これは<国際障害者年を「機」に障害者の自立と完全参加をすすめる豊中市民の会>(略称・豊中国障年)の機関誌「夢のひきだし」(2008年11月号、第11号)に掲載した文章である。内容にかなり疑問のところがあるが、このまま掲載する。
機関誌「夢のひきだし」には、漢字にすべてフリカナがついているが、ここでは省略した。なお、中見出しをつけた。
■ 身体障害者補助犬法の成り立ちと改正法の焦点
介助犬エルモを使用している木村良友さんの話を聞いた。私が把握した限りで述べる。2002年5月にやっと介助犬・盲導犬・聴導犬について「身体障害者補助犬法」が成立し、同年10月1日に一部施行された。この法律は、補助犬使用者のアクセスを国として初めて保障したもので、盲導犬・聴導犬・介助犬を使用している障害者にとって、公的認知を得た法律といわれている。しかし、民間企業での受け入れ義務がないなど法律上の欠陥があった。しかも、補助犬を同伴してのお店やレストランなどの利用を断られるなど、障害者たちが社会参画するには不十分な実施状況であったという。
そのため、補助犬を利用する障害者たちがより以上に社会参画を求めて要求を提出していた。そうした動きを背景に、2007年に「身体障害者補助犬法改正案」は国会で成立し、2008年度から実施された。この改正によって、障害者雇用促進法で障害者雇用を義務付けされている従業員56人以上の民間企業は、補助犬の受入が義務化された。障害者雇用促進法に準じた規定である(第10条)。これが、補助犬使用の障害者の就労実現への第1歩であった。また、補助犬使用についてのトラブルに関しては、都道府県に相談窓口を設けることになった(第25条など)。なお、民間の住宅については義務化しないで、努力義務のままに置かれることになった(第11条)という。
雇用実態から考えると、従業員56人以上の事業所という規定では、不十分であると私も思う。また、だれでもどこでも安全に使えて住みやすい住居を求めることが出来る在宅福祉の基本から言えば、民間住宅が義務化されなかったのは、問題であると感じる。現在の政治・社会の状況を考えると、とりあえず、現在の段階では一歩前進といえるが、まだ、本来的な解決にはいたっていない。
■ 知られていない法律の現状
しかし、この法律のことは補助犬を利用している人以外には、あまり知られていないように思う(第24条にもかかわらず)。日本では昔から活躍していた盲導犬と、さらに新しく登場した介助犬、聴導犬を全部あわせても、約1000頭程度しかいないといわれるように数が少ないためもあろう。また、街で活動している姿をあまり見かけない。
また、障害者白書にも、法律が制定された後で発行された平成16年版(2004年版)には、年表のところに3行ほど記述がある程度であった。同年の障害者白書では、本文にコラムで「身体障害者補助犬法の施行」という題名が約1ページ書いてあった程度だ。補助犬を使用している障害者自身が地域や社会に積極的に意見を言っていくことが、まだまだ必要なのであろう。その意味では、障害者の生活全般について一般の理解が得られていない現実と共通する。障害者発で生活実態を明確にする段階だろう。
街中にあるレストラン、お店やスーパー、コンビニなどでもまだ「ペット持ち込み禁止」というステッカーを見かけることは多い。反対に、店主も従業員も、補助犬使用者はお客として当たり前に来てほしいという姿勢は、まだ少ないように感じる。犬を拒否することは、その犬を使用している障害者自身を拒絶していることになるという人権感覚がない店主や従業員が多いという。
■ 使用者に求められる義務規定と社会のルール作り
しかも、2002年制定の「身体障害者補助犬法」では「良質な補助犬の育成・普及」を行なうことと規定されている。飼い主(補助犬使用者)が「愛情をもって接する」という規定(第21条)まである。法規定がなくても当然だろう。このほか多くの義務(第13条など)が課せられている。
たとえば補助犬には「予防接種及び健康診断の記録(避妊・去勢手術証明書を含む)」が必要とされるなど衛生の管理を測らなくてはならない(第6章)など、実に多くの規定がある。また、眼疾患(白内障、網膜症)に関しては「1回目の検査を生後2カ月~3カ月に、2回目の検査を生後1年~1年6カ月に、3回目の検査を生後3年前後に実施し、これ以降は1年に1回の検査を実施することを推奨する」と、より細かく規定されているらしい。同様に、骨関節疾患(股関節形成異常、肘関節形成異常)及び眼疾患(白内障、網膜症)については、診断方法等に関する細部にわたる指針及び審査様式も厚生労働省から提示されている。
以上少し見たように、獣医学的にも規定は細部にわたっているが、しつけの面でも、他人に迷惑をかけないように管理することが求められている(第13条)。たとえば具体的には「大きな音や環境の変化に神経質でなく、落ち着いていられること」が、当然のこととして求められている。これなどは、多様な大勢の人がいる公共交通機関などやデパートでの買い物、コンサートに出かけることが多いため、当然のことであろう。しかし、ペットや人間も同じように「落ち着いている」といえるか考えてみる。どうもそうではなさそうだ。このほか、抜け毛がでないように日常ブラッシングを行なうとか、排泄物の安全な管理なども飼い主である障害者に求められている。
だれもが利用する公共の場で、自分の任務を果たすことを求められている。当たり前のようなことだ。でも、補助犬を使用している障害者にだけ課せられた義務ではないと思う。社会を構成しているすべての人が、他人のいやがる行為を行なわないという、ある種の社会の「掟」を、まず障害者たちから行なうことに意味があると思う。社会から「邪魔者」扱いを受け、さまざまに除外されてきた障害者であるがゆえに、社会人として、あるいは市民として、あえて自分たちが住みやすい社会を作ろうという責任を痛感しているからでもあろう。秩序維持的である他人や専門家、官僚や警察官などに、社会のルールだからと押し付けられるのではなく、障害者から社会作りを担っていこうという意気込みと感じとった。支えてくれる動物、犬と共生する社会を実現することが、共生社会を築くことにつながると見て取った。
機関誌「夢のひきだし」には、漢字にすべてフリカナがついているが、ここでは省略した。なお、中見出しをつけた。
■ 身体障害者補助犬法の成り立ちと改正法の焦点
介助犬エルモを使用している木村良友さんの話を聞いた。私が把握した限りで述べる。2002年5月にやっと介助犬・盲導犬・聴導犬について「身体障害者補助犬法」が成立し、同年10月1日に一部施行された。この法律は、補助犬使用者のアクセスを国として初めて保障したもので、盲導犬・聴導犬・介助犬を使用している障害者にとって、公的認知を得た法律といわれている。しかし、民間企業での受け入れ義務がないなど法律上の欠陥があった。しかも、補助犬を同伴してのお店やレストランなどの利用を断られるなど、障害者たちが社会参画するには不十分な実施状況であったという。
そのため、補助犬を利用する障害者たちがより以上に社会参画を求めて要求を提出していた。そうした動きを背景に、2007年に「身体障害者補助犬法改正案」は国会で成立し、2008年度から実施された。この改正によって、障害者雇用促進法で障害者雇用を義務付けされている従業員56人以上の民間企業は、補助犬の受入が義務化された。障害者雇用促進法に準じた規定である(第10条)。これが、補助犬使用の障害者の就労実現への第1歩であった。また、補助犬使用についてのトラブルに関しては、都道府県に相談窓口を設けることになった(第25条など)。なお、民間の住宅については義務化しないで、努力義務のままに置かれることになった(第11条)という。
雇用実態から考えると、従業員56人以上の事業所という規定では、不十分であると私も思う。また、だれでもどこでも安全に使えて住みやすい住居を求めることが出来る在宅福祉の基本から言えば、民間住宅が義務化されなかったのは、問題であると感じる。現在の政治・社会の状況を考えると、とりあえず、現在の段階では一歩前進といえるが、まだ、本来的な解決にはいたっていない。
■ 知られていない法律の現状
しかし、この法律のことは補助犬を利用している人以外には、あまり知られていないように思う(第24条にもかかわらず)。日本では昔から活躍していた盲導犬と、さらに新しく登場した介助犬、聴導犬を全部あわせても、約1000頭程度しかいないといわれるように数が少ないためもあろう。また、街で活動している姿をあまり見かけない。
また、障害者白書にも、法律が制定された後で発行された平成16年版(2004年版)には、年表のところに3行ほど記述がある程度であった。同年の障害者白書では、本文にコラムで「身体障害者補助犬法の施行」という題名が約1ページ書いてあった程度だ。補助犬を使用している障害者自身が地域や社会に積極的に意見を言っていくことが、まだまだ必要なのであろう。その意味では、障害者の生活全般について一般の理解が得られていない現実と共通する。障害者発で生活実態を明確にする段階だろう。
街中にあるレストラン、お店やスーパー、コンビニなどでもまだ「ペット持ち込み禁止」というステッカーを見かけることは多い。反対に、店主も従業員も、補助犬使用者はお客として当たり前に来てほしいという姿勢は、まだ少ないように感じる。犬を拒否することは、その犬を使用している障害者自身を拒絶していることになるという人権感覚がない店主や従業員が多いという。
■ 使用者に求められる義務規定と社会のルール作り
しかも、2002年制定の「身体障害者補助犬法」では「良質な補助犬の育成・普及」を行なうことと規定されている。飼い主(補助犬使用者)が「愛情をもって接する」という規定(第21条)まである。法規定がなくても当然だろう。このほか多くの義務(第13条など)が課せられている。
たとえば補助犬には「予防接種及び健康診断の記録(避妊・去勢手術証明書を含む)」が必要とされるなど衛生の管理を測らなくてはならない(第6章)など、実に多くの規定がある。また、眼疾患(白内障、網膜症)に関しては「1回目の検査を生後2カ月~3カ月に、2回目の検査を生後1年~1年6カ月に、3回目の検査を生後3年前後に実施し、これ以降は1年に1回の検査を実施することを推奨する」と、より細かく規定されているらしい。同様に、骨関節疾患(股関節形成異常、肘関節形成異常)及び眼疾患(白内障、網膜症)については、診断方法等に関する細部にわたる指針及び審査様式も厚生労働省から提示されている。
以上少し見たように、獣医学的にも規定は細部にわたっているが、しつけの面でも、他人に迷惑をかけないように管理することが求められている(第13条)。たとえば具体的には「大きな音や環境の変化に神経質でなく、落ち着いていられること」が、当然のこととして求められている。これなどは、多様な大勢の人がいる公共交通機関などやデパートでの買い物、コンサートに出かけることが多いため、当然のことであろう。しかし、ペットや人間も同じように「落ち着いている」といえるか考えてみる。どうもそうではなさそうだ。このほか、抜け毛がでないように日常ブラッシングを行なうとか、排泄物の安全な管理なども飼い主である障害者に求められている。
だれもが利用する公共の場で、自分の任務を果たすことを求められている。当たり前のようなことだ。でも、補助犬を使用している障害者にだけ課せられた義務ではないと思う。社会を構成しているすべての人が、他人のいやがる行為を行なわないという、ある種の社会の「掟」を、まず障害者たちから行なうことに意味があると思う。社会から「邪魔者」扱いを受け、さまざまに除外されてきた障害者であるがゆえに、社会人として、あるいは市民として、あえて自分たちが住みやすい社会を作ろうという責任を痛感しているからでもあろう。秩序維持的である他人や専門家、官僚や警察官などに、社会のルールだからと押し付けられるのではなく、障害者から社会作りを担っていこうという意気込みと感じとった。支えてくれる動物、犬と共生する社会を実現することが、共生社会を築くことにつながると見て取った。