☆第40話『淋しがり屋の子猫ちゃん』
(1973.4.20.OA/脚本=小川 英&長野 洋/監督=竹林 進)
町中で「人殺し!」と叫ぶ娘=ゆり(四方晴美)に出くわした長さん(下川辰平)が、言われるまま彼女の家に駆け込んだらもぬけの殻。空き巣が入ったような形跡はあるものの、ゆりの証言が支離滅裂で何が何だか解らない。
実はそれも無理はなく、兄の一也(夏 夕介)がゆりの大学進学費用を稼ぐ為に入手した、マリファナを狙ってヤクザが押しかけて来たワケなんだけど、何も知らない彼女からすれば、相手が泥棒なのか殺人鬼なのか、そりゃ支離滅裂にもなるってもんです。
そんな騒動に出くわし、天真爛漫かつオッチョコチョイなゆりにさんざん振り回される長さんと、ゆり&一也の不器用な兄妹愛を描いた、コメディータッチのハートフル編。
ゆりを演じた四方正美さんは、TBS『ケンちゃん』シリーズの前身『チャコちゃん』シリーズで主役を務めた四方晴美さんのお姉さん。『太陽』のゲストとしては珍しい、ぽっちゃり体型のヒロインですw
一也を演じた夏夕介さんは後に連ドラ版『愛と誠』の誠役でブレイクし、『太陽』のライバル番組の1つである『特捜最前線』に叶刑事としてレギュラー出演される事になります。
内容的には正直なところ「他愛ないエピソード」と言わざるを得ないけどw、天然じゃじゃ馬娘と一本気な長さんとの凸凹コンビはとても面白く、下川辰平さんのコメディーセンスもよく活かされて、マカロニ(萩原健一)欠場の穴を充分に埋める好編になってます。
このエピソードは後のジーパン刑事=松田優作さんがカメラテストでチョイ役出演し、ショーケン&優作が同じフレームに収まった唯一のフィルムとして知られる作品です。
だけど当時は、ファッションモデルの小泉一十三さんがドラマ初出演、後にショーケンさんと結婚された事がトピックになってました。
そして脚本が鎌田敏夫さん。メインライターを務めた『飛び出せ青春!』が終了してすぐ『太陽』に呼ばれ、#032『ボスを殺しに来た女』に続く第2弾として書かれた作品です。青春ドラマの名ライターさんらしい明るさと、結末の残酷さとのギャップが涙を誘う名作になってます。
☆第35話『愛するものの叫び』
(1973.3.16.OA/脚本=鎌田敏夫/監督=土屋統吾郎)
七曲署の表で佇む美女=弓子(小泉一十三)を見かけたマカロニ(萩原健一)が、気になって尾行してみたら彼女は何者かに脅迫され、生命を狙われてる事が判明します。
ボス(石原裕次郎)の許可を得て弓子をガードするマカロニだけど、その眼を盗んで彼女に詰め寄って来た女がビル屋上から転落死し、無理心中を迫って来た男も自分だけ毒を飲んで死んでしまう。一体なぜ、彼女は狙われるのか?
薄幸な弓子に肩入れし、身よりの無い者どうしの共感もあって、好意以上の感情を彼女に抱いていくマカロニ。
泊まり込みのボディーガードで浮かれるマカロニを、ゴリさん(竜 雷太)と殿下(小野寺 昭)が布団蒸しにして冷やかす場面や、浜辺でデートを楽しむマカロニと弓子の姿がめちゃくちゃ青春ドラマですw
ところが! 転落死した女が会社の不正をネタに2千万円の金を脅し取ってた事が判明。弓子がその金を横取りし、奪い返しに来た女とその恋人を、正当防衛に見せかけて殺した、との推理が浮上します。
その読みが正しければ、マカロニは正当防衛の証人として利用されただけ。だとしても彼女は、何故そうまでして金が欲しかったのか?
やがて、弓子には身体障害者の弟がいて、二十歳になると養護施設から出なくちゃいけない事が判ります。もっとお金のかかる施設に移さない限り、彼女は弟を引き取って一生面倒を見るしかない。
そういう事情も考慮せず、ただ機械的に障害者を追い出しちゃう施設にマカロニは抗議しますが、応対した若い職員が「僕らだってツラい! でも規則だからどうする事も出来ないんだ!」って、涙ながらに反論します。
この、明らかにサイズの足りない背広に身を包み、モジャモジャ頭を無理やり七三に分けたノッポな職員が、無名の新人俳優=松田優作。
次期新人刑事(マカロニの後釜)候補のテスト出演とは知らなかった編集マンが、ラッシュフィルムを見て「この凄い俳優は誰なんだ!?」って、血相変えてプロデューサー室に駆け込んで来たとか、同じく何も知らなかった筈のショーケンさんが「これで安心して殉職できるよ」って呟いたとか、いくつかの伝説が残るこの場面だけど、最近のインタビューで真偽を問われたショーケンは「んなこと言うワケないだろ」って一蹴されてましたw
まぁ伝説なんて大方そんなもんだろうと思いますが、少なくとも「おっ、この新人、使えそうじゃない?」位のことは言わせるだけの迫力を、この場面には確かに感じます。
とにかく規則だから、弟を引き取らなくちゃいけない。だけど弓子には弓子の人生がある。実は恋人が海外にいて、彼女は移住するつもりだった。弟を金のかかる施設に移さなきゃ、その夢は実現できない。それが犯行の動機だったワケです。
恋人の待つ国へと旅立つべく空港にやって来た弓子を、マカロニが待ち構えます。逃げる弓子を手錠片手に追いかけながら、彼女と過ごした楽しい日々を回想するマカロニ。
そんな甘い夢を打ち砕くかのように、弓子は往生際悪く暴れ回り、まるで猛獣を扱うみたいに手錠でガードレールに繋がれた後も、頭上を通過する飛行機を見上げながら叫ぶんですよね。
「畜生ぉーっ! 畜生ぉーっ! 畜生ぉーっ!……」
そんな彼女を見下ろし、呆然としたまま歩き去るマカロニの姿が本当に切なくて、これは何度観ても泣かされます。
脚本の鎌田敏夫さんは、弓子役の小泉さんに演技経験が無いことを考慮し、出来るだけ台詞を少なくしながらも、最後の最後に「畜生ぉーっ!」っていう、めちゃくちゃインパクトのある台詞を言わせてるんですよね。
弓子がマカロニのことを実際どう思ってたのかは、あえて語らない。だから余計に「畜生ぉーっ!」の言葉が突き刺さって来る。昨今のドラマ作家には到底書けない脚本だろうと思います。
更に、やけ酒を煽った挙げ句に暴れたマカロニはトラ箱(泥酔者専用の留置場)にぶち込まれ、牢屋の中で眠りこけながら涙を流します。
そんなマカロニに、着替えを届けに来たボスが鉄格子の外から囁くんですよね。
「マカロニ、もう気が済んだか? 怒りたい時は、もっと怒れ。暴れたい時は、思いきって暴れていいんだぞ」
こんな上司がいたら、私だってグチグチ言わずに命懸けで働きますよ!w
他のドラマだったら嘘っぽく感じるかも知れないけど、裕次郎さんなら説得力がある。やっぱ器と包容力が違うんです。それに加え、飾り気の無いショーケンさんのキャラクター。
そんな2人が揃ってこそ成立する場面であり、これは初期『太陽にほえろ!』ならではの名作だったと言えましょう。