横須賀うわまち病院心臓血管外科

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冠動脈バイパス術における低侵襲化

2018-08-13 19:10:39 | 心臓病の治療
冠動脈バイパス術における低侵襲化

 高齢化が世界最速のテンポで進みつつある日本において、心臓血管疾患は今後数十年にわたって社会的リソースを逼迫するまでに増加すると考えられています。心臓血管外科手術は危険性・侵襲度ともに高い治療が多く、専門性の高い領域ともいえますが、治療を低侵襲化することで、より高齢者に治療範囲を広げ、また短期間に合併症なく治療を遂行することで限られたリソースを効率的に利用し、来る心不全パンデミックにも対応する一つの手段となりうるものと考えられます。低侵襲心臓手術をMinmally Invasive Cardiac Surgery = MICSと最近は呼ぶことが多くなっています。心臓血管外科領域でも低侵襲治療が年々発達してきていますが、特に今回は、冠動脈バイパス術における低侵襲化について紹介します。

人工心肺を使用しない心臓手術
 心臓血管外科手術の特徴として、人工心肺を使用して心停止や、循環を停止させて治療を行う侵襲度の高い手術が多い中、21世紀に入り大きく発達したのが、人工心肺を使用しない心臓大血管手術です。この中で、冠動脈バイパス術は手術の低侵襲化と低コスト化が同時に実現されたものとして特に社会的貢献の大きかったものと考えられます。他に、大動脈疾患に対するステントグラフト留置術、大動脈弁狭窄症に対する経皮的大動脈弁留置術(TAVI)、僧帽弁逆流に対するクリップによる経カテーテル的僧帽弁形成術(Mitraclip)など、他にも人工心肺非使用の心臓血管外科手術が進化していますが、デバイス費用が高額で適応も限定されるなど、まだ課題があります。

オフポンプ冠動脈バイパス術
 人工心肺非使用(オフポンプ)の冠動脈バイパス術は、拍動する吻合部を固定する専用のスタビライザーが発達したことで普及し、今や日本国内の冠動脈バイパス術の7割がオフポンプで行われております。心臓を動かしたまま血管吻合する職人芸的な技術は、特に日本の外科医に好まれ、最も高い頻度で行われています(世界平均3割)。積極的な施設ではオフポンプを標準術式として、当院も含めて100%オフポンプで行われています。人工心肺非使用により脳梗塞の頻度や感染症が減少し、特にハイリスク症例や透析患者の手術成績が向上しました。術中の使用するヘパリンも半量で済み、人工心肺による凝固因子の消費もないため、出血量が少なく止血も容易で、輸血も少なくて済みます。自己血回収装置の使用で多くの症例では無輸血で実施可能です。人工心肺を使用しない分、医療費は約30万円以縮小されます。

MICS-CABG
最近では胸骨を切離することなく、左小開胸や上腹部切開で複数の冠動脈バイパス術を行う、いわゆるMICS-CABGも試みられています(図1)。専用の開胸器や内視鏡を使用して内胸動脈を剥離し、人工心肺を使用せずに心拍動下に血管吻合します。左開胸では心臓を脱転せずに吻合可能なため、正中切開に比較して吻合中の血圧が安定します。同じ視野で右内胸動脈の採取や、心臓下壁の右冠動脈への血行再建も可能です。別創で腹部正中切開を行い、横隔膜経由で右胃大網動脈を吻合する場合もあります。小開胸もしくは小開腹の心拍動下冠動脈バイパス術は、術中の侵襲が小さいため手術室で人工呼吸器から離脱し、縦隔炎や胸骨骨髄炎の発生は皆無で、1週間以内での退院も可能です。
 横須賀市立うわまち病院でも積極的にMICS-CABGに取り組んでおります。

Hybrid治療
左小開胸で完全血行再建しなくとも、残存病変にカテーテルインターベンションを組み合わせたHybrid治療によって、より低侵襲に短期間で治療できる症例も増えてきました。より短時間で低リスクに治療を完結するために、症例によってはハートチームで、Hybridを検討することも必要です。





















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