ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

人生はビギナーズ

2012-02-01 23:24:39 | さ行

ファニーで、切なくて
ステキに笑える、いい映画!

「人生はビギナーズ」80点★★★★


主人公のオリヴァー(ユアン・マクレガー)は
38歳独身のアートディレクター。

人と深く関わるのがあまりうまくない性格で
心を許せるのは
仕事と、犬のアーサーだけ。

そんな彼に、ある日突然
驚くべき事態が起こる。

75歳の父(クリストファー・プラマー)が
「私はゲイだ」とカミグアウトしたのだ。

いや、別に個人の自由ですが、と
許容しようとするオリヴァーだが、
やっぱり息子として戸惑いを隠せない。

「父と母は、愛し合っていなかったのか?」

そんなオリヴァーにも
人生の転機が訪れることに――。


「サムサッカー」(05年)の監督でもあり
X-girlのグラフィック・デザインなども手がける
マイク・ミルズ監督(45)の、
ホントの体験談から生まれた映画です。

75歳の父がゲイ?なんて
もっとドタバタ劇なのかと想像したんですが
これが違ってて、

最高に柔らかく、
不思議な肌触りのいい映画でした。

映画全体が
くすんで、でも肌になじんだ生成りのシーツみたいというか。
風合いが気持ちいいんですよねえ。


1966年生まれのミルズ監督は、
失うことが怖くて
そもそも大切なものを掴むことを拒んでしまう主人公に
まさに自分を映してると思う。

それって性格とか以前に
60年、70年代以降の
ジェネレーション的なものも、すごくある気がするんですよ。

そんな世代の人との関わりかたを、
実にグッドセンスですくってるんですねえ。

なーんかツボるものがあり、
背中をやさしくさすられたみたいに、
なんでもないに泣けてきました。


自身が書いたイラストもいいし、
オリヴァーのよき伴侶(?)愛犬アーサーも最高!
パルムドック賞あげたいですねハイ。

★2/4(土)から新宿バルト9、TOHOシネマズシャンテほかで公開。

「人生はビギナーズ」公式サイト

プレス資料を読み返していたら
川勝正幸さんが文章を寄せていらっしゃった。
郊外住宅地(サバ―ビア)、というところで、
はた、と時代を振り返った。
早すぎるけど、どうぞ安らかに。ご冥福をお祈りします。
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預言者

2012-02-01 21:06:05 | や行

いや、いま観てきたばっかなんですど。
これは、紹介したい。

「預言者」78点★★★★


カンヌ国際映画祭グランプリ受賞にして、
ようやく公開された作品です。


無学で孤児院育ちのアラブ系青年マリク(タハール・ラヒム)は
傷害罪で禁固6年となり、刑務所に送られる。

人と関わらず、孤独に日々を過ごすマリクは
あるとき
刑務所内を牛耳るコルシカ系マフィアのボス、セザール(ニエル・アリストリュプ)に
声をかけられる。

セザールはマリクに
ある人物を刑務所内で殺すよう指示する。

苦悩の末に命令を実行したマリクは、
刑務所でさまざまなことを学んでいき――。


刑務所のドラマ、と聞いてイメージするのって
とにかく暴力やレイプ、脱走やサバイバルだけど
そういうものとはちょっと違う。

深く濃く人間を描いたドラマで、
150分もあるのに、全然飽きなかった。

残忍なシーンもあるにはあるけど不必要なエグさはないし、
暴力描写も必要最小限。

そしてなにより
ほぼ主人公マリク当人に“見えるもの”しか映さない方法論がいい。


主人公と同じく我々も
物事の裏や敵になるかもしれない相手の悪巧みを
知る術がないので、

主人公同様に
「次に何が起こるかわからない」。

そして主人公の不安や動悸を
見る人をリアルにシンクロさせるんですね。


以前ご紹介した
「抵抗 死刑囚の手記より」(1956年)に近いものがありました。


はじめ弱々しいアラブ人青年が
民族、宗教入り交じる刑務所で
「誰の傘下に入るのか?」「どう決断するのか?」を
観客は息を呑んで見守ることになる。


だからこそ外出許可をもらったマリクが感じる
シャバの空気のすがすがしさと開放感を
我々も一緒に感じられるんです。

あ~空気うめえ!って。マジで(笑)

タイトルの意味も、かなり効いてきます。

東京では2/3までなんですが
横浜ほか全国順次公開なので
気になっている方は、ぜひ!

★ヒューマントラストシネマ渋谷で公開中。ほか全国順次公開。

「預言者」公式サイト
コメント (4)
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