ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

オアシス:スーパーソニック

2016-12-21 02:15:17 | あ行

これは盛り上がるわー(笑)


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「オアシス:スーパーソニック」76点★★★★


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オアシスの初ドキュメンタリー。

「AMY エイミー」
と同じプロデューサーで
こちらもうまく作ってあります。


バンドが産声をあげてから93年のデビュー、
そして96年の25万人動員の野外ライブまで
最高潮の時代をスーパーノヴァに駆け抜ける彼らを
疾走感たっぷりに追いかけてる。


ノエル&リアム・ギャラガー兄弟の全面協力で作られているので
本人たちのいま現在のインタビューに、貴重な映像、
二人の子ども時代の写真などもたっぷり
母親の証言などもたっぷり。


なんといっても
兄ノエルと弟リアム、因縁の兄弟の幼少時代からのヒストリーを追うことで
二人の性格の違いが顕著になるのが
実におもしろい。


弟リアムは少年時代からなんか目立つタイプの
わんぱく野生児で
兄ノエルは一人でギターを弾いてれば満足な
音楽オタクだったとか。


問題ばかり起こすリアムのほうが扱いにくそうと思ってたけど
いや、実は兄のほうがかなり邪悪だなとか(笑)


でもノエルは
「あいつのパーカーの着こなしを羨ましいと思わない日はない」と
弟への素直な羨望を口にするし

同時に
「でも、あいつは俺の曲作りの才能がほしいだろうな」と
悪魔的なことを言うし(笑)


ライブ映像も満載で音楽にも浸れるし。

しかしマジでこの映画は
93年から96年までの「彼らの最高の時期」のみをフィーチャーしたもの。

このあと
どうなったのかを知りたいんじゃー!
と叫びたくなりました(笑)


そして
今週発売の『週刊朝日』12/30号
「やっぱりオアシスが好き!」記事を書いております。

各界のオアシス好きの語る“オアシス”
ワシもすっごく勉強になりました。
映画と合わせてぜひ~!


★12/24(土)から全国で公開。

「オアシス:スーパーソニック」公式サイト
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ミルピエ~パリ・オペラ座に挑んだ男~

2016-12-20 23:04:16 | ま行

ラストのテロップが
一番衝撃だった(笑)


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「ミルピエ ~パリ・オペラ座に挑んだ男~」70点★★★★


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「ブラック・スワン」の振付師であり、ナタポーの旦那、
バンジャマン・ミルピエ氏が
パリ・オペラ座の芸術監督に就任し、
新作を発表するまでの40日間に密着したドキュメンタリー。

バレエ・ドキュメンタリーは
けっこう全部制覇してると思う。好きだから(笑)

で、これはバレエ映画のなかでもけっこう斬新。


40日間をカウントダウンしていく
スタイリッシュな映像と構成。

それも
ミルピエ氏が300年の歴史あるオペラ座でやった
斬新な改革そのものを表してるようです。

改革とは
エトワールでなく若いダンサーを選抜したり
初めて黒人のハーフダンサーを主役に抜擢したり。

「権威や伝統をぶっ壊す!」な姿勢が刺激的だけど
人物は実にソフトで、いつもニコニコ、気さくなキャラ。
若手を「ほめて伸ばす」的な指導法も
若い世代のリーダーっぽい。

ああ、電話してる相手はナタポーなのね、と
勝手に想像するのも一興で(笑)


ただね~
「まさか、舞台そのものを見せない気?!」と思わせるほど
ギリギリまで引っ張るのは
ちょっともったいつけすぎかなあ、とも思った。

彼が「何をしたかったのか」は
実際の舞台を見せることで効いてくると思うので
もっと見たかった、というのが正直なところ。

それでも
バレエ映画は好きだけど
実際のバレエ業界の動静に詳しくない者としては
ラストの一文が、一番衝撃でしたけどね(笑)


★12/23(金・祝)からBunkamuea ル・シネマほか全国順次公開。


「ミルピエ~パリ・オペラ座に挑んだ男~」公式サイト
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TOMORROW パーマネントライフを探して

2016-12-18 22:04:23 | た行

ナチュラルライフ系ドキュメンタリー、最近多いけど
なかでもけっこう、出色。


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「TOMORROW パーマネントライフを探して」72点★★★★


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「このままのライフスタイルを続けていくと
人類は絶望する恐れがある」――

2012年に21人の科学者グループが「ネイチャー」誌に発表した論文を
ジャーナリストのシリル・ディオンから聞かされた
女優メラニー・ロランが

仲間たちと解決策を求めて
世界のあちこちで「新しい暮らしかた」を始めている人たちを訪ねる――という
ドキュメンタリー。



いまの地球の状況って
止まらない人間の欲望、環境破壊、絶滅する動物たち――
もううんざりするほど聞かされているほど絶望的。

でもこの映画は
「こういう方向に未来があるんだ!」という希望や未来が
説得力とセンスを伴って
ちゃんと明るく感じられるのがとてもいいんですね。


小難しくなく、勉強になるし、試したくなるし、勇気がもらえる。


まず専門家に
「6歳にわかるように話して」と頼み(素晴らしいことだ!)
ちょこちょこと編集を刻んだりもせず
テーマごとに取材をまとめている。

そうやって
食、農業、経済、動物の生態など
分野ごとに取材をしていくと
実は全部「つながっている」ってわかるんですね。

例えば経済学者が話す
「通過は単一でなく、多様性がないと潰れやすい」は、
多様な品種を植える小規模農家の方策に通じるし

「地域の通貨は地域に回さないとダメ。溜め込んでも利益はない」は
動物界の専門家が語る
「ライオンは空腹の時にしか狩らない。
貯め込んで『これ、幾らで買う?』なんて言わないよ」に通じる。


観る人=教わる人が自分で
「そうか!」と気づく。

これこそが良質な教育ではないか、と思うんですねえ。


ラストを「いい教育」で締めくくっているのもニクい。

フィンランドの校長先生が語る
「子どもたちに一番教えたいこと」には
ジーンと来ました。

1年を締めくくり、新たな2017年に備えるいまこそ
ちょっとの変革、はじめてみたくなるかも。


★12/23(金・祝)から渋谷シアターイメージフォーラムほか全国順次公開。


「TOMORROW パーマネントライフを探して」公式サイト
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幸せなひとりぼっち

2016-12-16 21:24:39 | さ行

また北欧から、最強の「孤独モノ」が現れた…!(笑)


「幸せなひとりぼっち」75点★★★★


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スウェーデンのある街。

中年男オーヴェ(ロルフ・ラスゴード)は
規律に厳しく、偏屈な男。

唯一の理解者だった妻に先立たれてからは
気むずかしさに拍車がかかり、
共同住宅でも鼻つまみ者だった。

だが彼はひょんなことから
向いに越してきた騒がしい一家と関わることになり――?


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珠玉の「孤独もの」を編み出し続ける北欧から
新たな名作が誕生。

今度の人物も相当手強い。
しかし、この人物には泣けた・・・(笑)

マジメで規律正しい偏屈おやじ。
彼の人生に何があったのか…?と興味をそそれらるし
北欧の渇いたユーモアに、
感動を盛り上げる劇的要素がうまく両立している。

誰の人生も劇的だ。そんな感じ。

監督は
「フォレスト・ガンプ」などへのオマージュを込め
「アバウト・シュミット」「恋愛小説家」などもお手本にしたそうで
なるほどー。


原作者は元ジャーナリストだそうで
「100歳の華麗なる冒険」と通じるものもありました。


しかしこの主人公オーヴェ、
相当な偏屈じじいなんですよ。(といっても、まだ59歳。笑)
マジメゆえにルールが曲げられず、人付き合いもヘタ。
でも
「いるいる、こういう人」なリアルさ。

そんな高潔さゆえの“生きにくさ”を持った彼を
たった一人理解してくれていたのが奥さんだったわけです。

でも、彼女はもういない。

「この世で誰もわかってくれなくていい。彼女だけがいてくれれば」
そう思っていた相手がいなくなってしまった。

オーヴェを知っていくにつれ、
彼女の不在が悲しくて。
彼が幸せな日々を振り返るシーンに、本当に泣けた。


そんな彼を変化させるのは、やっぱり「人との関わり合い」。
しかも相手がマイノリティ(移民やゲイとかね)だったりするのも
効くんですよねえ。


オーヴェが住む共同住宅の
隣人同士の近さもなんだかよくて。

オーヴェが昼間からウロチョロする隣人たちを見て
「みんな働いていないのか?!」とつぶやくシーンもウケた。

日本も似たようなもの。
「それでもまあ、やっていけるんじゃない?」って
ちょっとあったかくなりました。


★12/17(土)から新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開。

「幸せなひとりぼっち」公式サイト

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皆さま、ごきげんよう

2016-12-14 23:48:49 | ま行

ほのぼの系?
いやあ、そんなもんじゃありません(笑)


「皆さま、ごきげんよう」68点★★★☆


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中世のギロチンの時代、ある戦場。
そして現代のパリへと舞台は移る。

パリのアパート管理人(リュファス)
アパートに住む人類学者(アミラン・アミラナシュヴィリ)
古い友人。

彼らと、その周辺の人々が巻き起こす
あれこれが紡がれていく――。


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「月曜日に乾杯!」「汽車はふたたび故郷へ」の
82歳、オタール・イオセリアーニ監督の新作。

ポスターのイメージから
仲良しそうな老人ふたりの、ほのぼの系?
はたまた人生の教えを請う系?――と思いきや
いやあ、そんなもんじゃありません!(笑)


まるで一筋縄ではいかない、人生標本箱のようで。
若輩者には歯が立たちませんでした(苦笑)


冒頭、中世のフランス革命のギロチンの時代から始まり
「え?これって、コスチュームプレイものだっけ?」と思っていると、
また時代が変わり、近代の戦争風景。

続いて現代パリになり
ローラスケートを履いてスリを行うギャル集団が写される。

うーん「略奪」「蛮行」をキーにしつつ
何かが展開しているのかなと思うんだけど
そう簡単でもないんですよね。

結局、舞台は現代のパリに固定され
パリの街を闊歩する
やんちゃな老人たちのあれこれが写される。

全体に
サイレント映画のような身振り手振りのおかしみがあって
ジャック・タチ作品のようでもあり

ひかれてペシャンコになる男のシーンとか
プッとなるブラックさがあり
現代の寓話集のようで、標本集のようで。

さあ、どう解明すればいいのか。
じっくり宿題にしたい・・・気分です。


★12/17(土)から岩波ホールほか全国順次公開。

「皆さま、ごきげんよう」公式サイト
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