ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

グレート・ビューティー/追憶のローマ

2014-08-23 22:24:26 | か行

“大人”筋には評価高いようですが、
ワシにはしんどかった。


「グレート・ビューティ/追憶のローマ」29点★★


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現代のローマ。

初老の主人公ジェップ(トニ・セルヴィッロ)は
かつて作家として評価された人物。

65歳になったいまは、毎晩のようにローマの街を歩き、
パーティーで乱痴気騒ぎをする日々を送っていた。

華やかだが、無意味で空虚な日々を自覚する彼のもとに
ある知らせが届く。

それは、初恋の女性が亡くなったという
訃報だった――。


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いや~すみません
久々にかなりしんどい映画でした。

140分もあるのに、
“ローマな”美学に全然ハマれない。

ワシも好きだった
「きっと ここが帰る場所」(11年)の
パオロ・ソレンティーノ監督だと後から知って、驚きました。

・・・わからん!(笑)


そもそも
主人公が誰かも、なかなかわからないし

65歳の中年オヤジがそうらしいとわかってからも、
彼の現代のデカダン生活――享楽のパーティやら、美術鑑賞やら、

彼の、というよりも
イタリアの文化と国、そのものの栄枯衰退を嘆くような、
むなしい日々が描かれるだけの映画なので。

ちょい悪系、イタリアオヤジのファッションカタログなのかこれは?と
マジで思うような、わからなさでした(笑)

しかし第86回アカデミー賞最優秀外国語映画賞受賞作品だし
どこかによさを見いだせる方は多いのでしょうかね。


若者が全然出てこず、中年オヤジとおばさま、
果ては老女ばかりというのはシニカルでおかしく、

厚塗りの化粧に、香水と汗、
加齢臭がムンムン充満してそうな
パーティシーンには笑ったけどね(笑)


★8/23(土)からBunkamura ル・シネマほか全国順次公開。

「グレート・ビューティー/追憶のローマ」公式サイト
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イントゥ・ザ・ストーム

2014-08-22 20:19:28 | あ行

こう現実に自然災害が続くと
ホラーよりなにより、自然が怖いよ。


「イントゥ・ザ・ストーム」67点★★★☆


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アメリカ中西部、コロラド州。

ドニー(マックス・ディーコン)は
ビデオ撮影が趣味の高校3年生。

卒業式を控えた彼は母親を亡くして以降、
父(リチャード・アーミティッジ)とうまくいっていない。

同じころ、竜巻のドキュメンタリー映像を撮影する
“竜巻ハンター”たちが
次に竜巻が現れそうな場所を探していた。

彼らはついに今までにない
巨大竜巻の発生を確信し、その町に向かう。

それはドニーたちが住む町だった――。

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まず、竜巻の映像が
えらくよく出来ていて迫力ある。

竜巻のでき始めってこんなんなのか!と思ったりして。

いきなりゴルフボール大のひょうが降り、
轟音とともにあらゆるものが巻き上げられ、破壊される。
この異常気象な昨今、リアルすぎて本当に怖いです。

そうした“竜巻映像”が
「偶然、登場人物によって撮られたものだ」ふうな
設定になっているのもおもしろい。

竜巻映像をニュースに売るために竜巻を追いかける“竜巻ハンター”や、
ビデオを撮影中の高校生、
YouTubeに衝撃映像を投稿するマニア・・・などが映像を撮るんですね。

いま自然災害のニュース映像の第一報は
ほぼすべてケータイやスマホで撮った
「視聴者提供」だし、

そこらへんにも、現実味があります。

監督が
「ファイナル・デッドブリッジ」の人だと後から知って
なるほど、と思った。

フツーの人々が災難に見舞われる
その分かれ道を書き込んでいるので、

「この状況になったら、どうするか?」
けっこうリアルに体験でき、勉強にもなりました。

ただ、どうしても
“有事における家族の絆”といった要素を
入れ込まなきゃいけないのは、しようがないんでしょうかねえ。


★8/22(金)から全国で公開。

「イントゥ・ザ・ストーム」公式サイト
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リヴァイアサン

2014-08-21 23:32:17 | ら行

撮ったというより「撮れてた」素材が
「ナニコレ?」のおもしろさ。


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「リヴァイアサン」69点★★★★


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アメリカの漁港から出港する漁船に乗り込んだ
ハーバード大の学者であり、映像作家でもある監督コンビが

「GoPro」という超小型カメラを
船体や船員のあちこちに取り付けて撮った
「撮れたどー!」な、ドキュメンタリー。

とにかく手法も斬新なら、写っているものも画期的。


魚の目線になって
血まみれになって魚の腹を割いていく船員たちの様子を
ボーッと見つめたり(怖いぞ!笑)

カモメの目線になって
漁船の周りで獲物を狙ったり。


まさに
“見たことのない”体験ができるんですね

ただ
映画としては、手放しで「いい!」と言うには難しい。

結局「撮れたもの」の集まりであるのは確かだし、
何が写ってるのか
すぐには判別不能な映像もある(笑)

ネイチャー映画で「スゴイものを見た!」の“凄さ”とは
まったく異なる種類のもので、

そこが心に残るのも、また確かです。


冒頭、真っ暗な海に耳障りな金属音を響かせながら
漁船が網を下ろす、その様子だけで
「海の怪物=漁船か?!」、と想像できて

生態系のなかに無理矢理介入してくる
人間の傲慢さも、見て取れる。

魚やカモメだけでなく
“人間”も観察対象になっていたり。

「撮れたもの」を使っても、
確実に監督らには意図がある。

別に「環境ネタ」とかではないのですけどね。
違う視点で物事を見る、という提案のひとつかな。

なにより、凄いのは「音」!
機械のきしみ音やうなりが、不気味な音楽に聴こえるのがおもしろい。

それにね、これだけ揺れる画面なのに
船酔いも、映像酔いもしなかった。
魚眼レンズのおかげなのか――?いまだ最大の謎です。


★8/23(土)からシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開。

「リヴァイアサン」公式サイト
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ローマの教室で ~我らの佳き日々~

2014-08-20 23:11:25 | ら行

非常にしっかりした
見応えある作品でした。


「ローマの教室で ~我らの佳き日々~」74点★★★★


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ローマのある公立高校に
若き国語教師ジョヴァンニ(リッカルド・スカマルチョ)がやってくる。

「生徒にやる気を起こさせたい!」と言う彼だが
教室の子どもたちは騒がしく、なかなか言うことを聞かない。

そんな子どもたちを長年見てきた
老教師フィオリート(ロベルト・エルリツカ)は
「みんな頭、空っぽ」と厭世的になっている。

女性校長ジュリアーナ(マルゲリータ・ブイ)も
「教師は学校内の教育だけすればいい」と
割り切った態度を見せるが――?

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イタリアの高校を舞台にした物語。

学校を舞台にした作品には名作多いですが、
これも、かなりおもしろかった。

主たる登場人物は3人の教師。

熱意ある若い国語教師と
それと正反対に
不出来でアホな生徒たちに絶望し、憂い、厭世している老教師。

さらに
四角四面そうな女性校長。

3人それぞれが、生徒との関わりのなかで、
少しだけ何かを変える・・・というお話。

大人の読み込みに耐える、脚本のひだが見事。
セリフもうまく、ユーモアもある。

例えば老教師が
父兄面談で表情変えずに
「お宅のお子さんは・・・湾曲的に言うと稀に見るパーですな」とか(笑)。
笑うわー。

若い教師に
「生徒の全てを救うことはできないの」と諭す校長が
捨てられた子犬のような
一人の生徒を気にかけるようになったり。


かと思えば、
生徒たちに熱弁をふるう若い教師は
生徒に借りたペンさえ、キチンと返せずに無くしてしまう。
「足元見よ」ってことよね。

ただ
老教師のエピソードは
「現実なの?」とか思ったけど(笑)


「先生!」と感動の大円団などないのも大人だし。

教育現場の闘いの日々は変わらず続いていくけれど、
ちょっとだけ、何かが変わっているといい。
そんな気持ちになりますな。


★8/23(土)から岩波ホールほか全国順次公開。

「ローマの教室で ~我らの佳き日々~」公式サイト
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プロミスト・ランド

2014-08-18 22:43:23 | は行

いやー、久々に王道いい映画!


「プロミスト・ランド」80点★★★★


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スティーヴ(マット・デイモン)は
“次世代を担うエネルギー”=シェールガスを扱う企業の社員。

相棒のスー(フランシス・マクドーマンド)と組んで
さびれた田舎に行き

農業主に「あなたの土地の地下に、お金が埋まっている!」と説得し、
ガスを掘る権利を取り付けていた。

ある田舎町でいつもと同じく、
農場主たちを説得しようとした二人は

「シェールガスは環境汚染をもたらす可能性がある」という
地元のある男に邪魔をされることに――?

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ガス・ヴァン・サント監督×マット・デイモンという
「グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち」コンビが復活した作品。

いや~、期待に違わず。
久々に「王道にいい映画をみた!」って感じです。

まず、
題材がおもしろい。

シェールガス(天然ガス)掘削の大企業に勤めるマット・デイモンが、
寂れた田舎町を丸め込み、農地を買収する。

地元民に受け入れられるため、
地元の雑貨店でわざと“田舎くさい”ネルシャツを買い(笑)
古びたワークブーツで交渉に挑む。

持ち前の“善人オーラ”をフル活用し、
あざとい地元の顔役を一枚上手でギャフンとさせるんだけど、

そんなときに思わぬ伏兵の老人が現れ
さらに環境団体と名乗る口達者な若者が現れてピーンチ・・・?!

――と、ね?あらすじを書き出していくだけで
おもしろそうじゃないすか?


“善人キャラ”マット・デイモンの旗色がどんどん悪くなったり
いや?また逆転?という運びのおもしろさも抜群。

その荒んだ風貌も笑いを誘う
相棒のフランシス・マクドーマンドとのやりとりもいい。

それら良い素材を
田舎町に流れる空気ごとカメラに収める
ガス・ヴァン・サント監督のゆったりとした演出が
見事な相乗効果で、見応えあります。


そして、この映画になくてはならなかったのは
やはり
共同脚本もこなしたマット・デイモン。

他の映画で
「男性の好み?マット・デイモンみたいな人がいいわ」と言われるような
(確か、これも最高にいい映画「アバウト・タイム」(9/27公開)のセリフだった(笑)
自分のイメージを、うまく物語の起承転結に使っているんですよね。

彼は本当に“人との共同作業”に向いている
典型的な犬派だと思う。

自身も
「『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』での
ベン・アフレックとの共同脚本執筆の作業を思い出した」と言っているそう。

自分で監督しようと思ったけど、どうにも時間がなく
「グッド・ウィル~」のガス・ヴァン・サントにメールをしたら
彼が興味を持ってくれたって。

なんか、超!いい仲間たちじゃん!

それで内輪モノじゃない
クオリティを出してくるんだから、いい縁だよねえ。

そして。

「グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち」といえば、
どうしても、惜しくも先日亡くなったロビン・ウィリアムズを思い出しもする。

ともすれば「説教臭くなる」この手の良質映画に
その絶妙な軽さと存在感でよく登場し、

「ケッ」とさせずに、物事の真意を
心に残してくれた俳優だったと思う。

この映画とは直接関係ないけど、いまここで合掌。
どうぞ、安らかに。


★8/22(金)からTOHOシネマズ シャンテ、新宿武蔵野館ほか全国で公開。

「プロミスト・ランド」公式サイト
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