障害のある人のアート作品を図案化し、商品のデザインに採り入れる拠点づくりが奈良県で進んでいる。商品の魅力アップと障害者の社会参加を両立させる障害者団体の試みに、「商機につなげたい」と呼応する企業が相次ぐ。
芸術活動を通じた障害者支援を進める「たんぽぽの家」は、障害者作品の制作・流通拠点「Good Job!センター」を奈良県香芝市に建設する。来月着工、来春完成をめざす。
アトリエや商品の展示スペース、各地の障害者が手がけた商品を扱う流通センターを備える。約2億円の事業費は、借入金と日本財団の補助金、目標3千万円の寄付金をあてる。
たんぽぽの家は1973年、養護学校を卒業した子どもたちが生きがいを感じながら生活できる場をつくろうと発足した。障害のある人が作った詩にメロディーをつけて演奏する音楽祭、アート作品の展覧会、演劇のワークショップといった活動を続けてきた。
2007年、東京や福岡のNPOとともに、企業に障害者作品の2次使用を促す組織「エイブルアート・カンパニー」を結成。カンパニーが作品を管理し、広告や商品に使う企業から著作権使用料を受け取る。現在、全国公募で選ばれた94人の9051作品が登録され、文具や服飾雑貨に使われている。
雑貨などを商品化する場合、著作権使用料は原則、商品の本体価格に生産数をかけ合わせた金額の5%。2千円の商品を1千個生産すれば、10万円がカンパニーに入る。必要経費などを差し引いた額が、作者の収入となる。
厚生労働省の統計では、全国の作業所で働く障害者の1カ月あたりの平均工賃は約1万4千円(13年度)。国は自立支援策を打ち出すが、仕事の選択肢は限られる。
たんぽぽの家常務理事の森下静香さん(41)は「商品デザインに活用されることで作品が生かされ、得意分野を仕事にする可能性が広がる」と話す。問い合わせはたんぽぽの家(0742・43・7055)。
■「純粋にファッション」
すでに様々な企業がカンパニーを通じて新たな商品を送り出している。
「靴下屋」など約300の専門店を展開するタビオ(大阪市)は、障害者アートを全面にプリントした靴下を年8~10種類販売している。1足2千~2700円と高めだが、年間約6千足を売っている。メンズ営業部長の平岩章男さん(53)は「男性用靴下の売れ筋の目安はおおむね1足800~1千円で2万足。倍以上の価格で6千足は悪くない」と話す。
主に女性向けの洋服や雑貨を扱うフェリシモ(神戸市)は今年1月、障害者の作品を採り入れたブランド「UNICOLART(ユニカラート)」を立ち上げた。春・夏向けにレース模様のワンピースや幾何学柄のパンツなど12種類を発売。秋・冬向けも準備中だ。ブランドを手がける芦田晃人さん(28)は「障害の有無ではなく、純粋にアートとしてファッションに活用したいものを選んでいる」。春・夏向けは約3千万円を売り上げた。まずまずの手応えという。
文具大手のコクヨは定番の野外用ノートの表紙に採用。オフィスや公共施設向けの家具を手がける子会社のコクヨファニチャー(大阪市)は、障害者が開発に関わった待合場所用の長椅子ロビーチェアに、風景画など3種類の絵柄を採り入れている。(栗田優美)
■商品の魅力、成功のカギ
《塩瀬隆之・京都大総合博物館准教授(システム工学)の話》 たんぽぽの家の取り組みは「仕事に人を合わせる」という従来の発想を転換させ、「人に合わせて仕事をつくる」という社会に変えうる重要な試みだ。誰が作ったかという物語で買ってもらうのではなく、魅力的な商品をつくることが成功の鍵となるだろう。
カラフルな柄が目を引くタビオの靴下
2015年10月2日 朝日新聞デジタル