月の岩戸

世界はキラキラおもちゃ箱・別館
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メンカリナン・3

2013-10-31 04:59:10 | 詩集・瑠璃の籠

さがれ
だれのまねをしているつもりなのだ

愛と 
すべてを背負う
きよらかな微笑みと
はるか未来を導く
深き あのまなざしを
おまえが
まねをするのか

なにをして
そのようなまねができるのか
いかにも 自信たっぷりに
すべてができる男と言う顔をして
あらゆるものをだますのか
馬鹿者め

さがれ
おのれにふさわしい道へ
ゆくがよい
石のように干からびた
己が果実を背負い
はるかな高みへと上る
険しい山の道を進め

奴隷のようにこうべをたれ
あらゆるものにつかえよ

馬鹿者め
どの面を下げて
まことの王の顔をするのか

二度とやるではない



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なんなんだよ

2013-10-30 04:16:22 | 苺の秘密

男の世界なんて
つらいことばっかりなのよ
女の前では
かっこつけてるけどさ
いやなことばっかりなのよ

あほばっかりやって
苦しいことばかりんなって
えらいことして
ごまかして
なんとかしまくっても
いたくって
いたくって
どうしようもねえ

うかうかしてると
もってるもん全部盗まれる
それどころか
命があぶねえ
だれも信用できねえのよ
男なんて馬鹿ばっかり
えらいことして
痛いことして
世間だまして
いやなことになるばっかりなのさ

いいことなんて
なにもねえの
たまに ばかみたいにええもんになっても
すぐにだめんなる
いやなんだよ
こんなの
つらいばっかりだよ
いたいばっかりだよ
さむい
く  る  し  い

セックスだけなんだよ
いいのは
男のじんせえ
いいって思えるのは
セックスだけだ
だから
女ばっかり追いかける
なんなんだよ
男は



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馬鹿

2013-10-29 04:15:37 | 苺の秘密

簡単に
金でできるもんにしたかったんです
それでないと
相手にしてもらえねえから

馬鹿ですよ
馬鹿ばっかりやって
女をはめて
だまして
自分の好きなようにできる
家畜にしたかったんですよ
そしたら

女が
家畜とやれって
おれにいうんですよ
家畜とやれって

家畜としか
できないんなら
一生
豚とやれっていうんですよ
おれたちに

女は
もういやだって言って
みんなあっちに行っちまうんです
一生よってくるなっていうんですよ
一生
顔も見たくねえって

一生
豚とやってればって
女が おれに
言うんですよ





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マグダラのマリア

2013-10-28 04:08:36 | 虹のコレクション
No,1
ジョヴァンニ・ベッリーニ、「聖母子と二聖人」より「マグダラのマリア」、15世紀イタリア、初期ルネサンス。
ティツィアーノの師。

レオナルド・ダ・ヴィンチに学んで描かれたというこの絵は非常に美しい。特にこのマグダラのマリアの幽玄な美しさは、モナリザやボッティチェリのヴィーナスと並べても、遜色はないのではないかと思う。
同じルネサンス期の画家ヤコポ・ベッリーニの息子である。父の技術を大切にしながら、弟子のティツィアーノや年下のレオナルドに謙虚に学ぶ姿勢はすばらしい。この画家は、もっと注目を浴びてもいいのではないだろうか。

なお、このカテゴリ「虹のコレクション」は、絵画の世界で、モナリザに匹敵する美女か、見る価値のある男や、おもしろい作品を探す、という趣旨でやってゆく。楽しみにしてくれたまえ。



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神の空

2013-10-27 17:11:45 | 天然システムへの窓





低い。近い。

下りてきている。




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女は

2013-10-27 05:04:42 | 苺の秘密

女はいやだ 女はいやだ
だって 馬鹿なのに
おれよりきれいだから
なんだよ

女はいやだ 女はいやだ
だって けっぱって
えらいことしないと
だれも おれに
よってこないからなんだよ

女はいやだ 女はいやだ
だって だれも
おれに
さわらせてくれないからなんだよ

なんで こんなに
つらいんだ
なんで こんなに
つらいんだ

女はいやだ
女は いやだって
今日も
女 ばっかり
女 ばっかり


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百合をよる

2013-10-26 05:07:38 | 歌集・窓辺の百合

あしたみる 夢はほのかに 明るみて しばし忘るる はるかなる道




ほほゑみを 蛍にのこし 消え去りぬ 夏の香りは 風に染みゆく




あきらめて のちの心は 熱けれど なみだのごはず 泣くわれは愚か




あめのした あをき花野の 風に立ち 月の窓辺に 置く百合をよる




あかつきを 見ることもなく 去る月を とほく見て立つ 蒼杉の森





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ばらの”み” 12

2013-10-25 04:28:54 | 月夜の考古学

「うん、図書室に本返しに行ってたの」
 クモの巣みたいにつきまとう史佳の気配を、うっとおしく感じながらも、環は笑い返した。おかあさんとケンカして、勢いがついているせいだろうか、今日はなんだか、ウソんこ笑いが、うまくできる。
「あの、サンタクロースなんとかってやつ? まだ返してなかったの?」
「うん。忘れてたの。図書係の人に、ちゃんと期限内に返してくださいって言われちゃった。でもあれ、もともとおかあさんが借りて来いって言ったやつなんだよ」
 環が自分の席に座ると、史佳はさっと環の机の前に立った。まるで、環のすべてを囲いこんで、たとえ呼吸の一かけらでも外に出してやるまいとでもしてるみたいだ。環はかまわず話を続けた。
「弟がさ、サンタは絶対いるんだってゆずらないもんだから、うちのおかあさん、いろいろつじつま合わそうとして、苦労してるのよ」
 環は調子に乗って、例のサンタクロースにわざわざ会いに行ったことまで、史佳にしゃべった。すると驚いたことに、史佳は「ああ、あれね!」と、いかにも事情通のように何度もうなずいた。
「前からここらへんじゃ有名なんだよ。……あの人ね、昔、学校の先生だったんだ」
「へえ?」
 環は興味を持って、史佳の方に体を傾けた。環が自分から史佳の話に興味をもつのは珍しいことなので、史佳も喜んで、額をくっつけるように環に顔を近づけてきた。
「……学校の先生だったって、ほんと?」
「うん、昔からサンタの格好がすごく似合ったんで、幼稚園のクリスマスパーティなんかで、よくサンタ役やらされてたんだって。年とって先生を引退してからも、クリスマスになるとサンタ役で引っ張り出されるもんで、しまいにそれを職業にしちゃったらしいよ」
「職業? そんな職業ってあるの?」
「要するにサンタの出前よ。あちこちのクリスマスパーティとか商店街とかに、サンタのかっこうして出向くのよ。もっとも、半分以上はボランティアらしいんだけどね。真に迫ってるから、評判いいらしいよ。ここらへんの小さい子はほとんど、あの人が本物のサンタだって信じてるくらいだもん」
「へーえ」
 環は、納得顔でうなずきながら、窓の外に目をうつした。子どもたちでにぎわう運動場を見下ろしながら、プチ・ノーレで会ったサンタが、手もみをしつつ客にぺこぺこしている姿を想像して、環はフッと鼻で笑った。
(なんだ。そういうことか)
 環はほお杖をついて、どうしようもないわねとでも言いたげに首を振った。と、史佳が、不意に環の後ろ側に視線をずらして、声をひそめた。
「やだ、あの子、またこっち見てる」
「え?」
 環が振りむくと、窓際の一番後ろの席に座った子が、机の上に立てた本に、顔を半分隠すようにして、じっと環の方をうかがっていた。湯河さんだった。環がちょっとムッとしてにらみつけると、湯河さんは驚いたように一瞬目をゆらゆらとさせて、さっと顔を本のかげに隠した。
「ねえ、最近あの子、しょっちゅう砂田さんのこと見てるような気がしない? 何かあったの?」
「さあ……、あの本のことかな?」
 環は史佳の息が顔にかかるのを気にしながら、前に図書室で湯河さんが環と同じ本を借りようとしていたことを話した。
「ふうん。でもいやね。あの子と仲良くしてるんじゃないかって、ワキに思われたりしたら大変だよ。やめてほしいよね」
「うん、そうだね……」
 環は軽く受け答えた。いつもなら、こんなふうに話を持ちかけられると、考え過ぎて何も言えないことが多いのに、不思議と今日は、すいすいうまく言うことができる。なんだか、ちょっと風邪をひきかけて、熱が出始めた時のような気分だ。頭がふわふわしていて、ぼんやりとしてて、気持ちがいい。どこかに大事な忘れ物をしてるような気も、ちょっとするのだけれど、環は考えるのが面倒で、ふわふわのいい気もちの方をとった。
 今日の自分は、何事も、そつなくスムーズにできているような気がする。和希のことにもそんなに敏感になったりせず、自然に、目立たないように、クラスの中を泳いでいるように思う。
 環は目のすみで、和希たちのグループがかたまっている教室の一画をちらりと見やった。小西アキが和希の耳に口をあてて、湯河さんの方を指さしたりしながら、何かひそひそつぶやいている。でも、環はいつもみたいに気分が悪くなったりはしなかった。
(……そうか。『そつなく』ってのは、こんなふうにやればいいのか。何事も、深く考えずに、軽うく、過ごしていけばいいんだ)
 一瞬、すごいことを発見したような気分になって、環は胸をぐいとそらした。こんな簡単なこと、どうして今まで気づかなかったんだろう?
 環は、なんだかうれしくなって、鼻歌でも歌いたい気分になったけど、そこまですると和希の目を引いてしまいそうなので、やめた。

「おねえちゃん、ちょっと待って」
 その日の帰り、環があんまり速く歩くので、要は怖くなって何度となく環の手を引っ張った。
「あ、ごめん、速かった?」
 環が歩調をゆるめたので、要はほっとして、抱え持っていた杖の先を地面に立てた。
「おねえちゃん、どうしたの? 今日はなんだかいつもと違うみたい」
「そうかな。そんなことないよ」
 環はそっけなく答えた。要がけげんな顔をしたが、環は気にせずそのまま歩いた。やがて、問題のクロの道を無事に通り過ぎると、少し安心したのか、要が言った。
「あのねえ、おねえちゃん。要ね、担任の渋谷先生に、鳥のこときいてみたんだよ」
「鳥?」
「今朝、庭にきた鳥のこと。灰色で、ほっぺのところに茶色い模様があるって、おかあさんの言ったとおり先生に説明したの。そしたら先生が、それはヒヨドリだって」
「へえ、ヒヨドリ?」
「うん、ヒヨドリは、ひーよひーよって鳴くから、ヒヨドリっていうんだよ」
「ふうん」
 環はなんとなく、電線にとまって寂しい鳴き声をあげる鳥の影を思い出した。そういえば、今朝そんな夢を見たような気がする。環は、一瞬、胸のふちっこを、ちかっとねじられるような不安を感じた。罪悪感に似たものが、胸におしよせてきて、苦しくなった。環は不快なものをふりはらうように、息を大きくはいて、首を振った。すると環の心は、まるでねじがはじけとぶみたいに、すぐに違う方向へ飛んだ。といって、何かを考えているというわけではなく、綿にでもすっぽりつつみこまれるように、頭の中が真っ白になるだけなのだが。
 また環の歩調が速くなった。それだけでなく、何度か要の手を離そうとさえした。要は不安になり、環の手をぎゅっとにぎると、後ろに体を倒しこんでブレーキのように環を引っ張り戻した。
「あいたた。どうしたのよ、要」
 環は思わず腕を振りもどしながら、後ろの要の方を見た。と、その時背後から、「おい!」と呼びかける声がした。環がびっくりして振り向くと、自転車に乗った広田くんが、笑ってこっちを見ている。
「もっとゆっくり歩けよ。要ちゃん、こわがってるぞ」
「あ……、うん」
 環は顔に血が上るのを感じて、おどおどと視線をゆらしてうつむいた。もっとも、すばやく周囲を見回して、ワキたちグループの気配がないかを確かめることは、忘れなかった。住宅街の静かな道には、環たちのほかに人影はない。環はほっとした。学校から、ずいぶん離れたから、もう大丈夫みたいだ。
 広田くんは自転車から下りると、環の方は見ずに、要の方に近寄って声をかけた。
「要ちゃん、サンタに会ったんだって? どうだった?」
 すると要の顔がぱっと明るくなった。
「うん! すごかったよ。やさしくて、大きくて、とってもきれいな声なの!」
「へーえ」
 環は、広田くんの自転車に、大きなスポーツバッグがくくりつけられているのに気づいて、言った。
「今日、野球の練習なの?」
「ああ、もうじき練習試合があるんだ」
 広田くんは環の方にちょっと目を向けて、言った。
 環は、今自分がしたことが、一瞬信じられなかった。こんなにさりげなく、広田くんに話しかけることが、自分にできるなんて……! 今日は、ほんとに調子がいい。何だってできそうな気がする。
 環はウキウキして、もう一度何か気のきいたことを言おうと考えた。でも広田くんは、環の方は気にせず、要とばかり話している。
「おにいちゃん、野球するの?」
「うん、アサギリタイフーンっていうチームなんだ。強いんだぜ。大会で優勝したこともあるんだ」
「タイフーン? それってどういう意味?」
「英語で台風のことだよ。この名前、おもしろいか?」
「おもしろい!」
「じゃあ、要ちゃんのテープに、今度吹きこんでやろうか?」
「うん! じゃあ要もね、おにいちゃんにテープきかせてあげる。サンタさんの声が入ってるんだよ!」
 環は、要がうれしそうに広田くんと話をしているのを見て、少しいらいらしてきた。どうにかして広田くんの注意を自分の方にひきたい。環は頭の中であれこれと話のきっかけを探した。そうだ。広田くんに、自分が大人っぽくてちょっと気のきく女の子だってことを、もっとアピールしよう。そう思った次の瞬間、環の口から、思いもしなかった言葉が出てきた。
「要ったら、あれはほんとのサンタさんじゃないよ」
 環は、特に意識している訳でもないのに、いつも和希がしている、こくびを曲げて斜めから見下ろすような姿勢で、要を見た。それは傍から見ると、ひどく人をバカにしているように見えた。
「え?」
 広田くんの声がする方に顔を受けていた要が、ふと宙に視線を上げた。首が傾いて、耳が環の方に向いた。環は、まるで紙くずを投げるように、無造作にその耳に声を放りこんだ。
「尾崎さんが言ってたもん。あれは、元学校の先生で、サンタの格好をしてるだけの、ただの普通のおじいさんだって」
「だ、だって、だって……」
要が泣きそうな顔になった。環は頭のすみで少し、しまったと思ったが、もう口の方がとまらなかった。
「サンタなんて、いつまでも信じてるから、要は幼稚だって言われるのよ。もっとゲンジツを見なきゃ……」
 瞬間、違う、こんなことを言いたいんじゃない、と思ったが、もう遅かった。環は、苦しげに言葉を区切ると、今言った言葉を吸いとろうとするかのように、大きく息を吸い込んだ。
 凍りついたような静けさが、まわりを囲んだ。環は、おそるおそる、広田くんの方を見た。広田くんは、針のような視線で、環をにらみつけていた。環は、息をつめたまま、さっと目をそらした。
 突然、要が、それまでにぎりしめていた環の手を放した。宙を向いた要の視線が、ゆっくり環を振り向いた。あめ玉のようなうるみ気味の瞳に、環の顔が映りこんだ。環は、今になって、頭の中がじわじわとさえてくるのを、感じた。まるで、朝からずっと夢を見ていて、今ようやく、目を覚ましたかのように。
「……おまえって、バカじゃないのか!」
 広田くんが、最初に沈黙を破った。環は、びくりと肩を動かした。広田くんは環からさっと目をそらすと要の方にかがんで、声を低めて言った。
「要ちゃん、こんなやつの言うことなんか気にするなよ。おれはちゃんと知ってるよ。あのサンタは本物だって」
 要は、うつむいて、あごをこくりとひいた。広田くんは安心したように、背筋を伸ばしかけたけど、すぐに要の顔がくしゃくしゃになって、涙がぽろぽろ流れはじめた。要がなかなか泣きやまないので、広田くんはおろおろしながら、言った。
「……じゃ、要ちゃん、今日はおれが送ってってやろうか?」
 要は、ふと黙りこんだ。そしてしゃくりあげながら、しばし考えているように、持っていた杖をさすった。広田くんは心配そうに要の顔をのぞき込んだ。けれど、やがて要は、ゆっくりとかぶりを振って、小さな声で言った。
「……ううん、おねえちゃんと、帰る……」
「そうか? 大丈夫か?」
「うん……」
 広田くんは、まだ不安がありそうに、環の方をちらりと見た。そして何かを言いそうになったけれど、また口をつぐんだ。環が、うつむいたままくちびるをかみしめて、声も出さずに泣いていたからだ。涙は次々とほおを伝って、足元のアスファルトにぽたぽた落ちていた。広田くんは、気まずそうに顔をそむけた。
「じゃ、おれ……、練習あるから……要ちゃん、本当に気にするなよ」
 それだけ言うと、広田くんは自転車に飛び乗って、逃げるように去っていった。
 人気のない通りに、要と環は、二人だけになった。環も、要も、道の真ん中にクイのように立ち尽くしたまま、動かなかった。
 やがて環は、何も言わずに、涙をふくと、遠慮がちに、そっと手を要の方に伸ばした。でも、要は環の手の気配を感じると、さっと手をひっこめた。環は胸がくっとしめ付けられたような気がして、空っぽの自分の手を、にぎりしめた。
 その時。
 切り裂くように、どこからか、甲高い鳥の声が、聞こえた。
 目をあげると、遠い電線の上で、小さな鳥の影がとまっているのが見えた。環は、今朝夢に見た光景が、突然、くっきりとした映像になって蘇るのを見た。
 これはまだ、あの夢の続きだろうか?
 遠い鳥の影が、今にも石のように自分の方に落ちてくるような気がして、環はくらくらと、めまいがした。

 (つづく)



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ばらの”み” 11

2013-10-24 03:30:14 | 月夜の考古学

6 鳥の影

 サンタクロース探偵団の活動は、それからも続いていった。
 あれ以来、光はみょうに自信を持って、サンタと会って話をしたことを得意げに幼稚園でふれ回っている。光がもたらした知識は、幼稚園児にはけっこう衝撃的だったらしくて、光の『プチ・ノーレのサンタ本物説』を支持する子どもたちが急に増え、英くんを中心とした『ニセモノ説』支持者の集団をおびやかしているそうだ。また要は要で、学校で先生や友だちに質問して、みんながサンタを信じてるかどうかを調査したり、サンタに言われた通り名前集めに精を出して、『音の秘密』を探ったりしている。
 そんな風に光やカナメが持ち帰ってくる報告を、お母さんは自ら「サンタ・ノート」と名付けたノートに、ちくいち書きためていく。おかあさんは、そのノートに記した探偵団の活動記録を、いずれまとめ直して、すてきな本にするんだと言っている。別にどうしようとかまわないけど、それを友だちに配るというアイデアだけは、何とか阻止しなければと、環は思っていた。
 一体いつになったら、こんなバカげた毎日が終わるんだろう。環の心は、日に日に憂うつになった。おかあさんは、当然のように環にも活動報告を要求してくるので、そのたびに宿題があるから、疲れてるからなどと言い訳を考えて、逃れなければならない。
(おとうさん、帰って来ないかな……)
 おとうさんさえ帰って来れば、こんな幼稚な探偵団なんかいっぺんで解散させてくれるのに。でもあの日以来、おとうさんは電話一つよこして来ない。環はうらめしく思った。
 けれど、しばらく時がたつと、要も光も、サンタのことをあまり口にしなくなった。それにともなって、探偵団の熱気も少し沈静する気配をみせはじめ、環はほっと安堵した。よく考えたら、あきっぽい光が、そんなに長くひとつのことに熱中できるはずはないのだ。きっとこのまま、探偵団なんて自然消滅していくに違いない。
 しかし、それが甘い考えだったことを環が思い知るのに、そう時間はかからなかった。
 それは、十二月も半ばにさしかかった、ある朝のことだった。
 いきなり目覚まし時計のベルが鳴って、環はぱっと目を開けた。と、瞬間天井から何か黒いものが石のように落ちて来たような気がして、環は思わず悲鳴をあげた。
 心臓にずしんとショックが起こったような気がして、一瞬息がとまった。思わず目を閉じて、おそるおそるまた開けた。かすんでいた視界が、はっきりしてくると、それは例の天井の魔女の顔だということがわかった。光の加減だろうか? なんだかいつもよりそれはずっと大きく、黒っぽく、不気味に笑っているように見えた。
 すぐに起き出す気にはなれず、環はしばらく布団にしばられたように、ぼんやりとしていた。みょうに、頭が重かった。それは体の調子が悪いというのではなく、どうも、訳もなく腹が立つような、いらいらしているような、要するに、虫の居所が寝違いでも起こして、おかしくなったような、そんな感じなのだ。
 朝からいやだなと思いながら、それでものろのろと起き上がって着がえを始めると、環はようやく、それが夢のせいだということに気がついた。そういえば、さっきまでおかしな夢を見ていたのだ。何か、変なものが空を飛んできて、自分にぐんぐんと向かってくるような夢だった。
(鳥? いや、飛行機だったかしら……?)
 環は頭をぼりぼりかきながら、思い出そうとがんばってみたけど、夢のかけらはもう一つも浮かんでは来なかった。
「まあいいや。ごはん食べよ」
 着がえを終えて、居間に出てくると、要がテレビの横の窓を少し開けて、一身に耳を外に向けて立っているところに、出くわした。光も要の下に陣どって、窓のすき間からじっと外をのぞいている。
「何してるの?」 
 環が言うと、後ろから来たおかあさんが、人差し指をくちびるの前に立てて、言った。
「しっ、大きな声出さないで。今ね、庭のピラカンサに、鳥が来てるのよ」
「鳥?」
 頭の中に、かすかな夢の記憶がよみがえって、環は顔をしかめた。
「鳥が、ピラカンサの実を食べに来てるの」
「ただのスズメでしょ」
「ちがうわよ。もっと大きな鳥。環も見てみる?」
「いいよ。それより朝ご飯は?」
 環は不快げに目をそらしながら言った。
「もうできてるわよ。食べなさい」
 おかあさんは、要や光のいる居間の方をはばかるように、声を殺しながら言った。その声の、いかにも物事を楽しんでいるような言い方が、よけいに環をいらいらさせた。おかあさんも、要も光も、どうしてこう、どうでもいいことにばかりで大さわぎするのかしら?
 環がイライラをおなかの中で煮込みながらテーブルについた時、突然電話の音が聞こえた。それと同時に、居間の方で要たちの小さな悲鳴が起こった。電話の音に驚いて、鳥が逃げでもしたのだろう。
 環は黙って立ち上がり、いそいで玄関に電話をとりに行った。こんな時間にかけてくるのは、きっとおとうさんに違いないと思ったけれど、受話器を取って耳に飛び込んできたのは、興奮気味のかん高いおばさんの声だった。
「ちょっと! 今朝の新聞見たわよ! もう亜智さんたら、ほんとにやるんだもの。びっくりしたわ!」
「あ、あの、わたし環ですけど……」
 環が言うと、電話の向こうで、おばさんは一瞬声を飲んで、あらぁ、ごめんなさいねぇ、と言った。
「タマキちゃんだったの? 声がおかあさんとそっくりね。タマキちゃんは、もう新聞見た?」
「いいえ、まだですけど……」
 環はとまどいがちに答えた。聞き覚えのある声だけれど、だれの声なのか思い出せない。おかあさんの友だちだってことはわかるんだけれど。
「じゃあ、今日の新聞の十二面、見てごらんなさい。ちゃあんと載ってるわよ! でも、ほんっとにおもしろい人ね、亜智さんて!」
「はあ……あの、母とかわりましょうか?」
「ううん、いいわ、忙しいだろうから。朝っぱらからごめんなさいね。びっくりしちゃって、つい電話しちゃったの。もう切るわ。後で電話するって言っておいてくれる?」
「はい、あの……」
 名前をきかなきゃと、環が思った時には、もう電話は切れていた。
「新聞……?」
 首をかしげつつ、居間の方に戻ると、要たちはもう台所でトーストにかじりついていた。
「ねえ、どんな鳥だった? 大きい? きれい?」
 要は興奮にほおを染めて、しきりにおかあさんにたずねていた。
「ここらへんでよく見かける鳥なんだけど、名前が思い出せないのよ。でも図鑑を調べればわかるわね」
「要、鳥の声きいたよ。なんかねえ、鳥がいるとね、すっごく、ぱちぱちしてるみたいね!」
「まあ、ぱちぱちって、どんな感じなの?」
「うーん、えーっとね、なんかね……ほら、お風呂に入った時、お湯たたくと、いつもおかあさん怒るけど、ぱちぱち!てかんじでしょ。それでね、鳥がいるとね、要の体の中、そんな感じに、ぱちぱち!って、するの……」
 台所の会話を聞き流しながら、環はコタツの上の新聞をとった。いつもはテレビ欄くらいしか見ないから、新聞を開くなんてめったにないことだ。十二面を開くと、『暮らしのネットワーク』という大きな見出しが最初に目に入った。細長い枠が紙面いっぱいにタイルのように並んでいて、運転手募集とか看護師募集とかの文字が、その枠の中にぎっしり詰め込んである。『ペットを探してください』とか『ご結婚おめでとう』とかいう文字も見える。どうやら新聞を利用した市民の伝言板みたいなものらしい。
(おかあさん、何かの伝言でも出したのかしら?)
 環が紙面に目を走らせている間も、台所では鳥の話が続いていた。
「ぼくは、鳥飼うとしたら、タカがいいな」
「まあ、ヒカルはタカ飼うの?」
「うん、こうやって手にとまらせてさ、ぼくが口笛ふくと、ぱっと飛んでったり、空から戻ってきたりするんだ!」
 ばっかね。タカなんかあんたに飼えるわけないじゃない、と環は思ったけれど口には出さず、新聞を読み続けた。
「光ちゃん、いいなあ。……ねえ、おかあさん、タカってすごく高く飛ぶんでしょ? だったら要にお星さまとってきてくれないかなあ」
「そうねえ……あ、そうだ。タマキ、さっきの電話、誰からだったの?」
 おかあさんが、思い出したように言った。環は返事をする代わりに、新聞をばさりと持ち上げて、すっとんきょうな声をあげた。
「おかあさん、これ何!」
「あらびっくりした。何って、なあに?」
「これよ、これ!」
 環は新聞をおかあさんのところに投げるように持って行くと、その枠のある所をぱんぱんたたいた。それは紙面の下の方にある小さな枠で、こう書かれてあった。
『サンタクロースを見たことある方、連絡ください。△△△-○○×× 砂田亜智』
「ああ、それ、この前申しこんどいたの。ちゃんと載せてくれたのね」
 おかあさんは環から新聞を取り上げると、しばし活字を見つめて、得意そうに言った。
「なかなかのアイデアでしょ、どう、タマキ」
 環は口をあんぐり開けて、おかあさんの顔をまじまじと見つめた。
「どうって、おかあさん、何したかわかってるの?」
「いやねえ、こわい顔して。何を怒ってるの?」
「怒るわよ! 前からバカだバカだって思ってたけど、おかあさん、こんなことまでやるほど、バカだとは思わなかったわ!」
 環はこの時、自分で自分の言ったことに、少しびっくりした。おかあさんにこんな乱暴な口答えをするなんて、もしかしたら初めてなんじゃないだろうか?
「……失礼ね。それじゃ、おかあさんがよっぽどバカみたいじゃない」
「バカよ! そんな記事、もし友だちに読まれたら、わたしがバカにされるじゃない!」
 環は、内心とまどいつつも、言葉の勢いにかられて、たたみかけた。さすがのおかあさんも、ちょっと煙たそうにまゆをひそめて、言った。
「心配しなくても大丈夫よ。子どもは新聞なんか読まないわ。だいたい……」
「子どもは読まなくても、親が読むわよ! きっといつか、ぜったいクラスのみんなにばれるんだから! そうなったらどうしてくれるのよ! だいたいおかあさんて、いつもそうなんだから! わたしの気持ちなんて、全然わかってないんだから!」
 環は、わめいているうちに、だんだん怒りがふくれあがってきているのを感じた。おかあさんは、いつもとちがう環の勢いにとまどいつつも、何とか平静を保って、返した。
「タマキったら、落ち着きなさい。何怒ってるの。広告を出したのが、そんなに悪いことなの?」
「サンタを見た人なんているわけないじゃない! 何でそんな常識がわからないのよ!」
「あら、じゃあかける?」
 おかあさんは、ちょっとカチンと来たようで、パッと言い返した。環を見つめる目が、少しとんがっている。それを見た環は、ちょっと心がひるんだけれど、もうどうにも気持ちがおさまらなかったから、目を閉じて思い切り大声で、「バカぁ!」と吐き捨てた。
 するとおかあさんは、大きな石つぶてでもくらったように、ぱっと目をとじた。環はおかあさんの表情の中に、むずむずしている怒りを読んで、一瞬勝ち誇ったような気分になった。今にもバクハツするんじゃないかと思って身構えていたけれど、おかあさんはごくりと何かを飲み込み、小さなため息をついた。そしてすぐに普段の顔にもどって、少し悲しそうな笑顔を作ると、環を見て、なだめるように言った。
「さあ、タマキ、朝っぱらからそんなに怒ると消化不良起こすわ。これも探偵団の活動の一環なんだから。心配しなくても、おかあさんは団長として、ちゃんと考えを持って活動してるの。いつかきっとタマキにもわかるわ。……さ、ご飯食べなさい」
 環は、なんだかバカにされたような気分になった。持っていきようのない感情が、おなかのなかでぐるぐるして、気分が悪かった。何かを言い返したいんだけど、言葉が浮かんで来ない。テーブルの上をちらりと見ると、おいしそうなフレンチトーストが並んでいた。でも環は、それに手をつけようともせず、ぷいと背を向けると、何も言わずに洗面所の方に向かった。
 背後で、おかあさんが小さなため息をついたのが、また聞こえた。するとそのとたん、環の怒りは、もうどうにも手のつけようがないほど、激しく燃え上がってしまった。
 洗面所に入り、鏡の中の自分をにらみながら、環は洗面台のコップをとって激しく床にたたきつけた。
(みんな、なにもわかってないんだから!)
 環は怒りに全身をこわばらせながら、今この家の中で、真実をわかっているのは自分だけなのだと、半ば絶望的な思いで、確信した。

 給食の後の休み時間、環は一人で教室を出て、図書室に向かった。この前に借りた本を返すためだ。おかあさんは読んで感想を言えなんて言ってたけど、ばかばかしくて結局一行も読まないまま、本は机の奥で忘れられていた。
 今のところあの新聞のことは全然クラスの話題にはなってない。おかあさんの言ったとおり、子どもは新聞なんか読まないのだ。でも、親の口を通じて、いつみんなに知られるかわからないから安心はできない。環は、どうか、今日一日、関係者は誰もあの枠を見ませんようにと、祈るしかなかった。
「砂田さん、どこに行ってたの?」
 教室に戻ると、さっそく史佳が環をつかまえて言った。史佳は、環が自分に黙って一人で行動することが、あまり好きではないらしい。

   (つづく)



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どうにかしてくれ

2013-10-23 04:12:02 | 苺の秘密

魂が 溶けるような
美女だったんです
魂が 溶けるような
美女だったんです

いやなんですよ
あれと おれが
まるで関係ないなんて
おれが すきなのに
あれは なにも
知らないなんて

いやだったんですよ

おれたち
女しか
ないんです
なんも しないから
いたいこと
えらいこと
なんもしないからあ
女だったら
なんとかしてくれるんです
おれたちに
なんでもやってくれるんです

おれたち
なんでもやったんです
相手にされねえのが
いやだからって
男の 奴隷にならねえと
許さねえって
女 馬鹿にするために
なんでもやったんですよお

だって
女が いなくなったら
もうおれ おわりなんですよお
どうにかしてくれえ
なんもできない
なんもできない
こんなやつにかぎって
ばかみたいに
女にすがりつく
いつまでも いつまでも
すがりついて
はなれねえもんだから
しかたなく
女が折れて
なんとかしてくれてたの
でも それも
だめんなったのよお

女が 死ぬの
死んで いなくなるの
魂が 溶けるような
きれいな女が
みんないっちまう

おれだけで
ひとりぼっちで
おれだけで
だれもいない
さみしい
さみしい
さ み し い
えらい えらい
つらい つらい
くる  し     い

い や だああああああああ

だれか
どうにかしてくれえええ



コメント (1)
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