静岡市駿河区の住宅と町工場が並ぶ一角に、障害者の通所施設「アトリエいろは」がある。所長で、運営する合同会社「もも」の社長を務める磯野興子(こうこ)さん(62)=同区=は、身内の介護をきっかけに、介護・福祉サービスの世界に飛び込んだ。
「サラリーマンの妻だった私が今、こうしているのは、いろんな人の後押しのおかげ」
十六年前、母親(86)が骨折で七カ月間入院。その翌年、母の退院直後に夫(67)が転んで頭を強く打ち、入院した。夫は一カ月以上、意識不明が続き、命が危ぶまれた。夫の意識が戻り、リハビリ病院に転院した後、今後の介護に役立つのでは、と、ヘルパーの資格を取った。
夫は自宅で機能回復に努め、まひは随分解消したが、新たな難問に直面した。高次脳機能障害が残ったのだ。感情のコントロールが難しくなり、周囲と頻繁にトラブルを起こすように。磯野さん自身、夫からの暴力や罵声に悩まされた。
そんな折、知人から、ヘルパーの資格を生かして高齢者の訪問介護にパートで入ってくれないか、と頼まれた。結果的にこれがよかった。夫との適度な距離が生まれ、関係が改善された。夫は公的な支援機関が開く催しに参加するようになり、その時間を使って仕事を増やしていった。
その後、高齢者の介護から障害者の介護に移り、ケアマネジャーの資格も取った。障害者の自宅に居宅介護の仕事で行くうち、介助に不向きな浴室に困っている本人や家族、日中の活動の場を望む人が多いのを痛感した。ちょうど所有していた古い倉庫の借り手がいなくなり、物件の活用を考えていたころで、「この土地を使い、障害者が地域で安心して暮らせるような通所施設をつくろう」と思った。
浴室には、重度障害者も入りやすい特別な浴槽を設置。一般企業への就職は難しいが、内職はできる人に就労の機会を提供したり、より障害が重い人には入浴や食事の介助、創作活動の機会を提供したりする。定員は二十人。小規模でさまざまなニーズに応えようと考えた。
建物を建て、既存の事業所に貸して運営してもらおうと考えていたが、話がまとまらず、自前で運営することに。建築時に福祉施設として問題がないかを確認してくれた施設管理者の海野(うんの)浩二さん(60)が、事業所の申請でも、力を発揮。一昨年十一月に開所にこぎつけた。
施設には知的、精神、身体の障害のある人が車の送迎で通っている。安全ピンの部品を組み立てたり、塗り絵や散歩をしたりして過ごす。
「いずれは障害者用の住居をつくり、地域の方と障害のある人が気軽に交流できる場もつくっていけたら」と抱負を語る。

施設を利用する男性の絵を見て、色の塗り方の丁寧さを褒める磯野興子さん=静岡市駿河区の「アトリエいろは」で
2014年8月13日 中日新聞
「サラリーマンの妻だった私が今、こうしているのは、いろんな人の後押しのおかげ」
十六年前、母親(86)が骨折で七カ月間入院。その翌年、母の退院直後に夫(67)が転んで頭を強く打ち、入院した。夫は一カ月以上、意識不明が続き、命が危ぶまれた。夫の意識が戻り、リハビリ病院に転院した後、今後の介護に役立つのでは、と、ヘルパーの資格を取った。
夫は自宅で機能回復に努め、まひは随分解消したが、新たな難問に直面した。高次脳機能障害が残ったのだ。感情のコントロールが難しくなり、周囲と頻繁にトラブルを起こすように。磯野さん自身、夫からの暴力や罵声に悩まされた。
そんな折、知人から、ヘルパーの資格を生かして高齢者の訪問介護にパートで入ってくれないか、と頼まれた。結果的にこれがよかった。夫との適度な距離が生まれ、関係が改善された。夫は公的な支援機関が開く催しに参加するようになり、その時間を使って仕事を増やしていった。
その後、高齢者の介護から障害者の介護に移り、ケアマネジャーの資格も取った。障害者の自宅に居宅介護の仕事で行くうち、介助に不向きな浴室に困っている本人や家族、日中の活動の場を望む人が多いのを痛感した。ちょうど所有していた古い倉庫の借り手がいなくなり、物件の活用を考えていたころで、「この土地を使い、障害者が地域で安心して暮らせるような通所施設をつくろう」と思った。
浴室には、重度障害者も入りやすい特別な浴槽を設置。一般企業への就職は難しいが、内職はできる人に就労の機会を提供したり、より障害が重い人には入浴や食事の介助、創作活動の機会を提供したりする。定員は二十人。小規模でさまざまなニーズに応えようと考えた。
建物を建て、既存の事業所に貸して運営してもらおうと考えていたが、話がまとまらず、自前で運営することに。建築時に福祉施設として問題がないかを確認してくれた施設管理者の海野(うんの)浩二さん(60)が、事業所の申請でも、力を発揮。一昨年十一月に開所にこぎつけた。
施設には知的、精神、身体の障害のある人が車の送迎で通っている。安全ピンの部品を組み立てたり、塗り絵や散歩をしたりして過ごす。
「いずれは障害者用の住居をつくり、地域の方と障害のある人が気軽に交流できる場もつくっていけたら」と抱負を語る。

施設を利用する男性の絵を見て、色の塗り方の丁寧さを褒める磯野興子さん=静岡市駿河区の「アトリエいろは」で
2014年8月13日 中日新聞