千葉県佐倉市の障害者施設「重心通所さくら」(竹内耕所長)は、脱衣所と浴室にリフトを設置することで、個々の利用者の希望や残存能力に応じた入浴ケアを提供している。機械浴槽を使わずに行う抱え上げないケアは、利用者と職員の負担を大幅に軽減。ケアの質の向上にリフトは不可欠な存在になっている。
社会福祉法人生活クラブ風の村が運営する「さくら」は、定員20人(生活介護15人、児童発達支援・放課後等デイサービス5人)の通所施設。佐倉市と四街道市を中心とする重症心身障害児者保護者の会の「学校卒業後に適切な生活の場がほしい」という要望を受け、2013年7月に開所した。生活介護等は約50人と契約し、毎日10~15人が利用。同法人の基本理念である「一人ひとりの個性と尊厳を大切に質の高い支援を目指す」を方針に、毎回利用者の希望を聞き、職員が1対1でリラクゼーションやパソコン、音楽活動などを支援している。
リフト導入は、2年間の施設建設準備中に法人役職員や行政、保護者の会のメンバーなどが協議して決めた。同法人は、残存能力を損なう恐れがあり画一的な入浴方法になりがちな機械浴槽を特別養護老人ホームでも使用せず、リフト導入にも慎重だった。しかし、安全・安楽なケアや残存能力を損なわないケアにはリフトが必要と判断。脱衣所と浴室に導入した。
リフトは4社の製品を比較検討した結果、脱衣所と浴室の壁にレールを通す工事が要らず、浴室から脱衣所への湿気漏れも防止できる㈱竹虎の鴨居を渡る天井走行式リフト「かるがる®Ⅲ」に決めた。
利用者の希望を尊重する「さくら」では、入浴ケアの際も、利用者と話し合って湯温や入湯時間、リフトを使う場所・回数を決めている。
抱えられる方が怖い
例えば、毎週1回入浴する筋ジストロフィーの間貴洸さん(21)の場合、38度の湯船に5~6分つかる。リフトは車いすから脱衣台に移る時、脱衣して浴室に移る時、浴室の床に敷いたマット上で体と頭を洗った後に浴槽に入る時、浴槽から出て体を拭き脱衣台に移る時、脱衣台から車いすに戻る時に使う。
間さんは身長160㌢、体重55㌔。座位が不安定で、男性2人でも抱え上げが難しく、転倒の危険があるため、すべての行程でリフトを使っている。「ここで初めてリフトを使った。最初は怖かったが、今は体も楽で怖くない。抱えられる方が滑って怖い」と話す。
一方、座位が安定し車いすから脱衣台へ平行移乗できる人は、脱衣後シャワー椅子に移り、浴室に移動し体や頭を洗浄。浴槽への出入りだけリフトを使うなど残存能力を損なわない配慮をしている。また、機械浴槽を使わない分、安全面には最大の注意を払い、移乗・入湯時は必ず2人が付いて体を支えたり、シンエイテクノ㈱の滑らない風呂マット「ダイヤエース」を浴槽の底部に敷いたりするなど工夫している。
個々の希望に応えるため、1人当たりの入浴時間は平均50分。湯船にゆっくりつかる人が多く、1日の入浴者は午前2人、午後2人が限界だという。「リフトは利用者に合わせ柔軟な使い方ができる。職員の負担軽減にも役立っており、リフトがないと困る」と竹内所長は話す。
「さくら」では、リラクゼーションなどの場でも寄贈された床走行式リフトを使い、抱え上げない環境を整えており、「今後の課題は脱衣台の高さ調整。車いすや便座への平行移動を考え高さを決めたが、介護者に合わせ高さを変えられたらもっと負担軽減できる」という。
機械浴槽を使いながらも脱衣所では人力による抱え上げをしている施設が多い中、抱え上げないケアができる環境をつくり、柔軟に使い分けている「さくら」の取り組みには、利用者の個性と尊厳を守る強い気概が感じられる。
2015年12月03日 福祉新聞編集部