ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙

2012-03-12 19:58:26 | ま行

メリル・ストリープがサッチャーに見える瞬間が
13秒に1回はあります。

やはりそれがスゴいなあと。

「マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙」68点★★★☆


1979年から90年まで
英国史上初にして、唯一の女性首相として活躍した
マーガレット・サッチャー(メリル・ストリープ)。

首相を退いて18年。
愛する夫デニス(ジム・ブロードベント)に先立たれた彼女は、
彼の面影に語りかけ、静かに暮らしている。

そんな彼女がふと、
自らの人生を振り返る――というストーリー。


「鉄の女」が認知症を患っていると発表されたとき
少なからず衝撃だったことを思い出します。

そんな最近の彼女の様子から物語が始まるという仕様はおもしろく
単なる伝記ではない試みもいいのですが、

その分、徹底的な「回想録」というか
全体がセンチメンタルトーンに終始しているので
そこが受け手の希望に沿うかどうか、ですねえ。

生涯愛した夫とのラブストーリーと見れば
問題ないんですけどね。


番長的には
食料品店の娘から、首相に上りつめた過程など
もっと斬った張った人生を期待してたので

意外なほどあっさりしてて物足りなかった。


あの時代から
「人は誰しも自分の足で立つべきです!」
主張した彼女の意識には大賛成!なので

もっと鉄の女っぷりが見たかった、というのが
正直なところ。

彼女を突き動かしていたモチベーションの素が
実際のところ何だったのか、とか

もっと「彼女自身」の物語を
想像でかまわないから、クリエイトして欲しかった。

全体的に「カッチリ」しすぎというか。
「英国王のスピーチ」にも同じような感じを受けたので
あれが好きな方はいけるかも。


ともあれ
本作で3度目のオスカーを手にした
メリル・ストリープは確かにすごい。

「ん?」と目をこすりたくなる
モーフィング(ある物体がある物体に自然に変わっていくあのCG)のように
サッチャーに見える瞬間が多々あり、

しかもそっくりさんではない、
もう「憑依」って感じの化け方が、化け物だなあと思いました。

★3/16からTOHOシネマズ日劇ほか、全国で公開。

「マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙」公式サイト
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おかえり、はやぶさ 3D

2012-03-10 23:23:13 | あ行

さあ、ついに最後のはやぶさムービーですよ!

「おかえり、はやぶさ 3D」31点★★


小惑星探査機「はやぶさ」の実話を題材に
東宝(竹内結子)、東映(渡辺謙)と各社が作ってきた
はやぶさ映画のトリ、松竹の作品です。


2003年5月。
小惑星イトカワへ旅だったはやぶさを
JAXAのエンジニア助手・大橋健人(藤原竜也)、そして
理学博士の野村(杏)らは見守っていた。

が、同じ2003年に
火星探査機「のぞみ」がトラブルにより
プロジェクトを断念し、

「のぞみ」を指揮してきた健人の父(三浦友和)は
この失敗とともに仕事を引退し、
家に引きこもるようになる。

はやぶさに関してアドバイスをもらいたい健人にも父は答えようとせず
親子の溝は深まっていくが――。


同じ話を見るのも3度目ですが
(試写で見た順番は、この作品が2番目だったけど)

まあ、それぞれに違うテイストとカラーがあるなあと
感心いたします。


はやぶさに起こるトラブルや
ストーリー展開を追う流れは同じですが
本作は3D映像なことと
なにより「父子の葛藤」ドラマに焦点をあてたのが特徴。

アプローチはいいと思ったんですが
そのお話がおもしろくないのが困った(汗)


はやぶさ方面ドラマも歯ごたえがなく、
トラブルが起こっても
あっさり解決で盛り上がらないし
弁達者な子ども(前田旺志郎)に解説部分をまかせるのも安直。


なによりカット変わりで
ネームプレートの位置が違うとか、
仕事に雑なところがありましたぞ。


なので
せっかくドラマ仕立てにしたのに
3D宇宙映像が強く印象に残り、
逆にもっとも宇宙学習っぽい作品な気がしました。

お子さんにはわかりやすいかも。


「なぜ、こんなにはやぶさ映画があるの?」って
多くの人に聞かれるのですが

3作品見てつくづく思ったのは

宇宙開発には“追い風”が必須で
この「はやぶさ」のストーリーは千載一遇のチャンスだということ。

すなわち
「次のはやぶさにつなげるための」プロモーションとして
これらの映画は重要な役目を果たすのだ、と。


どの映画も
少ない予算でがんばる関係者たちの苦労や、
成果が出ないことで、予算をカットされる不安を描いている。

そして宇宙開発とは
ロマンや希望要素だけでなく
科学技術推進の意味でも必要なんだということが
伝わるようになっております。


リアルタイムの「はやぶさフィーバー」には
あまりのれなかった番長ですが、

逆に映画観たことで
宇宙開発に理解が深まった次第。

がんばれ、日本の宇宙開発!

★3/10から全国で公開。

「おかえり、はやぶさ 3D」公式サイト
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SHAME -シェイム-

2012-03-08 23:11:17 | さ行

番長どうやら
「エッチ度が高い」という触れ込みで
しかしそうでもないものに
異常にがっかりするタチのようで……(苦笑)

「SHAME -シェイム-」58点★★★



N.Y.に暮らすブランドン(マイケル・ファスベンダー)は
ルックスもよく、オシャレなマンションに住む独身男性。

しかし彼は
仕事以外の時間をすべてセックスに費やす
いわゆるセックス依存症だった。

そんなある日、彼のもとに
妹シシー(キャリー・マリガン)が転がり込んでくる。

恋愛に依存し、感情的な妹に振り回されるブランドンに
封印したはずのある感情が蘇ってきて――。


各国で厳しい上映規制がかかり、
日本でも「R18+」ですら危うかったという問題作。


……ということでしたが、
うーん?そんな露骨なシーンもないけど?(笑)
ぼかし以外にカットされた部分もあるんですかね。


依存症、とか難しそうな話ですが
全然そういうことでもなく

結局のところ主人公が
叶わぬ恋のつらさを紛らわすため、
不特定多数の女とヤリ続けるという話ですから。

ホントはめちゃくちゃ切ない話なんですよね。


しかし、その切なさが
いま一歩伝わりきらない。

そもそも主人公の想いを
「SHAME=恥」と感じる感覚を、理解できるかどうかが
分かれ目なのかもしれない。

宗教上の不道徳さとかあるんでしょうか。
己を罰してる、ってことなんでしょうか。


スティーヴ・マックィーン監督は
主題をかなりストレートに投げ、
余計な飾りのない、余白多めな雰囲気に、とんがった感じはある。


ただ余白をセンスとして捉える感覚はわかるけど、
この場合はちょっと
エッセンスだけの“逃げ”にも見えなくない。

白が生きるのは
その背後にギッシリした描き込みがあってこそ、とかね。


それにしてもやっぱり
キャリー・マリガンはいいですねえ。


恋愛依存症という役のため
わざとふっくらして、人間的な「弱さ」や「しまりのなさ」のようなものを
体に付け加えている。

ゆるんだ感じの口もとや、お腹回りをバーンとさらす、
その役者魂、カッコイイな。

あと歌が上手なのに驚きました。


★3/10(土)から渋谷シネクイントほか全国で公開。

「SHAME -シェイム-」公式サイト
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ピープル VS ジョージ・ルーカス

2012-03-06 23:15:26 | は行

これは笑った!(笑)

「ピープル VS ジョージ・ルーカス」74点★★★★


「スター・ウォーズ」を愛するファンたちが、
その創造主ジョージ・ルーカスに
言いたいことを言ってやる!というドキュメンタリー。


ジョージ・ルーカス本人がメディアに出た際のインタビュー映像と、
ファンの声、さらにファンが作ったスター・ウォーズのパロディ映像などを組み合わせて
「スター・ウォーズとは何か?」を検証していくもの。

これがですね~
実におもしろいんですね~。


まず初期の3部作が映画を越えて、
グッズやパロディ映像など
観客が参加する新しい“形態”を産み出したことに
改めて感じ入りました。

「彼(ルーカス)はみんなが遊べる砂場を作ってくれたんだ」。

なーるほどね~~。


そして希望に燃えた青年ルーカスがぶち当たった
映画界の現実なども描かれる。


だが“ルーカス=ネ申”信仰はやがて
神が行った愚行、すなわちオリジナルの修復や

グッズ販売などで肥太ることへの批判となり、
さらに新作3部作への批評となだれ込む……。


これらはむろん、次元の低い悪口などではなくて

理論性とうまい比喩、
ユーモアとジョークを忘れない精神に満ちあふれた
「愛ある批判」なんですねえ。

さすがディベートの国というか、尊敬に値する文化だなあと感心。


誰かが言った
「スター・ウォーズ世代が死んだら大変だ。
遺品はプラスチックのゴミの山だもん」に爆笑しました。


クリエイティブとクリティック(=批判)を学ぶ
価値ある一本です。


★3/10(土)から渋谷シネクイントで他で公開。

「ピープルVSジョージ・ルーカス」公式サイト
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シャーロック・ホームズ シャドウゲーム

2012-03-05 20:22:17 | さ行

久々にテレビCMがガンガン流れてる映画ですね。

「シャーロック・ホームズ シャドウゲーム」60点★★★


ロバート・ダウニーJr.演じる
武闘派な新しいホームズ像と

ジュード・ロウ演じる“ワトソンくん”のコンビで
大ヒットした作品の続編です。


ヨーロッパ各地で連続爆破事件が発生。

新聞は「アナーキストの犯行?!」と書き立てるが
ホームズ(ロバート・ダウニーJr.)は別の推理をする。

いっぽうワトソン(ジュード・ロウ)は
結婚式を翌日に控えていた。

そんな彼を危険な事件に巻き込まないよう、
ホームズは一人真犯人に迫ろうとするのだが――?!


サブタイトルの「シャドウゲーム」とは
前作にも登場した
ホームズが格闘のする前に頭のなかでやる、あのシミュレーションのこと。

今回、そのシャドウゲームを多用した物語は
ガイ・リッチー監督らしい絵でもあり、
たしかにアクション娯楽作ではあるんですが、


残念ながら、話もスケールも
前作からだいぶん後退してしまった感じ。

アクションものは
“バージョンアップ”が最近の常なのに珍しい。


理由は……
さすがのダウニーJr.も素手でのアクションは年齢的にキツイのか?
あるいはアイアンマン方面で手一杯なのか(笑)

単に敵や話が見えにくいのと、
ストーリーとアクションと舞台装置がつながってないところでしょうか。

前作のロンドンブリッジのような
記憶に残る見せ場がないんだよなー。


ただホームズ&ワトソンの
名コンビぶりは健在で、二人の掛け合いは楽しめました。

だって結局、描かれるのは
ホームズのワトソンへの愛……かなとも思うし(笑)


★3/10(土)から丸の内ルーブルほか全国で公開。

「シャーロック・ホームズ シャドウゲーム」公式サイト
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