月の岩戸

世界はキラキラおもちゃ箱・別館
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セギン・28

2021-03-31 04:58:28 | 詩集・瑠璃の籠

にぎやかな街を避け
人通りの少ない
路地裏に入れば
そこには
誰かが捨てた自分が
転々と落ちている

愛を盗んだ罪に
耐えられなくなった馬鹿が
みんな捨てていったのだ

美しくなりたいからと
みっともない盗みをした
いやらしい自分など嫌だと
みんな捨てていったのだ

こんな馬鹿な自分は嫌だ
こんな汚い自分は嫌だ
馬鹿は永遠に逃げ続ける
自分ではない
美しい他人になりたくて
愚かな美人をつくっては
嫌になって捨てるのだ

誰も生きようとしない
誰も背負おうとしない
愚かな自分が
路地裏に落ちている
死ぬこともできずに
イソギンチャクのように
揺れている

黎明の穴に
すべてが吸い込まれるまで
馬鹿の抜け殻が
命のない命を
呆然と生きている




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ガラクシア・43

2021-03-30 05:33:00 | 詩集・瑠璃の籠

愛がやってくる
愛がやってくる

万年の間
行方知れずだった肉親のように
愛があなたを訪ねてくる

その時が来たら
涙をもって抱きしめなさい
もう二度と放しはしないと

万年の間
地球を吹いていた嘘の嵐に
愛はずっと耐えていたのだ
その愛を
あなたの家に招き入れ
永遠にともにいようと誓いなさい

愛がやってくる
愛がやってくる

万年の時を
絶望の砂にもまれながら
けしてあなたを忘れなかった
愛が
あなたのもとにやってくる




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ゾスマ・51

2021-03-29 05:33:46 | 詩集・瑠璃の籠

馬鹿が
高いところにのぼりすぎたのだ

蛙のように小さな自分が
いやでたまらず
月のように高いものになりたいと
おまえは嘘で自分を美しくしすぎたのだ
馬鹿者め
降りるに降りられぬ

盗んできた黄金の夢を
すべて神に返し
やぶれ衣一枚のみじめな姿となって
てっぺんから真っ逆さまに落ち
なにもかもを失えば
落ちる地獄が浅くなるだろう
だがおまえにはできまい

夢にまで見た
天使のような美人になって
嘘寒い芝居を打ち続け
魂がすり減っていく音に
気づきもせず
おまえはおまえに
見捨てられていくのだ

上りすぎた嘘のてっぺんから
降りることもできず
自分ではないものの
最も深い闇に
おまえは落ちていくのだ




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ベクルックス・67

2021-03-28 05:34:00 | 詩集・瑠璃の籠

うそをついている自分を
背負うのが苦しいばかりに
魂がこそどろのように
逃げていく女がいる

うつくしいものになりたかった
きよらかなものになりたかった
そのためにこぎたない泥棒をして
いかにもうつくしい自分をこしらえた

偽物の自分を
かつらのようにかぶって
見せびらかすように表を歩くと
神の目をしたこどもたちが
指をさして悲しげに歌う

ごらん
天使を映した鏡をまとい
馬鹿が歩いていく
猿のしっぽを
得意げにたてながら
馬鹿が歩いていく

正体を見抜かれた馬鹿が
逃げていく
うそをついている自分が
しびれるほど恥ずかしくて
馬鹿は自分を捨てて
こそどろのように逃げていく

ちまたに
魂に逃げられた
うその自分が
不用品のようにたくさん
転がり始める




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カノープス・56

2021-03-27 05:34:44 | 詩集・瑠璃の籠

盗んだものでつくった
美女のすがたをまとい
偽物の青春の輝きを
謳歌する馬鹿者よ

欲深い老婆の顔が
仮面の下から
透けて見えるぞ

嘘ばかりついてきて
何もしてこなかった
猿のように馬鹿な顔が
仮面の下で
呆けているぞ

盗んだものでつくった
美しい自分がうれしいか
心さえ
それで変えられるものだと
思っているのか
愚か者よ

自分というものを
馬鹿にしている限り
おまえには何もない
何もない自分を嫌がり
すべてを人から奪って
おまえは
永遠の女神にさえ
なりたいと願うのだ

何もない自分の
すべてを埋めるために
ありとあらゆるものを
欲しがるのだ

その欲深な心が
本当のおまえを
醜い老婆にしていることに
その真実に
おまえはいつ気づくのか

自分を嫌がっている限り
おまえは醜いものでありつづける
何もない自分を満たすために
ありとあらゆるものを
人から盗むからだ

盗んだものでつくった
美女の姿をまとい
偽物の青春の輝きを
謳歌する馬鹿者よ

その自分がうれしいか




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アンドロメダ・25

2021-03-26 05:30:13 | 詩集・瑠璃の籠

神の家を建てなさい

この世における
神と人とのきずなを
深くするために
神の家を建てなさい

うつくしいまごころで
人が神のために
つくる建物には
神が住むだろう

小さくともよい
庭には木を植え
森をつくり
風や鳥や
小さな生き物たちを
呼び込むのだ

そうすれば
それらが
神のうつわとなって
人のたましいに
神の水を注いでくれる

神の家を建てなさい
世界中に建てなさい

そうすれば
あらゆる境界を越えて
すべての人が
美しい神の庭に
集うことができるだろう




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アークトゥルス・51

2021-03-25 05:29:52 | 詩集・瑠璃の籠

鼠の背中に生えた
灰色の稲田の中に
絶望の国がある

鋼の太陽と蠟の月が
空を支配し
神に見捨てられた
山脈の骸が
蛇のように大地に横たわる

年を取った赤子の王が
玉座にそりかえり
氷の乳房を持った
傀儡の女神が
王を守護する

癌のように愛を嫌い
虎の胃の中に楽土を見出す者よ
見るがよい
ただ一人の神になろうとした
馬鹿が支配するという
絶望の国を

誰もいない
何もない
盗人の頭を
葡萄のようにつらねて
沃土の幻影をつくり

魂のないこどもを
糞のようにひり続ける
死女の子宮が
国を支えている




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ムジカ・20

2021-03-24 05:29:45 | 詩集・瑠璃の籠

水晶の林檎を割り
滴る真実の種を飲んで
もう帰っていきなさい
本当のあなたに

青瑪瑙で作った
機械仕掛けの心臓が壊れる前に
もう帰っていきなさい
あなたの本当の故郷へ

神の庭に咲いた小さなすみれから
盗んだ名声を神に返し
もう帰っていきなさい
あなたの本当の親が住む
小さなあばら家へと

永遠に嘘で生きていくことなど
できはしない
あなたは沈んでいくガラスの船の中で
空気の砂にもまれながら
矛盾の棺の中に
たたみこまれていくのだ

神の目を持つ子供たちに
正体を見抜かれながら
嘘に溺れていく自分を
どうすることもできず
永遠の仮構の童話の中に
吸い込まれていくのだ

水晶の林檎を割り
滴る真実の種を飲んで
もう帰っていきなさい
本当のあなたに




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コカブ・22

2021-03-23 05:25:12 | 詩集・瑠璃の籠

人間は
自分がつらいから
傷つけあうのです

けものが
小さな自分を守るために
牙をむくように

まだとても小さくて
弱い自分が
ひどく悲しいのです

馬鹿なことばかりして
自分を馬鹿にしてしまう
自分のあほらしさが
ひどくつらいのです

自分が存在することが
痛くてたまらない
食い込む針金で
自分の肉をしばり
ばらばらにしてしまいたいほど
自分が痛い

こんなに苦しいのは
だれのせいなのだと

孤独の鍋の中に
憎悪の油を煮込んで
すべてを破壊してしまいたいとさえ
思うのです

戦争も虐殺も蹂躙も
すべての悲劇は
これから起こったのです




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トリアングルム・39

2021-03-22 06:03:07 | 詩集・瑠璃の籠

とわの別れとなる前に
おまえに
言っておきたいことがある

愛とは
永遠をつなぐ
うたである

途方もない宇宙の
魂の鎖を編む
不思議な手である

どうしようもなく
ありつづける自分の
根底に燃え続ける
永遠の希望である

もはや
二度とは会うことはない
おまえに
伝えておきたいことがある

失ったものすべてよりも
けして失わぬ
たったひとつのもののほうが
大きい

それこそが
愛の本当の姿なのである




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