語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【ピケティ】アベノミクス批判 ~金融緩和・消費税~

2015年02月09日 | 社会
<(前略)
【トマ・ピケティ】 格差を防ぐのは金融政策では難しいと思います。中世ではキリスト教もイスラム教も、金利を付けて利子を取ってはいけないという戒律があった。一方で家賃収入はどんどん取るという矛盾もあった。旧ソ連でも金利や利子は駄目だとしたが、うまくいかなかった。利子がないと投資ができずに経済が死んでしまうからです。

【池上彰】 金利の持つ重要性をおっしゃっています。アベノミクスでは、金融緩和によって実質金利をさらに引き下げることで何とか経済を良くしようとしていますが、これをどう評価しますか。

【ピケティ】 もしお札を刷ってさらにマネーの供給を増やすと、資産価格のバブルを引き起こしやすくなる。株価を押し上げることにはなりますが、格差が広がる恐れがある。はっきりと有効かどうかを答える自信はありませんが、いずれにしても税制を変えるよりも、手軽という意味で短絡的な手法だと感じています。

【池上】 ピケティさんは理想的な税制の姿について「所得税、相続税、年次の累進性のある資産税」の三つだと言いました。日本はいつも所得税、法人税、消費税について議論していますが、ピケティさんの掲げる三つの税とは違いますね。日本の議論はどう考えますか。

【ピケティ】 法人税と所得税はある意味で非常に似通っていると思います。法人税は、法人の所得税と考えることができるからです。
 また、日本には固定資産税がありますね。これは不動産という重要な富に対してかかる税ですが、もう少し累進性を持たせるのがいい。さらに負債分を除いた純資産に課す。資産形成する世代の負担を和らげ、富を蓄積した高齢者から、住宅ローンなどを抱える若い世代へと富を移すのです。
 消費税についていえば、あまり当てにすべきではない。消費税は累進性がなく、低所得層にしわ寄せがいきます。もともと貯蓄の少ない層に税をかけることで消費を抑えかねません。あまり、良い税ではないですね。

【池上】 日本の消費税は8%です。将来的には欧州並みに20%にした方がいいという議論がありますが、それには懐疑的なのですね。 

【ピケティ】 ええ、疑問です。欧州でも、日本の消費税に当たる付加価値税を上げようという議論があります。ただし、これを日本は参考にすべきではありません。
 EUの国同士が交易をしても関税がかかりません。そのため、例えばフランスがドイツから税金を取ろうと付加価値税を利用するのです。EU内の関税のようなもので、欧州各国の財政的な協力がない表れなのです。
(後略)>

□「週刊ダイヤモンド」2015年2月14日号の「特集1 そうだったのか! ピケティ『21世紀の資本』」の「第1章 やっとわかった! ピケティ」の「特別対談 本当に伝えたかったことは何ですか ~池上流『21世紀の資本』の読み方」
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 【参考】
【ピケティ】シンプルで明快な主張 ~文学と経済学との関係~
【ピケティ】格差は止めなければ止まらない ~政治的無為への警告~
【ピケティ】総特集号(「現代思想」2015年1月増刊号)の目次
【ピケティ】『21世紀の資本』詳細目次
【ピケティ】に対するインタビュー ~失われた平等を求めて~
【ピケティ】勲章拒否の警告 ~再構築される「世襲的資本主義」~
【佐藤優】【ピケティ】はマルクスとは異質な発想 ~『21世紀の資本』~
【ピケティ】『21世紀の資本』に係る書評の幾つか
【ピケティ】は21世紀のマルクスか ~ピケティ現象を読み解く~
【ピケティ】資本主義の今後の見通し ~トマ・ピケティ(3)~
【ピケティ】現代経済学を刷新する巨大なインパクト ~トマ・ピケティ(2)~
【ピケティ】分析の特徴と主な考え ~トマ・ピケティ『21世紀の資本』~
【経済】累進資産課税が格差を解決する ~アベノミクス批判~
【経済】格差が広がると経済が成長しない ~株主資本主義の危険~
【経済】なぜ格差は拡大するか ~富の分配の歴史~

   

【ピケティ】シンプルで明快な主張 ~文学と経済学との関係~

2015年02月09日 | 社会
 『21世紀の資本』の主張はたった一つ。
 「インフレ率が2%で、資産運用利回りが5~7%とすると、金持ちの資産は永続的に拡大し、資産格差が広がる」
 これだけ。

 読みながら付箋を貼り、読後付箋を貼った箇所を抜き書きすると、何度も同じことが繰り返されているのに気づく。
 
 前半150ページは、これまでの資本と所得論を検証する学術論文だ。
 読み通すのはきつい。登山でいえば、取っ付きの急登だ。
 しかし、バルザックの小説などを素材に、19世紀の経済感覚を探るあたりで一息つくことができる【注】。
 中盤は、ひたすらデータなので、読む方もひたすら付いていくしかない。
 そして、最後の200ページでは、ピケティは一挙に持論を展開し、不労所得に対する怒りと富分配に対する公正、公平の追求を説く。

 自らのデータ解釈へ、読者の批判的な検証を促す真摯な姿勢と、登頂/読破の喜びに、5,500円の価値は十分ある。

 【注】「週刊ダイヤモンド」2015年2月14日号の「特集1 そうだったのか! ピケティ『21世紀の資本』」の「第1章 やっとわかった! ピケティ」の「特別対談 本当に伝えたかったことは何ですか ~池上流『21世紀の資本』の読み方」からピケティの発言を引く。
<【トマ・ピケティ】 (文学は)高校生のときからかなりいろいろな作品を読んできました。文学は、私にとって大事な情報源です。その時代に生きた人々の身に何が起こっていたのかが分かるからです。特にマネーは人生に大きな影響を及ぼします。それも生々しく、です。文学は時代を読み解く上でとても重要な資料ですね。
 例えば、最近に読んだメキシコ人作家のカルロス・フェンテスの本は、メキシコ革命が人々に与えた影響がよく表現されています。
 文学には経済学的な美しさはありませんが、社会科学と補完的な関係があります。社会科学の最先端にあるといってもよい力強さがありますね。
 (中略)
 (格差問題に取り組むきっかけは格差をテーマにした人間ドラマが描かれた小説を読んだことが大きいかというと・・・・)ええ、特にバルザックの『ゴリオ爺さん』には大きな影響を受けました。法律家の青年がこのまま働き続けて出世をめざすのがよいのか、お金持ちの娘と結婚するのがよいのかを持ち掛けられるわけですが、長い間この問いが頭にありました。
 19世紀の史実なのか、それとも創作だったのか。お金持ちの娘と結婚すべきなのか--。調査を進め、資本の社会における富の分配と労働収入との関係を考えるようになりました。
 本の11章でも検討しましたが、結果として、バルザックの時代は上位1%の遺産を相続する人々の生活水準が、トップ1%の賃金を得る労働者の水準を上回っていました。つまり、青年は富裕層の女性と結婚する方がずっと暮らしが良かったのです。ただし、20世紀の半ばになると、それが逆転する現象も現れています。>

□鈴木寛之(八重洲ブックセンター八重洲本店販売課リーダー)「5500円の価値は十分! 『21世紀の資本』読破の喜び」(「週刊ダイヤモンド」2015年1月31日号)
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 【参考】
【ピケティ】格差は止めなければ止まらない ~政治的無為への警告~
【ピケティ】総特集号(「現代思想」2015年1月増刊号)の目次
【ピケティ】『21世紀の資本』詳細目次
【ピケティ】に対するインタビュー ~失われた平等を求めて~
【ピケティ】勲章拒否の警告 ~再構築される「世襲的資本主義」~
【佐藤優】【ピケティ】はマルクスとは異質な発想 ~『21世紀の資本』~
【ピケティ】『21世紀の資本』に係る書評の幾つか
【ピケティ】は21世紀のマルクスか ~ピケティ現象を読み解く~
【ピケティ】資本主義の今後の見通し ~トマ・ピケティ(3)~
【ピケティ】現代経済学を刷新する巨大なインパクト ~トマ・ピケティ(2)~
【ピケティ】分析の特徴と主な考え ~トマ・ピケティ『21世紀の資本』~
【経済】累進資産課税が格差を解決する ~アベノミクス批判~
【経済】格差が広がると経済が成長しない ~株主資本主義の危険~
【経済】なぜ格差は拡大するか ~富の分配の歴史~