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今年もやってるやってる~

この階級、この選手(ウラジミール クリチコ:ヘビー級③)

2020年05月24日 09時36分23秒 | ボクシングネタ、その他雑談

1990年代初頭からこれまでの約四半世紀、それぞれの階級で印象に残った選手を各階級3人ずつ挙げていっています。記載上のルールは各選手、登場するのは1階級のみ。また、選んだ選手がその階級の実力№1とは限りません。個人的に思い入れのある選手、または印象に残った選手が中心となります。

イベンダー ホリフィールド(米)、レノックス ルイス(英)と続いたヘビー級。最後を締めるのは、ホリフィールド、ルイスの後の時代に活躍したウラジミール クリチコ(ウクライナ)になります。

(ヘビー級最期を飾るのはウラジミール クリチコ)

ホリフィールド、ルイス同様にオリンピックに出場し、メダルを獲得したウラジ。プロ入り後は69度の実戦を行い、敗れたのは僅か5度。世界王座に就く事2度。2度目の王座時代には3団体の王座を統一し、2つの王座時代合わせて23度もの防衛に成功。記録だけ見ると、ホリフィールドやルイスのそれを上回っていると言っても過言ではないでしょう。しかし私(Corleone)にとって、なぜだか負けた試合の方が強く印象に残っている選手です。

1996年11月から2017年の4月までリングに上がり続けたクリチコですが、敗れたのは5度で、その内4度はKO/TKO負けを喫しています。その内訳を見てみると、まずは世界王者になる前の1998年12月、無名のロス ピュリティ(米)を相手にスタミナ不足をさらけ出し、11回逆転TKO負け。その後、兄ビタリからWBOヘビー級王座を番狂わせのTKO勝利で獲得していたクリス バード(米)から王座を奪ったウラジ。フランソワ ボタ(南ア)、レイ マーサー(米)、ジェイミー マククライン(米)等強豪を退け安定王者の風格が漂い始めていました。そんな矢先、強打のコーリー サンダース(南ア)の強打の前に3分27秒で沈められたウラジ。またしてもセットバックを余儀なくされてしまいました。

 

(格下ピュリティにまさかの不覚を取ったウラジ)

サンダースに撃沈されてから13ヵ月、WBO王座決定戦に出場したウラジは、強打のレモン ブリュースター(米)と対戦。不用意な打ち合いに応じてしまったウラジは、中盤戦でストップ負けを喫してしまいました。

(サンダースに沈められたウラジ)

スタミナ不足、打たれ脆さと弱点を突かれ敗戦を重ねていったウラジ。しかしエリートボクサーの外見とは裏腹に、精神的にはタフなようでした。負けても負けても再起戦のリングに上がり、それまで以上にボクシングを向上させていき、遂に世界王座返り咲きを果たしました。2006年の春に再びバードと対戦し、その時は前戦以上にライバルを圧勝。IBF王者として2度目の世界ヘビー級王座の座に就くことに成功。

(ウラジが世界王座に返り咲いた一戦、対バードとの再戦)

話は前後しますが、ウラジはバードとの再戦の前に、後のWBC王者、強打とタフネスを備えたサムエル ピーター(ナイジェリア)と世界王座への挑戦権を賭けて対戦しています。この試合では3度のダウンを喫したウラジですが、ピーターをダウン寸前に追い込むなどして明白な判定勝利を収めています。この試合を見た私は、「スタミナもつき、倒れても立ち上がってくるウラジには、もう怖いものはないだろう」と確信しました。

2006年4月に世界王座に返り咲いたウラジ。その王座を何と2015年11月までを守り続けまし。ウラジを王座から引きずり降ろしたのは、現WBC王者のタイソン フューリー(英)。198センチと長身のウラジですが、フューリーはそれを上回る206センチ。中盤戦まではその長身選手のアウトボクシングに戸惑いを見せたウラジ。終盤戦に追い上げるも事既に遅し。僅差の判定負けを喫したウラジは、長きに渡り守り続けた王座と遂に決別することになりました。

(大型フューリーの前に、最後までペースを握れなかったウラジ)

本来ならフューリーとの再戦が即行われる予定でした。しかし情緒不安定なフューリーは戦わずして世界王座を返上。その王座を受け継いだのは、フューリーの同胞で、現在3つのヘビー級王座を保持しているアンソニー ジョシュアになります。標的が変更となったウラジがジョシュアに挑戦したのは2017年の4月。ウラジも素晴らしいボクシングを見せましたが、時の勢いというのでしょうか、ジョシュアがウラジを若干上回り勝利。クリチコ弟はその試合を最後に現役から退くことになりました。

(ウラジ対ジョシュア。ヘビー級世代交代の瞬間)

ウラジミール クリチコが獲得した王座(獲得した順):
WBCインターナショナル・ヘビー級:1998年2月14日獲得(防衛回数2)
WBAインターコンチネンタル・ヘビー級:1999年7月17日(3)
欧州ヘビー級:1999年9月25日(1)
WBCインターナショナル・ヘビー級:2000年3月18日(0)
WBOヘビー級:2000年10月14日(5)
WBAインターコンチネンタル・ヘビー級:2003年8月30日(1)
NABF/NABOヘビー級:2005年9月14日(0)
IBF/IBOヘビー級:2006年4月22日(18)
WBOヘビー級:2008年2月23日(14)(2団体統一ヘビー級)
WBAヘビー級:2011年7月2日(8)(3団体統一ヘビー級)

ウラジが負けた試合ばかり挙げてきましたが、その実力と実績は歴代ヘビー級王者たちと比べても決して劣らないものでした。一度敗れているブリュースターにもきっちりと借りを返し、ロシアの技巧師スルタン イブラギモフやフューリーやジョシュアの先輩にあたるデビット ヘイを問題にせず次々に王座を吸収。カルビン ブロック、レイ オースティン、ハシム ラクマン、エディ チェンバース、トニー トンプソン等当時の米国の一線級を次々に撃破。ジョシュアの王座への挑戦が決まっているクブラト プーレフ(ブルガリア)や、WBC暫定王座へ挑戦するアレクサンデル ポベトキン(露)もウラジの軍門に下っています。

 

(フューリー、ジョシュアの一世代前のヘイには快勝)

その体格と活かした頭脳的なボクシングは、「安定度は抜群だか試合がつまらない」と長らく非難されていましたが、それこそは逆にウラジにとり最大限の誉め言葉だったのではないでしょうか。

ウラジはいくつかのヘビー級の記録も更新しています。2つの王座時代を合わせると、その政権はヘビー級史上最も長く、合計防衛回数23も、ジョー ルイス(米)の打ち立てた25度に次ぐもの。ウラジは29度世界ヘビー級戦に登場しましたが、それはヘビー級史上最多。試合自体はファンの納得するものではなかったかもしれませんが、ウラジの築いた記録は、彼が超一流であったという何よりもの証でしょうね。

(元WBO、WBC王者で現在はウクライナの首都キエフの市長である実兄ビタリと)

引退してまだそれほど立っていないため、ちょくちょくと現役復帰説が流れます。近い将来、またウラジが「現役復帰へ向け再始動」というネタが飛び交うでしょう。しかしないでしょうね、彼が再び正式な試合を行うという事は。


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