大阪市営地下鉄の運転士の有志らが、聴覚障害者を支援するNPO法人「デフサポートおおさか」(同市中央区)と協力し、地下鉄のバリアフリー化を考える月1回の勉強会を開いている。どうすれば、誰もが使いやすい公共交通機関になるのか-。運転士らは聴覚障害者と一緒に手話で駅名を紹介する動画を作成、障害者の意見を聞き改善策を提案するなど、現場から変えようと奮闘している。
■手話で伝える
活動を続けているのは、同市交通局の労組内サークルで手話を学ぶ現場の運転士や駅員の4人でつくる「チームもぐら」。昨年4月、地下鉄で市内の聴覚支援学校に通う小学生の父親から「手話のできる職員を駅に配置できないか」と相談を受けたのがチーム結成のきっかけだった。
局に掛け合ったが配置の実現は難しく、「まずは自分たちにできることを」と、同9月から同NPOが運営する「Deaf Cafe手話楽々」で、聴覚支援学校の児童や生徒を集めた勉強会を開始。地下鉄で困ったときの対処法や忘れ物の対応、切符の買い方などを手話で伝えてきた。
活動には遊び心も取り入れ、御堂筋線の梅田-天王寺間の駅名を表す手話動画をコント仕立てで作成、ホームページで公開した。
■少しずつ
「火事の時、駅に煙が充満したらどうすればいい?」「変な人が電車に乗ってきて怖かった」「改札に人がいなくて困った」「電車が遅れる原因が分からない」
車内放送などで聞こえる人には当たり前に伝わる情報が、聴覚障害者には入ってこない。勉強会では、児童生徒から地下鉄の問題点や疑問を指摘されることが多々ある。その度に、対処法を伝える一方、どうすれば改善できるか考えてきた。
地下鉄の各駅には、言葉が分からなくても絵を指させばスムーズに意思疎通ができる「コミュニケーションボード」が置かれていたが、聴覚障害者に知られていないことも分かった。「チームもぐら」は局に改善を申し入れ、今は全駅で目立つ場所にボードが置かれるようになった。
「公共交通から変えていかないと世の中は変わらない」と、メンバーの飯田孝三さん(42)。桑野美由紀さん(43)も「交通局で働いているからこそ、障害者の意見を伝えることができる」と使命感に燃える。代表の田里義宣さん(41)は「小さな取り組みだが、共感は広がり始めている」と実感し、横川隆吏さん(39)は「優しい気持ちで障害者に接することができる仲間を増やしたい」と意気込む。
■社会的責任
チームもぐらの活動は公共交通の在り方に一石を投じるきっかけになり得るが、他の関西の鉄道会社を含め、聴覚障害者に対する情報保障や理解促進はハード・ソフト両面で十分には進んでいないのが現状だ。
同NPOの稲葉通太副理事長(55)は今春、「バリアフリー・トレイン」と名付けたフェイスブックのページを開設し、チームもぐらとNPO、児童生徒の取り組みを紹介。聴覚障害者が当たり前に安心して使える公共交通機関が全国に広まることを願っている。
稲葉副理事長は「聴覚障害のある子供と大人、現場の運転士が『変えよう』と共に頑張っていることに意味がある。今は自主的なサークル活動の域を出ないが、鉄道会社や行政は社会的責任として、手話で対応する職員を増やすなど取り組みを進めるべきだ」と指摘する。
聴覚支援学校の児童や生徒に地下鉄に乗る際の注意点などを伝える「チームもぐら」のメンバー
2015年12月12日 大阪日日新聞