この魂は 生きている間
ほとんど人間に愛されたことがない
これで救済をやったのか
ほとんど自分の愛のみによって
これは きつい
人間は 美しい女性には冷酷ですから
それを巡って争うことはあっても
決して本気で愛そうとはしない
美しいだけの馬鹿であれば安心できたのでしょうが
かのじょは優れていすぎた
だれかと だれかが
会話をしている
一方はプロキオンのようだ
だがほかのひとりが誰なのかはわからない
わたしは反応しようとしたが
自分がまるで泥のような眠りそのもので
何もすることはできなかった
ただ 流れていく会話だけをながめていた
ずいぶんと狭い部屋だ
必要最小限のものはあるが
雑然としている
だれも愛を注がないのか
かのじょも これくらいは当然だと思っていますよ
愛されたことの少ない魂は
こんなことになど 慣れていますから
これが苦しくならなくなるまで
やったのか
やらざるを得ませんでしたから
それだけを最優先して生きてきたら
こうなってしまったのです
むごいね
これは
ありきたりの幸せがどんなものであるかすら
この人は知らない
深いため息が 顔にかかるような気がしたが
それも遠い世界のことを
画面で見ているようなことに感じて
はたして本当のことなのかわからなかった
でも会話は続いている
わたしのことを話しているようだ
すべてを救ってしまったものが
このようなものであることを
人間はどう考えているのか
何もわかってはいません
自分たちのしたことが何だったのかを
わかった時にはもう
寒さに凍りついているでしょう
ふむ
なんとも小さな道具だ
それも人間に遠慮して恐る恐る使っている
これだけですべてをやったのか
ええ
これしかなかったのです
これでやれたというのが
まさに馬鹿だということです
なるほど
どのようになさいますか
主方向はさほど変わらない
だがある方面で
大幅に方針を変えねばならない
そうでしょうね
もはや星々は動いているが
わたしも苦い決断をせねばなるまい
どのように?
それはまだ言えぬ
ああ 部屋に妙な穴があいている
これはまた苦しい
わたしがなんとかしてやろう
このままでは寒いだろう
わたしは 夢の中で
自分の部屋の壁に
小さな黒い穴があるのを見た
いつの間に空いていたのだろう
ときどき隙間風が入っていることには気づいていたけれど
あんな穴があいていたからだったのか
一息 小さな歌のような声が聞こえたかと思うと
歌は見る間に 七色の板になって
その穴を埋めていくのだ
すると 不思議に体が暖かくなってきて
何かに包まれているような感じがして
わたしは安心して
また眠りの方に少しずつおりていった
ああ そうか
あんな穴があったから
寒かったのだ
もう寒くないんだ
歌は 低い子守唄になって
やわらかな泡玉になってわたしの方に降りてくる
安心していいと
だれかが言っている
ああ 安心していいのだ
もう