ハリソン君の素晴らしいブログZ

新旧の刑事ドラマを中心に素晴らしい作品をご紹介する、実に素晴らしいブログです。

『古畑任三郎』2―#01

2019-03-22 12:00:02 | 刑事ドラマ'90年代









 
☆第1話『しゃべりすぎた男』

(1996.1.10.OA/脚本=三谷幸喜/演出=河野圭太)

第2シーズンの初回、シリーズ通算第14話にあたるエピソード。

本作はメインゲスト=明石家さんまさん扮するエリート弁護士・小清水が、法廷でその辣腕ぶりを発揮し、みごと被告の無罪を勝ち取る場面からスタート。冒頭シーンだけで彼が相当なキレ者であること、性格もかなり悪い男であることがよく分かります。

そして小清水は大物弁護士の娘(小高恵美)とデートした後、どうやらすっかり冷めた関係の恋人=ひな子(秋本奈緒美)のマンションを訪れます。ひな子は小清水が政略結婚を目論んでることを知りながら、別れるつもりは全く無いらしい。

そう、二人の関係をバラさない替わりに金銭を要求する彼女を、小清水は殺してしまうのでした。

と、そこで部屋のチャイムが鳴ります。どうやらひな子にぞっこんで、プロポーズを何度も断られてるらしい男が、性懲りもなく薔薇の花を片手にまたアタックしに来たのでした。

予期せぬ来訪者の登場に、小清水は慌てるどころか、なぜかほくそ笑みます。凶器に使った水差しの指紋を拭き取り、わざと入口の正面に置いてから、なんと彼は「今、人を殺しました」と警察に電話し、部屋を出て行くのでした。

で、入れ替わりに薔薇の花を持ってニヤニヤしながら登場したのが、おなじみの小泉慎太郎巡査(西村雅彦)w 主人公・古畑任三郎警部補(田村正和)の忠実な部下にして「全く役に立たないワトソン君」と云われる相棒です。

まんまと凶器の水差しを拾い上げた今泉は、ひな子の遺体に気づいてパニックを起こし、手についた彼女の血を自分のコートに塗りたくりw、パトカーのサイレン音が聞こえると脱兎のごとくマンションから逃走しちゃいますw

この番組を観たことが無い方は「なんで? 刑事のくせに」と思われるでしょうが、彼はそういう男なんですw この時も、あんまり古畑さんにイビられ過ぎて自律神経失調症を患い、休職中なのでした。

さて、凶器をはじめ現場にベタベタと無数の指紋を残し、ひな子の血が付いたコートも捨てずに自宅へ持ち帰ってた今泉は、あっという間に第一級殺人容疑者として逮捕されちゃいます。

しかも、こんな時こそ頼りにすべき上司の古畑は、今泉と親しいがゆえに捜査から外されちゃいました。

かくも絶望的な状況に置かれた今泉だけど、彼にはとても力強いツテがありました。大学時代の同期生に、凄腕の弁護士になった男がいるのでした。

そう、今泉の緊急SOSに応え、窮地から救うべく駆けつけたその凄腕弁護士こそ、真犯人の小清水なのでしたw

「任せとけ、絶対に俺がなんとかしたる!」

狡猾な小清水は、以前から今泉がひな子に付きまとってた事を知っており、犯行直後に今泉が訪ねて来た時、彼に罪をなすり付けることを咄嗟に思いついた。彼がパニックを起こして逃げることも、自分に弁護を依頼して来ることも全て計算ずくだったワケです。

ただ一人の味方である筈の担当弁護士が、真犯人。それも頭脳明晰で血も涙もない極悪人。どう見ても100%刑務所行き決定の今泉を救える男は、この地球上に1人しかいません。

「刑務所に差し入れ持ってってやるから」

そう言いながらも古畑は、警察上層部の命令を無視して捜査を進めます。それは相棒を救う為と言うよりも、目の前にいる絶対的な悪を許せないからだろうと思います。

「私は、あなたが殺したんだと思ってます。友人の人生が懸かってるんです。必ず尻尾をつかんでみせます」

「ま、頑張んなはれ」

これはシリーズ屈指の激しい対決物であると同時に、凸凹コンビの絆を描いた熱いストーリーで、めちゃくちゃ面白いし見応えあります。

普段からコケにされてる今泉が、あれよあれよと絶望の淵に立たされて行く畳み掛けが見事だし、今回ほど古畑任三郎が頼もしく感じる、つまり見てて燃えるエピソードは他に無いんじゃないでしょうか。

当然、最後は敵の上をいく洞察力と推理力で古畑が勝利するワケだけど、相手が弁護士って事で法廷物の面白さも加わるんですよね。

で、無言で頭を下げる今泉に、やはり無言でデコビンタを浴びせる古畑というw、このコンビならではの「あうん」の呼吸に、今回ばかりはジーンとさせられちゃう。

また、強敵・小清水との最後のやり取りも粋でした。

「あんた、ええ弁護士になれまんな」

「どうも有難うございます」

「今すぐ司法試験受けなはれ」

「いやぁ、自信ないです」

「出来るだけ早くでっせ」

「どうしてですか?」

「決まってまっしゃろ。僕の弁護をするんです」

「んっふふふふ……」

「頼んまっせ」

小清水はあながち冗談で言ってるワケじゃなく、最後の最後まで自分の保身しか考えない、底無しに性格の悪い殺人犯を、さんまさんが実に活き活きと演じておられるのがまた良いんですよね。そしてやっぱり演技が巧い。

ほか、古畑のもう一人の部下に白井 晃さん、出番の少ないフィアンセに小高恵美さん、裁判長に田山涼成さん、検事に中丸新将さん、コンビニの店長に斉藤暁さんと、レギュラーキャストが少ないぶん脇に至るまでゲストが豪華です。

セクシー画像は被害者ひな子役の秋本奈緒美さん。'80年代にジャズシンガーとしてデビュー、深夜バラエティー番組『オールナイトフジ』の司会で注目され、'90年代から女優として現在まで活躍されてます。
 
 
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『古畑任三郎』シリーズ '94~'06

2019-03-22 00:00:08 | 刑事ドラマ HISTORY









 
このタイトルが登場すると一気に現在に近づいた気がしますけど、これもスタートして既に20年以上も経つんですね。

1994年の春シーズン(全12話)、’96年の冬シーズン(全10話)、’99年の春シーズン(全11話)と3つのシリーズが放映された他、5本のスペシャル版に3話連続のファイナル、更に総集編、スピンオフ番組まで創られた超人気シリーズです。制作はフジテレビ&共同テレビ、音楽は本間勇輔。

フジテレビ系列で、1stシーズン(タイトルは『警部補・古畑任三郎』)と2ndシーズンが水曜夜9時、3rdシーズンが火曜夜9時に放映されてました。

説明するまでも無いと思いますが、最初に犯行の一部始終を視聴者に見せて、犯人が誰であるかをハッキリ示した上で、主人公の刑事がどうやってそれを見抜き、自白させるに至るかを見せる「倒叙法」によるミステリーです。

このドラマのヒットで一躍メジャーになった脚本家=三谷幸喜さんが元々『刑事コロンボ』の大ファンで、当時はDVDも発売されておらず『コロンボ』を観るすべが無くて、だけどどうしても観たいから「仕方なく自分で創る事にした」んだそうですw

NHKで『コロンボ』が放映されてた当時は、毎回カセットテープに録音して、毎日聴いては台詞を暗記する程のマニアだったらしく、それって私が『太陽にほえろ!』放映当時にやってた事と全く同じなんですよね。

その内容に不満も抱くようになり「自分ならこうするのに」って考えてた事が、後の創作活動に繋がって行く点も同じです。パクリでもオマージュでもなく、自分にとって理想の『刑事コロンボ』なり『太陽にほえろ!』なりを創りたい、と言うより観たかったワケですね。

『刑事コロンボ』は私も大好きでした。なぜなら、あれは謎解きドラマじゃなくて「キャラクタードラマ」だから。そういう意味じゃ『太陽にほえろ!』と同じなんです。

三谷さんはミステリーを書いてる意識がほとんど無くて、あくまで古畑任三郎というキャラクターが織り成すコメディを書いてるつもりだった。だからこそウケたんでしょう。

そして何より、野暮ったいイメージのコロンボを、田村正和というスタイリッシュな俳優さんに置き換えたアイデアが素晴らしいです。野暮ったい俳優さんが今さらコロンボを演じても、ただの二番煎じで面白くなかった事でしょう。

ちなみに三谷さんは『太陽にほえろ!』の山さん(露口 茂)の大ファンである事も公言されてたので、古畑のキャラには多分に山さん成分も含まれてるだろうと思います。

また、今泉慎太郎(西村雅彦)という、コロンボにはいなかった「相棒」が設定された事も『古畑』ならではの魅力になりました。西村さんの怪演により今泉のキャラクターがどんどん膨らんで、スピンオフ番組(『巡査・今泉慎太郎』)まで創られる人気者になりました。

なのに、三谷さんが「今泉をイジることに飽きた」との理由でw、3rdシーズンになると今泉が新キャラの西園寺(石井正則)にポジションを奪われ、徹底的にないがしろにされちゃうのも可笑しかったです。

そして更に大きな見所が、毎回の犯人役ゲストのキャスティングです。とにかく豪華で、バラエティー豊かな顔ぶれでした。普通のミステリー物で豪華ゲストを呼んだら、その人が重要人物だってすぐ読まれちゃうんだけど、倒叙法だと最初から犯人が判ってるからキャスティングで遊べるワケですね。

中森明菜、堺 正章、笑福亭鶴瓶、鹿賀丈史、小堺一機、桃井かおり、菅原文太、明石家さんま、沢口靖子、草刈正雄、木村拓哉、唐沢寿明、山城新伍、松たか子、鈴木保奈美、市川染五郎、真田広之、大地真央、津川雅彦、市村正親、福山雅治、江口洋介、山口智子、緒形 拳、松本幸四郎、藤原竜也、石坂浩二、松嶋菜々子etc……

目もくらむような顔ぶれで、中でもイチロー選手、SMAPらが本人(しかも犯人)役で登場したスペシャル版は印象深いです。

イチローさん、ヘンに芝居が巧かったですねw 実は元々『古畑』マニアで、出演オファーを二つ返事で引き受けたばかりか、最初の読み合わせ(キャストの顔合わせ)の時点で既に、台詞を丸暗記してた程の熱の入りようだったとか。「素人だからこそ、全力で取り組まなきゃプロの共演者に対して失礼だから」なんだそうです。やっぱり、そこまで謙虚になれる人だからこそ一流なんでしょう。

ともあれ、これほどハイクオリティーなミステリーと遊び心を両立させた刑事ドラマはなかなかありません。今あらためて観直しても抜群に面白いし、とても20年前の作品とは思えない新鮮さがあります。

なにしろ刑事部屋や取調室のシーンがいっさい無く、拳銃も手錠も使わない、おまけに主人公がドラマの途中で視聴者に向かって話し掛けてくる等、独自のスタイルがもたらすインパクトは未だ色褪せません。

『刑事コロンボ』や『エラリー・クイーン』等の元ネタがあるにせよ、これほどサプライズに満ちて毎週の放映日が待ち遠しくなる連ドラは、近年ほとんど観られなくなりました。オールスター映画や大河ドラマもいいけど、三谷さんにはまたこういう野心に満ちた連ドラを、是非とも生み出して頂きたいと切に願います。
 
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