手話を言語として位置付け、手話の普及と理解促進を目指す「手話言語条例」の制定が近畿地方の自治体で相次いでいる。これまで2府3県で10自治体が制定。大阪府内では、大東市で9月28日に「市こころふれあう手話言語条例」が成立した。一方、府内最大の人口を抱える大阪市では今のところ具体的な動きはなく、聴覚障害者団体は「手話が、音声言語と対等の言語として認められた大阪市にしてほしい」と訴える.
■一歩前進
府内初の条例制定自治体となった大東市。市聴力障害者協会などから条例制定の要望を受け、議案作成に向け昨年度から意見交換会を重ねてきた。今年の9月議会に東坂浩一市長が条例案を提案し、全会一致で可決。全国21番目で、11月1日に施行する。
前文では、これまで手話が言語として位置付けられていなかったたため、ろう者は十分な情報が得られず地域や職場で孤立しがちだったと指摘。市の責務として「手話を使用できる職員を増やす」など手話への理解促進と環境整備を明記、市民にも手話を意思疎通の手段として活用するよう求めた。
市障害福祉課の前原隆盛課長は「手話だけでなく、ろう者を理解してほしいという関係者の強い思いが背景にあった。障害者が安心できる町づくりへ一歩前進した」と強調。市職員を対象とした手話研修会を行うなど、具体的な取り組みを進めていく方針だ。
■つながるきっかけ
同市で手話通訳派遣事業の窓口を務め、自らも通訳者として活躍する西岡琴美さん(55)。「これまでは健聴者のろう者に対する誤解があった。『筆談してみよう』『手話であいさつしてみよう』となれば、(ろう者と聞こえる人が)つながるきっかけになる。手話を学ぼうと思う人も増えるのでは」と期待する。
課題は手話通訳者の確保と育成だ。手話通訳者は報酬が低いため専業の仕事として成り立ちにくく、男性の通訳者も少ない。同市も19人の登録手話通訳者だけでは足らない状況で、同課の手話通訳士、前田裕俊さん(33)は「病院に同行する際など、男性のろう者は女性の通訳者に頼みにくい面もある。通訳者の育成や処遇改善のきっかけにもなれば」と話す。
■大阪市にも条例を
大阪市での動きはどうか。市聴言障害者協会は、条例制定を求めて市議会各会派を対象に勉強会を開催するなど働き掛けを強化。9月11日には橋下徹市長宛ての要望書も提出した。
だが、同市障がい福祉課は「課題として認識はしている」としながらも「執行部として提案を具体的に考えている段階にはない」と消極姿勢。議会側の対応を“様子見”している段階だ。
政令指定都市では神戸市に次ぐ2番目の条例制定を目指す同協会の西滝憲彦会長(68)は「大東市など全国の自治体にできて、大阪市にできないはずはない。手話使用者の私たちが住みやすい地域にしたい」としており、全会一致での成立を目指し、各会派に条例検討会の設置を粘り強く呼び掛ける構えだ。
大阪府初の手話言語条例成立を祝う関係者ら
2015年10月20日 大阪日日新聞