ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

誰も知らない基地のこと

2012-04-07 22:00:46 | た行

イタリアの若手監督が
なぜ沖縄の米軍基地問題を――?

その謎は、すぐに解けるざんす。

「誰も知らない基地のこと」69点★★★☆


イタリアの若手監督二人が、
沖縄をはじめ、各国にある米軍基地を訪ね歩くドキュメンタリー。

「なぜイタリア人が?」と言えば、
実はイタリアも沖縄と同じく、米駐留軍の基地に苦しんでいるからなのだ。

知らなかった。

さらにイタリアだけじゃなく、世界中で同じことが起こっているのだと
改めて知らせてくれる、意義ある映画です。


監督らはイタリアでの基地問題を発端に、
アメリカが世界38カ国に基地を置いている現実を知る。

なぜ彼らは「世界の警察気取りで」
世界中に基地を置くのか?!

その素朴な疑問をもとに、
沖縄やイタリアの米軍基地を取材し、
米の学者たちや平和活動家などに話を聞く。


そして基地や軍などの“軍事複合体”が、
大きなマネーを生む経済システムになっていることを
解き明かしていくんです。

「アメリカは軍事複合体を動かし続けるために、常に敵が必要なんだ」

その単純かつ巧妙な仕組みを、
この映画はとても分かりやすく教えてくれます。

そしてその支配を
我々が受け入れてしまっている現実も映る。

「基地問題」と言われて
大事なことだと知ってるけど、なんとなく腰が引けてしまう……というような人も
この映画は観ておもしろいと思う。

映像にも内容にも
非常にクセのない、学生のレポートのような実直さがあり、
それがとても見やすく、よく作用しているからです。


沖縄の基地前で、思いの丈をぶつける住民の言葉を、
そのままに素直に映した映像を見ているだけで、涙が出てきましたよ。


単純に
「沖縄だけでなく世界で同じことが起こっているんだ」と知ることで
なんか勇気が湧いてくるし。

アメリカの勝手に怒れる国民同士、
改めて繋がることはできないものか?と
思わずにいられませんでした。


★4/7(土)からシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開。

「誰も知らない基地のこと」公式サイト
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SPEC ~天~

2012-04-06 21:28:57 | さ行

いろんな意味でスペシャルドラマ「~翔~」を
見てから、見た方がいいす。

「SPEC ~天~」48点★★★


人間の能力を超えた特殊能力「SPEC(スペック)」を持ち、
それを悪用する人々に対峙してきた、

警視庁公安本部「未詳」の捜査官
当麻(戸田恵梨香)と瀬文(加瀬亮)。

ある日、洋上のクルーザーで
乗客全員がミイラ化する事件が発生する。

これもスペックホルダーの仕業なのか?

そして、そこには死んだはずの
あるスペックホルダーの存在が見え隠れして――?!


スペシャルドラマを見る前に
映画を見たんですハイ。

映画の最初にこれまでのダイジェストが8分上映され、
まあドラマ版をずっと観てたこともあり

正直、内容は別にスペシャルを見なくても
わかりました。

というか、スペシャルが入ってることに
終わるまで気付かなかったくらいで(それはアホ。苦笑)

それなのになぜ「スペシャル版」を観るのを薦めるかというと
「SPECワールド」の感覚を取り戻してから、
映画を観たほうが絶対にいいから!(笑)


ドラマ放映が2010年10月~で
もう1年半が経ってるもんで、

いきなり、久々に、スクリーンで観ると
その突き抜け感やおふざけの、寒いこと寒いこと(失笑)

小ネタの数々のうち
「何度めだ?はやぶさ」のポスターには
フッとなったりはしましたが(苦笑)


しかし主軸の話、スペックホルダーとどう戦うのか?とか
作戦もわからずに話が進むし、
どうなってるんですか、コレ?という感じ。

しかし、先週スペシャルドラマを見て思い出しました
この感覚。

そう、これが「SPEC」でした。そうでした。

戸田恵梨香のこのぶっきらぼうさ、
加瀬亮の突っ張り棒のような芝居!

ああもう1回、観よう。


さらに「起承転結」ですから
「結」もあるんですよね、きっと。

映画になるのか、ドラマになるのか?
ドラマにして欲しい感じすね。

★4/7(土)から全国で公開。

「SPEC ~天~」公式サイト
コメント (2)
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コーマン帝国

2012-04-05 23:29:38 | か行

なーんかタイトルにヤラしい感じがしちゃうのは
マイナスなのか。いや、プラスなんじゃないか、とか(笑)

「コーマン帝国」74点★★★★


監督作品50本、プロデュース作品550本超(!)という
米インディペンデント界の超・凄い人物
ロジャー・コーマン氏のドキュメンタリーです。


御年86歳にして
バリバリの現役映画人である彼は、

1950年代から、流血あり、ピラニアあり、女体あり
いわゆるB級の“ドライブイン映画”
呼ばれるジャンルを追求し続けている。

まずおもしろいのが
ご本人がそのような暴力的な映画を撮るような人にはとても思えず、
上品な教授のような人物であること(笑)

それでいて「ルールをみると破りたくなるんだ」なんて悪ガキっぷりが
最高のジョークみたいです。


「最初の殺人をどのタイミングでやるか。あとはどの間隔で殺すかだね」とか
笑いながら解説するのも、
マジ凄いというか笑えるというか(笑)

さらに
その功績はA級で

ジャック・ニコルソンやマーティン・スコセッシなど
そうそうたる若い才能を見いだしてきたんですね。

そんな偉大な人物の人生を
サクッと鮮やかにまとめた若い女性監督が見事。

彼女にこの映画を撮らせたことが
まさに「才能を見い出す天才」の本領かもしれませんねえ。


そして
「血しぶきとび、美女が叫ぶ!」的な彼らの業界にとって
「ジョーズ」の登場がいかに脅威だったか、なども
非常に興味深く聞き入りました。

まだまだ映画には勉強すべきことがありますねえ。


★4/7(土)から新宿武蔵野館で公開。ほか全国順次公開。

「コーマン帝国」公式サイト
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KOTOKO

2012-04-04 23:34:09 | か行

Coccoにしか出来ない映画であり、それがすべて。

「KOTOKO」69点★★★☆

ベネチア国際映画祭オリゾンティ部門グランプリ受賞作です。


琴子(Cocco)は幼い息子・大二郎を育てている
シングルマザー。

世界が二つに見えてしまう彼女は、
常に幻覚と闘っている。

そんな彼女は次第に、愛する息子を
「もし、失ったら?」という強迫観念にとらわれてしまい――?!


見終わってとにかく
苦しすぎて、胸がちぎれそうで、息が詰まりそうだ。

凄まじい、と称したい映画なのは確かですが
いま辛い状態の人には、正直おすすめできない。


大切なものが大切にすぎて
「もしそれを失ったら?」と考えると気が狂いそうになるなんて
自分だってそうだもん。

そんな誰もが持つ感情の、ほんの一さじ違いのところにいる主人公の
苦しみの描写が痛すぎて、切実すぎて、辛いんですわ。


細い細い糸の上で、ギリギリの精神バランスを保とうともがき
危うすぎる綱渡りをする主人公は、

壊れた危ない人に見えて、実はそんなどこにでもいる人なんだと、
見ながら、つくづく感じました。

そんな“境界上の人”琴子を演じきった
Coccoはやはり凄い。

本人とダブってみえる危うさも、ホント賞賛もの。


神経を逆なでする過剰な音の使い方と、
自身の出演がやっぱり「鉄男」の塚本監督らしかったです。

こういう作品は始末の付け方が難しいですが、
一応、腑に落ちるところではありました。

受け取り方は人それぞれかもしれないけどね。


★4/7(土)からテアトル新宿ほか全国で公開。

「KOTOKO」公式サイト
コメント (2)
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別離

2012-04-03 20:43:48 | は行

こちらはアカデミー賞外国語映画賞受賞のイラン映画。
これは必見!のおもしろさです。


「別離」84点★★★★

「彼女が消えた浜辺」監督の新作。

シミン(レイラ・ハタミ)と夫ナデル(ペイマン・モアディ)は
テヘランに暮らす結婚14年目の夫婦。

シミンは11歳の娘(サリナ・ファルハディ)の将来のために、
あちこち奔走して国外移住の許可を取る。

だが、ナデルの父がアルツハイマーになってしまい
彼は移住できないと言い出す。

シミンはしばらく家を出ることになり
ナデルはお手伝いの女性ラジエー(サレー・バヤト)を雇う。

しかし、あるとき
ナデルの家である事件が起きる。

そして事件は、思わぬ波紋を広げてゆき――?!


いや~、アスガー・ファルハディ監督という人は、ホントに巧い。

「彼女が消えた浜辺」も面白かったけど、これもド凄い。

一般的な「人間の深層に迫る」映画の
さらに3段階以上深く潜っている感じです。


ミステリーでもあるので詳しくは秘密にしますが(笑)

「彼女が~」と似ているのは
基本的に「善」なる
市井のまっとうな人物たちが登場するところ。

しかしある事件が起こり、その謎を解くうちに
人間誰もが持っている「エゴ」がむき出しになっていくさまが
実に繊細に、巧妙に描かれるところですね。

悪意ではない、
だからこそ厄介な人間の“心理”の複雑さと、それによってこじれていく物事を
ものの見事に言い当てているんですねえ。

人間の心理に迫るミステリーであり、
かつ
そこに社会における問題(格差や宗教感、介護問題などなど)を絶妙に織り交ぜた
一級品だと思います。


どんなに相手のことを思っていても、
そこに「自分のため」は確実に存在する。

完璧な自己犠牲などないのか、と考えさせられました。

必見。

★4/7(土)から全国で公開。

「別離」公式サイト
コメント (2)
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