語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【政治】小沢一郎の謎がすべて解けた ~「離縁状」の衝撃~

2012年06月26日 | 社会
 和子夫人からの「離縁状」【注】は、誰がどう読んでも、小沢は政治家失格だと確信する。それほど衝撃的な手紙だった。
 自分の選挙区を大震災が襲ったというのに、なぜ被災地に10ヵ月も入らなかったのか。誰もが不思議に思っていたはずだ。「離縁状」によって、すべてが氷解した。小沢は、「放射能恐怖症」に陥って、家に閉じこもり、一歩も外に出なかったのだ。
 小沢(70歳)の世代は、少年だった1954年、米国がビキニ環礁で水爆実験を行った。第五福竜丸の久保山愛吉さんが半年後に亡くなり、連日多くのマグロが廃棄処分になった。「離縁状」は記す。<千葉の漁協で風評がひどいと陳情を受けると「放射能はどんどんひどくなる」と発言し、釣りを中止し、漁協からもらった魚も捨てさせたそうです。風評で苦しむ産地から届いた野菜も放射能をおそれて鳥の餌にする他は捨てたそうです。>
 あの頃、少年たちは、雨に濡れると放射能で頭が禿げる、と騒いだ。確かに、小沢の世代には放射能恐怖症の素地がある。ただし、きちんと勉強し、それなりの地誌委を身につければ、放射能を「正しく恐れる」ことができたはずだ。料理のみならず、洗濯まで買ってきた水でやらせようとする小沢は、サイエンスに関する知識レベルの低さから、過剰な放射能恐怖症に罹ってしまったのだ。

 小沢のもとに、ある種の特別な情報が入っていたらしい。東京都が「金町浄水場の水道水から1kg当たり210Bqの放射性ヨウ素を検出した」と発表する2日前に、書生が<東京の水道は汚染されている>と言いに来た、とある。自衛隊幹部や文科省の役人に情報収集した、とあるから、様々な断片的情報が入っていたのだろう。
 しかし、小沢はその情報を国民全体のために利用しようとせず、自分の病的妄想をふくらませた独善的利用に使っただけだった。
 国家的苦難の時にあたって、国民の先頭に自ら立とうとする気概も気力も全くない。落第政治家だと、「離縁状」からわかる。こういう政治家には早く退場してもらいたい。

 「離縁状」が公表されると、永田町にはコピーが一挙に出回り、小沢はもうおしまい、の空気がパッと広まった。小沢が党を割っても、ついていく人間はほとんどあるまい、との見立てが多数になった。「離縁状」は、確実に小沢の政治生命を奪った。
 実は、野田総理は、雑誌発表のかなり前に「離縁状」を入手していた、という噂がある。地元支持者に「離縁状」が送られたのは昨年11月だから、その可能性は高い。最近、野田総理が優柔不断の「ただのデブ」から自信に満ちた様子で次々に懸案処理にとりかかった。場合によっては「小沢斬り」も辞さずの構えも示すようになった。「離縁状」を入手し、「小沢は終わり」と確信したからだ、とも言われる。 

 「離縁状」の記事一発で、政治家小沢は死んだ。この男には未来がない、と見られたとたん、つるべ落としの政治力喪失過程が始まる。政局は、「小沢抜き」の方向に加速しつつある。
 事情はちょっと違うが、これに近いケースは、ロッキード裁判を田中有罪の方向に決定づけた「ハチの一刺し」か。田中元首相の筆頭秘書だった榎本敏夫の前妻・三恵子さんの証言だ。
 「離縁状」の記事は、ジャーナリズムと政治の歴史を考える際に、極めて大きな意味を持つ。ところが、大新聞、大テレビは、ほぼ沈黙したままだ。立花隆が「田中角栄研究--その金脈と人脈」(「文藝春秋」1974年11月号)に発表したときと同様に。「文藝春秋」11月号は、あっという間に売り切れたように、今回の「週刊文春」6月21日号もあっという間に売り切れた。
 米国ならば、あの記事は他のメディアに直ちにクオート(引用)に次ぐクオートで、たちまちジャーナリズム全体の共有資産になっていただろう。日本では一流メディアのプライドのために、ニュースを共有するためのクオートという社会装置が働かない。

 39年間連れ添った夫人に、なぜこれほどの「離縁状」を書かれてしまったのか。
 それは、小沢が他人を心からバカにしてきたからだ。自分のみが常にこの世で一番正しい判断ができると思い込む傲岸不遜。「神輿は軽くてパーがいい」・・・・1989年当時、自民党幹事長だった小沢が時の総理、海部俊樹を評して言った台詞だ。誰と接しても、このような気持ちが出てしまう。だから、長年使えた秘書も、側近と言われた議員も、小沢から離れる。夫人も例外ではない。

 この一件は、小沢の裁判にも深刻な影響を及ぼす。
 「週刊文春」2011年6月10日号に、元側近秘書による実名証言が掲載された。それによれば、細川政権ができる前年の1992年、金丸信・元自民党副総裁の佐川急便ヤミ献金事件に端を発する経世会の跡目争いで小淵恵三・元首相(故人)に敗れた小沢が、秘書に命じて、経世会の金庫から現金13億円を運び出させた、という。勝手口を開けて秘書を廷内に招き入れ、運搬を手伝ったのが和子夫人だった、という。
 和子名義の土地や不動産は、小沢の周辺に多々存在する。小沢の資産形成過程を熟知しているのは、小沢本人と和子夫人をおいて、ほかにいない。
 小沢の控訴審は、今秋にも始まる。和子夫人が、その知る不動産取引の裏側をすべて証言すれば、裁判の結果は簡単にひっくり返る可能性がある。

 【注】「【原発】放射能から逃げ回る小沢一郎 ~妻からの「離縁状」~

 以上、立花隆「小沢の謎がすべて解けた」(「週刊文春」2012年6月28日号)に拠る。
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