ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

へウォンの恋愛日記

2014-08-17 17:00:04 | は行

だから、どうした?
それがホン・サンス(笑)


「へウォンの恋愛日記」69点★★★☆


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大学生のヘウォン(チョン・ウンチェ)は
妻子ある教授(イ・ソンギュン)と、こっそり不倫中。

そんな関係にも飽きてきていたヘウォンだが、

母がカナダに移住することになり
ふと、寂しさを感じはじめ――。

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脱力と抜けの人、ホン・サンス監督の新作。
期待通り、いつもながらのホン・サンス(笑)

冒頭の手書きヘロヘロ文字で、まず脱力。
さあ、はじまったぞとニンマリ。

ズーム多用、パン多用、
素人っぽい、あくまでもフリーダムなカメラワーク。

キュートで、しかし不安定なヒロインに、
主人公の男はまたも映画監督(笑)。

繰り返される男女の恋愛の
「なんだかなー」のなかを漂うヒロイン。
そして、どこまでもなさけない男……。

はっきり言って彼は
毎度同じものを描いてるんだと思うんです。
それでも、毎度ワクワクと観てしまう。

これって、漫画家の同じ絵を見たいから、
新作も読んでしまう、あの感覚に似てる気がする。

ヒロインの線によって
よりコメディっぽかったり、涼やかさがあったり、リリカルだったり。

このヒロインはけっこう正統派のかわい子ちゃんなんで
映画全体のトーンも、ちょっと甘めかな。
ジェーン・バーキンも出てるぜよ。

同時公開「ソニはご機嫌ななめ」をまだ見てないので
観たいです。


★8/16(土)からシネマート新宿で公開。

「ヘウォンの恋愛日記」公式サイト
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ローマ環状線、めぐりゆく人生たち

2014-08-16 23:31:47 | ら行

第70回ヴェネチア国際映画賞、金獅子賞を
ドキュメンタリーとして初めて受賞したっていうからスゴイ。


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「ローマ環状線、めぐりゆく人生たち」53点★★★


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ローマの周りを巡る、高速道路沿いで暮らす
様々な人々を写したドキュメンタリー。

好きなテーマだし、評価高いし、
期待してたんですが

うーん、ワシにとってはこれ
ホントに点景で、散文的で、あまり面白みがない。

詩的なのはわかるけど、
もっとひとつひとつを掘り下げてもよかったかなと。

登場するのは
救急車の救命士、車上生活者、
広大な屋敷を継いだ没落貴族などなど。

高速で走り去る車たちの、その暴力的な印象の影で、
人間たちの営みは、どこか退廃し、鬱々とし、冴えない。

かつての都の栄枯衰退への憂いは
来週公開の「グレート・ビューティ/追憶のローマ」
通じるものがある気もします。

ヤシの木に寄生し、組織だって木を貪り食い尽くす害虫を
駆除する研究者のような博士の言葉が象徴的だったけど、

まあ、なんでここで彼が出てくるのか
よくはわからない(笑)。

そうした必然と偶然のあいまいさも、
全体をちょっとぼやけた印象にしてる気がしました。


★8/16(土)からヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開。

「ローマ環状線、めぐりゆく人生たち」公式サイト
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ホットロード

2014-08-15 18:28:44 | は行

え?まだ公開してなかったの?って
思いました?(笑)


「ホットロード」22点★★


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舞台は湘南。

14歳の中学生、和希(能年玲奈)は、
母親(木村佳乃)と二人暮らし。

少女のようなところのある母親には
ずっと昔から好きだった恋人がいて、和希には家にも学校にも居場所がない。

そんなある夜、和希は
暴走族チーム「ナイツ」に所属する少年・春山(登坂広臣)と出会う――。


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紡木たくの伝説コミックを
「ソラニン」(10年)の三木孝浩監督が映画化。

ファーストショットがオートバイの舐め画像なのは意外だったけど
それ以外は冒頭からセリフも展開もシーンまでも
驚くほどマンガそのまんま。
いや、セリフもほとんど憶えてますからねマンガの(笑)

これって原作を知らないほうがいいのか?
いやいや、にしても、
あまりに心象描写物足りないでしょう。

そもそも
春山が顔ぷっくりで大層がっかりしたし(苦笑)
時代設定の中途半端さもいただけない。
もっとはっきり、80年代とか言ってほしかった。

あまりに工夫なしの“まんま描写”に驚いたけど、
ワシ、監督の「ソラニン」好きだったけど、
確かにあれも、あとから原作見たら
けっこうマンガまんまだった(笑)

まあ能年玲奈氏はけっこう和希だし、
トオル役で「花アン」の鈴木亮平氏も出てるということで。

ただねー、どうしても違和感だったのが空撮。

彼らはあくまでも地べたにいて、自分を俯瞰なんかできないんだから。
そんな若者たちの話に、
こんなに悠々とした俯瞰ショットはそぐわないとワシは思いました。


★8/16(土)から全国で公開。

「ホットロード」公式サイト
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365日のシンプルライフ

2014-08-12 23:27:26 | さ行

この夏は、おもしろくて良質なドキュメンタリーが
続いております。

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「365日のシンプルライフ」72点★★★★


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主人公はフィンランドに住む
26歳のペトリ・ルーッツカイネン監督自身。

彼は彼女にフラれたことをきっかけに
自分のいまの暮らしを見直そうと決意。

自分の持ち物をパンツ一丁まで、すべて貸倉庫に預けて、
「1日1個だけ持ち出せる」というルールを作り、
それを1年間続ける。

その“実験”過程を自分で記録したのが
このドキュメンタリーなんです。


まずは「まいった!」というアイデアの勝利!(笑)


そして自意識と自虐をないまぜにしながら
26歳の赤裸々な自分自身を、
ドキュメンタリーらしからぬ「演出」を入れて、コミカルに描くセンスのよさ。

「“モノ”に溢れた暮らしを見直す」というテーマが
ゴリゴリのエコ話とかでなく、
フツーの若者の人生探し(恋人探しともいえる(笑))になっている
その素朴さがいいんですねえ。

冒頭、
なーんにもない部屋に素っ裸で寝転ぶ監督。

外は雪が舞う寒~いヘルシンキの夜。

さあ翌朝、彼が初めに取り出すものは――?!って
すっごいおもしろくないですか(笑)

一応、監督は仕事もしてるんで職場にも行くわけですが
「いま、僕がパンツも靴下も履いてないことは誰も知らない 」とか
ブブッ。笑えるでしょ(笑)

ある意味、苛酷な1年を経て
「本当に必要な“もの”」について語るその言葉には
おもわず「フムフム」となる。

もし自分なら何を取り出すか?
リストアップしてみるのもおもしろいと思いますよ。


★8/16(土)からオーディトリウム渋谷ほか全国順次公開。

「365日のシンプルライフ」公式サイト
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クィーン・オブ・ベルサイユ 大富豪の華麗なる転落

2014-08-11 23:55:29 | か行

とにかく被写体の状況がおもしろい!

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「クィーン・オブ・ベルサイユ 大富豪の華麗なる転落」70点★★★★


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これ
ドキュメンタリーの作りとしては特別にうまくはないのです。
でも
とにかく被写体の状況がおもしろいんです。

主人公は1980年代にリゾート物件をシェアして使う
“タイム・シェア”を設立し
大富豪になったデヴィット・シーゲル氏。

そしてその妻で
元モデルのジャッキー。


この映画はもともと「大金持ちのサクセスストーリー」として
二人を撮り始めたものの、

2008年リーマン・ショックが起こり
期せずして「大富豪が転落していく物語」になってしまった――という
ドキュメンタリーなんですね。


取材者としては
正直「マジ?美味しくね?」という展開のネタですわ(スイマセン。笑)

またこれがドキュメンタリーのおもしろさで、
大富豪の転落といっても
フィクション世界で描かれるような「ドカンと破産!転落!」とかを想像すると、
実際はそうではなく、

じわじわと、本人や周囲にいびつな変化が起こっていき、
徐々に崩壊していくものなのだ・・・というのが写っていて
リアルで、ゾクッと怖い。


破綻してから
子ども7人(!)を見る乳母も解雇され
部屋は愛犬の糞尿だらけ。

亭主は部屋にこもり、
妻を遠ざけ、明らかに鬱状態になっていく。


ここで、また意外なのが妻の胆力。


金持ちだった在りし日を悲しむものの、
夫を罵るでもなく、
運命を嘆いて投げ出すわけでない。

けっこうシャンと立とうとする。

そう「ブルー・ジャスミン」よりまともな女性なのですよ(笑)。

まあ、買い物依存癖が見え隠れするのはちとマズいけど
元々大卒のエンジニアだけあって、頭のいい人なのだ。

そんな彼女の状況への対応、
家族の様子を見るにつけ

まあ富豪に関係ない自分にも
「窮地に陥ったときの、人間性」みたいなものの
ある種の、ケーススタディの役割を果たしたと思う。

家族のなかで一人だけ血のつながらない次女の、
冷静さも興味深く。

いろんな意味で、おもしろかったですよ。


★8/16(土)から新宿武蔵野館ほか全国で公開。

「クィーン・オブ・ベルサイユ 大富豪の華麗なる転落」公式サイト
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