井上陽水氏の代表曲を別の歌手がカヴァーする番組で”傘がない”を聴いた。
”傘がない”は、1972(昭和47)年に、陽水氏2枚目のシングルとして発表されたもので、当初は注目されなかったが現在では”氷の世界””少年時代”と並んで氏の代表曲となっている。
テーマは、「指導的な階層(大人)が警鐘を鳴らしている事象よりも、自分では恋人に会いに行かねばならないのに「傘がない」ということの方が重大事である」というものである。
1972(昭和47)年は、
・1月 グアム島で横井庄一氏発見・帰国
・2月 札幌冬季五輪開催、浅間山荘事件
・3月 奈良県明日香村の高松塚古墳で極彩色壁画発見
・6月 佐藤栄作首相退陣
・7月 太陽にほえろ放映開始
・8月 カシオが世界初の電卓発売
・9月 田中角栄首相訪中、日中国交正常化(11月ランラン、カンカン来園)
となっているように、既に学生を中心とした左派活動は「頑張った割には社会を何一つ変えることができなかった」という虚無感から「ノンポリ層」を生み出していた。
そんな時代の”傘がない”であることから、自分は陽水氏の自嘲なのだろうかと思っていたが、次第に年齢を重ねることによって「自嘲よりも指導層に対する皮肉なのか」と考えるようになった。
陽水氏も、一定の影響力を持つようになった中年期にはステージで”傘がない”を封印していたとされているので、「自分で自分を皮肉る」ことに抵抗感を持ったものかも知れないし、陽水氏の対極に位置する松山千春氏が「傘がなければ傘を買え」と檄を飛ばしたのも頷ける思いがする。
陽水氏は「別にそんなふうに考えて作った歌ではないんですよ。ただ単に、周りが政治の季節であったというだけのことで・・・」と謙虚に語っているとされるが、社会に対する貢献度も低下した今の自分に”傘がない”は、「上滑りな思考で駄文を弄する傍らで現実には頭上の蠅も追えない存在であることを自覚せよ」と諭しているようにも聞き取れる。
とあれこれ考えると気が滅入って自己嫌悪に陥るばかりであるので、今後は氏の込めたメッセージは置いて歌唱を楽しむだけで平安を保つことにしよう。
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