誰かになりたいと
町をさまよう女は
黒いハイヒールをはいている
少しでも
この汚い世界から離れたい
空に
吸い込まれてしまいたい
だが狂おしく
おまえは地上にしばりつけられているのだ
永遠の罪の鎖によって
二度とはない命を
蛙のように踏みにじった
その血の染みのあとのある
足によって
永遠にこんな自分など捨てて
誰かになってしまいたい
馬鹿なことをして
いやなものになった自分など
どこかに捨てて
どこに捨てればいい
通りすがりの兎を殺して
その皮をかぶれば
嫌なことは隠せる
でも存分に兎の血が
自分に染み込むのだ
骨がきしむほど
生皮ごとはいでしまいたい
この自分に
逃げれば逃げるほど
おまえは自分が嫌なものになっていく
その地獄を抱えて
窮屈なハイヒールをはき
迷宮のような町をさまようのだ
ゆくところなどどこにもない
馬鹿め