ゴエモンのつぶやき

日頃思ったこと、世の中の矛盾を語ろう(*^_^*)

「変わってる!?」と言われて 大人のアスペルガーを考える <1>当事者 対人関係ずっと違和感

2010年04月26日 00時38分21秒 | 障害者の自立
「これって、私のことじゃないの?」

 大阪府柏原市の主婦松村りかさん(45)は五年前、「アスペルガー症候群」の本にくぎ付けになった。

 「幼少時、同じ道を通ることにこだわった」「周りの雰囲気が読めず、しつこく主張して友達に嫌われた」「予想が付かないとパニックになる」-。どれも自分に当てはまった。

 松村さんは幼いころから対人関係に苦しみ、小学校ではいじめも受けた。父親が味方になってくれて何とか乗り切れたが、大学はうまくいかず中退した。

 「みんなは普通に平和に過ごしているのに、何で自分は違うんだろうって思ってた」

 心理学などの本を読みあさっても分からなかった積年の疑問が氷解した。うつや強迫性障害などの「二次障害」になる人も多いと知り、胸を痛めた。

 松村さんは医療機関を受診して、アスペルガー症候群と診断された後、これまでの違和感や、定型発達の人(発達障害のない人)との違いなどについてブログにつづるようになった。

 たとえばアスペルガーの人は、「相手の身になって考えろ」と叱責(しっせき)されることが多いが、松村さんは「自分に置き換えたら、何とも思わないことも多いから、意味が分かりにくい」という。

 自分たちが「冷たい態度を取る」と誤解されることについても、「定型発達者は、他人の気持ちを察することで、相手は『尊重されている』と受け止める。アスペルガー症候群の人はそれができにくく、相手から『大事にしてくれない』と思われるみたい」 と分析する。

 ブログは、当事者や家族から「すごく参考になる」と評判になった。

 昨年春からは、自助会「アスパラガスの会」も始めた。二カ月に一度、十~七十代の約十五人が府内に集まる。

 「思いやりが大事といわれるけど、どうすればいいか分からない」「気の利いた返事ができない」といった悩みに、「私もそうだった」「分かる、分かる」と共感の声が起こる。「自分が自然体でいられて、居心地がいい」と会を心待ちにする人も増えてきた。

 松村さん自身、今も特定の音声にパニックになったり、趣味のパソコンに熱中しすぎて大事な用事を忘れたりすることもある。聴覚過敏、過集中と呼ばれる特性だ。困ることもあるが、「独創的なものづくりの原動力になりうる。悪いことばかりじゃない」と前向きに受け止められるようになった。

 物理学のアインシュタイン博士など、天才的な業績を残すアスペルガー症候群や高機能自閉症の偉人も多いといわれるが、「人間関係でつまずくと、せっかくの能力も伸ばしづらくなる。世間の理解を深め、知恵を集めたい」と活動に励む。

     ◇

 二〇〇五年に発達障害者支援法が施行され、子どもの支援や情報が充実してくる中、「私もアスペ?」「発達障害かな」と気付く大人が増えている。学業は優秀でも対人関係で苦労し、成人後も就労に失敗したり、生きづらさを抱えたりする人たちだ。当事者や家族、支援の現状を四回にわたって報告する。   

<アスペルガー症候群> 知的障害も言葉の遅れもないのに、社会性の欠如、コミュニケーション障害、興味の偏りなどの問題を持つ。脳の機能障害による「広汎性発達障害」の一つ。このほか、幼児期の言語発達に遅れのある「高機能自閉症」、知的障害のある「自閉症(カナータイプ)」などがある。注意欠陥多動性障害、学習障害も発達障害に含まれる。各都道府県の発達障害者支援センターが相談窓口になっている。広汎性発達障害は1万人に40~60人といわれる。

「変わってる!?」と言われて 大人のアスペルガーを考える<2> 家族 正しく理解し付き合う

2010年04月26日 00時37分08秒 | 障害者の自立
 愛知県に住むパート勤務A子さん(40)は、十年前に技術者の男性と見合い結婚した。夫は、まじめできっちりした性格で、頼もしく思えたという。

 ところが一緒に暮らしてみると、きちょうめんさは度を越していた。掃除の仕方、洗濯物の畳み方など、独身時代に決めた手順があり、A子さんにも手順を完全に守るように求めた。調味料の置き位置も、少しでもずれると怒った。

 「最初は、言われる通りに頑張ろうと思ったけれど、育児に追われるようになっても、洗濯物が畳んでないと激怒するんです。こちらの大変さを思いやってくれないのがつらくて、落ち込みました」とA子さん。

 一時は離婚も考えた。そんな中で、アスペルガー症候群のことを知った。極端なこだわり、他人の気持ちを読み取れない点など、夫の問題にぴたりと当てはまった。

 昨年、アスペルガー症候群の人の配偶者でつくる自助会「サラナ」(名古屋市)を知り、参加。仲間の体験を聞き、本を読んで勉強する中で、夫の障害を確信した。

 「夫はささいなことで怒鳴るけれど、それを根に持つことはない。こちらが障害を理解すれば、それなりに付き合い方があるのかなと、今は思っています」と話す。

     ◇

 サラナを立ち上げた四十代の会社員B子さんは、アスペルガー症候群とみられる夫と離婚した経験を持つ。

 「自分の意に沿わないとパニックになるんです。それがひどくなって、暴力も受けました。でも、翌日になるとケロリと“おはよう”って」

 女性センターに相談し、子どもを連れて逃げる形で離婚した。しかし、通常のDV(ドメスティック・バイオレンス)のような「支配のための暴力」とは違うと感じていた。その後、アスペルガー症候群のことを知り▽極端に頑固で、自説を曲げない▽相手が何を望んでいるのか理解できない-などの夫の特徴が障害によるものだったと思い当たった。

 「もっと早く知っていれば、離婚以外の対応の仕方もあったかも」という思いから、活動を始めた。B子さんは「本人がアスペルガー症候群と診断を受ければ、苦手な部分を直していける可能性もあるが、そこに至るまでが難しい。互いの体験を伝え合いたい」と話す。

     ◇

 アスペルガー症候群の人は「温厚で、裏表のない性格」と評されることも多いが、わずかなことに混乱したり、人間関係に苦しんで精神的な問題を二次的に抱えてしまうこともある。

 それでも、本人が障害に気付くことで、家族と協力して、苦手な部分を改善していく例も多い。一つの物事に集中しすぎて、ほかのことを忘れてしまう「過集中」タイプの男性が、奥さんから毎日、個条書きに順番を付けた「お願いごとメール」をもらって何度も読むようになり、失敗がなくなった、というケースもある。

 成人期の支援に詳しい中京大の辻井正次教授(心理学)は家族の対応について「本人の問題行動を怒っても成果はない。正しく理解することが大切。いい社会生活、家庭生活を送れるための道筋が開けてきているので、決して悲観しないで」と話す。

   ×  ×

 「サラナ」の連絡先は、電080(6969)5843。ブログもある。また、都道府県や政令指定都市に発達障害支援センターが設けられ、相談に応じている。

「変わってる!?」と言われて 大人のアスペルガーを考える<3> 支援 根気良く“ルール”指導

2010年04月26日 00時35分26秒 | 障害者の自立
 障害者の就職や職場定着を支援する大阪市内の事業所で、パソコン研修などの職業指導員を務める万里子さん(39)は、六年前、高機能自閉症のテツオさん(39)=いずれも仮名=と出会った。

 知的な障害はないが、幼児期の言葉の発達が遅いのが高機能自閉症。アスペルガー症候群に極めて近い発達障害だ。

 テツオさんは会話しても目の焦点が合わず、ニヤニヤしながら「女性はバカだ」「あの女の歌手は最悪だ」と独善的な悪口を言う。「この人を支援するのは苦手だなあ」が第一印象だった。

 テツオさんは難関の国立大卒。就職活動では筆記試験こそ通るものの、面接でことごとく不採用。アルバイトに行ってもすぐにクビになった。

 研修が始まると、テツオさんはパソコンはこなせたが、人の嫌がることばかり言い、休憩時間が過ぎても戻ってこない。万里子さんは「悪口は言わない」「時間は守る」など必要な取り決めを一つ一つ作り、根気良く指導した。

 半年ほどたつと、研修仲間の友人もでき、テツオさんは少しずつ落ち着いてきた。

 さらにさまざまな実習を受ける中で、英語のヒアリングや読み書きの能力が高いことが分かり、万里子さんは「障害者雇用」の枠を利用し、英語のマニュアルを翻訳する仕事をあっせん。試用期間には週に二度会社に付き添い、テツオさんには職場のルールを、会社側にはテツオさんの特性を伝えて支援、内定が決まった。テツオさんと初めて会った日から二年が過ぎていた。

 「小さいころから親に認めてもらえなかったり、いじめを受けたりしてると、助言を受け入れてもらうまでに時間がかかります。支援の難しいケースで、就職が決まって本当にうれしかった」と万里子さん。

 知的な能力や手先の器用さ、感覚の過敏性、障害の自覚などは人によって違う。得意なこと、苦手なことを整理し、本人が見通しを持てるようにするのが支援の基本だという。

 その後も、テツオさんは社員食堂の列に割り込んでひんしゅくを買ったり、暇になると用もなくウロウロしたりするなど、トラブルもあったが、万里子さんはその都度、上司と共に失敗の原因を整理してテツオさんを指導。周りの理解も進み、今も働き続けている。

     ◇

 発達障害者支援法が制定され、就労の支援は次第に整ってきた。中京大の辻井正次教授は「アスペルガーの人は、精神科で精神障害者保健福祉手帳が取りやすくなり、障害者雇用の制度を使った就労が可能になった。発達障害の診断があれば、ハローワークでも相談に乗ってくれるようになった」と話す。万里子さんのように職場の人たちとの相互理解の橋渡しをしていく「ジョブコーチ」も、各地の障害者職業センターに配置されるようになってきた。

 しかし、就職の失敗、大学中退などをきっかけに家庭内にひきこもってしまう人も多い。うつ病などの二次的な問題に陥る前に、支援施設を訪ねることが大切だ。

     ◇

 テツオさんは今も休みになると訪ねてくる。

 「相変わらずテレビドラマの話を一方的にしゃべって帰っていきます。でも以前よりずっとにこやかで、精神的に落ち着いて暮らせています」と万里子さん。今日も、第二、第三のテツオさんを見守っている。


「変わってる!?」と言われて 大人のアスペルガーを考える<4>昭和大付属烏山病院 加藤進昌院長

2010年04月26日 00時34分34秒 | 障害者の自立
 社会で暮らす大人のアスペルガー症候群の人たちをめぐる問題を三回にわたって紹介してきた。まとめに代えて、成人の発達障害外来、デイケアに取り組む昭和大付属烏山病院(東京)の加藤進昌病院長に話を聞いた。 (芦原千晶)

 -どんな人が来院しますか。

 二十~四十代の男性が多いですね。その半数は失職しています。今は、インターネットの情報で自分の発達障害に気付く人が増え、中には、アスペルガー症候群の傾向を調べる「自閉症スペクトラム指数」(AQ)を自己採点してくる人もいます。引きこもりや家庭内暴力などの問題を起こして、家族が連れてくる場合もあります。

 -診断の方法は。

 本人や家族に、三歳ごろまでに他人との関係やコミュニケーションに問題がなかったか、反復的行動やこだわりなどのエピソードはあったか、などを聞きます。診断できる精神科医の数が絶対的に少ないのが問題です。AQも使いますが、単なる目安の一つです。

 -アスペルガーと診断された人の反応は。

 「他の人とどこか違う」「いじめられる理由が分からなかった」と思っていた人の中には、診断されて納得した、安心したという声がある一方、「障害者の烙印(らくいん)を押された」ととらえる人もいます。否定的に受け止めないように説明する配慮が必要です。

 -アスペルガーの原因は分かっているのですか。

 脳の機能障害といわれますが、どの部分かについての定説はまだありません。遺伝的な形質があるといわれています。

 -二次障害の問題をよく聞きますね。

 元の障害が原因で、会社や家庭などで対人関係がうまくいかず、心の傷が深くなり、うつ病や強迫性障害になる人は多いです。まずはこの治療をすることが大事です。

 -有効な支援は。

 社会生活を送る上で必要な技術を訓練する「デイケア」が有効ですが、大人の発達障害に対応する機関はまだほとんどありません。診断を受けても、支援を受けられない人が多いことも問題です。一般の人が容易に分かることを分からないという、一種の認知の問題ですから、支援は早いほどいいのですが。

 -アスペルガーの人たちに助言を。

 発達障害は本人のせいではありません。いじめられて不登校になるなど、自己評価が下がっている人も多いと思いますが、親などの周囲のせいにしたり、自暴自棄になったりしないでほしい。閉塞(へいそく)感を持った人は、デイケアや自助会のような環境で、孤立感を薄めるのもいいです。

 -周囲への助言は。

 イライラしたり困ったりしている家族もいると思いますが、いい面を前向きに見てほしい。何かを伝える時は、直接的な表現を心掛けるといいですね。

 職場でも、障害を理解することが何より大切で、対外交渉のような不向きな仕事は避けるべきです。でも、根気もあり、技術畑で評価を受けている人も多いし、アスペルガー症候群とみられる偉人もいます。ビジネスの難局を突破する際には異能が必要で、優れた能力を活用しない手はありません。

東京新聞