(1)10月22日18時過ぎ、首相官邸前に400人の市民が集まり、特定秘密保護法案に反対するアピールを行った。
(2)同法案の狙いは次の2つで、この狙いに対する危機感が(1)のアピールに見られる。、
(a)政府が重要な情報を漏洩から守る。
(b)集団自衛権の行使を認めようとする安部政権下にあって、米国との間で軍事情報の共有化を一層進めるための「戦争法制」の整備の一環である。
(3)この日(10月22日)、朝日新聞は夕刊1面に「秘密保護法、成立の公算」との四段見出しの記事を掲載した。
同日、自公両党で法案を了承する党内手続きが終了し、衆院でも法案を審議する特別委員会委員長に額賀福志郎・元防衛庁長官(自民党)を選出したことなどから、12月6日までの短い臨時国会であっても成立の条件が整った、と判断したわけだ。
公明党が法整備の必要性を認めたことで、産経新聞が11日に早々法案の成立を報じた。読売新聞も、18日朝刊1面で「秘密保護法成立の公算」との四段見出しの記事を掲載した。
政局の流れはハッキリしているのかもしれない。
しかし、両紙と異なって朝日は、今年9月に政府が秘密保護法案の概要を発表し、国民に意見を募って以降、曲がりなりにもその問題点を指摘し続けた。新聞の存率基盤さえ破壊しかねない法案に対して、「成立報道」には抑制的であるべきであった。
(4)(1)のアピールは、10月25日の閣議決定を前に行われた。初めての大規模な街頭行動だった。
しかし、翌23日の朝日朝刊は、第三社会面のミニニュースで取り上げただけだった【注】。
少数意見をすくい上げることこそ、本来、新聞の得意とするところであったはずだ。
朝日と同じく法案に反対の立場の毎日新聞も、第二社会面のミニニュースだった。
東京新聞だけが、第二社会面のトップ級の扱いで、写真も掲載していた。
世論が変われば、与党が拙速な審議に慎重な姿勢に転じる可能性だってあるはずなのに。
(5)10月16日、鹿児島市で、新聞大会が開かれた。今年のテーマは、「消費税8%を乗り越える新聞経営--協調と競争」。
新聞協会は、大会に先立ち、10月2日付けで秘密保護法案に係る「意見書」を発表している。「国民の知る権利」が損なわれる危惧を表明している。が、この意見書には「法案反対」の文字がない。
法案は、2010年9月(民主党政権下)に、沖縄・尖閣諸島沖で起きた中国漁船衝突映像がインターネット上に流出したことを受けて、仙谷由人・官房長官が設置を指示した「有識者」会議の報告書(2011年8月)がたたき台になっている。
これを受けた新聞協会の意見書(同年11月)には、少なくとも「反対」の文字があった。
ところが、今回はなかった。
むしろ、「取材・報道の自由は侵害しないとの明文規定を盛り込むべきだ」と注文さえしている。この注文は、後に閣議決定に盛り込まれた。新聞大会が開かれた時期は、注文が既に条文に盛り込まれる方向性になっていたから「反対」の文字がなかったのか。
白石興二郎・新聞協会会長/読売新聞グループ本社社長/読売新聞東京本社社長のあいさつは、消費増税に絡む新聞の軽減税率問題が大半を占め、秘密保護法には触れていない。新聞大会決議も同様だ。軽減税率をめぐっては、特別決議まで採択している。
新聞界は本気で反対しているようには見えない。軽減税率を求めて遠慮しているのではないか。【日本新聞労働組合連合会関係者】
法案をめぐる新聞経営者の薄い危機感は、何のために新聞を発行しているのか、疑問を感じさせる。
(6)1985年に自民党が国会提出した国家秘密(スパイ防止)法案に対して、新聞協会は同年11月に「強く反対する」見解を発表した。
同月、朝日、毎日は社説で自民党に撤回を求めた(読売社説には撤回要求は見当たらなかった)。
結局、当時の自民党は立法化を諦めた。
しかし、このたびの秘密保護法案については、足並みが揃っていない。
毎日はもっとも早く、10月21日に「反対」を表明し、日経も10月20日に政府案に異議を唱えた。朝日は10月25日に社説で「反対」した。
一方、読売の10月24日社説は法案への危惧を指摘するものの、見直しまでは踏み込まず、むしろ「漏洩を防ぐ法律が必要なゆえんである」などと説くほどだ。新聞協会が「意見書」を出したすぐ後の10月6日朝刊に、葛西敬之・JR東海会長の「対テロ・安保協力に有益」「国会標準の法整備を急げ」とする寄稿を1、2面に載せているから、本音は賛成と目される。
産経に至っては、10月22日社説で、法案通過を前提に、早くも運用面での注文に移っている。
【注】衆院の強行採決(11月26日)には、さすがに翌27日の朝刊で大きく取り上げている。1面トップ、2・3面全部、4面の一部、7面には4党修正案全文、36面の一部と37面に市民の声。
□神保太郎「メディア批評第回」(「世界」2013年12月号)の「(2)秘密保護法案と軽減率問題 -新聞経営者の関心は」
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(2)同法案の狙いは次の2つで、この狙いに対する危機感が(1)のアピールに見られる。、
(a)政府が重要な情報を漏洩から守る。
(b)集団自衛権の行使を認めようとする安部政権下にあって、米国との間で軍事情報の共有化を一層進めるための「戦争法制」の整備の一環である。
(3)この日(10月22日)、朝日新聞は夕刊1面に「秘密保護法、成立の公算」との四段見出しの記事を掲載した。
同日、自公両党で法案を了承する党内手続きが終了し、衆院でも法案を審議する特別委員会委員長に額賀福志郎・元防衛庁長官(自民党)を選出したことなどから、12月6日までの短い臨時国会であっても成立の条件が整った、と判断したわけだ。
公明党が法整備の必要性を認めたことで、産経新聞が11日に早々法案の成立を報じた。読売新聞も、18日朝刊1面で「秘密保護法成立の公算」との四段見出しの記事を掲載した。
政局の流れはハッキリしているのかもしれない。
しかし、両紙と異なって朝日は、今年9月に政府が秘密保護法案の概要を発表し、国民に意見を募って以降、曲がりなりにもその問題点を指摘し続けた。新聞の存率基盤さえ破壊しかねない法案に対して、「成立報道」には抑制的であるべきであった。
(4)(1)のアピールは、10月25日の閣議決定を前に行われた。初めての大規模な街頭行動だった。
しかし、翌23日の朝日朝刊は、第三社会面のミニニュースで取り上げただけだった【注】。
少数意見をすくい上げることこそ、本来、新聞の得意とするところであったはずだ。
朝日と同じく法案に反対の立場の毎日新聞も、第二社会面のミニニュースだった。
東京新聞だけが、第二社会面のトップ級の扱いで、写真も掲載していた。
世論が変われば、与党が拙速な審議に慎重な姿勢に転じる可能性だってあるはずなのに。
(5)10月16日、鹿児島市で、新聞大会が開かれた。今年のテーマは、「消費税8%を乗り越える新聞経営--協調と競争」。
新聞協会は、大会に先立ち、10月2日付けで秘密保護法案に係る「意見書」を発表している。「国民の知る権利」が損なわれる危惧を表明している。が、この意見書には「法案反対」の文字がない。
法案は、2010年9月(民主党政権下)に、沖縄・尖閣諸島沖で起きた中国漁船衝突映像がインターネット上に流出したことを受けて、仙谷由人・官房長官が設置を指示した「有識者」会議の報告書(2011年8月)がたたき台になっている。
これを受けた新聞協会の意見書(同年11月)には、少なくとも「反対」の文字があった。
ところが、今回はなかった。
むしろ、「取材・報道の自由は侵害しないとの明文規定を盛り込むべきだ」と注文さえしている。この注文は、後に閣議決定に盛り込まれた。新聞大会が開かれた時期は、注文が既に条文に盛り込まれる方向性になっていたから「反対」の文字がなかったのか。
白石興二郎・新聞協会会長/読売新聞グループ本社社長/読売新聞東京本社社長のあいさつは、消費増税に絡む新聞の軽減税率問題が大半を占め、秘密保護法には触れていない。新聞大会決議も同様だ。軽減税率をめぐっては、特別決議まで採択している。
新聞界は本気で反対しているようには見えない。軽減税率を求めて遠慮しているのではないか。【日本新聞労働組合連合会関係者】
法案をめぐる新聞経営者の薄い危機感は、何のために新聞を発行しているのか、疑問を感じさせる。
(6)1985年に自民党が国会提出した国家秘密(スパイ防止)法案に対して、新聞協会は同年11月に「強く反対する」見解を発表した。
同月、朝日、毎日は社説で自民党に撤回を求めた(読売社説には撤回要求は見当たらなかった)。
結局、当時の自民党は立法化を諦めた。
しかし、このたびの秘密保護法案については、足並みが揃っていない。
毎日はもっとも早く、10月21日に「反対」を表明し、日経も10月20日に政府案に異議を唱えた。朝日は10月25日に社説で「反対」した。
一方、読売の10月24日社説は法案への危惧を指摘するものの、見直しまでは踏み込まず、むしろ「漏洩を防ぐ法律が必要なゆえんである」などと説くほどだ。新聞協会が「意見書」を出したすぐ後の10月6日朝刊に、葛西敬之・JR東海会長の「対テロ・安保協力に有益」「国会標準の法整備を急げ」とする寄稿を1、2面に載せているから、本音は賛成と目される。
産経に至っては、10月22日社説で、法案通過を前提に、早くも運用面での注文に移っている。
【注】衆院の強行採決(11月26日)には、さすがに翌27日の朝刊で大きく取り上げている。1面トップ、2・3面全部、4面の一部、7面には4党修正案全文、36面の一部と37面に市民の声。
□神保太郎「メディア批評第回」(「世界」2013年12月号)の「(2)秘密保護法案と軽減率問題 -新聞経営者の関心は」
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