玄文社主人の書斎

玄文社主人日々の雑感もしくは読後ノート

新村苑子『葦辺の母子』刊行

2015年10月07日 | 玄文社

 

 玄文社では4日、新潟市在住の新村苑子さんの小説集『葦辺の母子』を刊行しました。四六判272頁、定価1,600円(税込)。
 新村さんは1998年から東京の同人誌「文芸驢馬」に参加して、小説を発表し続けてきたベテランで、2010年からは玄文社発行の同人誌「北方文学」同人としても活動を続けてきました。このところ新潟水俣病をテーマにした作品を書き続けて注目されています。
 2012年には玄文社から『律子の舟』を刊行。「新潟水俣病短編小説集Ⅰ」のサブタイトルを持つこの本は、昨年度の第17回日本自費出版文化賞で小説部門の部門賞に輝き、同じく昨年度の第7回新潟出版文化賞では選考委員特別賞(新井満賞)を受賞しました。
 今度の『葦辺の母子』も「新潟水俣病短編小説集Ⅱ」のサブタイトルを持つ作品集で、『律子の舟』の続編であります。『律子の舟』は新潟水俣病について新潟弁で書かれた最初の小説集で、いわば「新潟弁で書かれた『苦海浄土』」として位置づけられますが、『葦辺の母子』はその第二弾ということになります。
 表題作「葦辺の母子」は胎児性水俣病の子を持ち、自らも水俣病に苦しむ母子の、周囲からの偏見と差別に苦しむ姿を描いた作品で、いきなり母子の入水の場面を描いて心を打ちます。帯につかった「川の記憶」に登場する、のぶえ婆さんの「いつになったら、こんげなこどが終わりになっかんだやら。川が濁って魚が腹出しながら、沢山(こったま)流れてきた時の騒ぎが嘘みてに、今はそんげなこどはねがったみてに、川の水は青々と澄んで流れてるがな。娑婆も川みてにならんかのう」とう言葉が感動的です。
 『律子の舟』と同様に、新潟水俣病に関わる無理解な差別と偏見に苦しむ患者達を描いた作品も多くありますが、一歩進んでそうしたものを乗り越え、昭和電工と国に対して立ち上がる人々の姿も描いて、新しい境地を感じさせます。小説としての完成度も格段に上がっていると思います。