ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

急速遂娩(きゅうそくすいべん)とは?

2010年06月19日 | 周産期医学

[定義] 急速遂娩(forced delivery)とは、分娩経過中に母児に危機が生じ、自然の分娩の進行を待っていては遅すぎるため、分娩経過を短縮させ直ちに児を娩出させることである。

急速遂娩には、
・吸引分娩(vacuum extraction delivery)、
・鉗子分娩(forceps delivery)、
・帝王切開(cesarian section: CS)
がある。

Forceddelivery

Cs

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急速遂娩の適応例

1. 胎児機能不全:
①遷延徐脈、②基線細変動消失、③遅発一性の頻発、④胎児末梢血pH≦7.15

2. 切迫子宮破裂:
①収縮輪臍高、②遷延横位

3. 臍帯脱出

4. 常位胎盤早期剥離

5. 子癇

6. 子宮内感染

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急速遂娩の方法

①吸引分娩、鉗子分娩:
児が低位にいて、すぐに娩出可能なとき

②帝王切開分娩:
児娩出までに時間がかかり経腟分娩は困難と判断されたとき

・準緊急帝王切開
・緊急帝王切開
・超緊急帝王切開

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吸引分娩

・吸引分娩は、児の頭部に吸引カップを陰圧により吸着させ、カップの柄を吸引することにより胎児を娩出させる急速遂娩法である。

・吸引カップには金属製のものとプラスチック製(ソフトカップ)がある。吸引力は金属製の方が優れているが、装着の容易さ・速さはソフトカップの方が優れている。

・ポンプ一体型のディスポ娩出カップ(Kiwi )は、緊急時に介助者がいなくてもすぐに吸引分娩を開始できる利点がある。

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吸引分娩の限界

・ 限界を常に念頭に置き、吸引分娩に固執しない。

吸引分娩総牽引時間20分以内ルール
吸引分娩における総牽引時間が20分を超える場合は、鉗子分娩あるいは帝王切開を行う。

吸引分娩術回数5回以内ルール
吸引分娩総牽引時間20分以内でも、吸引術(滑脱回数も含める)は5回までとし、6回以上は行わない。

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吸引娩出器

Kyuuin3
(アトムメディカル株式会社)

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金属製吸引カップ

Vacuumcup

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プラスチック製吸引カップ

Softvacuumcup
小林式ソフトバキュームカップ(ソフトメディカル株式会社)

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ポンプ一体型のディスポ娩出カップ

キウイ娩出吸引カップ(アトムメディカル)

Kiwicup

Kiwi_small

Omnicup_animation
(画像をクリック)

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鉗子分娩とは?

鉗子分娩とは、児頭を鉗子で挟み児を娩出させる急速遂娩法である。

Naegele
ネーゲレ鉗子

Forceps

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吸引分娩と鉗子分娩との比較

・ わが国では、吸引分娩の方が一般的に用いられる。

・ 鉗子分娩は吸引分娩に比べ牽引力が圧倒的に強く、確実であるという利点がある。

Hikaku

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産瘤(caput succedaneum)

[定義]
産瘤とは、産道通過時の圧迫によって児頭先進部の先端にできる境界不明瞭な腫瘤(浮腫)のことである。

・ 産瘤は可動性があり、触ると軟らかく、出生時に最も著明で生後24時間以内にほとんど消失する。

Sanryuu

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頭血腫

[定義]
吸引分娩などにより骨膜が頭蓋骨から剥離し、頭蓋骨と骨膜の間に生じる血腫。

[血腫の特徴]
・ 血腫が2個以上のこともある。
・ 血腫の広がりは、骨縫合を超えない。
・ 血腫の境界は明瞭である。
・ 生後、徐々に大きくなる。

[処置] 経過観察

Cephalohematoma

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帽状腱膜下血腫

[定義]
吸引分娩などにより帽状腱膜と骨膜が剥離し、帽状腱膜下に血腫が形成されたもの。

[血腫の特徴]
・ 血腫は骨縫合を超える。血腫が前額、眼瞼、耳介周囲におよぶことがある。
・ 高度貧血、高ビリルビン血症を伴い、出血性ショック、DICから死亡することもある。

[処置]
①輸血 ②出血性疾患の検索

Subaponeurotic

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帝王切開とは?

・ 帝王切開は急速遂娩法の一つであり、子宮壁を外科的に切開して胎児を娩出させる方法で、近年増加傾向にある。

予定帝王切開
  あらかじめ日時を決めて行われる。

緊急帝王切開
  母児の状態が悪化した場合や、分娩の進行不良などのために経腟分娩が不可能と判断した場合に、緊急に行われる。

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超緊急帝王切開とは?

・ 「超緊急帝王切開」とは、方針決定後、他の要件を一切考慮することなく、全身麻酔下で直ちに手術を開始し、一刻も早い児の娩出をはかる帝王切開術である。

・ 臍帯脱出(胎児の生存が確認できた場合)、子宮破裂、重症の常位胎盤子宮破裂 etc.

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帝王切開の麻酔

①脊椎麻酔(腰椎麻酔)spinal anesthesia
②硬膜外麻酔 epidural anesthesia 
③硬膜外・腰椎麻酔併用 epi-spinal anesthesia
④全身麻酔 general anesthesia
 ・ 最急速導入(crash induction)

一般に帝王切開の麻酔には、区域麻酔(①、②、③)が選択されることが多いが、区域麻酔が禁忌の場合(脊椎の異常、血液凝固障害など)や超緊急症例には全身麻酔が適応となる。

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帝王切開に対する脊椎麻酔(腰麻)

利点
1)手技が簡便
2)導入が速い
3)妊婦が覚醒している
4)児の薬剤に対する曝露が少ない
5)誤嚥の危険が少ない

欠点
1)低血圧の頻度が高い
2)分娩時の嘔気・嘔吐
3)硬膜穿刺後の頭痛
4)作用持続時間が限られている

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帝王切開に対する硬膜外麻酔

利点
1)母体低血圧の頻度と程度が軽い
2)頭痛の発生頻度が少ない
3)局所麻酔薬で長時間手術ができる
4)術後の疼痛管理にも使用できる

欠点
1)技術的に複雑
2)麻酔の作用発現が遅いので、緊急の状況では用いることができない
3)多量の局所麻酔薬を用いなければならない

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帝王切開に対する全身麻酔

利点
1)導入が速い
2)信頼性が高い
3)再現性が高い
4)調節性がよい
5)低血圧が避けられる

欠点
1)母体の誤嚥の可能性が高い
2)挿管困難の頻度が高い
3)新生児の薬剤曝露
4)浅い全身麻酔中の母体の覚醒


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