横須賀総合医療センター心臓血管外科

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縦隔炎・胸骨骨髄炎にならない心臓手術 = 胸骨を切らないアプローチ

2018-08-14 06:21:59 | 心臓病の治療
 縦隔炎、胸骨骨髄炎は心臓手術で最も歓迎されない合併症の一つで、最近はNPWT(Negative Pressure Wound Therapy=陰圧吸引療法)などのおかげで死亡率は低下し、治療としては確立してきたように思いますが、初めからこの縦隔炎や胸骨骨髄炎にならないようにするのが最も優先されることです。
 手術部位感染(SSI = Surgical Site Infection)は、術中の落下細菌や皮膚の常在菌などが汚染源となることが多く、手術室内の環境から細菌が混入しないようにすること、そして患者さん側の感染しにくい状態を構築すること(栄養状態・免疫力など)などが予防になりますが、そもそも、縦隔や胸骨自体が感染に対して脆弱であることが前提にあります。縦隔炎のほとんどが胸骨骨髄炎を合併しており、胸骨骨髄炎を起こさなければ縦隔炎の頻度も減少すると考えられます。

 ですので、胸骨を正中切開する、または部分切開すること自体を行わない手術方法にすることで、根本的な解決となります。右開胸の弁膜症手術や左開胸か上腹部正中切開の人工心肺非使用冠動脈バイパス術は、小さい目立たない創で手術をすることで患者さんの満足度の高い手術であり、術後の呼吸状態が良いことや回復が速く入院日数が短くて済むことがメリットですが、外科医として最も残念な合併症=SSIが発生しないことが、最大のメリットとも言えます。その意味で安全に側方アプローチでの手術が可能な患者さんは、今後ますますこのアプローチが選択されることが増加すると考えられます。

 肋間開胸アプローチのデメリットもしくはリスク・注意点として、体型によっては視野が不良、肺の癒着がひどい人には適応できず、かつ術前に予測できないことが多い、肺機能が悪く片肺換気に耐えられない患者さんには適応困難、肋間神経の疼痛が胸骨正中切開よりも強いことが多い(神経ブロックで対応可能)、術後に乳房の変形が起こることがあり、女性の患者さんの場合は皮膚切開の位置に細心の注意が必要、大動脈の性状が悪い、拡大しているなどの症例は危険性が高い、研修医の開胸・カニュレーションの機会が減少する、などあります。安全に実施できない患者さんは無理にこのアプローチを採用する必要はありませんが、創の大きさにこだわらずに、創を拡大することだけで適応可能なのであれば、採用を検討すべきと言えると思います。
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