恋歌 | |
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講談社 |
まことに不勉強ですが、樋口一葉の師であった歌人中島歌子についてはじめて知りました。
その中島歌子が主たる登場人物です。
老いし歌子の元に弟子二人が駆けつけるところからはじまります。
そこにあったのは、歌人であった歌子の言文一致の書き物。
瑞々しい文章でしたためられた恋の物語を弟子である三宅花圃が読みすすめて行きます。
そこにあったのは幕末、水戸藩の侍の元へと嫁いだ日々。想い人への元へ嫁した若き日の歌子(登世)が見たのは、尊王攘の元揺れる水戸藩の内紛でした。時代の波は、やがて歌子を飲み込んで行くのです。
歴史的事実が主軸にあるのはもちろんですが、それを生々しく、また登場者の心情に寄り添い深く深く描いていきます。
幾重にも張られた伏線と、丁寧に描かれた人達の姿。
最初と最後は弟子である花圃の視点で描かれます。
真ん中の緊迫した物語から視点が変わるのですが、それによる世界の広がりがラストに繋がり…。
余韻が残る作品でした。