(1)埼玉県では、3月に定年退職を迎える教職員のうち、1月中に退職した者が100人を超えた。
上田清司・埼玉県知事は、記者会見で、早期退職を申し出た教職員たちに不満を述べた。
下村博文・文部科学大臣も憤った、と伝えられる。
埼玉県だけではない。他の多くの府県や大都市でも似たようなことが起こった【注】。
(2)埼玉県の2012年12月県議会で「職員の退職手当に関する条例」が改正された。これが、埼玉県における事の発端だ。改正の結果、<例>勤続35年以上の職員が3月末に退職した場合、改正前の水準より退職手当が約150万円減額されることになった。ただし、1月末までに早期退職すれば、減額されない(満額支給される)。
これは、企業における人員整理と同じ手法だ。Xデ一までに辞めてくれ、というメッセージをこめて、「Xデ一までに早期退職すれば退職金を割り増す」or「Xデ一までに退職しなければ退職金を減額する」。
埼玉県の条例も同じメッセージを発している。Xデ一よりも後(2月以降)も在籍するなら減額というペナルティが科せられるからだ。
よって、埼玉県知事の教職員批判は、支離滅裂と言うしかない。企業の整理解雇の募集に応じて早期退職した社員に対し、当該企業が「無責任だ」と非難するようなものだから。
(3①)国家公務員退職手当等の一部改正と、②埼玉県のくだんの条例改正と、制度はほとんど同じだ。しかし、ハッキリ違う点がある。
(a)施行時期の違い。①は本年1月から、②は本年2月から、と1ヵ月のズレがある。その結果、(2)の<例>によって試算すれば、
①の場合、1~3月分の給与および3月のボーナスを貰うから、早期退職のメリットはない。
②の場合、2ヵ月分の給与とボーナスで、その合計額は150万円を下回る。・・・・まさしく3月まで働いた者がペナルティを課されるわけだ。これが理不尽なことは、子どもでもわかる。要するに、埼玉県知事の知的能力は低かった。
(b)国は自治体と違って現場部門は多くない。特に義務教育の分野における教職員の数はわずかだ(<例>国立大学附属小中学校)。
他方、地方公務員の中で最も数が多いのは小中学校の教員だ。
自治体が国の制度に倣うのであれば、こうした彼我の違いに十分注意する必要がある。埼玉県知事は、その注意を怠った。
(4)この条例を最終的に決めたのは、埼玉県議会だ。その議事録を見ると、反対意見にさえ、早期駆け込み退職を助長し、教育現場を混乱させかねない危惧や懸念には触れられていない。肝心のことに思いが至っていない。
議会は原案のまま条例を成立させた。議会のチェック機能はまるで果たされていない。
議会がチェック機能を果たさないのは、この件に限らない。その原因の一つは、地方議会が総じて執行部の説明しか聞かないからだ。この議案は問題だらけだ、などと執行部の職員が説明するはずはない。問題があるか否かは、議員自らが検証しなければならない。
その検証を行うには、当事者(本件の場合は定年退職者・学校長・保護者など)が住民の意見を聞いてみればよい。.そのために、地方自治制度には公聴会や参考人質疑の仕組みが用意されている。この仕組みを実施していれば、この条例の問題点が明らかになったはずだ。
全国の地方議会では、公聴会や参考人質疑はほんど活用されていない。当事者や住民の意見を聞く・・・・これこそ、昨今あれこれ議論されている議会改革の第一歩だ。
【注】「【社会】「かけこみ退職」に走る教育現場の実情 ~退職金減額に対する自衛策~」
□片山善博(慶大教授)「「教員駆け込み退職」と地方自治の不具合 ~日本を診る 42~」(「世界」2013年4月号)
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上田清司・埼玉県知事は、記者会見で、早期退職を申し出た教職員たちに不満を述べた。
下村博文・文部科学大臣も憤った、と伝えられる。
埼玉県だけではない。他の多くの府県や大都市でも似たようなことが起こった【注】。
(2)埼玉県の2012年12月県議会で「職員の退職手当に関する条例」が改正された。これが、埼玉県における事の発端だ。改正の結果、<例>勤続35年以上の職員が3月末に退職した場合、改正前の水準より退職手当が約150万円減額されることになった。ただし、1月末までに早期退職すれば、減額されない(満額支給される)。
これは、企業における人員整理と同じ手法だ。Xデ一までに辞めてくれ、というメッセージをこめて、「Xデ一までに早期退職すれば退職金を割り増す」or「Xデ一までに退職しなければ退職金を減額する」。
埼玉県の条例も同じメッセージを発している。Xデ一よりも後(2月以降)も在籍するなら減額というペナルティが科せられるからだ。
よって、埼玉県知事の教職員批判は、支離滅裂と言うしかない。企業の整理解雇の募集に応じて早期退職した社員に対し、当該企業が「無責任だ」と非難するようなものだから。
(3①)国家公務員退職手当等の一部改正と、②埼玉県のくだんの条例改正と、制度はほとんど同じだ。しかし、ハッキリ違う点がある。
(a)施行時期の違い。①は本年1月から、②は本年2月から、と1ヵ月のズレがある。その結果、(2)の<例>によって試算すれば、
①の場合、1~3月分の給与および3月のボーナスを貰うから、早期退職のメリットはない。
②の場合、2ヵ月分の給与とボーナスで、その合計額は150万円を下回る。・・・・まさしく3月まで働いた者がペナルティを課されるわけだ。これが理不尽なことは、子どもでもわかる。要するに、埼玉県知事の知的能力は低かった。
(b)国は自治体と違って現場部門は多くない。特に義務教育の分野における教職員の数はわずかだ(<例>国立大学附属小中学校)。
他方、地方公務員の中で最も数が多いのは小中学校の教員だ。
自治体が国の制度に倣うのであれば、こうした彼我の違いに十分注意する必要がある。埼玉県知事は、その注意を怠った。
(4)この条例を最終的に決めたのは、埼玉県議会だ。その議事録を見ると、反対意見にさえ、早期駆け込み退職を助長し、教育現場を混乱させかねない危惧や懸念には触れられていない。肝心のことに思いが至っていない。
議会は原案のまま条例を成立させた。議会のチェック機能はまるで果たされていない。
議会がチェック機能を果たさないのは、この件に限らない。その原因の一つは、地方議会が総じて執行部の説明しか聞かないからだ。この議案は問題だらけだ、などと執行部の職員が説明するはずはない。問題があるか否かは、議員自らが検証しなければならない。
その検証を行うには、当事者(本件の場合は定年退職者・学校長・保護者など)が住民の意見を聞いてみればよい。.そのために、地方自治制度には公聴会や参考人質疑の仕組みが用意されている。この仕組みを実施していれば、この条例の問題点が明らかになったはずだ。
全国の地方議会では、公聴会や参考人質疑はほんど活用されていない。当事者や住民の意見を聞く・・・・これこそ、昨今あれこれ議論されている議会改革の第一歩だ。
【注】「【社会】「かけこみ退職」に走る教育現場の実情 ~退職金減額に対する自衛策~」
□片山善博(慶大教授)「「教員駆け込み退職」と地方自治の不具合 ~日本を診る 42~」(「世界」2013年4月号)
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