ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

医師の当直勤務は「時間外労働」、割増賃金支払い命じる判決

2009年04月23日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

産科当直に対して、時間外労働としての正当な報酬を支払えという判決がありました。

分娩は昼夜を問わないですし、母体や胎児の異常はいつ発症するのか予測困難です。産科病棟は、いつでも30分以内に緊急帝王切開を実施できるように十分な人員を配置しておく必要があります。いざ帝王切開を実施するということになれば、夜中であっても、産婦人科医、小児科医、麻酔科医、助産師、手術室看護師など大勢のスタッフが必要となります。

産科業務は、忙しい日と暇な日の業務量の差が激しく、業務量を一定にコントロールするのが難しいのが特徴です。暇な日は人員が少なくても済みますが、忙しい日は猫の手も借りたいような状況となり、小人数のスタッフではとても回せません。

病院の産科業務を継続してくためには、いくら暇な日が続いても、いざという時に備えて大勢のスタッフを常に確保しておく必要があり、その人達に正当な報酬を支払っていく必要があります。大勢の人を雇ったのはいいけれど、暇な日ばかりが続いたんでは、人件費ばかりがかさんで病院の経営が成り立ちません。莫大な人件費に見合うだけの適正な患者数が必要となります。労働基準法を遵守し、かつ、病院の経営も健全に維持していくためには、スタッフの数を増やし、それに見合うだけの十分な症例数を確保していく必要があります。

病院の数が多ければ、それだけ病院あたりのスタッフの数も患者数も少なくなってしまい、どの病院の経営も行き詰まり、地域全体の産科医療が崩壊してしまいます。地域の産科医療を守っていくためには、病院あたりの産婦人科医数を増やし、交代勤務制を導入して時間外の勤務をなるべく少なくし、労働環境を改善する必要があります。産婦人科医の総数は急には増えないので、当面は、病院の集約化、拠点化をさらに進める必要があると思います。

20年ほど前に私が現病院に着任した当時、産婦人科は一人医長態勢で、少ないスタッフで連日病院に泊まり込み、昼夜かまわず、がむしゃらに働き通しの毎日でした。労働基準法など全く無視もいいところで、かなり劣悪な労働環境でしたが、当時は、地方の病院はみんな似たりよったりの労働環境で、それほど疑問にも感じませんでした。昔の常識も、今、振り返ってみれば、全く通用しません。今、みんなが当たり前と思っている医療の在り方の常識でも、後から振り返ってみれば、とんでもなく常識はずれの部分がいっぱいあると思います。おかしいところはおかしいと早くみんなで気が付いて、軌道修正していく必要があると思います。

****** 読売新聞、2009年4月23日

割増賃金支払い命令判決「当直は時間外労働」…産科医激務に一石 調査の病院8割、法違反

 「当直は時間外労働にあたる」--。22日、奈良地裁が言い渡した判決は、待機や軽微な勤務を前提に認められている医師の当直について、一部の時間帯は通常業務と変わりない実態があるとして、割増賃金の支払いを命じた。

 医師不足が深刻化する中での初の司法判断は、医療の現場に勤務体系の見直しを迫るものになりそうだ。

 奈良県立奈良病院の産婦人科医の待遇は決して特殊なケースではない。全国周産期医療連絡協議会が2008年、重症の妊婦を24時間態勢で受け入れる全国75か所の「総合周産期母子医療センター」に実施した調査では、97%にあたる73施設が夜間勤務を正規の労働時間にあたらない「宿直」と見なしていた。

1回の手当の平均は約2万3000円。8000円しか支払われない施設もあった。また77%の施設では、当直医が翌日も夕方まで勤務していた。

 労働基準監督署の基準では、そもそも当直は「ほとんど労働する必要がなく、病室の巡回など、軽度で短時間の勤務」とされている。これを前提に、労基署は宿直は週1回、日直は月1回を限度に病院などに許可を出すが、実態は軽度で済まない。医師が当直日に忙しく働いたかどうか、勤務実態を調べて割増賃金を支払うことは多くの病院がしていない。

 緊急手術や急患に対応するために、宿直の医師は仮眠すら取れないケースが多い。前日朝から宿直を経て、翌日の夕方まで連続30時間以上という激務もある。

 日本産科婦人科学会のまとめでは、大学病院に勤務する産婦人科医が病院に滞在する時間は月平均341時間、最長は505時間。過酷な労働環境を反映し、産婦人科医はここ10年で約1割も減少している。

 厚生労働省では、労基署への申告が相次いだことを受け、2002年に当直勤務の適正化を図るため、全国の医療機関に対し、当直勤務の実態を自主点検するよう、各労働局に通達を出した。07年には、立ち入り調査した病院や診療所など1852施設のうち、約8割にあたる1468施設で法違反が見つかった。

 今年3月には東京・三田労基署が、都から総合周産期母子医療センターに指定されている愛育病院に対し、「当直の実態は時間外労働だ」として、残業代を支払うよう是正勧告。同病院は「勧告に従うと、センターが求める産婦人科医の勤務態勢を維持できない」として、同センターの指定返上を打診する事態になった。

改善策「すぐは厳しい」奈良県

 「あまりに過酷な環境をどうにかしてほしいということ。金が目当てではない」。原告代理人の藤本卓司弁護士は判決後の記者会見で、訴えた理由を強調した。

 藤本弁護士は、原告2人が提訴に関して「批判や中傷を浴びた」と、医師が労働条件に声を上げることの難しさを示した。そのうえで、宅直が認められなかったことに「やむを得ずやっていることなのに」と不満を漏らし、「労務管理体制を根本から変えないといけない。その対策が国や自治体に求められる」と話した。

 奈良県では2006、07年、妊婦の救急搬送の受け入れが拒否される問題が起きている。医師不足など、医師を取り巻く劣悪な環境が理由に挙げられる。

 奈良県健康安全局の武末文男局長は判決後、「根底に医師が足りないという問題がある」と述べた。交代勤務制の導入や他病院からの応援医師の配置などの対策を列挙したが、「今すぐにというのは厳しい」と、問題の根深さをのぞかせた。

(読売新聞、2009年4月23日)

****** 毎日新聞、奈良、2009年4月23日

産科医割増賃金訴訟:県、不備認め待遇改善へ

 ◇原告側「労働時間明示、画期的」

 県立奈良病院(奈良市平松)の産婦人科医2人が、夜間や土曜休日の宿日直勤務に対し、割増賃金などの支払いを求めた民事訴訟。奈良地裁の判決は、原告の主張を一部認め、県に厳しい内容となった。判決を受けて、記者会見した武末文男・健康安全局長は「日本の医療のあり方に一石を投じた。判決を重く受け止めます」と述べ、今後、待遇改善に取り組む意向を示した。

 武末局長は「控訴については今後検討したい」と述べたが、「労務管理や勤務状況を把握しなければなかったという点では問題があった」と、不備があったことを認めた。

 一方、これまでの県の取り組みに触れ、宿直勤務や分べん、時間外呼び出しなどへの特殊勤務手当の支給▽同病院産科の産科医や後期臨床研修医3人の増員▽医師の業務負担を軽減する事務員「メディカルクラーク」の導入--などを進めてきたことを強調した。

 原告側は、異常分べんなどに備えて自宅で待機する「宅直」も労働時間に含めるよう主張したが、判決は「病院の指揮命令下にあったとは認められない」として請求を退けた。

 宅直について、武末局長は「根本的には2人当直にできない医師不足がある。また、自分が主治医をしている患者の具合が悪くなったら、どんな場所に居ても呼び出される慣習があった」と指摘。「今後は当直勤務の翌日は休みが取れるような勤務態勢の導入を検討したい」と述べた。

 原告側の藤本卓司弁護士は「宿日直勤務の始めから終わりまでが労働時間だと明示した画期的な判決だ。全国の多くの病院も同じような実態で、国や行政が産科医不足の対策を取ることが求められる」と述べた。【阿部亮介、高瀬浩平】

(毎日新聞、奈良、2009年4月23日)

****** 読売新聞、2009年4月23日

背景に医師不足 産科の悲鳴届いた…奈良地裁判決 2人で2年間に当直313回 50時間勤務も

 産科医の悲鳴が司法に届いた――。奈良地裁が22日、奈良県立奈良病院の当直勤務を時間外労働と認めた判決で、産科勤務医の労働実態の過酷さが改めて浮き彫りになった。こうした問題の背景には、医師を計画的に配置せず、医師の偏在を放置してきた日本の医療体制がある。勝訴した産科医の1人は「産婦人科の医療現場では緊急事態に対応するためスタッフが必要」と訴え、医師不足の抜本的な解決策を求めている。

 今回の訴訟では、産科医が休憩もままならず、ぎりぎりの状況で母と子の命に向き合わなければならない実態が陳述などで明らかになった。原告の1人が2005年12月に経験した土、日、月曜の3日間の連続勤務を振り返ると――。

 土曜夜、1人の妊婦が出血し、その約1時間後に別の妊婦が陣痛を訴えた。日曜の午前4時半頃には、さらに別の妊婦の異常分娩に立ち会った。医師は原告だけ。1人の処置をしている間に、別の妊婦が分娩室にやってくる。

 日曜日は午前9時半前、午後4時前、同7時半前、同10時前にそれぞれ赤ちゃんが生まれ、月曜未明にも赤ちゃんが誕生した。ほかにも原告は、切迫早産や出血などの手当てに追われ、連続する宿直勤務の間に診た妊婦は計13人。立ち会った出産は6件にのぼった。この後、月曜日は夕方まで通常の勤務に就いたという。

 法廷で、原告は宿直明けの体調について「朝のうちは興奮状態で元気かなと思うが、昼ぐらいから、ガクッと疲れる感じ」と陳述。宿直明けの手術の際、エックス線撮影の指示を誤ったこともあったと述べた。

 原告2人が2年間で務めた夜間・休日の当直は計313回、担当したお産は計300件。妊婦からの呼び出しコールが頻繁にあるため、仮眠を取るのも難しく、50時間以上の連続勤務もあった。

 原告の上司も「外科の当直なら、整形外科などを含めた複数の診療科から1人出せばいいが、産婦人科は、産婦人科だけで回さなければならない」と厳しい実態を証言した。

過酷勤務、訴訟リスク・・・「なり手なくなる」

 「お産は24時間ある。産科は診療科の中で最も当直が多く、負担が特に大きい。なり手がなくなるのではないかと危惧している」。岡井崇・昭和大教授(周産期医療)はこう指摘する。

 産科医の減少は、分娩施設の数にも表れている。日本産科婦人科学会の調査(2006年)では、全国の分娩施設は1993年に約4200施設あったが、調査のたびに減少、05年は約3000施設となった。

 約2700病院が加盟する日本病院会は「勤務医、中でも産科、小児科は『訴訟リスク』が大きく、研修医らから敬遠されやすい。結果的に医師が不足し、労働条件も悪化する悪循環が起きている」とする。

 労働基準監督署から、指導を受ける病院も後を絶たない。原告の産科医が勤める県立奈良病院でも、04年に労働時間の是正を求められたが、改善されず、今回の訴訟に発展した。

 現場の産婦人科勤務医の評価はさまざまだ。

 京都市内の病院に勤務する50歳代の男性医師は「現場は医師のボランティア精神と犠牲の上に成り立っている。待遇が改善されれば、医師も増え、医療の充実につながるだろう」と話す。

 一方、石川県内の大学病院の男性医師は「抜本的な解決には、看護師のように3交代制を敷くしかない。それには、お産の拠点施設を配置するなど、医療システムを根本的に変える必要がある」と指摘する。

 厚生労働省監督課は「長時間労働は抑制し、労働基準法を順守するよう監督したい」としている。

(読売新聞、2009年4月23日)

****** 朝日新聞、2009年4月23日

当直医へ時間外手当、1500万円支払い命令 

奈良地裁

 当直勤務時の賃金が一律支給で済まされ、過酷な労働に見合う時間外手当(割増賃金)が支給されていないとして、奈良県立奈良病院(奈良市)の産婦人科医2人が、04、05年の未払い分として計約9200万円の支払いを県に求めた訴訟の判決が22日、奈良地裁であった。坂倉充信裁判長(一谷好文裁判長代読)は「分娩(ぶんべん)や救急外来など、通常と変わらない業務をしていた」として、産科医としての2人の当直は時間外の支給対象となると認定。県に計約1540万円の支払いを命じた。

Osk200904220095_2

 県は当時、当直1回につき2万円を支給するだけだった。原告の代理人弁護士によると、医師の当直に時間外の支給を命じた判決は全国初。当直勤務に一律支給を導入する例は全国的にあり、各地の病院に影響を与えそうだ。

 訴えていたのは、産婦人科の40代の男性医師2人。夜間や休日の当直業務が、割増賃金として労働基準法で規定された時間外手当の支給対象になるかが争点となった。

 県側は時間外の適用が除外される労基法上の「断続的労働」にあたると主張していたが、判決は断続的労働について「常態としてほとんど労働する必要がない勤務」と指摘。原告の勤務は「1人で異常分娩に立ち会うなど、睡眠時間を十分に取ることは難しい」などとし、医師の当直を断続的労働とした県人事委員会の規則は適用除外の範囲を超えていると判断した。

 そのうえで、賃金など労働債権の時効(2年)となる期間を除いた当直計約250回を対象とし、給与をもとに算出した時給約4200~4400円に割り増し分を加えた手当の支払いを命じた。

 交代で自宅で待機する「宅直」については、「医師間の自主的な取り決め」として時間外と認めなかった。

 県は提訴を受けた後の07年6月から、一律支給を維持しつつも、県立病院の医師が当直中に救急患者の診察や手術をした場合、その実働時間に限り時間外の対象とするように変更している。

 奈良県が今月、医師の当直勤務の手当について全都道府県の状況を調べたところ、37団体から回答があった。定額の当直手当のみは6団体、07年に奈良県が改めたような定額手当と時間外手当のセットが29団体、今回の判決の考え方と同様に当直中の全労働時間を時間外手当としているのは2団体だった。

(朝日新聞、2009年4月23日)

****** 読売聞、2009年4月22日

医師の当直勤務は「時間外労働」、割増賃金支払い命じる判決

 奈良県立奈良病院(奈良市)の産婦人科医2人が、夜間や休日の当直は時間外の過重労働に当たり、割増賃金を払わないのは労働基準法に違反するとして、県に2004、05年分の未払い賃金計約9200万円を請求した訴訟の判決が22日、奈良地裁であった。

 坂倉充信裁判長(一谷好文裁判長代読)は「当直で分娩など通常業務を行っている」と認定し、県に割増賃金計1540万円の支払いを命じた。医師の勤務実態について違法性を指摘した初の司法判断で、産科医らの勤務体系の見直しに影響を与えそうだ。

 同病院産婦人科には当時、医師5人が所属していた。平日の通常勤務以外に夜間(午後5時15分~翌朝8時30分)、休日(午前8時30分~午後5時15分)の当直があり、いずれも1人で担当。労基法上では、待ち時間などが中心の当直は、通常勤務と区別され、割増賃金の対象外とされる。そのため、県は1回2万円の手当だけ支給していた。

 判決で、坂倉裁判長は、勤務実態について「原告らの当直は、約4分の1の時間が、外来救急患者の処置や緊急手術などの通常業務」と認定。待ち時間が中心とは認められないとして、労基法の請求権の時効(2年)にかからない04年10月以降の計248回分を割増賃金の対象とした。

 原告らは、緊急時に備えて自宅待機する「宅直制度」も割増賃金の対象になると主張したが、坂倉裁判長は、宅直については、医師らの自主的な取り決めとして、割増賃金の対象と認めず、請求を退けた。

 奈良県の武末文男健康安全局長は「判決文を詳細に見たうえで、対応を検討したい。厳しい労働環境で頑張っているのは認識している。これまで医師の志に甘えていた」と話している。

(読売新聞、2009年4月22日

****** 産経新聞、2009年4月22日

当直医に残業代支払え 「断続的勤務」に該当せず 奈良地裁

 奈良県立奈良病院(奈良市)の男性産婦人科医2人が、夜間宿直や休日などの勤務に対し、正当な労働対価が支払われていないとして、県に平成16~17年の割増賃金未払い分計約9230万円の支払いを求めた訴訟の判決が22日、奈良地裁であり、坂倉充信裁判長は県に計約1500万円の支払いを命じた。

 原告側弁護士や県によると、公立病院では、医師の宿直や休日勤務に一定額の手当の支払いで済ませているケースが大半。こうした勤務にも割増賃金を支払うべきと認定した判決は、産婦人科などで目立つ医師不足や偏在の要因となってきた労働環境をめぐる議論に影響を与えそうだ。

 弁論では、医師らの宿直や休日(宿日直)勤務が、労働基準法や人事院規則にのっとって県が定めた条例で割増賃金を支払う必要がないと定められた「断続的勤務」かどうかが大きな争点となった。

 坂倉裁判長は判決理由で、断続的勤務に該当する宿日直勤務について、「構内巡視や文書・電話の収受など常態としてほとんど労働する必要のない勤務」と判示。同病院の産婦人科医師らの勤務実態は「宿日直の24%の時間、救急患者の措置や緊急手術などの通常業務に従事していた」と認定し、断続的勤務には該当しないと判断した。

 その上で、宿日直中は「奈良病院の指揮命令下にあり、割増賃金を支払うべき対象の労働時間にあたる」と指摘。訴えのうち、時効が未成立の平成16年10月末以降の割増賃金の支払いを命じた。

(産経新聞、2009年4月22日)

****** 読売新聞・社説、2009年4月23日

産科医賃金訴訟 過重労働の改善を急がねば

 産科医の過酷な勤務実態の違法性を指摘した初の司法判断である。

 奈良県立奈良病院の産科医2人が過重労働に対する割増賃金を求めた訴訟で、奈良地裁は夜間と休日の当直は労働基準法上の時間外労働にあたるとして、県に1540万円の支払いを命じた。

 安全な出産のためにも産科医を増やし、労働条件の改善を急がなければならない。医療行政全体に向けた判決とも言えるだろう。

 判決は、「当直」とは「非常事態への待機など、ほとんど労働の必要がない業務」と指摘した。

 その上で、2人の医師は2年間の当直で計300件の分娩や1000件を超える救急患者に対応しており、こうした勤務実態は「労働基準法の規定を超える時間外労働として、割増賃金の支払い義務がある」と結論づけた。

 医療機関は一般に、当直は労働時間に当たらないとし、一定の手当で済ませているのが実情だ。

 県立奈良病院は、1人で当直をし、1回の手当は2万円だ。医師2人はそれぞれ当直が2年間で200日を超えていた。

 また、呼び出しに備える自宅待機(宅直)もあり、2年間でそれぞれ120日を超え、完全な休日は3~4日しかなかった。

 判決は、宅直については「医師間の自主的な取り決めで病院の内規にもなかった」として割増賃金を認めなかった。

 県立奈良病院では宅直に対する手当も支給していない。手当を支給する病院は増えており、宅直も適切に評価すべきだろう。

 全国の産科勤務医も同様の厳しい労働環境を強いられている。日本産婦人科医会の調査では、1か月の当直の平均は5・9回と、他の診療科を大きく上回る。

 産科医不足も深刻だ。10年間で全体の医師数は15%増えたが、産科は11%も減った。医師不足が過重労働に拍車をかけている。

 総合周産期母子医療センターの愛育病院(東京都)は労働基準監督署から医師の勤務実態を改善するよう勧告を受けたため、センター指定の返上を都に打診する事態に発展した。改善に必要な医師確保が困難だからだ。

 奈良では2006年、19病院で受け入れを断られた妊婦が亡くなっている。各地で同様の問題が起きている。お産の現場は危機的な状況にある。

 労働条件が改善されなければ産科医はさらに減少する。開業医が当直に加わるなど、地域医療全体での体制づくりが欠かせない。

(読売新聞・社説、2009年4月23日))

****** 毎日新聞、2009年4月23日

訴訟:産科宿直に割増賃金 「待機時間も労働」--奈良地裁判決

 奈良県立奈良病院(奈良市平松)の産婦人科医2人が、夜間や土曜休日の宿日直勤務に対し低額の手当ですませるのは違法として、04、05年の割増賃金など計約9230万円を支払うよう求めた訴訟の判決が22日、奈良地裁であった。坂倉充信裁判長は、県に時効分などを除く計約1540万円の支払いを命じた。宿日直勤務を時間外労働と認めた初の判断とみられる。

 判決などによると、同病院は県内外からハイリスクの妊婦らを24時間受け入れている。原告は04、05年に1カ月当たり6~12回の宿日直勤務をした。勤務時間は宿直が午後5時15分から翌日午前8時半、日直が土曜休日の午前8時半から午後5時15分だが、その前後も恒常的に勤務が続いていた。

 判決は原告らの宿日直勤務が「分娩(ぶんべん)の回数も少なくなく帝王切開も含まれる。救急医療もまれではない」として労働基準法上、割増賃金を払わなくてよい「断続的労働」とは認めなかった。割増賃金の根拠となる労働時間について「待機時間も労働から離れることが保障されているとはいえない」と宿日直開始から終了までが労働時間に当たると認めた。

 原告側は、自宅で待機する「宅直」も労働時間に含めるよう主張したが、判決は「病院の指揮命令下にあったとは認められない」として請求を退けた。【高瀬浩平、阿部亮介】

(毎日新聞、2009年4月23日)

****** 共同通信、2009年4月23日

産科医当直は「労働時間」 奈良、県に割増賃金支払い命令

 県立奈良病院(奈良市)の産科医2人が、2004年、05年の当直勤務の時間外割増賃金など計約9200万円の支払いを県に求めた訴訟の判決で、奈良地裁(坂倉充信裁判長、異動のため一谷好文裁判長代読)は22日、当直を時間外労働と認め、計約1500万円の支払いを命じた。

 奈良県は当直1回につき2万円の手当を払うのみだった。弁護士によると、医師の当直が労働時間に当たるかどうか争われた訴訟は初めて。当直に定額手当しか支払わない例は全国にあり、ほかの病院にも影響を与えそうだ。

 判決は「産科医は待機時間も労働から離れていたとは言えず、当直開始から終了まで病院の指揮下にあった」と指摘。当直は労働基準法上の時間外労働に当たり、割増賃金支払いの対象になるとして「現実に診療をした時間だけが労働時間」とする県側主張を退けた。

 判決によると、産科医2人は04-05年にかけてそれぞれ約200回、夜間、休日に当直勤務をした。その際、分娩に立ち会うことも多く、異常分娩の時に診療行為をすることもあった。さらに病院での宿直時は睡眠時間を10分取ることは難しく、当直中はポケベルを携帯し、呼び出しに速やかに応じることを義務付けられていた。

 判決は時効となった04年10月以前を除いた分について、手当を支払うよう命じた。

(共同通信、2009年4月23日)

****** 時事通信、2009年4月22日

奈良県に1500万円支払い命令=産科医の時間外手当認める-地裁

 奈良県立奈良病院(奈良市)の男性産婦人科医2人が、県を相手に2004年から2年分の時間外手当約9200万円の支払いを求めた訴訟の判決が22日、奈良地裁であり、坂倉充信裁判長(一谷好文裁判長代読)は約1539万円の支払いを県に命じた。

 判決によると、2人は2004年から2005年にかけ、それぞれ約200回の宿日直勤務に当たったが、県は1回の宿日直勤務に対し、2万円の手当を支払うのみで、労働基準法で決められた時間外手当を支払っていなかった。

 坂倉裁判長は、宿日直勤務中は睡眠などは取れず、勤務が続いていたと判断。「時間外手当を支払う必要がないとはいえない」とし、既に時効の04年1月1日から10月25日までの分を差し引いた手当約1539万を支払うよう命じた。

 産科医らが自主的に行っていた、休日も自宅で待機する宅直勤務については、「病院が命じていたことを示す証拠がなく、待機場所が定められているわけでもない」として時間外手当の請求を認めなかった。

 武末文男奈良県健康安全局長の話 県民が安心して医療が受けられる体制づくりのために、判決を詳細に検討したい。

(時事通信、2009年4月22日)


最新の画像もっと見る

1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
> 産科医らが自主的に行っていた、休日も自宅で... (ys)
2009-04-23 12:03:31
病院と患者のために医師同士で気を利かしてやったことがあだになりましたね。「おまえらが勝手にやっただけだろう。宅直が必要かどうかは病院が決める。医者が考えることじゃねえ」と裁判所が言ったわけです。

どうしても宅直が必要と思われるのであれば、病院に対して「緊急時のバックアップ要員として夜間・休日に自宅待機してよろしいか」と文書で確認しましょう。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。