知的障害者にもっと学ぶ場を-。障害者福祉事業を展開する「鞍手ゆたか福祉会」(福岡県鞍手町、長谷川正人理事長)が九州と東京に五つの「福祉型大学」を開き、青年期教育の場を提供している。先駆けとなった福岡市の「カレッジ福岡」を訪ねた。
「くまモン誕生の秘密」「徳川家康について」「自分の成長と将来」…。カレッジ福岡の特色の一つ「自主ゼミ」は、知的障害や発達障害がある学生たちが関心のあるテーマを1年かけて掘り下げ、論文にまとめて発表する。自主性やコミュニケーション力、情報収集能力を身に付けていく。
カレッジ福岡は2012年4月、福岡市東区のビルに開設された。制度上は障害者総合支援法に基づく自立訓練事業と就労移行支援事業を組み合わせた多機能型事業所だが、利用者を「学生」、支援員を「支援教員」と呼ぶ。授業料は原則無料で、給食費など月約9千円を負担する。
障害の程度で普通科と生活技能科に分かれ、自立訓練に当たる前期(2年)を「教養課程」、就労移行支援の後期(最長3年)を「専門課程」とする。自主ゼミのほか経済、ヘルスケアなど、教育を重視したカリキュラムが組まれている。
現在、18~28歳の27人が学ぶ。1年の女性(20)は「友達と話をしたり、先生に悩みを聞いてもらったりできて楽しい」。2年の女性(20)も「漢字検定などの勉強ができて充実している」と笑顔で話した。
入学当初、対人関係のトラブルが絶えなかった男子学生が、今は行事で後輩をリードするなど、成長した姿が見られるという。来春卒業予定の1期生5人のうち、2人は退所したが、1人は就職が内定、2人も近く就職が決まりそうだ。
カレッジは北九州市小倉北区、福岡県久留米市、長崎県大村市、東京都新宿区に増え、5カ所で計85人が学んでいる。全国でも「専攻科」などの形で同様の学びの場は広がっている。
文部科学省によると、特別支援学校高等部を卒業した知的障害者の進路(12年3月)は、福祉施設などへの通所・入所が67%、就職が28%で、大学などへの進学はわずか0・5%にすぎない。これに対し、一般の高校生の進学率は70%を超える。
福岡女学院大の猪狩恵美子教授(特別支援教育)は「障害がある人はゆっくり育つのに、現状では18歳で社会に出なければならない。大学並みに学ぶ時間があれば、自分で考えて決める力が育ち、社会に出てもうまく適応できるようになる」と話している。
●指導者の確保課題 長谷川正人理事長
カレッジ福岡を運営する鞍手ゆたか福祉会の長谷川正人理事長(55)は「知的障害者の大学創造への道」(クリエイツかもがわ)を出版するなど、特別支援学校卒業後の学びの場の必要性を訴えている。
-なぜ福祉型大学が必要か?
「ささいなことで離職してしまう障害者を多く見てきた。もう少し長く学べれば状況は改善するとの確信があった。また、友達と遊んだり、自分の好きなことを突き詰めたり、挫折したり、もっと青春を楽しむ時間があっていい。むだに見える時間や体験こそが折れない心を育てる」
-理想的な形は。
「米国では、300カ所以上の大学が知的障害者を受け入れている。学士号を与えるわけではないが、健常者と一緒に学ぶ機会を保障している。(障害にかかわらず、共に学ぶ場を保障する)インクルーシブな環境は、障害者も健常者も学ぶものは大きい」
-今後の課題は。
「指導者の確保。高校や特別支援学校での勤務経験がある教員免許保持者を採用しているが、給与水準や福祉型大学の認知度の低さのためか、人材確保が難しい。知的障害者のための『大学』を国の制度に位置づけるなどして、優秀な人材が集まるようにしたい」
=2015/12/24付 西日本新聞朝刊=