コメント(私見):
医療従事者に特に過失がなくても、分娩に伴って、脳性麻痺、母体死亡、周産期死亡などの不幸な出来事は、一定の確率で必ず起こります。現行制度では、予期せぬ医療事故で、患者が死亡したり重大な後遺症を負った場合、医療従事者の過失が認定されないと患者や家族に医療保険の補償金が給付されない仕組みになっています。そのため、弱者救済という立場から、『医学的には医療従事者の過失が明らかでなくても、患者や家族の救済を目的に医療従事者の過失が裁判で認定されてしまうようなケース』もあり、それが産科医療崩壊の大きな要因の一つとなっています。従って、産科医療崩壊立て直しの第1歩として、『予期せぬ医療事故で、患者が死亡したり重大な後遺症を負った場合に、医療従事者の過失の有無などを問わずに、患者および家族への経済的救済を行う制度』(無過失補償制度)の産科医療への早期導入が必要と考えられています。
来年1月1日より産科医療補償制度の運用が開始されます。その新しい制度で補償の対象になるのは、分娩に伴って脳性麻痺を発症したケースのうち、原則として新生児が「出生体重2000グラム以上かつ在胎週数が33週以上」で「身体障害者等級1、2級相当」などに該当する場合です。医療機関が分娩1件あたり3万円の保険料を負担し、審査により補償対象と認定されると、医療従事者の過失の有無を問わず総額3000万円が給付されることになっています。本制度の補償対象となる者は概ね500~800人程度(日本医療機能評価機構・産科医療補償制度運営組織準備委員会報告書)と見込まれます。
このように、本制度の運用開始時は、『分娩に伴って重症脳性麻痺が発症したケース』のみに補償対象が限定されます。分娩1件あたりの保険料の負担額が3万円で給付金が3000万円という設定だと、補償対象は重症の脳性麻痺のみに限定せざるを得ないという事情があるようです。将来的には、この制度の補償対象が分娩時母体死亡や周産期死亡などにも拡大されることを期待しますが、補償対象を拡大すれば、保険料の負担額が大幅に増額される可能性もあります。
福島県立大野病院の医師逮捕事件について
(自ブロク内リンク集)
****** Japan Medicine、2008年8月8日
全国医師連盟 大野病院事件判決に向けて声明 「患者・家族救済制度」設立を要望
医療再生を目指す勤務医の団体、全国医師連盟(黒川衛代表)は5日、今月20日の福島県立大野病院事件判決(第1審)に向けた声明をまとめた。声明では、予期せぬ医療事故が発生した場合には、医療従事者の過失の有無などを問わずに患者および家族(遺族)への社会的慰撫(いぶ)・経済的救済を行う制度が必要だとして、制度設立を要望した。
大野病院事件では、最善の医療を行いながらも、事故を防げなかった場合には、業務上過失致死罪や異状死の届け出義務違反などにより医療従事者が刑事訴追されることが表面化し、医療界に大きな混乱を与えている。
声明の中で連盟は「不幸な結果のみで過失犯として断罪される危険を強く感じる。本件の逮捕・起訴が誤りであったことを確信している」と表明し、救命救急活動時の医療行為への刑事罰適用を限定し、刑事訴追を回避する法的整備が必要だとした。
全国医師連盟は、<1>診療環境の改善<2>医療情報の啓発<3>法的倫理的課題の解決-の3つの課題を掲げて6月に設立した。
福島県立大野病院事件判決に際して、全国医師連盟の声明(一部抜粋)
医療過誤の有無を問わず不幸にして予期せぬ医療事故に遭われた患者さん、御家族、御遺族への社会的慰撫と経済的救済を行う制度の設立を強く望みます。私達医師は、その救済制度実現に協力いたします。
また、救命活動時の医療行為に対する刑事罰適用は限定し、刑事訴追を回避する法的整備を望みます。
これらの救済制度の実現と刑事訴追回避のための法整備は、国民と医療の未来のために、是非とも必要な措置であると信じます。
2008年8月5日
全国医師連盟
(Japan Medicine、2008年8月8日)
****** 全国医師連盟、2008年8月5日
「福島県立大野病院事件判決に際して、全国医師連盟の声明」
はじめに、今回の手術でお亡くなりになられた方、そして御遺族の皆様方に心より哀悼の意を捧げます。
平成十六年十二月十七日、福島県立大野病院で、患者さんが帝王切開術中の大量出血によりお亡くなりになりました。この手術を担 当した産婦人科医は、業務上過失致死罪(刑法211条1項)および異状死の届出義務違反(医師法21条違反)容疑で逮捕、起訴されまし た。本年八月二十日には、一審判決の言い渡しが予定されています。
予期しない医療事故が生じた場合、後遺症を負った患者さんや御 家族、あるいは患者さんが不幸にして亡くなられた場合の御遺族には、耐え難い悲しみが襲いかかります。同時に、現実生活の上で経済的困難が大きく立ちはだかります。
現在の医療技術や診療環境の実際においては、どうしても不幸な 医療事故をゼロにすることは出来ません。
不幸な医療事故が起きたときには、それが医療従事者による過失 によるものだったのか、あるいは人の力では如何ともし難い結果だったのかを問わず、こうした患者さんや御家族・御遺族を社会的に慰撫し、経済的に救済する必要があります。
私達医師は、国によってその制度が設立されることを望み、また制度設立のために協力を致したいと思います。
もう一つ重要なことが有ります。
この事件では、担当医の逮捕、起訴という衝撃もあり、多くの医療団体及び医学系の学会から「これでは医療が出来ない」との抗議 声明が出ております。
多くの医師達は、本件訴訟において検察側・弁護側の立証から明 らかになった診療経過を検討し、本件担当医と同じ診療条件に置かれた場合、最善の医療を施しても助け得なかったのではないかと判 断しています。
また、日常診療における予期しない死亡事故が起こったとき、最善の医療を行っていても、不幸な結果のみで過失犯として断罪され る危険を強く感じました。
私達は、本件の逮捕、起訴が誤りであったことを確信しています。
私たち医師は、救命救急活動中や日常診療中に予期しない事態に 遭遇することはまれではなく、その際、判断を瞬時に行わなければ 患者さんの死に直結します。その一連の医療行為を後で検証すれば、 正しい判断であったかどうか不明な部分は必ず出てきます。
しかし、それは後方視的検討によって浮かび上がる問題点であり、 今後の医療の改善に役立つ情報ではあっても、その当時に通常の医 師として為すべきことを為したかという過失認定とは異なるもので す。従って、救命活動などの緊急時の医療行為は、多くの場合、業 務上過失致死罪の成立が阻却されると考えます。
医療事故に対して無闇に刑事訴追を行うことは、国民と医療者との対立を深め医療現場の荒廃を生み、その結果が国民には、十分な 医療を受けられないという不利益となってはね返ります。
福島大野病院事件のような事件を、二度と繰り返してはなりません。国民に必要な医療を守り医療事故から救済するために、全国医師連盟は以下の事を主張いたします。
医療過誤の有無を問わず不幸にして予期せぬ医療事故に会われた患者さん、御家族、御遺族への社会的慰撫と経済的救済を行う制度の設立を強く望みます。私達医師は、その救済制度実現に協力いた します。
また、救命活動時の医療行為に対する刑事罰適用は限定し、刑事訴追を回避する法的整備を望みます。
これらの救済制度の実現と刑事訴追回避のための法整備は、国民と医療の未来の為に、是非とも必要な措置であると信じます。
平成二十年八月五日
全国医師連盟
(全国医師連盟、2008年8月5日)
もちろん、福祉制度との摺り合わせの問題もあります。
小さく産んで大きく育てるという言い方に正当性があるとしたら、やはり内部留保額や役員報酬の公開が不可欠です。
日本医療機能評価機構の産科医療補償制度運営組織準備委員会報告書の8ページに
補償の対象となる者は概ね500~800人程度と見込まれる。
という記載がありました。
http://jcqhc.or.jp/html/documents/pdf/obstetrics/obstetrics_report.pdf
(7月14日付の毎日新聞の記事に、「補償の対象となるのは、年間推定二千数百人」との記載がありました。これは脳性麻痺全体を補償対象とした場合の推定数と考えられます。)
一番重要な点は保険会社の収支の透明性です。
生保も損保も未払いなどさまざまな問題が生じ、ほとんど詐欺に近かったのは歴史が証明しています。
役人が絡んでいますから信用性も疑問です。単なる天下り先を作っただけでなければよいのですが。
保険料は年330億円集まります。
全例すんなり出ても総支払額年150~210億円です。
180~120億円は機構のピンハネと保険屋の儲けですか。
分割なので運用益がでるからもっと儲かりますね。
私は里帰りで転院にならない人以外は28週加入にする予定です。
分娩料値上げ根拠はこの制度のためで、機構の天下り役人と損保を養う費用がうち半分ですと全例説明します。
医療機関が支払うという制度設計も問題が大きすぎます。それなら分娩数の多い施設は自ら保険金をプールし、自分の患者さんで発生したら直接払えばいいだけではないかと言う意見も生じています。
保障を受けるのは患者さんなのですから(断じて医療機関ではない!)、保険の原則に素直に則って妊婦さんが直接加入する制度のほうがよほどすっきりしたはずです。
分娩料金をいっせいに値上げすると独禁法違反になりかねませんし、かといって値上げしないと施設の持ち出しになりますし、この点でも非常に問題です。
更なる「産科崩壊促進制度」にならなければいいのですが・・・・・。いや国はそうしたいのか・・・?