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(1)目次
はじめに--「AKB48と宗教」 佐藤優
第1章 宗教・民族と国家
第2章 家族と国家
第3章 戦争・組織
第4章 日本とアメリカ
第5章 沖縄・差別の構造
第6章 日本・日本人
第7章 文学・評伝・文芸批評
第8章 社畜とブラック企業
第9章 未来を読む
おわりに--異能の人との連帯 佐高信
佐高信が選ぶ、ジャンル別・必読「新書」リスト
(2)さわり【第1章】
2013年2月、ローマ教皇が生前退位した(ベネディクト16世→フランシスコ)。
前回の生前退位(グレゴリウス12世)は1415年で、598年ぶり。当時、ローマとフランスのアヴィニョンに大分裂し、教皇が3人鼎立していた。この中で一番力を持っていたのはローマ側のヨハネス23世。彼の前歴は海賊だった。海賊からローマ教皇になって権力を握り、好き放題にやった。教会がめちゃめちゃな状態になった。そこで、コンスタンツ公会議を開き、3人とも廃位となった。その後、1417年に改めて教皇を選び直し、教会を統一した。
こうした歴史を踏まえれば、今のカトリック教会は、当時と同じぐらい危機的な状況に陥っていることがわかる。今回の生前退位は、バチカンのイスラム戦略だ。前教皇のベネディクト16世は、バチカンのネオコン(保守中の保守派)だった。2007年、イスラム教のジハードを批判する演説を行い、イスラム教徒から反発を受けた。
だから、カトリック教会を中東において巻き返す、という戦略を持っている。1980年代のカトリック教会の保守化路線を中心になって引っ張った。バチカンは共産主義に対して巻き返し、その目的が達成された今、次の巻き返しはイスラムだ、というわけだ。
ところが、ベネディクト16世は高齢で健康状態が不安だ。そこで、自分の目が黒いうちに戦略的に引き継いだ。
カトリックが本当に改革をしてリベラルな勢力になるか、むしろ反動的になっていくかは2015年にわかる。コンスタンツ公会議から600周年の年に。フスの名誉回復がなされたら、ある程度リベラル化している、と見てよい。フスは、コンスタンツ公会議で異端とされ、火刑になった。
しかし、たぶんフスの名誉回復はない。
今、日本も世界も、経済も政治も危機的な状況にある。これは、近代システムの危機だ。この危機をポストモダンによって乗り切ろうとする運動は、まさにバブルの頃にあった。けれども、それでは今の危機を乗り切れないだろう。
となると、「プレモダン」で乗り切ればよい。つまり、近代以前の基準で動けばいい。近代以前の基準で動くなら、カトリックが強い。
その意味でも、カトリックの動きをよく見守る必要がある。
(3)さわり【第3章】
『戦争と人間』には統計・数字の話が出てくる。数字が一つの抵抗の武器になり得る場合と、逆にトリックとして使われる場合がある。
新日本製鉄の副社長から九州石油の社長になった飯村嘉治は、若き日に朝鮮は清津にいたとき、1回憲兵に捕まった。国債をどんどん増発していった場合、はたして大丈夫なのか、ということで、歌を詠んだ。「かにかくに架空の数字あげつらい国策ひとつ生まれつつあり」。それでひっくくられた。アベノミクスでも紙幣をどんどん刷ると言っているが、それを「大丈夫か」と言っただけで引っ張られるようなものだ。
皇軍の伝統は、数字なんか蹴飛ばす。
主観的願望によって客観的情勢が変わる、という話だ。これを小室直樹は、『ソビエト帝国の崩壊』で「念力主義」と名づけた。元寇がよくなかった。神風で助かった、という神話ができたから、ここから念力主義が生まれた。
日本の軍隊について語る場合、絶対にふれないといけないのは『統帥綱領』と『作戦要務令』だ。『統帥綱領』のポイントの一つは、独断専行だ。それが部隊レベルに下りた『作戦要務令』でも、独断専行を非常に重視している。
日本の会社とまったく同じだ。うまくいけば上司の手柄、まずくなったら部下の責任。
旧軍の伝統が、そのまま会社に引き継がれている。日本人の組織論とか、ものの考え方が全部凝縮されている。
(4)さわり【第4章】
日米開戦期に、米国に対して日本陸軍参謀本部は謀略放送をやっていた。その実録が『日の丸アワー』だ。著者、池田徳眞は徳川慶喜の孫で、元鳥取藩主の当主。戦時中に、対米プロパガンダ放送(日の丸アワー)をやっていた。同じ著者に『プロパガンダ戦史』がある。
この本の現場感覚は今でも使える。巻末に、自分たちが戦時中に付くって、敗戦のときに持ち出した冊子が再録されている。「対敵宣伝放送の原理」だ。今、広告代理店の電通や博報堂のやっていることの原型だ。いかに戦争を自国に有利なように宣伝するか、ということなので、いかにうちの商品に関心を向けて商品を買わせるか、ということにつながる。
最後のところで、「プロパガンダのほうが武力戦よりもずっと安上がりだから」とあるのは面白い。今の安倍チルドレンなどとは、全然方向性が違う。
ここで池田が主張しているのは、「反復法」、「暗示法」、適宜音楽を絡めると良い、とか。宣伝ということが非常によくわかっている。
それから、米国人はニュースがないと宣伝できない、と分析している。だから、人に影響を与えるように物事を記述する英国人の発想を全然わかっていない、と。
ドイツ人については、理屈でがんじがらめに攻めてくるので、説得力はあまりない、と。
日本のエリートはドイツ的なところがある。
『プロパガンダ戦史』でもう一つ重要なのは、エリートと大衆を完全に分けていることだ。そして、エリートに対しては論理的に、大衆に対しては感情的に、これが英国方式の要諦だ、と言っている。これはすべての世界に通用する。論理連関と感情を動かすことの間には関係がない。それを見ながら、巧みなプロパガンダを展開している。これは英国のやり方だ。
この著者がものすごく英国をひいきにするのは、近代になってから、英国は一度も戦争に負けたことがないからだ。英国は、負ける前に常に名誉ある撤退をしてしまう。それに対して、米国はやっぱりベトナムで負けている。アフガニスタンやイラクでも負けているようなものだ。
英国は負けない。英国は、最初から勝つことに目標を置いていない。負けないことに目標を置いている。これは微妙に違う。
やはり国民性というものはあるのだ。
(5)所見
(a)本(主に新書)をめぐる佐高信と佐藤優の対談。各章末に、①対談でとりあげられた本、②対談でとりあげられなかったけれども追加して両者が推薦する本・・・・を付す。
(b)本について語りつつ、今の現実社会を見直し、見破る。本というものは現在、現実を生き抜こうとする人が読むものだ、ということを改めて感じさせる1冊。
□佐高信/佐藤優『世界と闘う「読書術」 思想を鍛える1000冊』(集英社新書、2013.11)
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【参考】
「【本】佐藤優の熟読術・速読術「超」入門 ~『読書の技法』~」
「書評:『ぼくらの頭脳の鍛え方 必読の教養書400冊』」