語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【食】消費者へお詫びしない体質 ~多発する食品偽装事件~

2013年11月13日 | 社会
 (1)全国各地のホテル・旅館の飲食関係の偽装表示事件が次々に報道されている。
 なぜ、偽装がかくも多発するのか。それは、事業者が「お客様第一」と言っていても、実際は「会社第一」、「客は二の次」だからだ。
 事実、出崎弘・阪急阪神ホテルズ前社長は辞任記者会見で、「阪急阪神グループに迷惑をかけた。これ以上社長にとどまっていると阪急阪神グループににさらに大きな迷惑をかける。だから急遽辞任する」旨の発言に終始していた。客に迷惑をかけた、と詫びる言葉は、2時間以上の記者会見で一度も発しなかった。

 (2)偽装事件において、最も悪質なのは「品質の悪いものを良いものだと偽る」ことだ。
   <例1>芝エビがバナメイエビ
   <例2>九条ネギが一般的なネギ
   <例3>信州ソバが国産と中国産のブレンド
 こうした偽装は、いずれも仕入価格に大きな違いがある。
 「芝エビのチリソース800円」の食材をバナメイエビに代えたとき、表示はそのままで値段を500円に下げていたなら、これは「品名を偽った」だけなので、法律違反に問われずに「注意」程度で済むだろう。
 ところが、ザ・リッツ・カールトン大阪のフレッシュジュースの場合、最初、客の前で果物を実際に搾って見せていたが、ある時点から、客に見えないところでパック入りジュースをグラスに入れて「フレッシュジュース」と称して提供していた。その理由を、会社側は「原価を下げるため」とハッキリ述べている。果物より安いパックジュースにし、しかも果物の絞り滓を廃棄する費用もカットできる。かくて、かなりの利益を上げることができた、と言う。
 客より利益第一、ということがよくわかる。

 (3)(2)の事例は、「客に品質の高いものだと思わせ、高額な料金を支払わせて儲ける」という構図だ。
 ウソをつけば簡単に儲かるから、偽装事件はなくならない。

 (4)阪急阪神ホテルズは、神戸ポークを桐島ポークと偽って納入していた業者との取引を中止した。トビウオの卵をレッドキャビア(マスの卵)と偽っていた業者にどんな対応をしたかは公表されていない。
 神戸ポークと桐島ポークの価格差より、トビウオの卵とレッドキャビアのそれのほうが数倍高い。その分、仕入先としての罪は重い。
 業者は損害賠償すべきだが、本当に仕入先が騙して儲けていただけなのか。仕入先に圧力をかけることで、店舗も設けていたのではないか。
 こうした値下げ圧力問題は、イオンの米偽装事件【注】では裁判まで発展している。
 偽装事件では、必ず大手企業の中小企業への圧力が問題になる。偽装する中小企業に弁解の余地はないが、「仕入れ価格を安くしないと取引を中止する」と圧力をかける大手企業の責任も問わねばならない。

 (5)普通のネギを九条ネギと偽装した理由は、「添え物野菜だったから変更しても表示は変えなくてもいいと判断した」のだそうだ。
 消費者への裏切り行為だ。
 客は、「添え物にもこだわった料理だからこそ高い料金を払った」のだ。
 デザートのチョコレートソースも、ソースにさえひと手間かけているからこそ、さすが一流ホテルのデザートだ」と思っていたのだ。それを「補足的な説明だ」とうそぶかれては、もはや信じるに足らない。

 (6)阪急阪神ホテルズの場合、悪質性が問われるか否かが焦点だ。悪質と判断されたら、不正競争防止法違反に問われ、刑事罰を下される可能性が高い。
 社会的影響が計り知れない。阪急阪神ホテルズ前社長の記者会見や弁解の仕方などで消費者の信頼を裏切っただけでなく、飲食店業界やホテル業界への不信感を増大させている。不正競争防止法違反で罰金(刑事罰)を受けた船場吉兆より、はるかに罪が重い。

 (7)食品表示は「結果論」だ。表示が間違っていては、消費者は正しい選択ができなくなる。
 間違った表示が意図的かどうか、悪意があるかどうかは消費者にとって無関係だ。
 法律上、あくまで「消費者に誤認を与えたかどうか」によって違反か否かが判断される。

 (8)食品表示は、「どんなミスも許されない」という姿勢でない限り、いくらでも発生する。 
 表示の間違いは、アレルギーのような重大な悪影響につながることもある。
 不注意で虚偽表示や、誤解を招く表示を行った場合であっても「長年の努力により確立してきた取引先や消費者からの信頼を失い、ビジネスの基盤そのものを失う結果になりかねない」・・・・と「偽装表示の防止と不正競争防止法」に係る経済産業省のパンフレットに記載されている。事業者は、この言葉を肝に銘じるべきだ。

 【注】「【食】「イオン」の産地偽装 ~中国猛毒米~

□垣田達哉(消費者問題研究所代表)「多発する食品偽装事件。消費者へのお詫びなし体質に、すべての原因が隠されている」(「週刊金曜日」2013年11月8日号)
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 【参考】
【食】偽装の背景 ~消費増税により偽装が拡大~