「タフでなければ生きていけない。優しくなれなければ生きている資格がない」とは、作家レイモンド・チャンドラーの小説「プレイバック」の中で、探偵フィリップ・マーロウが発するせりふである。そして、現代のサッカー界において、最もタフで、最も優しい心を持った選手の1人が、パリサンジェルマンのスウェーデン代表FWズラタン・イブラヒモビッチ(32)だ。
みなさんは「INAS世界選手権」というサッカーの大会をご存じだろうか。これは知的障害を持った選手たちのW杯で、4年おきに開催され、W杯のホスト国がINAS世界選手権も開催するのが慣例となっている。02年には日本でも行われ、今年はブラジルで11日に開幕した。
その大会にイブラヒモビッチの母国スウェーデンの代表チームも参加している。ただ地元のアフトンブラーデット紙(電子版)によると、当初はブラジルまでの遠征費を捻出するのも一苦労だったという。5万1000ドル(約510万円)を集めるために、スタッフたちは奔走。最終手段として、有名サッカー選手に道具の寄付を要請し、それをオークションにかけて、資金を捻出する方法にたどりついた。
何人もの有名選手に協力してもらったのち、イブラヒモビッチに「ユニホームを寄付してもらえないでしょうか?」と電話をかけた。すると同FWの返事は予想を超えたものだった。
イブラヒモビッチ ユニホームを売ったところで、いくらにもならないでしょう。遠征費はいくらかかるんですか? 銀行口座を教えてください。
イブラヒモビッチは全額をポンと寄付。晴れてスウェーデンの知的障害者チームはINAS世界選手権に出場できることになった。スウェーデン協会のホームページによると、イブラヒモビッチは気前よくお金を出した理由について「サッカーは性別や、健常者か障害者かどうかなどにかかわらず、だれにでもプレーされるべきだ」と話しているという。
同FW自身は今年のW杯ブラジル大会には出場できなかった。欧州予選プレーオフで、ロナルド率いるポルトガルに敗れると「オレの出ないW杯は見る価値がない」と言い放った。だが母国がINAS世界選手権に出場することで、その悔しさが少しは和らぐのだという。
「W杯出場を逃して、本当に落胆した。でもINAS世界選手権の話を聞いた時、オレのできることなら何でもしたいと思ったんだ。彼らを通じてW杯を経験できるんだからね」。ピッチでは闘争心をむき出しにしてゴールを狙うイブラヒモビッチだが、本当の強さを持っているからこそ、ひとたびスタジアムを離れれば他人に寛容に、そして優しくなれるのだろう。
プロフィール
◆ 千葉修宏(ちば・のぶひろ)1973年(昭48)7月20日、東京・杉並区生まれ。野球部所属の学生時代からW杯や欧州サッカーを見 るのが大好き。自主トレでサッカーをやって太もも裏を肉離れしたことも。94年W杯米国大会でイタリア代表R・バッジオがPKを外して敗れたシーンに涙した。97年に入社し、約10年のMLB取材を経て、現在は海外サッカー担当。Bミュンヘンやバルセロナの対戦相手をつい 応援してしまうひねくれ者です。
[2014年8月12日16時38分] 日刊スポーツ (ブログ)
みなさんは「INAS世界選手権」というサッカーの大会をご存じだろうか。これは知的障害を持った選手たちのW杯で、4年おきに開催され、W杯のホスト国がINAS世界選手権も開催するのが慣例となっている。02年には日本でも行われ、今年はブラジルで11日に開幕した。
その大会にイブラヒモビッチの母国スウェーデンの代表チームも参加している。ただ地元のアフトンブラーデット紙(電子版)によると、当初はブラジルまでの遠征費を捻出するのも一苦労だったという。5万1000ドル(約510万円)を集めるために、スタッフたちは奔走。最終手段として、有名サッカー選手に道具の寄付を要請し、それをオークションにかけて、資金を捻出する方法にたどりついた。
何人もの有名選手に協力してもらったのち、イブラヒモビッチに「ユニホームを寄付してもらえないでしょうか?」と電話をかけた。すると同FWの返事は予想を超えたものだった。
イブラヒモビッチ ユニホームを売ったところで、いくらにもならないでしょう。遠征費はいくらかかるんですか? 銀行口座を教えてください。
イブラヒモビッチは全額をポンと寄付。晴れてスウェーデンの知的障害者チームはINAS世界選手権に出場できることになった。スウェーデン協会のホームページによると、イブラヒモビッチは気前よくお金を出した理由について「サッカーは性別や、健常者か障害者かどうかなどにかかわらず、だれにでもプレーされるべきだ」と話しているという。
同FW自身は今年のW杯ブラジル大会には出場できなかった。欧州予選プレーオフで、ロナルド率いるポルトガルに敗れると「オレの出ないW杯は見る価値がない」と言い放った。だが母国がINAS世界選手権に出場することで、その悔しさが少しは和らぐのだという。
「W杯出場を逃して、本当に落胆した。でもINAS世界選手権の話を聞いた時、オレのできることなら何でもしたいと思ったんだ。彼らを通じてW杯を経験できるんだからね」。ピッチでは闘争心をむき出しにしてゴールを狙うイブラヒモビッチだが、本当の強さを持っているからこそ、ひとたびスタジアムを離れれば他人に寛容に、そして優しくなれるのだろう。
プロフィール
◆ 千葉修宏(ちば・のぶひろ)1973年(昭48)7月20日、東京・杉並区生まれ。野球部所属の学生時代からW杯や欧州サッカーを見 るのが大好き。自主トレでサッカーをやって太もも裏を肉離れしたことも。94年W杯米国大会でイタリア代表R・バッジオがPKを外して敗れたシーンに涙した。97年に入社し、約10年のMLB取材を経て、現在は海外サッカー担当。Bミュンヘンやバルセロナの対戦相手をつい 応援してしまうひねくれ者です。
[2014年8月12日16時38分] 日刊スポーツ (ブログ)