大学病院の医師引き揚げなどによる医師不足で激務となり、誰かが耐えられなくなって辞めていくと、残された医師はますます激務となるという負の連鎖で、地方病院の医師数がどんどん減ってしまい、休診、病棟閉鎖などが加速度的に広がりつつある。
特に地方の産婦人科医不足は最近問題化して、しばしば報道でも取り上げられるようになった。現在、地方の一般病院に産婦人科志望の若い医師を集めることは至難の業である。若い医師にとって魅力ある病院とは、豊富な症例数、充実した研修体制、専門医の資格取得が可能であること、責任ある仕事を任せてもらえること、あまり激務でないこと、女性医師が辞めずに働き続けられる柔軟な勤務体制、託児所の設置、待遇がよいこと、などいろいろと考えられる。病院としても、知恵を絞って、若い医師達に病院の魅力をアピールできるように様々な工夫をしていかなければならないと思う。
****** 読売新聞、2006年4月16日
研修医戻らず 細る地方大学病院
義務化された臨床研修を終えた1期生が今月から、それぞれの進路に進んだが、大学離れの傾向がくっきりと表れた。大学病院の診療体制が先細りするうえに、大学からの医師派遣に支えられる地域医療にも大きな影響を与えそうだ。既に、医師不足で休診など診療を制限する病院も現れている。(医療情報部 坂上博、田村良彦)
待遇いいと一般病院へ
「せっかく育てた医師の大学外流出が、これほどひどい状況になるとは思わなかった」
弘前大卒後臨床研修運営委員会の水沼英樹委員長(産婦人科教授)は、危機感を募らせる。同大医学部は1学年100人だが、2年間の臨床研修終了後、専門医研修の場に同大を選んだのはわずか19人となった。
水沼教授は「青森県出身者は入学者の2、3割で、大学に残る医師は従来40人ほどだったが、新研修制度の導入で、大都市の一般病院に流れる医師が増え、流出に拍車がかかった」と話す。
読売新聞が全国80大学に対して行ったアンケート調査も、地方大学が従来の半数ほどしか確保できそうにない厳しい現状を浮き彫りにした。
新研修制度の導入以前は、新人医師の7割が大学に残り、専門に進んだ。ところが新制度では、臨床研修先として半数が一般病院を選び、そのまま一般病院で専門研修に進んだ医師が多い。
厚生労働省が昨年3月、行った調査では、臨床研修で一般病院を選んだ理由として、「症例が多い」(40%)、「研修プログラムが充実」(32%)を挙げる医師が多かった。
千葉県内の一般病院で、臨床研修に引き続き、専門医研修を始めた男性医師(26)は、「大学に比べて医師数が少ないので、たくさんの治療経験を積めるし、病棟長など責任ある仕事もやらせてもらえる可能性もある。腕を磨くには、一般病院の方が良い」と話す。
大学病院は、教育機関でありながら、専門医を育成するための研修プログラムを整備していないところも多く、医師の臨床能力を育てる努力を怠っていた面がある。
また、研修医には、先輩医師の学会準備など雑用が任され、給料など待遇面でも一般病院に劣っていた。一般病院との競争が始まり、「大学」という看板だけでは医師を集めることが難しくなってきた。
(以下略)
(読売新聞、2006年4月16日)
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京都新聞(2006年04月17日掲載)
医師不足 地域医療が壊れそうだ
地方の医療機関で医師不足が深刻になっている。放射線科、麻酔科などで目立ち、とくに小児科と産婦人科は危機的といっても過言ではない。
島根県の隠岐島では今春、常勤の産婦人科医がいなくなった。出雲市の県立病院から島の総合病院に派遣されていた医師を、本院に引き揚げられたためだ。
島で出産を扱う病院は、この総合病院しかなく約六十人の妊婦さんは八十五キロ離れた松江市など本土の病院で出産せざるをえなくなった。
地元自治体と県は、六十人それぞれに最高十七万円の出産費用助成を決定するなど対応に四苦八苦という。
医師不足による、苦境は全国各地の地方都市で広くみられ、地域の拠点となる病院で特定診療科の閉鎖、休診が相次いでいる。
京都府北部でも、京丹後市のように市立病院の常勤医師が半減したところがある。今月、府北部五市二町の首長らが時局講演に訪れた谷垣禎一財務相に窮状を「直訴」する場面もあった。
大都市との医療格差が、これ以上広がれば、地域社会の崩壊につながりかねない。小児科や産婦人科医の不足は少子化を一層、加速させるだろう。
政府、与党は国会に医療制度改革関連法案を提出して審議に入っている。医療費抑制だけでなく「大都市と地方に医師をどう再配置するか」を焦点にした議論が欠かせない。
医師の教育・養成から報酬、配置を一体的に考え直す必要があろう。都道府県は保健医療計画などで目標を示してはいても、できることに限りがある。政府が全国の医療需要をトータルにつかみ、配置のバランスを図るべきだ。
医師が地方を離れ、なぜ大都市に集まるのか。小児科や産婦人科では、他科より過酷な勤務の割に報酬は高くないことも一因だろう。
大学病院の若い勤務医や、臨床研修を終えた研修医が一般病院に移る傾向も見られる。医師不足になった大学病院などは、地方の病院に派遣している医師を引き揚げざるをえない。
特定の診療科で、医師のなり手自体が減っていることも大きい。日本小児科学会の調査では、二〇〇三年に大学病院やその関連病院で新たに小児科医になったのは五百二人。それが〇六年は二百七十六人に急減した。
病院の小児科医が減れば、残った小児科医の勤務はより過酷になり、小児科離れがさらに進む。事情は産婦人科も大差ないようだ。この悪循環を、なんとしても断ち切らなければならない。
厚生労働省は、出産や育児のために離職した女性医師を登録して再就職できるようにする制度「女性医師バンク」を打ち出した。医師の働きやすい環境づくりこそ重要だ。こうした工夫を都道府県や自治体レベルでもさらに進め、医師不足を解消したい。
(京都新聞 2006年04月17日掲載)