**** Williams obstetricsより(要約、日本語訳)
compound presentation(複合胎位異常)は、先進部と並んで四肢が脱出し、両者が同時に骨盤内に先進するまれな胎位である。主には、頭位分娩で手や腕が同時に脱出する場合が多いが、まれには、頭位分娩で同時に足が脱出する場合や、骨盤位で同時に手が脱出する場合などもありうる。
compound presentationの発症頻度は、およそ1000分娩に1例程度である。
compound presentationは、児頭と骨盤入口部の間に隙間ができるような状態(例えば早産)と関連している。
児頭と同時に腕が先進している場合には、児頭の下降に伴って腕を引っ込めてくれて、分娩の障害にはならない場合も多いので、頻回の経過観察でよい。もしも、腕を引っ込めなくて、それが児頭の下降を妨げていると判断される場合は、脱出した腕をやさしく押し上げて、同時に子宮底を圧迫して児頭を下降させるように試みてもよいかもしれない。しかし、Tebesらは、児頭と手が同時に先進している分娩で、先進した前腕が虚血性の壊死に陥り、腕の切断を余儀なくされた悲惨な症例を報告した(1999)。
一般的には、周産期死亡は、早産、臍帯脱出、侵襲的な産科的操作によって増加する。
(Williams Obsterics 23rd ed. p.478 より)
****** 文献の要約
Tobesらの症例報告(Congenital Ischemic Forearm Necrosis Associated with a Compound Presentation. J Matern Fetal Med. 1999、231-233)では、分娩第Ⅰ期が6時間、分娩第Ⅱ期が1時間、介入なしの自然分娩で、児頭と右手が先進。分娩経過中、手を一度も触診しなかった。児は3530gの男児、Apgar score:8/9、分娩直後より児の右前腕~右指は全く動かず、浮腫とチアノーゼが認められた。生後2日目に親指と示指が壊死し始め、生後9日目に親指と示指を切断し、生後23日目に肘から先の前腕全部を切断した。Discussionで、Tobesらの報告以前に、compound presentationに関連して前腕切断に至った症例の報告が2例(Steinerら 1945、Shafferら 1984)あると述べている。ただ、compound presentationに関連した腕の虚血性壊死は極めてまれであり、ほとんどの場合は胎児が手を引っ込めて大事には至らないので、compound presentationでは待機的な管理方針が推奨される。まれな計3例の悲惨な事例をもって、通常の管理方針を変更する必要はないだろうと述べている。
****** 私見
compound presentation(複合胎位異常)は1000分娩に1例の発症頻度ということなので、それほどまれな胎位異常ではない。実際に、当科でも今年に入ってからすでに2例経験した。どうしても手が引っ込まないで経腟分娩になりそうな状況に至った場合には、そのまま経腟分娩を完遂すると先進している手や腕の骨折、神経障害、壊死などの可能性もあり、最終的な分娩様式については本人・家族とよく相談する必要がある。