模型工房クラフトベース工房主の気まぐれ日記

仕事での模型製作や、趣味のプラモ・ガレージキットの製作過程、TVや映画の事など、気の向くままに書いています。

映画「グスコーブドリの伝記」感想

2012-07-13 12:20:25 | 感想
宮沢賢治の小説を、アニメ映画化。

かつての名作アニメ「銀河鉄道の夜」の杉井ギサブロー監督、キャラデザイン・ますむらひろしが再び携わっています。

まず圧倒的な映像の美しさで、冒頭から引き込まれます。
色彩や奥行きがすばらしく、それにますむらひろしの猫キャラがぴったりはまっています。

幸せな四人家族に押し寄せる、冷害による不幸も、その映像の美しさが、静かな怖さを引き立てているように感じました。
父が消え、後を追って母がいなくなり、妹が謎の男に連れ去られ、全てを失うブドリ。

何もできないまま山を下り、その後いろいろな人に出会いながら、街で火山の研究所の職員として働くことになります。
ここまで、ブドリは会う人に言われるがまま、その人の下でまじめに働き、勉強します。
この純朴さと愚直さは、もしかしたら観客には違和感が持たれるかもしれません。
でもこれは、極端かもしれませんが、今の日本人が取り戻さなければならないものではないか、そう思えてなりません。

研究所の懸命な働きで、火山の溶岩から町が救われたのを見て、ブドリは「すごい、すごい…」と何度もつぶやき、涙を流します。
多くの人間がひとつの目標に向けてがんばる力、それと科学の力、それがあれば、たくさんの命を救える、そう思っての涙なのではないでしょうか。

ブドリは「これまで多くの人に助けられて生きてきた。その人たちを救えるのなら、自分はどうなってもいい」とまで言います。
他のドラマやアニメなら、あまりにストレートでペラッペラに聞こえてしまうのですが、ブドリの言葉は心底素直に聞こえます。
まさに「雨ニモマケズ」の詩のままに生きているようなキャラですから。

宮沢賢治が書いているという背景も当然あるのですが、この映画にもその賢治の気持ちはしっかり反映されていると思います。

この映画、巷では「偽善的」とか「時代に合わない」なんて言う人もいるようです。
しかし、純朴なブドリの、素直な言葉は、とても強く胸を打たれました。
それに、時代に合わせた結果、今の映画がTVドラマの続編ばかりになっているわけですから、時代や流行にとらわれない作品はやはり必要です。

説明が少なく、抽象的な表現やストーリーも賛否が分かれるところですが、あえて観る人によっていろいろ捕らえ方が変わる作りにしていると思います。
そのあたりは、まさに絵本的な作りと言えるのではないでしょうか。

小学生に、読書感想文ならぬ映画感想文を書かせてみると、面白い作品かもしれません。

ちなみに僕は原作を読んでいないのですが、この映画、原作とはストーリーがかなり違っているのは一目瞭然。
原作のごく基本的な部分を押さえつつ、幻想的な映像の美しさと、ブドリの素直さを全面に表現した作品です。

個人的には大満足でした。
コメント
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