「これって、私のことじゃないの?」
大阪府柏原市の主婦松村りかさん(45)は五年前、「アスペルガー症候群」の本にくぎ付けになった。
「幼少時、同じ道を通ることにこだわった」「周りの雰囲気が読めず、しつこく主張して友達に嫌われた」「予想が付かないとパニックになる」-。どれも自分に当てはまった。
松村さんは幼いころから対人関係に苦しみ、小学校ではいじめも受けた。父親が味方になってくれて何とか乗り切れたが、大学はうまくいかず中退した。
「みんなは普通に平和に過ごしているのに、何で自分は違うんだろうって思ってた」
心理学などの本を読みあさっても分からなかった積年の疑問が氷解した。うつや強迫性障害などの「二次障害」になる人も多いと知り、胸を痛めた。
松村さんは医療機関を受診して、アスペルガー症候群と診断された後、これまでの違和感や、定型発達の人(発達障害のない人)との違いなどについてブログにつづるようになった。
たとえばアスペルガーの人は、「相手の身になって考えろ」と叱責(しっせき)されることが多いが、松村さんは「自分に置き換えたら、何とも思わないことも多いから、意味が分かりにくい」という。
自分たちが「冷たい態度を取る」と誤解されることについても、「定型発達者は、他人の気持ちを察することで、相手は『尊重されている』と受け止める。アスペルガー症候群の人はそれができにくく、相手から『大事にしてくれない』と思われるみたい」 と分析する。
ブログは、当事者や家族から「すごく参考になる」と評判になった。
昨年春からは、自助会「アスパラガスの会」も始めた。二カ月に一度、十~七十代の約十五人が府内に集まる。
「思いやりが大事といわれるけど、どうすればいいか分からない」「気の利いた返事ができない」といった悩みに、「私もそうだった」「分かる、分かる」と共感の声が起こる。「自分が自然体でいられて、居心地がいい」と会を心待ちにする人も増えてきた。
松村さん自身、今も特定の音声にパニックになったり、趣味のパソコンに熱中しすぎて大事な用事を忘れたりすることもある。聴覚過敏、過集中と呼ばれる特性だ。困ることもあるが、「独創的なものづくりの原動力になりうる。悪いことばかりじゃない」と前向きに受け止められるようになった。
物理学のアインシュタイン博士など、天才的な業績を残すアスペルガー症候群や高機能自閉症の偉人も多いといわれるが、「人間関係でつまずくと、せっかくの能力も伸ばしづらくなる。世間の理解を深め、知恵を集めたい」と活動に励む。
◇
二〇〇五年に発達障害者支援法が施行され、子どもの支援や情報が充実してくる中、「私もアスペ?」「発達障害かな」と気付く大人が増えている。学業は優秀でも対人関係で苦労し、成人後も就労に失敗したり、生きづらさを抱えたりする人たちだ。当事者や家族、支援の現状を四回にわたって報告する。
<アスペルガー症候群> 知的障害も言葉の遅れもないのに、社会性の欠如、コミュニケーション障害、興味の偏りなどの問題を持つ。脳の機能障害による「広汎性発達障害」の一つ。このほか、幼児期の言語発達に遅れのある「高機能自閉症」、知的障害のある「自閉症(カナータイプ)」などがある。注意欠陥多動性障害、学習障害も発達障害に含まれる。各都道府県の発達障害者支援センターが相談窓口になっている。広汎性発達障害は1万人に40~60人といわれる。
大阪府柏原市の主婦松村りかさん(45)は五年前、「アスペルガー症候群」の本にくぎ付けになった。
「幼少時、同じ道を通ることにこだわった」「周りの雰囲気が読めず、しつこく主張して友達に嫌われた」「予想が付かないとパニックになる」-。どれも自分に当てはまった。
松村さんは幼いころから対人関係に苦しみ、小学校ではいじめも受けた。父親が味方になってくれて何とか乗り切れたが、大学はうまくいかず中退した。
「みんなは普通に平和に過ごしているのに、何で自分は違うんだろうって思ってた」
心理学などの本を読みあさっても分からなかった積年の疑問が氷解した。うつや強迫性障害などの「二次障害」になる人も多いと知り、胸を痛めた。
松村さんは医療機関を受診して、アスペルガー症候群と診断された後、これまでの違和感や、定型発達の人(発達障害のない人)との違いなどについてブログにつづるようになった。
たとえばアスペルガーの人は、「相手の身になって考えろ」と叱責(しっせき)されることが多いが、松村さんは「自分に置き換えたら、何とも思わないことも多いから、意味が分かりにくい」という。
自分たちが「冷たい態度を取る」と誤解されることについても、「定型発達者は、他人の気持ちを察することで、相手は『尊重されている』と受け止める。アスペルガー症候群の人はそれができにくく、相手から『大事にしてくれない』と思われるみたい」 と分析する。
ブログは、当事者や家族から「すごく参考になる」と評判になった。
昨年春からは、自助会「アスパラガスの会」も始めた。二カ月に一度、十~七十代の約十五人が府内に集まる。
「思いやりが大事といわれるけど、どうすればいいか分からない」「気の利いた返事ができない」といった悩みに、「私もそうだった」「分かる、分かる」と共感の声が起こる。「自分が自然体でいられて、居心地がいい」と会を心待ちにする人も増えてきた。
松村さん自身、今も特定の音声にパニックになったり、趣味のパソコンに熱中しすぎて大事な用事を忘れたりすることもある。聴覚過敏、過集中と呼ばれる特性だ。困ることもあるが、「独創的なものづくりの原動力になりうる。悪いことばかりじゃない」と前向きに受け止められるようになった。
物理学のアインシュタイン博士など、天才的な業績を残すアスペルガー症候群や高機能自閉症の偉人も多いといわれるが、「人間関係でつまずくと、せっかくの能力も伸ばしづらくなる。世間の理解を深め、知恵を集めたい」と活動に励む。
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二〇〇五年に発達障害者支援法が施行され、子どもの支援や情報が充実してくる中、「私もアスペ?」「発達障害かな」と気付く大人が増えている。学業は優秀でも対人関係で苦労し、成人後も就労に失敗したり、生きづらさを抱えたりする人たちだ。当事者や家族、支援の現状を四回にわたって報告する。
<アスペルガー症候群> 知的障害も言葉の遅れもないのに、社会性の欠如、コミュニケーション障害、興味の偏りなどの問題を持つ。脳の機能障害による「広汎性発達障害」の一つ。このほか、幼児期の言語発達に遅れのある「高機能自閉症」、知的障害のある「自閉症(カナータイプ)」などがある。注意欠陥多動性障害、学習障害も発達障害に含まれる。各都道府県の発達障害者支援センターが相談窓口になっている。広汎性発達障害は1万人に40~60人といわれる。