Adult T-cell leukemia
HTLV-1(Human T-cell Leukemia Virus type-1: ヒトT細胞白血病ウイルス1型)は、成人T 細胞白血病(ATL)、HTLV-1 関連脊髄症(HAM)などの重篤なHTLV-1 関連疾患の原因ウイルスであり、母子感染する。
ATL 患者の大多数は、母子感染に起因する成人キャリアからの発症例で占められており、この点、HTLV-1 母子感染予防対策は重要である。ただし、キャリアが将来ATLを発症する確率は必ずしも高いとは言えない。
ATLは現時点で確立された治療法はなく予後不良である。しかし、ATLの発症年齢のほとんどが50歳以上であるので、妊婦自身や妊娠・分娩経過あるいは胎児に対する影響はない。
****** 産婦人科診療ガイドライン・産科編2011
CQ612 妊娠中にHTLV-1抗体陽性が判明した場合は?
Answer
1. スクリーニング検査(ゼラチン粒子凝集法や酵素抗体法)には偽陽性があることを認識する。(A)
2. スクリーニング検査陽性の場合、確認検査(ウェスタンブロット法)を行い、確認検査陽性の場合にHTLV-1 キャリアと診断し、妊婦に結果を伝える。(A)
3. HTLV-1 キャリア本人への告知は特に慎重に行う。(A)
4. 家族への説明可否は、妊婦本人の希望に基づき判断する。(B)
5. HTLV-1 キャリアの場合、経母乳母子感染予防の観点から、以下の栄養方法を選択肢として呈示する。(B)
1) 人工栄養
2) 凍結母乳栄養
3) 短期間(3ヵ月以内)の母乳栄養
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【キャリア診断】
HTLV-1 感染(キャリア)診断は、
① スクリーニング検査(血中HTLV-1抗体測定)、
② スクリーニング検査陽性例に対する確認検査
という2段階の手順を踏む。
スクリーニング検査としては、ゼラチン粒子凝集法(PA法)や酵素抗体法(EIA法)に基づくキットがよく用いられる。しかし、これらの方法には非特異反応による偽陽性が少なからず存在する。
スクリーニング検査で陽性と判定されたら、ウェスタンブロット法(WB法)を用いて確認検査を行う。確認検査陽性であった場合にHTVL-1 キャリアと診断し、妊婦に結果を説明する。家族への説明は妊婦本人が希望した場合にのみ行う。
確認検査であるWB法でも診断がつかず「判定保留」となる例が10~20%いることが知られており、この場合、キャリアの確定診断は困難である。診断のためにPCR法(保険未収載)の結果が参考になることがあるが、これも絶対ではない。こうした女性の中にも、頻度は不明ながらキャリアが存在することが知られている。
【母子感染予防】
HTLV-1 は主に経母乳感染する。低頻度だが、子宮内感染、産道感染もある。長期母乳栄養哺育児への感染率は15~40%と報告されている。
母子感染率低減に有効な方法として以下3法が推奨されている。
1) 人工栄養
感染Tリンパ球を含んだ母乳が児の口に入らないため、経母乳感染予防には最も確実な方法である。しかし、人工栄養を用いても母子感染率は3~6%あるとされる。これは子宮内感染や産道感染は防止できないためである。
2) 凍結母乳栄養
搾乳した母乳をいったん冷凍(-20℃・12時間)した後に解凍して与える方法である。感染T リンパ球が不活化されるために母子感染予防効果が得られる。
3) 短期間(3ヵ月以内)の母乳栄養
母体からの移行抗体が母乳中に存在するとされる短期間だけ母乳栄養を行い、その後人工栄養を選択する方法である。ただし、中和抗体にも個人差があり、理論的に確実である保障はない。なお、母乳栄養を行う場合には、「その量が少ないほど、また期間が短いほど母子感染率が低下する」ことはほぼ確実である。
【HTLV-1の病原性について】
HTLV-1 感染(主に母子感染)によりキャリアになった成人において、CD4 陽性T 細胞の腫瘍性増殖が起こることがある。これがATL であり、HTLV-1 はATL の原因ウイルスである。
HTLV-1 キャリアからのATL の生涯発症率は3~7%程度と報告され、40歳以上のキャリア約750~2000人の中から1 年に1 人発症してくる。本邦発症者数は約700人/年である。
いったんATLが発症すると、化学療法の治療成績は完全寛解率16~41%、生存期間中央値3~13ヵ月、と極めて予後不良である。
我が国のHTLV-1 キャリア成人数は約108万人と推計されている。キャリア成人の地域分布には特徴があり、沖縄や九州地方でキャリア率が高い。近年キャリア全体に占める他地域在住キャリアが占める割合増加が指摘されている。
HTLV-1 感染経路は、母子感染、血液の移入(輸血、臓器移植、注射)、性交による男性から女性への感染に限られる。針刺し事故によるHTLV-1 感染の可能性はほとんどないとされている。
****** 問題
母乳による新生児感染が重要とされるのはどれか。2つ選べ。
a. ヒト免疫不全ウイルス(HIV)
b. ヒトパピローマウイルス
c. B型肝炎ウイルス
d. 成人T細胞白血病ウイルス
e. インフルエンザウイルス
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正解:a、d