Dr. 鼻メガネの 「健康で行こう!」

ダンディー爺さんを目指して 日々を生き抜く
ダンジーブログ

事実を知る必要性

2006-10-04 | 医療・病気・いのち
 私の場合、程度の差はあれ、基本的に癌であることをお伝えせずに手術をお引き受けすることはない。しかし、紹介されてこられるまでにいろいろあって、患者さん自身とお会いする前に、家族が本人の告知を強く拒否する場合がある。

 では、他の病院へどうぞというのは簡単かもしれないが、進行がんと思われる場合は少しでも早く治療を開始してあげたいし、紹介された病院も困るかもしれないと思ったりもする。

 そこで、治療を進めるに従い、癌であることを本人が知らないと、円滑に治療が進められなくなる可能性があること。
 病気の内容は、あくまで患者さん自身の情報であり、家族のものでないこと。
 そして、なによりも再発などしてくると、うそにうそを重ねざるを得なくなり、大切な最後のときが、本人と家族が意志を通わせることなく過ぎ去る可能性があること。
 などをお話して、納得していただく努力をする。

 それでも納得してもらえないときもある。

 本人に胃癌であることをお伝えできないまま手術したAさん。かなりの進行がんであり、血行性転移再発、あるいは腹膜再発の可能性が非常に高いと思われた。術後も本人へ癌であることを伝えたほうがよいと家族に説明したが、伝えてくれるなとのことであった。

 そのまま1年半は定期検査でも問題なかったが、外来でエコーを当てたところ、肝臓内に約5mmと1cmのしこりが出現した。本人に癌であることを伝えてないために、とりあえずは肝臓に炎症が起きているといって直ちにTS1を開始した。

 それが著効を呈し、その後半年間は、エコーでみてもしこりがわからなくなっていた。しかし、その後また出現してきた。TS1にシスプラチンを加えて、若干効果があったが、再び増大。シスプラチンとイリノテカンの組み合わせに変えたが効果なし。そのうち、本人は治療継続に乗り気でなくなってきた。

 これまでも何度か家族に連絡を取ったが、実際には病院に来なかった。今度ばかりは必ず来ていただくよう説得。これ以上の治療は、少なくとも肝臓にあるしこりが悪性であることを伝えない限り、本人の納得が得られないことを伝え、ようやく告知の納得が得られた。

 本人には、少しオブラートに包んだような説明にはなったが、悪性であることをきちっとお伝えすることができた。

 Aさんは、ほとんど表情に出さない方なので、どのように感じたかはわからないが、その後治療に積極的となり、ともに治療するという体制ができたと感じている。

 そして今は、使用中のパクリタキセルが効果を示すことを願うばかりだ。