パラリンピックの正式種目のひとつ「障害者ボート競技」(パラローイング)の普及・振興や選手育成を目指して、ボートの聖地・琵琶湖のある大津市で、「琵琶湖ローイングCLUB」が発足した。今月中旬には、競技をPRするイベントを市内で初めて開催。国内の競技人口が少なく、世界とのレベル差も大きいが、選手やスタッフたちは「2020年の東京パラリンピック出場」を目標に掲げている。合言葉は「琵琶湖から世界へ」。(小川勝也)
「速い速い、いいぞ。あと100メートル、頑張って」
大津市の西武大津店。6階テラスに設置されたボート競技の練習用機器「ローイングエルゴメーター」に乗った子供たちに声援がかかる。声の主は、障害者ボート競技の選手たちだ。
「選手はボートを始めて間がない人たちばかりですが、コミュニケーションが上手になり、体力も付いてきました」
琵琶湖ローイングCLUBを設立した小原隆史代表理事(46)が、目を細める。小原さんたちは、一般にはなじみが薄い障害者ボートについて知ってもらおうと16、17の両日、クイズや映像の上映などで競技をPRする催しを開いた。
小原さんは同志社大ボート部OBで、社会人になってもボート競技を続けてきた。自身の長女に先天性の障害があり、その成長を見守るうちに「障害者が主役になれる場所をつくりたい」と考えるようになり、昨年12月、琵琶湖ローイングCLUBを設立した。
同団体は、県内外から集まった16~38歳の選手9人をはじめ、その保護者や小原さんの後輩ら約20人で活動。選手の多くはスポーツの経験がなく、設立をきっかけにボートを始めた人たちばかりだ。
選手たちは月2回、琵琶湖や瀬田川などでボートの練習を積み、それぞれがジムに通ったり自宅で筋トレをしたりして鍛錬を重ねている。
主将として選手をまとめる谷口佑樹さん(26)も、団体設立を機にボートを始めた一人。先天性の障害のため足を自由に動かせないが、スポーツが好きだったため、中学ではバスケットボール部に、高校では陸上部に所属。「他のみんなに迷惑をかけたくないから」と、いずれもマネジャーを務めた。
しかし、障害者ボート競技に出合ってからは、自己記録を更新する喜びや仲間と一緒に分かち合える達成感を味わえた。「『パラリンピックに出場するにはどうしたらいいか』と考えて生活するようになり、仕事にも張り合いが出ている」と目を輝かせる。
また、選手の一人、石井みかさんは「障害があり、周りから助けてもらうことが多いので、自分もなにか人のためになりたいと思っていた。ボートの練習などを通して、仲間を気遣って声をかけられるようになった」と喜ぶ。
「日本パラローイング協会」によると、障害者ボートは水上の1千メートルの直線コースで争われる。4人乗り、2人乗り、1人乗りの種目があり、性別や障害の程度に応じて出場できる種目が決まっている。2008年の北京パラリンピックで正式種目となり、日本は2012年のロンドン大会から出場している。国内の競技人口は約100人。世界的にも、陸上や水泳などに比べ、競技人口は少ない。
競技人口の少なさなどから、国内では障害者だけの大会は開催されていない。このため、一般の大会に参加し、健常者と混じって戦うことになる。
今年6月下旬には、東京パラリンピックのボート競技会場となる東京・お台場海浜公園で「お台場レガッタ」が開かれ、同団体の選手たちも出場した。また、10月4日には、地元の琵琶湖漕艇場で開かれる、市民レース「びわ湖かいつぶりレガッタ」にも出場する予定だ。
大会に参加して競技力の向上を目指す一方、9月20日にもまた西武大津店で市民を対象にしたエルゴメーターのタイムレースを開催し、競技のPRにも努める。
その後も、滋賀県内を中心に障害者ボートの普及イベントなどを展開しつつ、選手たちは大会に挑戦していく。小原さんは「ボートには、野球やサッカーのようなファインプレーはないが、仲間と喜びを分かち合う楽しさがある。琵琶湖という資源を活用し、地元の人たちと一緒に活動を広げたい」と、力を込める。
県ボート協会の奥村功会長は「普及を図る上で、漕艇場のバリアフリー化や水上での安全対策、障害者も参加できる大会の開催など、クリアすべき課題は多いが、『ボート王国・滋賀』として、誰もがボートを楽しめる環境を作りたい」と話す。日本パラローイング協会の青木松永事務局長は「東京パラリンピック開催に向け、『世界に追いつけ追い越せ』でやっていきたい。中でも、琵琶湖から世界に羽ばたいてくれる選手が出てほしい」と期待している。
琵琶湖ローイングCLUBでは、活動に賛同し、協力してくれる会員を募集している。個人・法人ともに入会金3千円と月額会費が必要。詳しい問い合わせは、琵琶湖ローイングCLUB(電)077・526・8701。
2014.8.25 02:17 MSN産経ニュース
「速い速い、いいぞ。あと100メートル、頑張って」
大津市の西武大津店。6階テラスに設置されたボート競技の練習用機器「ローイングエルゴメーター」に乗った子供たちに声援がかかる。声の主は、障害者ボート競技の選手たちだ。
「選手はボートを始めて間がない人たちばかりですが、コミュニケーションが上手になり、体力も付いてきました」
琵琶湖ローイングCLUBを設立した小原隆史代表理事(46)が、目を細める。小原さんたちは、一般にはなじみが薄い障害者ボートについて知ってもらおうと16、17の両日、クイズや映像の上映などで競技をPRする催しを開いた。
小原さんは同志社大ボート部OBで、社会人になってもボート競技を続けてきた。自身の長女に先天性の障害があり、その成長を見守るうちに「障害者が主役になれる場所をつくりたい」と考えるようになり、昨年12月、琵琶湖ローイングCLUBを設立した。
同団体は、県内外から集まった16~38歳の選手9人をはじめ、その保護者や小原さんの後輩ら約20人で活動。選手の多くはスポーツの経験がなく、設立をきっかけにボートを始めた人たちばかりだ。
選手たちは月2回、琵琶湖や瀬田川などでボートの練習を積み、それぞれがジムに通ったり自宅で筋トレをしたりして鍛錬を重ねている。
主将として選手をまとめる谷口佑樹さん(26)も、団体設立を機にボートを始めた一人。先天性の障害のため足を自由に動かせないが、スポーツが好きだったため、中学ではバスケットボール部に、高校では陸上部に所属。「他のみんなに迷惑をかけたくないから」と、いずれもマネジャーを務めた。
しかし、障害者ボート競技に出合ってからは、自己記録を更新する喜びや仲間と一緒に分かち合える達成感を味わえた。「『パラリンピックに出場するにはどうしたらいいか』と考えて生活するようになり、仕事にも張り合いが出ている」と目を輝かせる。
また、選手の一人、石井みかさんは「障害があり、周りから助けてもらうことが多いので、自分もなにか人のためになりたいと思っていた。ボートの練習などを通して、仲間を気遣って声をかけられるようになった」と喜ぶ。
「日本パラローイング協会」によると、障害者ボートは水上の1千メートルの直線コースで争われる。4人乗り、2人乗り、1人乗りの種目があり、性別や障害の程度に応じて出場できる種目が決まっている。2008年の北京パラリンピックで正式種目となり、日本は2012年のロンドン大会から出場している。国内の競技人口は約100人。世界的にも、陸上や水泳などに比べ、競技人口は少ない。
競技人口の少なさなどから、国内では障害者だけの大会は開催されていない。このため、一般の大会に参加し、健常者と混じって戦うことになる。
今年6月下旬には、東京パラリンピックのボート競技会場となる東京・お台場海浜公園で「お台場レガッタ」が開かれ、同団体の選手たちも出場した。また、10月4日には、地元の琵琶湖漕艇場で開かれる、市民レース「びわ湖かいつぶりレガッタ」にも出場する予定だ。
大会に参加して競技力の向上を目指す一方、9月20日にもまた西武大津店で市民を対象にしたエルゴメーターのタイムレースを開催し、競技のPRにも努める。
その後も、滋賀県内を中心に障害者ボートの普及イベントなどを展開しつつ、選手たちは大会に挑戦していく。小原さんは「ボートには、野球やサッカーのようなファインプレーはないが、仲間と喜びを分かち合う楽しさがある。琵琶湖という資源を活用し、地元の人たちと一緒に活動を広げたい」と、力を込める。
県ボート協会の奥村功会長は「普及を図る上で、漕艇場のバリアフリー化や水上での安全対策、障害者も参加できる大会の開催など、クリアすべき課題は多いが、『ボート王国・滋賀』として、誰もがボートを楽しめる環境を作りたい」と話す。日本パラローイング協会の青木松永事務局長は「東京パラリンピック開催に向け、『世界に追いつけ追い越せ』でやっていきたい。中でも、琵琶湖から世界に羽ばたいてくれる選手が出てほしい」と期待している。
琵琶湖ローイングCLUBでは、活動に賛同し、協力してくれる会員を募集している。個人・法人ともに入会金3千円と月額会費が必要。詳しい問い合わせは、琵琶湖ローイングCLUB(電)077・526・8701。
2014.8.25 02:17 MSN産経ニュース