☆第2話『ラブソングをあなたに』
(1992.5.8.OA/脚本=尾西兼一/監督=鈴木一平)
代官警察署・捜査課の本城刑事(水谷 豊)をリーダーとする若手チームが、拳銃を数丁隠し持ってるらしい男のアパートにガサ入れしようとするんだけど、男は逃走。
「拳銃オタクかよ、危ねえヤツ!」っていう藤村刑事(寺脇康文)の悪気無い言葉が、私の胸に突き刺さりますw
で、逃げた拳銃オタクは公園で花屋の露天販売をしてた女の子=洋子(亜里香)を人質にとるんだけど、原田刑事(田中 実)と本城がみごとな連携プレーで逮捕、洋子も無傷で保護されます。
売り物の花を乱闘でいくつも台無しにされ、洋子はお冠なんだけど、本城と原田がポケットマネーで全部買い取ったらケロっと機嫌を直しちゃう。明るくて分かりやすい性格のようです。
さて、それで事件は解決したかと思いきや、捕まった男が取調べの段になって「逃げる途中で拳銃を1梃、公園に落とした」なんて抜かすもんだから本城たちは大慌て。タケさん(地井武男)の特大カミナリを浴びる羽目になります。
総動員で公園を探索しても拳銃は見つからず、その行方を追って刑事たちは奔走します。
で、夜遅くまで後輩の吉本刑事(彦摩呂)と聞き込みに回ってた原田は、ライブハウスの表で洋子と偶然再会するのでした。
洋子は趣味でバンドのボーカルを務めており、それなりにファンもついてる人気者なんだけど、原田に声を掛けられると嬉しそうに彼を食事に誘います。一緒にいた吉本が気を利かせて先に帰るほど、明らかに洋子は原田のことが気に入ってる様子なのでした。
「代官署の良心」と云われ、本城には「こいつの長所はマジメなとこ、短所はマジメ過ぎるとこ」なんて揶揄されるほど、原田はガチガチの堅物人間。
一方の洋子は、今にもオッパイがポロリしそうな大胆ステージ衣装のまま食事する奔放なキャラで、一見不釣り合いな組み合わせなんだけど、マジメな男ほど奔放な女子に惹かれるもんだし、花屋で地道に働く洋子も根はマジメな性格なんでしょう。
だからこのまま恋愛に発展しても全然おかしくないんだけど、残念ながらこれは刑事ドラマです。延々と恋話を見せられたんじゃ視聴者はたまったもんじゃありませんw
当然ながら、洋子をアパートまで送った帰りに原田が拳銃で狙われるという波乱が訪れます。そして更に翌日、今度は洋子がパンティーを洗ってたコインランドリーの前で、酔っ払いがやはり拳銃で撃たれるという事件が発生。
使われた拳銃はいずれも、例の拳銃マニア男が公園に落とした物と同一と判明。三ヶ所で起こった拳銃事件の、全ての現場に洋子がいたワケで、犯人と洋子に何らかの繋がりがあるとしか考えられない状況。
そんな筈はないと思いつつ、原田は刑事として洋子の身辺を捜査します。それを知った洋子は、カンカンになって代官署に怒鳴り込んで来るのでした。
原田は冷静にいきさつを説明しますが、もはや赤の他人じゃないだけに洋子の怒りは収まりません。
「だったら私に直接聞けばいいじゃない!」
「キミが……嘘をつくかも知れない」
「嘘?」
「なんでも疑ってかかるのが刑事なんです。事件解決の為ですから、仕方ありません」
「最低……バカっ! 一生そうやって人に嫌われてればいいじゃない!」
最初はガチガチの敬語だった原田が、洋子と打ち解けるにつれタメ口に変化してたのに、今はまた敬語に戻ってる。それも洋子の神経を逆撫でしたのでしょう、彼女は原田にHOT! HOT!!なコーヒーをぶっかけ、刑事部屋を飛び出していくのでした。
女ごころがまるで解ってない原田に、本城や藤村が彼女の気持ちを解説してやるんだけど、堅物だけに原田にはピンと来ません。けど、それでも原田なりに考えて考え抜いた末、彼はライブハウスで練習中の洋子を訪ね、頭を下げます。
「あら、仕事なんだからいいんでしょ?」
「それはそうです。だけど、キミを傷つけたことに対しては謝る必要があります。申し訳ない!」
「…………」
「それだけ言いたかったんです。練習の邪魔してすみません」
不器用極まりないにしろ、真剣に考え抜いた原田の気持ちは、どうやら伝わったようです。出ていこうとする彼を、洋子は呼び止めます。
「ねえ……デートしよ」
夜の公園の屋台でラーメンをすすりながら、二人は仲直りするのでした。
原田はあらためて、一連の事件と関わりありそうな人物に心当たりが無いか洋子に尋ねます。
「いない。そんな人とは付き合わない」
「ほんと?」
「私が付き合ってもいいなあって思ってるのは、堅物の地道な男だけ」
「……バカなことを」
「別にあなたのことだなんて言ってないじゃん」
すっかりいい雰囲気になって原田は調子に乗ったのか、あるいはようやく本能が目覚めたのか、いきなり洋子を抱き寄せます。
「えっ? やだ、こんな所で……」
と言いながらも眼をつむって受け入れ体勢になる洋子を、原田は公園の茂みに連れ込みます。しかし、残念ながらこれは刑事ドラマです。それも夜8時台の番組です。屋外でチョメチョメしてる場合じゃありません。
そう、二人を狙う何者かの殺気を感じた原田は、洋子を隠れさせようとしてるのでした。
案の定、原田は肩を撃たれて倒れるんだけど、洋子が身を呈して彼を守ると、犯人はその場から逃げ去って行くのでした。
幸い原田は軽傷で済んだものの、これで犯人と自分に何か繋がりがあることを認めざるを得なくなった洋子は、さすがに意気消沈します。
「気にすること無いんだ。事件は俺たちが解決する。キミは、ライブを頑張ればいいんだ」
ライブ本番の日が間近に迫る洋子を、原田は気遣います。
そして本城は、洋子が「やめて」と叫んだとたんに犯人が逃げて行ったという話を原田から聞いて、犯人はロック歌手である彼女のファンじゃないかと睨みます。当時はまだ「ストーカー」という呼称は無かったかも知れないけど、そういう存在が社会問題の1つになりつつある時期だったと記憶します。
で、花屋の店長の後ろ姿が犯人のそれとよく似てることに原田は気づきます。つまり犯人はロック歌手である洋子のファンじゃなく、洋子その人のファンだった。
「彼女の歌を邪魔するんじゃないよ」
洋子のライブ本番中に、拳銃を隠し持って会場に現れた店長を、待ち構えていた本城と原田が逮捕します。ステージの邪魔をしないよう、声を潜めながら。
スポットライトとファンたちの熱い声援を浴びながら、激しいロックナンバーを唄い終えた洋子は、会場に原田の姿を見つけて、今度は甘いバラードを唄い始めます。
「♪唄わせて あなただけにこの歌を 世界中でただひとり 愛されて愛したいひと……」
いくら堅物の刑事さんとはいえ、女の子からここまで熱いアプローチを受けたらチョメチョメするしかないだろうと思うんだけど、二人のその後には触れないまま番組は終わっちゃいました。
最後まで原田に女慣れした様子はなく、同僚の村木(宍戸 開)に童貞をバラされるようなシーンもあった事から察するに、やっぱり堅物すぎて洋子にはフラれちゃったんでしょう。
まぁ、他愛ないと言えば他愛ない若手刑事のロマンス編だけど、本当に根っからマジメそうな原田=田中実さんの好演と、ゲスト=亜里香さんの可愛さ&爽やかなお色気により、これは実に楽しく後味良いエピソードとして記憶に残ってます。
こんな中学生チックな恋話を白々しく感じないのは、田中実さんの全身から滲み出る、その名前通りの実直さがあればこそ。そんな二枚目俳優はそうそう沢山いないと思うんで、若くして亡くなられたのはかえすがえすも残念です。
亜里香(現・佐藤亜里香)さんは当時19歳。子役モデルから芸能活動をスタート、'87年の連ドラ『美少女学園』レギュラー出演で女優デビュー、'90年の『スクール☆ウォーズ2』で注目され、その年に歌手デビューも果たされました。
刑事ドラマは他に『さすらい刑事旅情編』『裏刑事/URADEKA』『真夏の刑事』等にゲスト出演。今回の『刑事貴族3』第2話は番組最高視聴率17.2%を獲得したそうです。