東日本大震災で工場が全壊した宮城県女川町、食品製造業の阿部雄悦さん(70)が約800キロ離れた伯耆町に移り、工場を再スタートして半年が過ぎた。移転は全国の障害者福祉作業所に、かりんとうの生地を供給し続けるためだ。阿部さんらは、原発事故で風評被害にさらされる福島県産の安全な野菜でかりんとうを作る支援にも励む。
24日午後5時半、伯耆町の「ゆめ工房21」。「忙しくて忙しくて。でも、本当うれしいね」。山積みされたかりんとうの段ボールを見て阿部さんがつぶやく。
阿部さんの会社は冷凍保存による品質劣化を防ぐ酵素の特許を持ち、15年ほど前から障害者の作業所用にかりんとうの冷凍生地作りをしてきた。各作業所では生地を油で揚げ、製品として販売。取引先の作業所は全国約40カ所に及ぶ。
3月11日、工場は津波により土台を残して流された。阿部さんは再起を決意し、6月末、作業所の管理者だった松原千晶さん(50)のふるさと伯耆町で工場を再開させた。
ゴマやくるみ、カボチャなど8種類で再開した生地作りも、現在はブロッコリー、モロヘイヤ、ユズなど多彩に。商品となるかりんとうは50種類を超す。
その中に「小高(お・だか)だいこん」「椎茸(しい・たけ)」(西会津)の文字がある。福島第一原発事故で風評被害を受ける福島県産の野菜やキノコだ。
小高だいこんかりんとうは約5年前、「地元の野菜で特産品を」と、福島県立小高商業高校と阿部さんが共同で作った。同校は避難地域の南相馬市にあるため、現在は県内の他の場所に学校ごと避難している。
震災後の7月、ニュースで阿部さんの鳥取県での再起を知り、生徒たちは風評被害に苦しむ地元の農業を何とかしたいと相談した。阿部さんは、ちゃんと検査をした素材で作った品なら間接的にでも福島産食品の安全性をPRできる、と生産を快諾した。今は放射性物質のモニタリング検査を受けた福島県内の別の大根でかりんとうを作る。かりんとうは今秋、全国各地の高校の文化祭などで販売された。同校の中島裕(ゆう)教諭は「私たちの活動を支えてくれています」と話す。
福島県西会津町で椎茸やキクラゲの生産販売をするキノコハウスの佐藤昭子さん(55)も「原発事故以降、生椎茸の出荷は自粛しています。今は加工品でしのいでいる状態。本当に感謝です」。震災前に収穫した椎茸でかりんとう作りを依頼している。
年末、阿部さんの工場は通所者や職員の元気な声で活気づいていた。設備はフル稼働で、発送は当初予想の1・5倍という。阿部さんは「後ろを振り向いても仕方がない、前を向いてひたむきに。来年もみんなと一緒に、もっともっと良い品を作っていく」と力を込めた。
かりんとうの問い合わせは、ゆめ工房21(0859・68・3231)へ。
朝日新聞 2011年12月27日
24日午後5時半、伯耆町の「ゆめ工房21」。「忙しくて忙しくて。でも、本当うれしいね」。山積みされたかりんとうの段ボールを見て阿部さんがつぶやく。
阿部さんの会社は冷凍保存による品質劣化を防ぐ酵素の特許を持ち、15年ほど前から障害者の作業所用にかりんとうの冷凍生地作りをしてきた。各作業所では生地を油で揚げ、製品として販売。取引先の作業所は全国約40カ所に及ぶ。
3月11日、工場は津波により土台を残して流された。阿部さんは再起を決意し、6月末、作業所の管理者だった松原千晶さん(50)のふるさと伯耆町で工場を再開させた。
ゴマやくるみ、カボチャなど8種類で再開した生地作りも、現在はブロッコリー、モロヘイヤ、ユズなど多彩に。商品となるかりんとうは50種類を超す。
その中に「小高(お・だか)だいこん」「椎茸(しい・たけ)」(西会津)の文字がある。福島第一原発事故で風評被害を受ける福島県産の野菜やキノコだ。
小高だいこんかりんとうは約5年前、「地元の野菜で特産品を」と、福島県立小高商業高校と阿部さんが共同で作った。同校は避難地域の南相馬市にあるため、現在は県内の他の場所に学校ごと避難している。
震災後の7月、ニュースで阿部さんの鳥取県での再起を知り、生徒たちは風評被害に苦しむ地元の農業を何とかしたいと相談した。阿部さんは、ちゃんと検査をした素材で作った品なら間接的にでも福島産食品の安全性をPRできる、と生産を快諾した。今は放射性物質のモニタリング検査を受けた福島県内の別の大根でかりんとうを作る。かりんとうは今秋、全国各地の高校の文化祭などで販売された。同校の中島裕(ゆう)教諭は「私たちの活動を支えてくれています」と話す。
福島県西会津町で椎茸やキクラゲの生産販売をするキノコハウスの佐藤昭子さん(55)も「原発事故以降、生椎茸の出荷は自粛しています。今は加工品でしのいでいる状態。本当に感謝です」。震災前に収穫した椎茸でかりんとう作りを依頼している。
年末、阿部さんの工場は通所者や職員の元気な声で活気づいていた。設備はフル稼働で、発送は当初予想の1・5倍という。阿部さんは「後ろを振り向いても仕方がない、前を向いてひたむきに。来年もみんなと一緒に、もっともっと良い品を作っていく」と力を込めた。
かりんとうの問い合わせは、ゆめ工房21(0859・68・3231)へ。
朝日新聞 2011年12月27日