は全額受け取っても、病院への分娩費用の支払いは滞る人が中にはいらっしゃいますので、できれば、(医療機関ではなく)健康保険組合が保険料を運営機構に直接支払う方式にしていただきたいです。

****** 共同通信、2006年11月29日

無過失補償は2000万-3000万円 保険料分に一時金3万増額 分娩事故で自民検討会

 分娩(ぶんべん)事故で脳性まひの赤ちゃんが生まれた場合、医師に過失がなくても補償金を支払う「無過失補償制度」について、自民党の「医療紛争処理のあり方検討会」(大村秀章(おおむら・ひであき)座長)は29日午前会合を開き、運営組織を設置した上で民間の損害保険会社を利用する制度案をまとめた。補償金は未定だが「1件当たり2000万-3000万円になるだろう」(大村座長)との見通し。

 運営組織は、事故が給付対象かどうか審査したり、事故原因の究明などを担当する。現在医療事故の分析をしている「日本医療機能評価機構」内に新設される見込み。厚生労働省は今後、保険会社などと具体的な詰めを急ぎ、2007年度中の開始を目指す。

 医療機関の保険料負担に伴い分娩費の上昇が予想されるため、健康保険から妊産婦に支給される出産育児一時金(こども1人当たり35万円)を3万円程度増額。国は「医療事故は民間の話で、公的資金の投入はなじまない」(厚労省幹部)との立場から直接的な財政支出を控えるが、健康保険組合への補助金などを通じ、間接的に支援する考え。

 分娩事故の訴訟は年々増加。訴訟リスクが産科医不足につながっているとして、日本医師会などが制度の早期導入を求めていた。

(共同通信、2006年11月29日)

****** 読売新聞、2006年11月29日

出産時事故の脳性まひ、補償数千万…来年度にも開始

 政府・自民党は28日、通常の妊娠・出産で障害児となった場合、医師の過失がなくても被害者に速やかに補償する「無過失補償制度」の原案を固めた。

 医療機関などから集めた保険料を基に、脳性まひとなったケースを対象に1件数千万円の補償を行う。来年度にも運用を開始する。

 補償制度は、医師の過失の認定が難しく、長期の医療裁判になりやすい出産時の事故について、早期の解決と被害者救済を実現するのが目的だ。補償により訴訟件数が減れば、産科医不足対策にもつながると期待されている。

 補償額は、脳性まひの発生率を基に決定する見通しで、2000万~4000万円程度を想定している。沖縄県内の調査では1000人中2人前後の発生率だった。今後、厚生労働省の全国的な発生率の調査などを踏まえ、補償額を決める。

 脳性まひは、先天性のものと、出産時に脳が一時的に酸欠になった場合があるとされ、原因の特定が困難で、訴訟に発展しやすい。

 新制度では、国と日本医師会が創設する「運営組織」が、医療機関などから保険料を集め、一括して民間保険会社と契約するほか、補償の判断や原因の分析を行う。政府は、医療機関の出産費値上げを回避するため、出産育児一時金(35万円)を値上げし、運営組織に直接払うことも検討する。

(読売新聞、2006年11月29日)

****** 参考

無過失補償制度案の概要(共同通信)

「無過失補償」へ機構新設 1件数千万、国が財政支援 (共同通信)

出産時事故:患者に「無過失補償」導入へ 民間保険を活用 (毎日新聞)


無資格助産の堀病院 違法性の一部否認 (産経新聞)

2006年11月29日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

日本のお産の47%は診療所(病床数19以下)で扱われていますが、診療所の半数近くは助産師がいないか一人しかいないのが現実です。新卒の助産師で診療所に就職するのは2 %で、助産師全体の八割が病院(病床数20以上)に集中しています。

分娩場所には、個人の好みにより、さまざまな選択肢があります。分娩場所を大雑把に4 つの類型にむりやり分類するとすれば、

自宅分娩で、陣痛が始まったら助産師を自宅に呼んで介助してもらう。何か異常が発生すれば、救急車で病院に搬送される。

助産所で、低リスク妊婦のみを扱い、最初から最後まで助産師のみで分娩を介助する。医学的対応が必要な状況になったら、救急車で病院に搬送される。

診療所で、主に低リスク妊婦を扱い、医師の監督・指示のもとに看護師が分娩経過を観察し、異常発生時または児娩出時には医師が呼ばれて対応する。診療所で対応できない場合は、病院に搬送される。

病院の産科で、正常分娩は助産師が主に担当し、異常が発生したら医師が呼ばれて対応する。特に異常がなくても、児の娩出時は医師が全例で立ち会っている場合が多い。ハイリスク妊婦の場合は最初から医師が主に対応する。

というような4 類型に分類することができます。歴史的に、分娩場所のトレンドは大きく変化してきましたが、現時点では、①+②が1%、③+④が99%という状況になっています。

診療所では、いくら必死になって助産師を募集しても、なかなか助産師が集まらないと聞いています。これを違法状態として厳しく取り締まれば、日本中の多くの産科施設で分娩を取り扱うことが困難となってしまうかもしれません。

病院の産科もどこもフル稼働の状況ですから、いきなり診療所の先生方が分娩を一斉に止めてしまえば、あぶれた妊婦さん達の受け皿はどこにもみつからないかもしれません。

現実を無視して、受け皿がないまま、現行の医療体制を違法状態として厳しく取り締まれば、日本中、お産難民だらけになってしまうかもしれません。

****** 産経新聞、2006年11月28日

無資格助産の堀病院 違法性の一部否認

 「助産師不足から私の指示でやらせていたが、法に触れるとは思っていなかった」-。助産資格の持たない看護師による内診行為で、27日に計11人が書類送検された堀病院。堀健一院長は現在、当初認めていた違法性について一部否認に転じる供述をしているという。看護師による内診は全国各地の医療機関で長年行われてきており、無資格助産行為をめぐっては、刑事処分の内容もそれぞれ異なる。産科医療の在り方をめぐる「お産論争」にまで発展した堀病院事件で、横浜地検がどのような判断を下すか注目される。(青山綾里)

 ■違法性認識で対立

 堀病院が書類送検された保健師助産師看護師法は、助産師、看護師、准看護師の資格や業務について定めた法律。ただし、具体的な業務内容に関しては記しておらず、産科医は長年、医師の指示のもとで看護師の内診はできると解釈していたようだ。

 だが、厚生労働省は平成14年と16年に2度にわたって、看護師の内診行為禁止を医療機関に通知。県警は、年間3000件の出産数を誇る堀病院が、厚労省の通知を無視して確信的に無資格助産を続けていた点を「悪質」と判断し書類送検に踏み切った。

 県警が押収したカルテなどを分析した結果、堀病院では過去3年間に診察を受けた妊婦約7900人のうち、9割以上の妊婦が無資格の看護師に内診を受けていたことが判明している。堀院長は8月の家宅捜索直後の会見で、「法律違反と知っていたが、お産を減らすわけにはいかなかった」と話していたが、その後の県警の聴取には「厚労省の通知は要望と思っていた。教育したベテラン看護師がやっているから、うちは問題ないと思っていた」などと供述。一緒に送検された看護師ら10人が容疑を認める一方で、院長だけが一部否認している状況という。

 ■分かれる刑事処分

 県警が堀病院への捜査の端緒としたのは、15年12月29日の出産。妊婦=当時(37)=は出産の際、無資格看護師ら4人の内診を受けて女児を出産したが、その後に体調を崩し、約2カ月後に死亡した。

 夫が被害届を出し県警が捜査に着手。県警の家宅捜索後、日本産婦人科医会は「母体の死亡と看護師による内診は関係がない」との見解を示したうえで、「看護師の内診が認められないなら産科医療は崩壊する」と反発した。背景には「助産師不足」という「お産」をめぐる構造的な問題がある。

 こうした事情もあるためか、無資格助産行為に関する刑事処分の内容は真っ二つに分かれている。14年に発覚した鹿児島県鹿屋市の産婦人科医院のケースでは、書類送検された院長ら計5人全員が不起訴処分に。今月10日には、愛知県豊橋市の産院院長ら3人を、名古屋地検が起訴猶予にした。「違法だという明確な認識がなく、健康被害の危険性も認められない」というのがその理由だった。一方で、15年に千葉県茂原市の産院院長が書類送検された事件では、罰金50万円が確定している。

 県内では、堀病院のほかにも、これまでに10医療機関で無資格助産行為が発覚している。中には堀病院の事件が明るみに出た後も無資格助産を行っていた医療機関もあったという。横浜地検はこうした実情も踏まえ、堀院長らの違法性の認識や無資格助産の危険性を慎重に検討したうえで、立件の可否を最終判断する方針だ。

 堀病院は27日、書類送検されたのを受けて、「関係各位にご心配をお掛けすることとなり深くおわび申し上げる」と謝罪したうえで、「現場で働く助産師が非常に少ないのが現実。今回の捜査が、産科医療の改善に向けた議論の契機となれば」とコメント。同病院側代理人の小西貞行弁護士も「産科医療の現状を踏まえた適切な処分がなされるものと確信している」と話した。

(産経新聞、2006年11月28日)

****** 東京新聞、2006年11月28日

無資格助産 脈々と、堀病院院長ら書類送検

 「うちの病院の方針だから、いいんだ」-。二十七日に保健師助産師看護師法違反の疑いで書類送検された堀病院の堀健一院長(78)は、違法性を指摘する同病院の看護部長(69)に対し、こう答えていたことが、県警生活経済課などの調べで分かった。現場の看護師らも疑心を抱きつつ、「命令だからやむを得ない」と内診を続けたという。県警だけでなく、内部からも疑問視された堀病院の実態。今後、書類送検を受けた横浜地検の判断が注目される。 (石川智規)

 調べでは、同日に書類送検された看護部長は一九九八年ごろ、院長に対し「資格のない看護師に内診をやらせてはいけないのではないでしょうか」と助言した。また、複数の看護師や准看護師も「いいんですか」と懐疑的だったという。

 これに対し、堀院長は「前からやってるからいいんだ」「内診はベテランの看護師や准看にやらせた方がいい」などと答え、取り合わなかったという。

 ナースセンターには内診のマニュアルが置かれたほか、新人の看護師らには、先輩の看護師や助産師らが内診の方法を指導し、無資格助産が脈々と続けられたという。

 また、県警が同病院のカルテを分析したところ、第一-三期に分かれる分娩(ぶんべん)の各段階のうち、子宮口が全開大となる第一期だけでなく、出産直前の第二期でも「相当の頻度」(県警)で無資格者の内診が行われていたという。

 押収したカルテによると、二〇〇三年十一月下旬から今年八月中旬までの間に約七千九百人に内診が行われた。うち約七千五百人に対し無資格者が内診をし、回数は三万九千回に及んだという。

 県警は「他の病院は月に一度か二度やむを得ずという形だが、堀病院はより悪質」としている。

■ケタ外れの“違反件数”

 「ケタ外れの規模」。県警幹部は二十七日、堀病院で無資格助産が日常化していた状況をこう評した。

 捜査は、看護師による内診の是非をめぐり、厚労省と医師会などの関係機関が議論を続ける中で行われ、報道や医師会などから大きな反響があった。過去に無資格助産容疑で書類送検された病院に比べ、堀病院は格段に規模が大きく、「関係者が影響の大きさに尻込みして、供述が得られにくい状況だった」(捜査幹部)という。

 さらに堀院長は調べに対し、「違法だと知っていた」との当初の供述を転換させ、「法に触れるという認識はなかった。教育して訓練した看護師がやったのだから問題ない」と犯意を否認したという。

 これに対し、県警は、堀病院での無資格内診を「組織的」と位置づけた。堀病院では九割以上の妊婦に対して無資格助産が行われ、横浜市の調査で無資格助産が判明した他の病院が、月に数回程度だったのに比べて、突出していた。堀病院では助産師のほとんどが産科病棟ではなく母親教室で働くなど、出産における助産師の役割は著しく軽視されていたと判断した。(中沢穣)

(東京新聞、2006年11月28日)


無資格助産容疑で院長、看護師ら書類送検 横浜の堀病院 (朝日新聞)

2006年11月28日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

助産所または自宅での分娩は、両者を合わせても、せいぜい全体の1%程度であり、日本の分娩の99%は病院または診療所で行われているのが現状です。

助産師数は、資格取得者全体の数としてはそれほど不足してないのかもしれませんが、診療所に勤める助産師数が絶対的に不足していることは確かな事実です。常勤助産師数ゼロ!という診療所も少なくありませんし、常勤助産師がいたとしても、せいぜい2~3人というところが多いのではないかと考えられます。今後いくら助産師を大量に養成したとしても、診療所の助産師が増えてくれるかどうかは全くわかりません。

一方、分娩件数が大幅に増えている地域中核病院では、助産師数はそこそこ足りていても、産婦人科医数が絶対的に不足し窮地に立たされているところが少なくないです。

瀕死の状況にある地域産科医療の生き残りのためは、産科診療所の先生方に、地域中核病院の産科医療に積極的に参加していただくように方向転換してゆくしかないと思われます。

参考:
無資格助産3年で9000件、堀病院院長ら書類送検へ (読売新聞)

無資格内診摘発、助産師不足 産科大揺れ (朝日新聞)

****** 朝日新聞、2006年11月27日

無資格助産容疑で院長、看護師ら書類送検 横浜の堀病院

 年間出産数が国内有数の約3000人に及ぶ横浜市の堀病院による無資格助産事件で、神奈川県警は27日、堀健一院長(78)と看護部長の女性(69)、看護師、准看護師ら計11人を、助産行為ができる資格者を定めた保健師助産師看護師法違反容疑で横浜地検に書類送検した。県警の聴取に対し、堀院長は、産道に手を入れて胎児の位置などを確認する内診行為を看護師にさせていたことを認めたうえで、「内診は法律で定める助産行為ではない」などと犯意を否認し、看護部長ら10人は違法性を認識していたと供述しているという。

 生活経済課などの調べでは、同病院では医師や助産師の資格のない看護師、准看護師が03年12月29日~06年5月23日ごろの間、名古屋市内の女性(当時37)ら17人が出産する際、堀院長らと共謀して内診をした疑い。

 県警が約8260人分のカルテを押収して調べた結果、03年11月26日から06年8月18日まで内診を受けたことが確認できた妊婦は7912人おり、うち約7500人は看護師、准看護師が内診をしていたという。

 厚生労働省は02年11月と04年9月、看護師による内診行為の禁止を都道府県に通知。2回目の通知では、医師の指示があっても看護師は内診をしてはならない、とした。県警は、2回目の通知後も堀病院で無資格内診が続けられていたことを悪質と判断した。

 堀病院は8月に家宅捜索を受けて以降、看護師による内診を中止。内診をさせていた理由を、堀院長は記者会見などで「医師に胎児の取り上げをさせていたため、取り上げをしたい助産師が辞めていった。その後、通知もあって助産師を集めようとしたが、集まりにくく、看護師にやらせていた」と説明している。

 一方、横浜市は8月以降、4回にわたって立ち入り調査を実施。だれが内診をしたかカルテで確認し、助産師確保に努めるよう指導している。市によると、当初より4人の助産師が増え、現在は常勤・非常勤合わせて10人になったという。

(朝日新聞、2006年11月27日)

****** 共同通信、2006年11月27日

院長ら11人を書類送検 恒常的に看護師らが内診 堀病院の無資格助産事件

横浜市の堀病院の無資格助産事件で、神奈川県警生活経済課は27日、保健師助産師看護師法違反の疑いで、堀健一(ほり・けんいち)院長(78)と助産師資格を持つ看護部長 (69)、看護師、准看護師ら計11人を書類送検した。

同課は8月に同法違反容疑で堀病院を家宅捜索。出産記録の分析などから、医師か助産師にだけ認められる「内診」という助産行為を堀院長が看護部長を通じて指示し、恒常的に 看護師や准看護師に行わせていたことが判明。厚生労働省が2002年と04年に看護師による内診を禁じる通知を出したのに、無資格助産を繰り返した点などを「悪質」と判断 した。

03年11月から06年8月の間に内診を受けた妊婦計約7900人のうち、約7500人が看護師らによる内診だったという。

同課の聴取に堀院長は「すべて私の責任」と認めているが、通知については「厚労省の要望という認識しかなかった」と、違法性の認識が明確ではなかったという趣旨の供述をし ているという。看護部長ら10人は全員容疑を認めているという。

調べでは、堀院長らは2003年12月、出産で入院した女性=当時(37)=について、子宮口の開きなどお産の進み具合を確認する内診を看護師と准看護師計4人に行わせた のをはじめ、今年5月までに妊婦計17人の出産で無資格助産を繰り返した疑い。

女性は出産後、大量出血し、別の病院に転院。04年2月に多臓器不全で死亡した。

看護師による内診は各地の医療機関で長年行われてきており、横浜地検は無資格助産の危険性などを慎重に検討し、立件の可否を最終判断するとみられる。

〔出産時の内診〕 産道に手を入れて子宮口の開きや胎児の頭の位置など、お産の進み具合を確認する助産行為。厚生労働省は2002年と04年に「看護師が行ってはならない」と都道府県に通知 した。日本産婦人科医会などは、助産師不足で廃業する産婦人科が多い現状を訴え、陣痛から子宮口全開までの「分娩(ぶんべん)第1期」は、医師の指示下で看護師による内診 を認めるよう主張。一方、子宮口全開から出産までの「分娩第2期」については求めていない。助産師団体などは「内診は出産時の危険の予知と回避のための助産業務で、看護師 は代行できない」としている。

******

注目される横浜地検の判断 分かれる同種事件の処分

医師か助産師にのみ許される助産行為の「内診」を看護師らに行わせたとして、院長ら11人が書類送検された堀病院の無資格助産事件。これまで同種事件の刑事処分の内容は分 かれている。「日本一」の出産数をうたう病院で起きた事件は、産科医療の在り方をめぐる論争にまで発展、横浜地検の判断が注目される。

2002年に発覚した鹿児島県鹿屋市の産婦人科医院のケースでは、書類送検された院長ら計5人全員が不起訴処分に。一方、千葉県茂原市の産院院長が書類送検された事件(3 年)では、04年に罰金50万円が確定した。

今月10日には、愛知県豊橋市の産院院長ら3人を、名古屋地検が起訴猶予にした。犯罪の成立は認めたが「違法性の認識が明確でなく、証拠上(看護師らによる内診に)健康被 害の危険性は認められない」という理由だった。

厚生労働省は02年と04年、都道府県にあてた通知で看護師による内診を禁じた。堀病院の堀健一(ほり・けんいち)院長(78)は8月の家宅捜索直後の記者会見で「法律違 反と知っていた」と話したが、その後の県警の聴取に「厚労省の要望という認識だった」と供述したという。

助産師不足を背景に無資格助産は各地の医療機関で行われてきた実態がある。日本産婦人科医会などは「内診は子宮口の開き具合などの『計測』で、体を傷つける危険性はない。 医師の指示下で看護師が行える」と主張している。

横浜地検は堀院長らの違法性の認識、看護師による内診の具体的な危険性などを検討し最終判断するとみられる。

******

無資格助産事件の経過

2002年4月 鹿児島県鹿屋市の産婦人科医院で看護師による内診が発覚。県警は03年、院長ら5人を保健師助産師看護師法違反容疑で書類送検。後に全員不起訴。

2002年11月14日 厚生労働省が「内診は助産行為に当たり、看護師が行ってはならない」と通知。

2003年8月20日 千葉県警が同法違反容疑で同県茂原市の産院院長ら8人を書類送検。院長は罰金刑確定。残りは不起訴。

2003年12月29日 横浜市の堀病院で、准看護師らが院長の指示で女性=当時(37)=を内診。

2004年9月13日 厚労省が看護師による内診を禁じる2回目の通知。日本産婦人科医会が撤回求める。

2005年4月28日 厚労省で同法の在り方について検討会。11月までに「看護師による内診」を認めるか意見まとまらず。

2006年8月24日 神奈川県警が同法違反容疑で堀病院を家宅捜索。

2006年10月18日 愛知県警が同法違反容疑で同県豊橋市の産婦人科医院院長ら3人を書類送検。後に全員が起訴猶予処分に。

2006年11月27日 神奈川県警が同法違反容疑で横浜市の堀病院の院長ら11人を書類送検。

(共同通信、2006年11月27日)


無過失補償制度案の概要(共同通信)

2006年11月27日 | 地域周産期医療

****** 共同通信、2006年11月27日

政府・与党の「無過失補償制度」案の概要は次の通り。

 【趣旨】

 分娩(ぶんべん)時の医療事故では、過失の有無の判断が困難な場合が多く、裁判で争われる傾向があることが産科医不足の一因。このため障害が生じた患者を救済し、早期の紛争解決を図るとともに、事故原因の分析を通して産科医療の質の向上を図る仕組みを創設する。

 【運営主体】

 「運営機構」を設置し、損害保険会社と医療機関・助産所の間を取り持つとともに、補償対象かどうかの審査や原因分析を実施。

 【加入者】

 医療機関・助産所単位で加入。

 【保険料】

 医療機関・助産所が、運営機構を通じて、損保会社に保険料を支払う。保険料の負担で分娩費用が上昇する場合は、健康保険組合の出産一時金増額を検討する。

 【補償対象者】

 通常の妊娠・分娩で、脳性まひとなった場合を対象とする。通常分娩の定義や障害の程度は、検討する。

 【補償額】

 保険料額や発生件数を見込んで適切に設定。

 【審査】

 運営機構が対象かどうか審査し、原因を分析、再発防止の観点から情報公開する。過失があった場合は、医師賠償責任保険などに補償を求める。

 【国の支援】

 産科医の確保や原因分析を通じ、安心できる産科医療が確保され、少子化対策にも資することから、国は制度設計や事務に要する費用の支援を検討する。

〔無過失補償制度〕 医療事故で障害を負った場合、医師に過失がなくても、患者に補償金が支払われる制度。長期の訴訟を避け、医師・患者双方の救済を図るのが目的で、日本医師会は今年8月、分娩による脳性まひを「最も緊急度の高い事例」と位置づけ独自の制度案を公表、公的資金の投入を唱えた。北欧やニュージーランドでは社会補償制度の一環として取り入れられているほか、英国(重篤な障害のみ)、フランス(国立の医療施設のみ)などでも、部分的に導入されている。

****** 参考

「無過失補償」へ機構新設 1件数千万、国が財政支援 (共同通信)

出産時事故:患者に「無過失補償」導入へ 民間保険を活用 (毎日新聞)


子宮体癌治療ガイドライン

2006年11月27日 | 婦人科腫瘍

子宮体癌治療ガイドライン (2006年版)

日本婦人科腫瘍学会、金原出版、127頁
価格:¥ 2,520(税込)、発売日:2006年10月10日

Emca_1 第 1 章 ガイドライン総説

第 2 章 初回治療

CQ01 臨床進行期1期に対して推奨される子宮摘出術式は?/CQ02 臨床進行期2期に対して推奨される子宮摘出術式は?/CQ03 骨盤リンパ節郭清の意義は?/CQ04 骨盤リンパ節郭清に加えて傍大動脈リンパ節郭清をすることの意義は?/CQ05 腟壁部分切除は腟断端再発率を低下させ得るか?/CQ06 若年者の卵巣温存は可能か?/CQ07 手術進行期分類には鼠径リンパ節転移の記載があるが,その生検は必要か?/CQ08 大網切除は必要か?/CQ09 組織型・分化度の判定に関して,術中迅速病理診断は有用か?/CQ10 筋層浸潤の程度は術中にどのように判断すれば良いか?/CQ11 リンパ節転移の判定に関して,術中迅速病理診断は有用か?/CQ12 腹腔細胞診陽性は独立した予後不良因子か?/CQ13 術中迅速腹腔細胞診は術式の決定に必要か?/CQ14 内視鏡下手術は標準術式に替わり得るか?/CQ15 センチネルリンパ節生検によりリンパ節郭清を省略できるか?/CQ16 高齢や内科的合併症などを有する手術不能例に対して,放射線治療は有用か?

第 3 章 術後療法

1.放射線療法

CQ17 術後の全骨盤外部照射は有用か?/CQ18 術後の腟断端腔内照射は有用か?/CQ19 術後の傍大動脈リンパ節領域への照射,全腹部照射は有用か?/CQ20 術後の放射線療法に禁忌はあるか?

2.化学療法・ホルモン療法

CQ21 術後補助化学療法は有効性が確立されているのか?/CQ22 術後補助化学療法を行う場合にはどのような薬剤が推奨されるか?/CQ23 術後の補助療法として,ホルモン療法は有効か?

第 4 章 治療後の経過観察

CQ24 治療後の経過観察として推奨される間隔は?/CQ25 治療後の経過観察において,血清CA125 とCA19─9の測定は有用か?/CQ26 治療後の経過観察において,内診と腟断端細胞診は有用か?/CQ27 治療後の経過観察において,胸部X線検査およびその他の画像診断は有用か?

第 5 章 進行・再発癌の治療

CQ28 臨床進行期3期や4a期に対して,どのような場合に手術適応となるか?/CQ29 肉眼的な骨盤外腹腔内進展例に対し,腫瘍減量手術の治療的意義は?/CQ30 術前化学療法や術前放射線療法は有用か?/CQ31 再発癌に対して,どのような場合に手術適応となるか?/CQ32 進行・再発癌に対して化学療法は有用か?/CQ33 進行・再発癌に対して化学療法を施行する場合,どのような薬剤が推奨されるか?/CQ34 再発癌・切除不能進行癌に対し,放射線療法は有用か?/CQ35 進行・再発癌に対して黄体ホルモン療法は有用か?

第 6 章 妊孕性温存療法

CQ36 高分化型の類内膜腺癌で妊孕性温存を希望する場合,黄体ホルモン療法は有用か?/CQ37 妊孕性温存後の高分化型類内膜腺癌の再発例にはどのような治療法が推奨されるか?/CQ38 黄体ホルモン療法の有害事象とそのリスク因子にはどのようなものがあるか?/CQ39 妊孕性温存例に対する排卵誘発は安全か?/CQ40 妊孕性温存療法後の経過観察の間隔と検査はどうすべきか?

第 7 章 子宮内膜異型増殖症

CQ41 子宮内膜異型増殖症に妊孕性温存治療を行う場合,(1)黄体ホルモン療法の有用性は? (2)経過観察の間隔・検査はどうすべきか?

第 8 章 資料集

****** 正誤表

60頁 13行目 術後に全腹部照射 → 術後に腟腔内照射
    14行目 しかし、全腹部照射  → しかし、腟腔内照射
    19行目 が、全腹部照射施行 → が、腟腔内照射施行
    30行目 さらに全腹部照射を → さらに腟腔内照射を
    31行目 後の全腹部照射 → 後の腟腔内照射

****** 読売新聞、2006年10月13日

子宮体がん治療、初の指針

 日本婦人科腫瘍(しゅよう)学会(安田允(まこと)理事長)は、子宮体がん治療に関する初の指針「子宮体癌(がん)治療ガイドライン」を作成した。子宮体がんは、医療機関によって治療方針にばらつきがあるのが現状で、指針は、患者が治療を選択する際の重要な参考資料になりそうだ。

 指針では、初回の手術でどの範囲まで切るか、リンパ節を取ることの意義、手術後の放射線治療や抗がん剤治療が有効かどうか、再発・進行がんの治療、妊娠・出産を希望する患者の子宮を温存する治療――などについて、進行の程度ごとに分類。推奨する治療法の解説に加え、判断の根拠になった過去の臨床研究の一覧などが参考文献として添えられている。

 同学会は、2004年に「卵巣がん治療ガイドライン」を発表、子宮頸(けい)がんの指針も作成中だ。国内では、年に推計約4000人が新たに子宮体がんと診断されている。30年以上前は、子宮がん全体の約5%だったが、食生活の欧風化などで急増、現在では40~50%程度を占める。指針は、金原出版(電03・3811・7184)から刊行された。

(2006年10月13日  読売新聞)

****** 毎日新聞、2006年10月

子宮体がん:治療に初のガイドライン----婦人科腫瘍学会

 日本婦人科腫瘍(しゅよう)学会(安田允理事長)は4日、子宮体がんの初の治療ガイドラインを発表した。原則として手術による子宮全摘出が望ましいとし、がんの進行度に応じて摘出範囲を拡大する。高齢の患者や、他に合併症がある場合は、放射線による治療を選ぶとした。

 子宮体がんは、日本では年間約4000人の患者が新たに発生している。これまでは50歳代以上が大半だったが、食生活の欧米化などが影響し、80年代から30歳代以下の患者が増えているとされる。

 同学会は、国内外の文献を参考に標準的な治療方法をまとめた。「子宮体癌治療ガイドライン」(2520円)は書店で購入できる。【永山悦子】

(毎日新聞、2006年10月)

****** 金原出版ホームページより
http://www.kanehara-shuppan.co.jp/

 本ガイドラインは,体癌の日常診療に携わる医師に対して,現時点でコンセンサスが得られ,適正と考えられる体癌の標準的な治療法を示すことを目的に作成された。これにより体癌の治療レベルの均霑(きんてん)化と治療の安全性や成績の向上を図ることが期待できる。
 本ガイドラインの作成に当たっては,「卵巣がん」の時と同様にガイドライン検討委員会の中に作成委員会と評価委員会を設置し,作成委員には体癌の診療を専門的に行っている医師を広く全国から召集し,さらに放射線治療専門医と腫瘍内科医にも入っていただいた。作成形式は「卵巣がん」では総説的な体裁をとったが,本ガイドラインでは体癌の治療に関するエビデンスが少なくレベルも低いこと,欧米との治療上のギャップが少なくないことなどから,体癌の治療上の問題点を明らかにしそれに回答する「Q & A 形式」を採用することにした。取り扱う対象は,子宮体部に原発した癌,子宮内膜異型増殖症およびそれらの再発腫瘍とし,対象疾患の治療を主体とした5つのアルゴリズムを載せ,各項を「Q & A 形式」で記述した。すなわち,体癌治療における現在の問題点を臨床的疑問点(クリニカルクエスチョン:CQ)として取り上げ,各CQに対して国内外の文献を網羅的に収集し,各文献の構造化抄録を作成しエビデンスとして評価した。これを十分に吟味したうえで,総合的な判断からCQに対する答えを推奨として簡潔に記載し,さらにそのCQに対する背景・目的と推奨に至るまでの経緯を解説として記述し,最後にエビデンスのレベルを付記した参考文献を載せた。
 本ガイドラインを「卵巣がん」同様に実地医療の場で十二分に御活用していただきたい。

(金原出版ホームページより)


無資格助産3年で9000件、堀病院院長ら書類送検へ(読売新聞)

2006年11月26日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

日本産婦人科医会が今年5月発表した全国5861施設への緊急調査では、『現在産科に勤務している助産師数を必要数で割った充足率は71%で、不足は6718人。必要数に満たない施設が75%、「助産師ゼロ」の診療所も19%あった。』と報告されています。

現実に、助産師数が充足されていない施設が75%もあり、助産師ゼロの診療所も19%もある!との調査結果です。そのような現実を無視して、産科医療供給システムの性急な改変をあくまで貫徹しようとすれば、日本全国の多くの妊婦さん達がいきなり分娩場所を失うことになってしまいます。それらの妊婦さん達が一斉に残された施設に殺到することになってしまえば、全く収拾がつかなくなってしまうことでしょう。

例えば、助産師が2~3人しか勤務してない施設では、24時間体制で十分な助産師を配置しようとしても絶対に無理です。24時間体制で各勤務帯に助産師を十分に配置するためには、相当な数(最低でも20~30人)の助産師が必要になります。だからと言って、年間分娩件数200~300程度の規模の産科で、助産師を20~30人も雇うわけにもいきませんから、多くの産科施設が、いっそ分娩取り扱いを中止して産科を閉鎖してしまうか?、あるいは、助産師数を大幅に増やして規模を拡大して産科を継続するか?の岐路に立たされています。

現在、分娩取り扱い施設の多くが、助産師不足、産科医不足のために、維持困難な状況に陥っています。現実の助産師数、産科医数に比べて、分娩取り扱い施設数が圧倒的に多すぎることは間違いありませんから、各地域で、助産師、産科医を適正に再配置する必要があります。しかし、産科医療供給システムの抜本的変換を実行するためには、それなりの準備期間が必要です。今すぐ実行しろと言われても無理です。

現実的な対応が望まれます。

参考:
私の視点:出産医療危機 厚労省の性急改変に問題、田中啓一 (朝日新聞、2006年11月22日)

看護師の内診は違法か、八木 謙 (日本医事新報、2006年10月14日)

無資格内診摘発、助産師不足 産科大揺れ (朝日新聞、2006年11月24日)

****** 読売新聞、2006年11月26日

無資格助産3年で9000件、堀病院院長ら書類送検へ

 横浜市瀬谷区の堀病院が助産師資格のない看護師らに助産行為をさせていたとして捜索を受けた事件で、神奈川県警生活経済課は27日にも、堀健一院長(78)ら幹部と看護師、准看護師の約10人を保健師助産師看護師法違反の疑いで横浜地検に書類送検する。

 県警は押収した3年分のカルテなどを分析、ほぼすべてにあたる約9000件で無資格の助産行為が行われていたとしている。

 堀院長は「約40年前の開業当初から無資格助産をしていた」と供述。県警は、病院ぐるみの違法行為だったとして、捜索容疑になった2003年の出産のほか十数件についても合わせて書類送検する。

 調べによると、看護師と准看護師は03年12月29日、入院中の名古屋市の女性(当時37歳)に、助産師資格がないのに約2時間にわたり、産道に手を入れ胎児の下がり具合を判断する内診などの助産行為をした疑い。堀院長は看護師らに内診をさせる病院の運営方針を決めた疑い。女性は長女を出産したが、多量に出血し、約2か月後に死亡した。

 ほかに書類送検する十数件は、厚生労働省が看護師の内診を違法とする2度目の通知を出した04年9月以降のお産で、特に違法性が高いと判断した。

 堀病院は捜索後、横浜市から4回の立ち入り検査を受けた。1回目の検査では、常勤助産師は5人、非常勤1人。今月22日、4回目の検査で非常勤が4人増えていたが、分娩(ぶんべん)件数に比べ十分と言えず、市は「勤務状態に余裕を持たせるべきだ」と助産師の確保に努めるよう指導している。

(読売新聞、2006年11月26日)


脳性麻痺について 

2006年11月25日 | 周産期医学

脳性麻痺の定義(厚生省脳性麻痺研究班、1968):
「受胎から生後4週以内の新生児までの間に生じた、脳の非進行性病変に基づく、永続的な、しかし変化しうる運動および姿勢の異常である。その症状は満2歳までに発現する。進行性疾患や一過性運動障害、または将来正常化するであろうと思われる運動発達遅延は除外する。」

脳性麻痺の発生率は、新生児1000人あたり2~4人と言われています。

以前は、脳性麻痺は分娩時仮死に関係していることが多いと考えられていましたので、産科的管理が向上すれば脳性麻痺の発生頻度は減らせるはずと多くの人が信じていました。

しかし、近年の著しい産科的技術の向上にもかかわらず、脳性麻痺の発生率は減っていません。最近では、分娩時仮死は脳性麻痺の原因としてはむしろまれであることが明らかになってきました。

脳性麻痺の原因は未だ十分には明らかにされていませんが、胎児の発達中に低酸素症に対し弱くなる何らかの要因があると考えられています。未熟児では脳性麻痺の発生率がやや高くなっています。胎児期・幼児期早期における脳炎、髄膜炎、単純ヘルペス感染症、硬膜下血腫を来たす頭部外傷、血管の障害、その他多くの原因による脳損傷の結果として起こります。

脳性麻痺は、どの産科施設の分娩であっても、一定の頻度で発生しています。ハイリスク妊娠や未熟児の分娩を多く扱っている2次・3次病院であれば、1次病院と比べて、脳性麻痺の発生率は高くなります。

脳性麻痺の発生頻度は将来も減らないでしょう。脳性麻痺に対する障害補償制度は早急に整備される必要があると多くの人が考えています。


無資格内診摘発、助産師不足 産科大揺れ (朝日新聞)

2006年11月24日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

陣痛室に数人の陣痛開始した妊婦さんが入院していれば、助産師は、それぞれの妊婦さんの傍らにつききりで、分娩が終了するまで、介助し続けなければなりません。産科病棟ではそういう状況が、1年中、夜昼かまわず延々と続いているわけですし、最近は助産師外来を充実させようという動きもありますから、助産師数はかなりの大人数を要します。

しかし、いくら大々的に助産師を募集しても、そう簡単には助産師は集まりません。やはり、常日頃から、助産学生をきちんと教育して地元で新人助産師を多数養成して積極的に採用し、ベテラン助産師が新人助産師を数年かけてしっかりと教育してベテランに育て上げ、立派に育った助産師達が、後輩の助産学生や若い助産師を教育してゆくというように、地道に、地元で人材を育成し続けてゆくことが重要だと思います。

いくら分娩件数が増えたとしても、分娩件数の増加に見合うだけ、十分に助産師数が増えれば、それほどの激務にはならないだろうし、産休や育休も十分に取れて、一生の仕事として長く勤務してもらえると思います。

また、助産師達に自律して思う存分に活躍してもらうためにも、助産師と医師との連携を緊密にして、安全性が十分に確保された分娩環境を整えてゆくことが非常に重要だと思います。

「助産師は大勢いるのに、医師数が全く足りない」とか、「医師数はそこそこ足りているのに、助産師数が全く足りない」とかのアンバランスな状況の職場では、それぞれのスタッフの専門能力を十分に発揮できません。場合によっては、助産師や医師を地域内で適正に再配置するような調整が必要になると思います。

****** 朝日新聞、2006年11月24日

無資格内診摘発
助産師不足 産科大揺れ

「お産撤退」動き拡大

 九州のある診療所は10月いっぱいで、年約200件あったお産の扱いをやめた。13~14年前は5人いた助産師が家庭の事情や出産で辞め、ここ数年は2人に。6月、そのうちの1人が定年になり、もう1人の助産師と、当直で内診を担っていた看護師が相次いで辞めた。

 50代の院長は「少人数では夜のお産がみられない、と次々に辞めていく悪循環だった」。看護学校や知人の紹介などあらゆる手だてを使って助産師と看護師を募集したが、応募がない。

 内診とは、子宮口の開き具合などからお産の進行具合をチェックすること。厚労省が、告発を受けて02年と04年、医師・助産師以外はできないと通知を出すまで、半世紀にわたり広く看護師が携わってきた実態がある。だが、8月の横浜市・堀病院の家宅捜索を受け、「いざとなれば責任を問われる」と看護師までが産科診療所を敬遠するようになった、と感じる。自分一人で内診を担うのは体力が続かない。「分娩はもう無理」と判断した。

 朝日新聞が日本産婦人科医会の各都道府県支部に聞き取りをしたところ、「今夏以降、助産師が確保できずに、お産を扱わなくなったり廃業を検討したりしている施設がある」のは、青森、岩手、茨城、東京、三重、京都、大阪、広島など18都府県にわたった。

 岩手県の小林高支部長は「助産師どころか、看護師の採用もままならない。当直がある産科は嫌われる」。秋田県の高橋裕副支部長は「夏以降、県内でも3診療所で助産師を新たに募集した。だが、3カ所とも採用できなかった」。過疎化と少子化で診療所のお産は年平均220件という島根県。小村明弘支部長は「小規模施設で6人の助産師を雇えば、経営できなくなる。少ない助産師を長時間働かせれば労働基準法違反に問われかねない」と嘆く。

 助産師不足を主な理由にこの数年で7診療所が分娩をやめた三重県。二井栄支部長は「県内のどこかに警察の家宅捜査が入れば、ほとんどの診療所が『お産ストライキ』状態になるだろう」と話す。同県では、「助産師がいない」または「充足率30%未満」の診療所が6割強を占める。診療所で助産師がいない時間帯に陣痛が始まった場合、これまでのように看護師が診れば違法性を問われる。結局、診療をせず、助産師のいる病院に送らざるを得ない、という。「こんな地方の現状を見ずに、警察の捜査が先行するとやりきれない」

解消に「最低10年」 75%の施設不十分

 厚労省によると06年、医療施設などに勤務する助産師は2万6千人で、不足は1700人。リタイア中の助産師の職場復帰を進め年600~700人ずつ増やし、10年までに充足率は97%になる、としている。だが、これは産科以外で働く約4千人を含んだ数字だ。

 日本産婦人科医会が今年5月発表した全国5861施設への緊急調査では、現在産科に勤務している助産師数を必要数で割った充足率は71%で、不足は6718人。必要数に満たない施設が75%、「助産師ゼロ」の診療所も19%あった。医会は「不足解消に最低10年はかかる」とみる。

 しかも、偏在が深刻だ。助産師になるには、看護師のカリキュラムに加え、大学や短大で720時間を履修、国家試験を受ける。助産師は自律してお産を扱えるため、医師主導になる診療所を敬遠し、都市部の病院に就職する傾向が強い。診療所はお産の半数を担うが、勤める助産師の数は病院の4分の1だ。

 「育てても県内に残らない」と嘆くのは佐賀県医務課。県内27の産科診療所のうち8カ所が「助産師ゼロ」。94~05年に県立総合看護学院の助産師コースを卒業した173人のうち、県内就職組は41人。県は6月、厚労省に「産科で働いている看護師が助産師になるための通信教育制度の創設を」と要望書を出した。

偏在の切り札遠く 夜間養成所整備へ

 厚労省も来年度から、産科の看護師が働きながら学べる夜間の助産師養成所整備に乗り出す。助産師養成所は現在、全日制コースしかないが、そこに併設することなどを想定。すでに水戸市医師会が名乗りを上げた。

 しかし、看護師の高学歴化が進み、助産師養成も大学や短大に移行。98年には47校あった養成所は33校に減っている。山形、群馬、石川、大分など助産師不足が深刻な地域に養成所がなく、偏在対策の有効な切り札にはならない。

 また、日本助産師会の江角二三子事務局長は「現在の助産師教育ですら医療行為をするには短すぎるといわれ、2年制の大学院を設けたばかり。数合わせのために、産科看護師を助産師にすればいいというものではない」と警戒する。偏在対策には、現在働いていない推定2万6千人の「潜在助産師」の復帰研修充実を、という立場だ。

 日本産婦人科医会は8月末、「少なくとも助産師が充足するまで、看護師による医師の指示下における内診を認めて欲しい」と声明。だが、厚労省看護課は「足りないからといって、法の解釈を時限的に緩めるわけにはいかないし、違法行為は黙認できない。育成コースの充実以外、現時点で方策はない」としている。

(朝日新聞、2006年11月24日)


婦人科腫瘍学・必修知識

2006年11月23日 | 婦人科腫瘍

婦人科腫瘍専門医修練ガイドライン

外陰の腫瘍・類腫瘍

腟の腫瘍

外陰・腟の腫瘍・類腫瘍、問題と解答

子宮頚癌、組織分類

子宮頸癌、進行期分類

子宮頸癌、放射線治療

子宮頚癌、化学療法

子宮頚癌、問題と解答

子宮体癌

子宮体癌、問題と解答

子宮肉腫

子宮肉腫、問題と解答

卵管癌

卵巣の腫瘍・類腫瘍、全般・組織型

卵巣癌、進行期分類

卵巣癌の手術療法

卵巣癌、化学療法

卵管・卵巣の腫瘍・類腫瘍、問題と解答

絨毛性疾患

絨毛性疾患、問題と解答

細胞診

細胞診、問題と解答

組織診、問題と解答

コルポスコピー

腫瘍マーカー

婦人科疾患のCT診断

婦人科疾患のMRI診断

抗癌剤の分類

緩和医療

癌関連遺伝子

RECISTガイドライン

EBM、ガイドライン


婦人科腫瘍専門医修練ガイドライン

2006年11月23日 | 婦人科腫瘍

婦人科腫瘍専門医修練ガイドライン

         内 容

Ⅰ.婦人科腫瘍の診断と進行期の決定

Ⅱ.婦人科腫瘍病理組織・細胞診診断

Ⅲ.癌患者の病態生理とその管理

Ⅳ.発癌、浸潤と転移

Ⅴ.婦人科腫瘍に関する遺伝子・遺伝学

Ⅵ.臨床統計と臨床試験

Ⅶ.腫瘍免疫学

Ⅷ.化学療法

Ⅸ.治療薬剤の薬理学

Ⅹ.放射線治療

XI.各疾患における評価と治療法

XII.手術

XIII.その他


Ⅰ.婦人科腫瘍の診断と進行期の決定

2006年11月23日 | 婦人科腫瘍

一般目標
 婦人科腫瘍の診断と進行期について十分な知識を有し、適切に診断し、かつ進行期を決定することができる。

行動目標
 診断のために、問診、診察、および検査法を適切に行い、以下の項目を達成することができる。
 1. 悪性腫瘍の診断を確定する。
 2. 悪性腫瘍の拡がりの診断を行う。
 3. 治療上問題となる合併症を適切に診断する。

A. 問診で以下の情報を適確に得ることができる。
 1. 全般的な医学的情報
 2. 婦人科的な情報
 3. 悪性腫瘍に関連した情報
  癌の家族歴・既往歴、前癌病変に関する病歴など
 4. 婦人科悪性腫瘍に関連した情報

B. 診察を適切に行うことができる。
 1. 一般的理学的診察
 2. 婦人科的診察(内診、腟・直腸双合診)
 3. 婦人科悪性腫瘍評価のための診察

C. 婦人科悪性腫瘍について、その進行期を診断できる。
 1. 臨床進行期分類が適用されている疾患について、取扱い規約に従って診断できる。
 2. 臨床進行期分類が適用されている疾患について、新しい診断法も駆使して、治療前に詳細な情報を得ることができる。
 3. 手術進行期分類が適用されている疾患について、新しい診断法も駆使して、術前に詳細な情報を得ることができる。
 4. 手術進行期分類が適用されている疾患について、取扱い規約に従って診断できる。

D. 検査法を適切に選択し、正確に行うことができる。
 1. 細胞診
 細胞診の適応を理解し、検体を適確に採取することができる。
  a. 腟、子宮腟部、子宮頸管、子宮内膜から細胞診標本採取
  b. 細胞診標本判定結果の理解

 2. 内視鏡検査
 内視鏡の適応を理解し、適切に行うことができ、観察結果を解釈することができる。
  a. 子宮頸部、腟、外陰のコルポスコピー診断
  b. 子宮鏡
  c. 膀胱鏡
  d. 直腸鏡

 3. 生検検査
 生検の適応を理解し、適確な標本採取を行うことができ、組織標本の所見を解釈できる。
  a. 通常の生検
   (1) 外陰、腟の生検
   (2) 子宮腟部生検、子宮頸管内膜掻爬、円錐切除術
   (3) 子宮内膜生検、子宮内膜全面掻爬術
   (4) リンパ節生検(鼠径節、骨盤内、腹部大動脈周囲、鎖骨上窩リンパ節)
   (5) 生検可能な転移巣
  b. 穿刺生検
   (1) 骨盤内、腹腔内、皮下の病巣に対する穿刺細胞診、穿刺組織生検
   (2) 深部病巣に対する超音波ガイド下の生検

 4. 画像診断検査
 各種画像診断法について、その適応および診断の精度と限界を理解し、画像を読影できる.
  a. 超音波断層法(経腹、経腟)、カラードプラ法
  b. 単純X 線撮影(胸部、腹部)
  c. 腎盂尿路造影
  d. MRI
  e. CT
  f. 上部消化管造影、大腸造影
  g. 血管造影
  h. 各種シンチグラフィー
  i. PET

 5. 臨床検査
 検査の適応を理解し、その結果を解釈でき、診断・治療方針の決定に利用することができる。
  a. 尿検査
  b. 末梢血液検査
  c. 肝機能、腎機能検査を含む血清生化学検査
  d. 血液凝固系検査
  e. 電解質および血液ガス
  f. 肺機能検査
  g. 心機能検査
  h. 腫瘍マーカー
  i. 分子生物学的検査および遺伝子検査
  j. 血中ホルモン値およびホルモン受容体検査


Ⅱ.婦人科腫瘍病理組織・細胞診診断

2006年11月23日 | 婦人科腫瘍

一般目標
 婦人科腫瘍患者の診断、治療にあたり最も重要な項目である病変の肉眼的および細胞診断並びに病理組織診断学的評価を細胞診、生検、手術摘出標本で十分に理解することを目標とする。特に婦人科領域の良性疾患と悪性あるいは境界悪性病変を鑑別できることを目的に修練をすすめる.。更に以上の修練を通してこれらの病変の発生、進展や細胞生物学的動態についても良く理解し、その特徴や臨床的予後について認識することができるようにする。その他、剖検、凍結切片診断、免疫染色診断、分子病理学的診断についても十分な知識を有することも望まれる。

行動目標
 1. 婦人科腫瘍の摘出標本の切り出しから、最終的な病理組織報告書作成までの過程を病理専門医の指導の下で体験する。

 2. 婦人科腫瘍領域の生検、細胞診断について病理専門医、細胞診専門医の指導の下で最終的な報告書の作成までの流れを十分に習得する。

 3. 迅速診断、免疫組織化学、分子病理学的診断の実際を見学し、これらの診断技法の意義及びその実際を理解する。

 4. 修練期間中に婦人科腫瘍患者の剖検例を経験することが望ましく、CPC などを通して疾患の終末像を理解する。

A. 外陰
 1. 以下の外陰疾患について、肉眼および病理組織学的、一部では細胞診断学的所見を把握し、病理組織診断並びに細胞診診断の報告書の内容を適確に理解してその疾患の診断、治療に応用できる。
  a. 良性疾患
   (1) 増殖性病変や硬化性苔癬などの萎縮性病変
   (2) 顆粒細胞腫などの良性腫瘍
   (3) 尖形コンジローマ

  b. 上皮異形成(VIN)および上皮内癌

  c. 扁平上皮癌

  d. 腺癌

  e. Paget 病

  f. 悪性黒色腫

  g. 肉腫

  h. Bartholin 腺に発生する疾患
    嚢胞、扁平上皮癌、移行上皮癌、腺癌、腺様嚢胞癌

  i. その他の稀な疾患

 2. ウイルス感染と上皮の増殖、癌の発生との関係を理解し記述できる。

 3. 扁平上皮内癌と浸潤癌の差異をよく理解しており、初期浸潤の特徴を認識し記述できる。

 4. 種々の外陰腫瘍の自然史、病因、分子病理学的背景や生物学的態度をよく理解し記述できる。

 5. 外陰の部位における癌の発生頻度やその進展様式を理解し記述できる。

 6. 外陰癌と他の性器癌との関連について理解し記述できる。

B. 腟
 1. 以下の腟疾患について、肉眼および病理組織学的、一部では細胞診断学的所見を把握し、病理組織診断並びに細胞診診断の報告書の内容を適確に理解してその疾患の診断、治療に応用できる。

  a. 良性疾患
   (1) 子宮内膜症
   (2) アデノーシス
   (3) 扁平上皮乳頭腫、尖形コンジローマ
   (4) その他

  b. 扁平上皮異形成(VAIN)および上皮内癌

  c. 扁平上皮内癌

  d. 腺癌

  e. 悪性黒色腫

  f. ブドウ状肉腫・胎児性横紋筋肉腫とその転移病巣

  g. その他の稀な疾患
    内胚葉洞腫瘍, 肉腫など

  h. 転移性癌

 2. 妊娠中の母体にdiethylstilbestrol (DES) を投与した結果、その女児に起こり得る性器異常についての知識を有し記述できる。

 3. 腟癌について、その自然史、病因、分子病理学的背景、発生部位と頻度、およびその進展様式について記述できる。

C. 子宮頸部
 1. 細胞診標本について、以下の細胞所見を理解し形態学的特徴を記述できる.
  a. 正常上皮
  b. 上皮内腫瘍
  c. 扁平上皮癌
  d. 腺癌
  e. ウイルスによる変化
  f. トリコモナスおよび真菌の同定
  g. 異型腺細胞の同定

 2. 以下の子宮頸部疾患について、肉眼および病理組織学的、一部では細胞診断学的所見を把握し、病理組織診断並びに細胞診診断の報告書の内容を適確に理解してその疾患の診断、治療に応用できる。
  a. 扁平上皮化生
  b. 微小頸管腺過形成
  c. コイロサイトーシス
  d. 上皮内腫瘍(CIN):異形成、上皮内癌
  e. 微小浸潤扁平上皮癌
  f. 扁平上皮癌
  g. 腺癌
  h. その他の稀な腫瘍
  i. 転移性癌

 4. 上皮内腫瘍の発生と上皮内癌、浸潤癌に至る過程を、発生部位の移行帯の特性を理解して記述できる。

 5. 子宮頸部上皮のウイルス性変化と上皮内腫瘍との関係を認識できる。

 6. 上皮内癌の腺管侵襲と間質浸潤の生物学的並びに臨床的意義を理解し記述できる事。

 7. 微小浸潤癌の定義とその治療の原則を理解し記述できる。

 8. 子宮頸部上皮内腫瘍と癌について、コルポスコピー所見、細胞診所見、病理組織所見の関連性について記述できるともに、不一致についても説明できる。

 9. 子宮頸部腺癌と子宮内膜腺癌の病理学的鑑別について説明できる。

 10. 子宮頸癌の脈管侵襲の病理組織学的意義に関して記載できる。

 11. 子宮頸癌の自然史とそれを規定する病理学的要因について記述できる。

 12. 妊娠中の子宮頸部上皮内腫瘍および子宮頸癌について、診断、管理について理解し記述できる。

D. 子宮体部
 1. 疾患について、肉眼および病理組織学的、一部では細胞診断学的所見を把握し、病理組織診断並びに細胞診診断の報告書の内容を適確に理解してその疾患の診断、治療に応用できる。

  a. 正常、非増殖性変化
   (1) 増殖期内膜
   (2) 分泌期内膜
   (3) 萎縮性内膜
   (4) 妊娠時の内膜
   (5) Arias-Stella 変化
   (6) 腺筋症

  b. 増殖性変化
   (1) 子宮内膜ポリープ
   (2) 単純型増殖症
   (3) 複雑型増殖症
   (4) 異型増殖症

  c. 癌
   (1) 類内膜腺癌
   (2) 扁平上皮成分への分化を伴う類内膜腺癌
   (3) 漿液性腺癌
   (4) 明細胞腺癌
   (5) 粘液性癌
   (6) 扁平上皮癌

  d. 子宮内膜間質腫瘍
   (1) 子宮内膜間質結節
   (2) 低悪性度子宮内膜間質肉腫
   (3) 高悪性度子宮内膜間質肉腫

  e. 癌肉腫
   (1) 同所性
   (2) 異所性

  f. 平滑筋肉腫

  g. 転移性癌

  h. その他の悪性腫瘍

 2. 子宮内膜細胞診について以下の細胞像を認識でき記述できる。
  a. 正常、周期性変化
  b. 増殖性変化
  c. 内膜腺癌

 3. 子宮内膜増殖症と子宮内膜腺癌の関連について理解し記述できる。

 4. 以下の疾患について、自然史、生物学的態度、進展様式を理解し記述できる。
  a. 子宮内膜腺癌
  b. 子宮内膜間質肉腫
  c. 平滑筋肉腫
  d. 癌肉腫

 5. 子宮内膜異型増殖症と腺癌の鑑別をその限界点とあわせて理解し記述できる。

 6. 良性の平滑筋腫と平滑筋肉腫の鑑別の基準や子宮内膜間質肉腫のgrading について記述できる。

 7. 内膜腺癌の筋層浸潤と腺筋症の病理組織学的差異を理解し記述できる。

 8. 子宮内膜癌患者に対するホルモン補充療法についてそのメリット、デメリットを理解し記述できる。

E. 卵管
 1. 以下の疾患について、肉眼および病理組織学的、一部では細胞診断学的所見を把握し、病理組織診断並びに細胞診診断の報告書の内容を適確に理解してその疾患の診断、治療に応用できる。
  a. 良性の類腫瘍病変
   (1) 高度の慢性卵管炎
   (2) 嚢胞性卵管炎
   (3) 上皮性変化を伴った結核性卵管炎
   (4) 結節性峡部卵管炎

  b. 良性の類内膜性病変
   (1) 子宮内膜症
   (2) 偽脱落膜変化

  c. 妊娠に関連した変化
   (1) 子宮外妊娠

  d. 腺癌、癌肉腫

  e. 転移性癌

  2. 原発性腫瘍と転移性腫瘍の鑑別について理解し記述できる。

F. 卵巣
 1. 以下の疾患について、肉眼および病理組織学的、一部では細胞診断学的所見を把握し、病理組織診断並びに細胞診診断の報告書の内容を適確に理解してその疾患の診断、治療に応用できる。
  a. 表層上皮性・間質性腫瘍
   (1) 良性腫瘍
   (2) 境界悪性腫瘍
   (3) 悪性腫瘍
  b. 性索間質性腫瘍
  c. 胚細胞性腫瘍
  d. 転移性卵巣癌
  e. 類腫瘍病変

 2. 種々の卵巣腫瘍についてその自然史、分子病理学的背景を含む細胞生物学的態度について理解し記述できる。

 3. 種々の卵巣腫瘍についてその発生頻度、両側発生の可能性について理解し記述できる。

 4. 原発性卵巣腫瘍を転移性卵巣癌と区別するための特徴を理解し記述できる。

 5. 境界悪性、悪性卵巣腫瘍において、嚢腫摘出術や片側付属器切除術に止め妊孕能を温存できる適応を理解し記述できる。

G. 絨毛性疾患
 1. 以下の疾患について、肉眼および病理組織学的、一部では細胞診断学的所見を把握し、病理組織診断並びに細胞診診断の報告書の内容を適確に理解してその疾患の診断、治療に応用できる。

  a. 正常の初期妊娠像

  b. 胞状奇胎
   (1) 全胞状奇胎
   (2) 部分胞状奇胎

  c. 侵入奇胎

  d. 胎盤部トロホブラスト腫瘍

  e. 絨毛癌

 2. 種々の絨毛性疾患についてその自然史と生物学的態度を理解し記述できる.

H. リンパ節
 1. 組織学的に以下の疾患を認識し記述できる.
  a. 転移性癌
  b. 良性の上皮成分(子宮内膜症、卵管内膜症)

 2. リンパ節穿刺細胞診による悪性上皮細胞を認識できる.

I. 大網
 大網の転移病巣について、肉眼および病理組織学的、一部では細胞診断学的所見を把握し、病理組織診断並びに細胞診診断の報告書の内容を適確に理解してその疾患の診断、治療に応用できる。

J. 腹水、腹腔洗浄細胞診
 腹水あるいは腹腔洗浄液の細胞診断学的所見、結果を理解できる。細胞診断の結果にもとづいて、その疾患の診断、治療に応用できる。


Ⅲ.癌患者の病態生理とその管理

2006年11月23日 | 婦人科腫瘍

一般目標
 婦人科癌患者を管理する上で必要な生理学と病態生理学について十分な知識を有し、活用できる。

行動目標
 以下の基礎的事項及び婦人科癌患者に起こり得る異常についてその病態を理解し、治療について記述できる。

A. 体液、電解質
 1. 水、電解質バランスと輸液
  a. 体液とその組成
   (1) 体液構成
   (2) 水・電解質の調節機構
  b. 水バランスの異常
   (1) 脱水
   (2) 水過剰
  c. 電解質バランスの異常とその補正
   (1) 血清ナトリウム値の異常
   (2) 血清カリウム値の異常
   (3) 血清カルシウム値の異常
   (4) 血清クロール値の異常
 2. 酸・塩基平衡
  a. 酸・塩基平衡の基礎(pH, pCO2 base excess)
  b. 酸塩基平衡異常の診断と治療
   (1) 呼吸性アシドーシス
   (2) 呼吸性アルカローシス
   (3) 代謝性アシドーシス
   (4) 代謝性アルカローシス

B. 栄養
 1. 成人女性の一日あたりのカロリー、蛋白質、炭水化物、脂肪およびビタミンの必要量
 2. 水分、電解質、カロリー、ビタミンの過不足量の同定と補正

C. 血液と血液成分
 1. 輸血
  a. 輸血の目的
  b. 輸血用血液および血液成分
   (1) 輸血用血液
   (2) 自家血輸血
   (3) 成分輸血
  c. 輸血の実際
   (1) 輸血の適応、方法
   (2) 輸血時の検査
  d. 輸血の副作用・合併症
   (1) 溶血性反応
   (2) 非溶血性非感染性副作用
   (3) 輸血による感染
   (4) 大量輸血による合併症
     低体温、高カリウム血症、クエン酸中毒、出血傾向
  e. 代用血漿剤

 2. 血液凝固系
  a. 出血と止血、凝固系の応答
   (1) 出血と凝固系の応答
   (2) 線維素溶解現象
   (3) 血液凝固・線溶の阻止作用
     アンチトロンビンⅢ, α2プラスミン・インヒビター
  b. 止血・凝固異常
   (1) 手術に伴って起こる血液凝固系、血小板系、線溶系の変動
   (2) DIC
   (3) 先天性出血性疾患

D. 心・循環器系
 1. 循環機能検査の意義と異常について基礎的知識をもつ.
  a. AHA、NYHAの分類
  b. 血圧とその異常
  c. 心電図とその異常
  d. 運動負荷試験
  e. 心エコー
  f. 心筋シンチグラフィー
  g. 中心静脈圧

 2. 循環管理の基礎
  a. 前負荷の管理(循環血液量の調節)
  b. 心機能の管理
  c. 後負荷の管理

 3. 循環系合併症
  a. 深部静脈血栓症の診断・治療
  b. 肺塞栓症の診断・治療(予防)
   (1) 肺換気血流シンチグラフィー
   (2) 肺動脈造影
   (3) ヘパリン、ワーファリンによる治療
   (4) 下大静脈フィルター
   (5) 理学療法:弾性包帯・ストッキング、フットポンプなど
  c. 抗癌剤の心毒性

E.呼吸機能
 1. 正常の肺機能と検査の理解
 2. 呼吸器疾患の病態と診断・治療
  a. 慢性閉塞性肺疾患
  b. 無気肺
  c. 気道閉塞・気道狭窄
  d. 拘束性換気障害
  e. 肺水腫
  f. 成人型呼吸窮迫症候群
  g. 急性肺炎・気管支肺炎
  h. 重症喘息・喘息重積状態
 3. 人工呼吸器の使用法とその適応

F. 腎機能と腎不全
 1. 正常腎機能
  a. 腎機能の生理学
  b. 腎機能検査

 2. 腎機能異常の病態と診断・治療
  a. 感染症
  b. 腎不全
  c. 薬剤の腎毒性
   (1) 抗癌剤
   (2) 抗生物質

 3. 膀胱の変化
  a. 抗癌剤による変化
  b. 放射線治療による変化
  c. 腫瘍性変化
  d. 手術に伴う変化

G.消化器系
 1. 消化管の生理学

 2. 婦人科癌の治療に伴う消化管の変化と病態の診断・治療
  a. 婦人科癌の浸潤・転移による通過障害
  b. 放射線治療による変化、腸炎、腸閉塞
  c. 抗癌剤による変化、腸炎、消化器症状
  d. 広範な切除に伴う合併症

 3. 消化管合併症の診断・治療
  a. 腸閉塞
  b. 盲管症候群
  c. 短腸症候群(short bowel syndrome)
  d. 腸瘻

 4. 肝臓
  a. 肝臓の生理学
  b. 肝疾患の診断・治療
   (1) ウイルス性肝炎
   (2) 婦人科腫瘍の転移
   (3) 肝硬変、肝不全
   (4) 薬剤性肝障害
    ① 抗癌剤
    ② 抗生物質
    ③ その他

H. 精神・神経系
 1. 癌に関連する中枢神経系異常とその治療
  a. organic brain syndrome(器質性脳症候群)
  b. 癌の進展に伴う脊索、神経根圧迫
  c. 抗癌剤または放射線による脳、脊索の障害

 2. 末梢神経障害の原因とその治療
  a. 手術
  b. 抗癌剤
  c. 放射線
  d. 癌の浸潤

 3. 癌疼痛の原因と管理
  a. 癌疼痛の原因
  b. 治療
   (1) NSAID
   (2) 麻薬
   (3) 麻酔

 4. サイコオンコロジー
  a. 婦人科癌患者の心理と行動的反応
  b. カウンセリングの基礎

I. ショック
 1. 癌患者におけるショックの成因と治療
  a. 失血性ショック
  b. 心原性ショック
  c. 敗血症性ショック


Ⅳ.発癌、浸潤と転移

2006年11月23日 | 婦人科腫瘍

一般目標
 発癌過程における環境因子、遺伝的素因、ウイルスの影響を理解する。浸潤、転移の基本的な概念・理論を理解する。

行動目標
A. 以下の事項について理解すると共に記述できる.
 1. 環境因子と発癌
  a. 女性ホルモンおよびSERM(selective estrogen receptor modulator)の影響
   (1) 胎児期のDES 暴露と腟癌、子宮頸癌の発生
   (2) ホルモン補充療法と子宮内膜癌
   (3) SERM(特にタモキシフェン)と子宮内膜癌

  b. 放射線被曝
   (1) 放射線治療後の照射部位に新たな悪性腫瘍(癌や肉腫)の発生する危険性
   (2) CT、DIP/IVP、胸腹部単純X 線など診断的放射線被曝による発癌の危険性

  c. 抗癌剤の影響
   (1) 抗癌剤による2次発癌の危険性
   (2) 母体に対する化学療法による胎児への危険性

  d. ヒトパピローマウイルス(HPV)感染と発癌
   (1) HPV の分子生物学(構造、発癌遺伝子、疫学)
   (2) HPV 感染による女性生殖器の変化
   (3) HPV ワクチン

  e. 環境発癌物質(タルク、アスベスト、喫煙など)と婦人科悪性腫瘍の関連

 2. 好発癌家系と原因遺伝子

 3. 癌の細胞生物学
  a. 細胞構造
  b. 代謝系
  c. 細胞周期(G1, S, G2, M, G0)

 4. 婦人科癌の進展様式

 5. 多段階発癌
  a. Initiation、promotion、progression
  b. 血管新生
  c. 浸潤・転移に関連する因子
   (1) 成長因子VEGF FGF, EGF, HGF, PDGF
   (2) インテグリン、カドヘリン/カテニン
   (3) Metalloproteinase
   (4) カテプシン


Ⅴ.婦人科腫瘍に関する遺伝子・遺伝学

2006年11月23日 | 婦人科腫瘍

一般目標
 癌遺伝子、癌抑制遺伝子、DNA 修復遺伝子、テロメレース関連遺伝子、アポトーシス関連遺伝子などの癌関連遺伝子、好発癌家系について基礎的な知識を習得する。

行動目標
A. 以下の基礎的事項について理解するとともに記述できる。
 1. 癌関連遺伝子の正常の機能と癌化における役割
  a. 癌原遺伝子(myc, ras, c-erbB-2 等)

  b. 癌抑制遺伝子(p53, RB, WT1, VHL, BRCA1/2 等)

  c. DNA 修復遺伝子(hMSH1, hMSH2, hMSH6 等)

  d. テロメアとテロメレース関連遺伝子hTERT、hTR 等)

  e. アポトーシスとアポトーシス関連遺伝子

 2. 癌原遺伝子の活性化の機序

  a. 点突然変異

  b. 挿入

  c. 欠失

  d. 増幅 

  e. 転座

 3. 癌抑制遺伝子の不活化の機序
  a. Knudson の2 ヒット説

  b. 散発性腫瘍と家族性腫瘍の臨床遺伝学的特徴
    発症年齢、両側性、多重癌

  c. p53 遺伝子の正常機能と癌化における役割

 4. 癌における染色体変化

 5. 婦人科腫瘍における遺伝子変化
  a. 子宮内膜癌
  b. 卵巣癌
  c. 子宮頸癌

 6. 婦人科癌好発家系の臨床遺伝学・カウンセリングの基礎知識
  a. 卵巣癌家系

  b. 家族性乳癌・卵巣癌症候群

  c. 遺伝性非腺腫性大腸癌