語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】トランプの政策はじつは中道 ~大統領に当選した理由~

2017年08月18日 | ●佐藤優
 (1)ヨーロッパの右傾化、などといわれて、トランプ大統領も同じ文脈で語られるのだが、彼は右翼ではない。ネオコンとかオルトライトとかいう系統ではなく、クリスチャン・シオニズムなのだ。そこは少し、今までとは切り口の違う人。同時多発テロ以降の米国で無視できないのは、米国の終末思想だ。彼はそのへんのボリュームゾーンをつかんでいた。だから、大統領選挙で当選したのだ。
 もうひとつ、トランプが当選したのは、彼の政策が中道だからだ。言っていることはメチャクチャだが、じつは中道なのだ。だから一般の米国人には、極左のバーニー・サンダース候補や極右のテッド・クルーズ候補にくらべたら、まだマシに見えたわけだ。クルーズのTVCMに、マシンガンの銃身の熱でベーコンを焼くというのがあったが、あれにくらべればトランプのほうがはるかにまともだ。比較の問題だが。あのマシンガンベーコンのCMのどこにも、思想性なんてない。全米ライフル協会の歓心を買うこと以外、なにもないCMだ。さすがにトランプは、あそこまで愚かなことはしなかった。そんなことからも、トランプは中道だとわかる。

 (2)トランプは、フランスの大統領候補だったマリーヌ・ルペンを賞讃していた。でも、彼はルペンが当選して、EUを分断してくれればいい、と願っていたわけではない。彼の発想は、そんなところまで行ってない。米国の国内問題だけで頭がいっぱいだ。
 それに文化的に複雑な背景を持っているヨーロッパや中東に関しては、理解していない。もし理解していたら、ああいう極度なイスラエル一辺倒の政策はできない。
 アジアのこともそうだ。たとえば中国と喧嘩するつもりなんか、最初はたいしてなかった。むしろ中国のほうはトランプに期待していた。今までの世界秩序を変える、という点で、中国にプラスになる大統領かもしれない、と期待していただろう。だからトランプ当選を比較的、歓迎していた。
 ところが、トランプは今までの米中関係についてなにも勉強していないから、大統領に就任する前に蔡英文・中華民国総統に電話して、しかもそのことを発表してしまった。当然、中国は激しく反発した。そうしたら売り言葉に買い言葉になって、最後にはトランプが、ひとつの中国政策なんかにつきあう必要はないんだ、なんてことまでいいだして、これは大変なことになった、と思ったら、今度は習近平・主席に仲良くしましょう、と手紙を出している。やっていることがムチャクチャだ。根本方針もなにもあったもんじゃない。でも、それがトランプの実態なのだ。

 (3)トランプは、ふつうの分析では収まらない人物だ。今まで、我々はチェスをしているのかと思っていたら、いつの間にか将棋になっていた。相手にとられたコマを、もう一回使えるとか。こういうふうにルールが変わってしまう。しかもその将棋は、二歩もOKだったりする。トランプに限っては、成り銀は右横にも動ける、とか。トランプだけが勝手にやる。ガキ大将だ。
 さりとて、完全に将棋のルールを無視しているわけでもない。ときどき、トランプの動かすコマは変な動きをするが、それを指摘するとトランプは、これは許容範囲だ、と強弁する。で、そういわれてしまうと、誰もトランプには文句をいえない。こういう面倒くさい構造が、トランプの周囲でできあがっているわけだ。

□佐藤優・監修『地政学から読み解く米中露の戦略』の「第1章 地政学から読み解く米国の戦略」の「トランプ大統領は右派か? EU分断を企んでいるか? ~当選したのは、政策が中道だから~
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

 【参考】
【佐藤優】保護主義は今や世界のトレンド ~グローバリズム→国家機能強化~
【佐藤優】商売人トランプは儲かる戦争をする ~軍事費1割増は経済政策~
【佐藤優】大使館が引っ越すと第三次世界大戦の引き金になる ~地獄の釜の蓋が開く~
【佐藤優】トランプを理解する二つ目のカギ ~「イスラエル中心主義」~
【佐藤優】トランプを理解するカギ ~彼の信仰、カルヴァン派~
【佐藤優】×宮家邦彦/北朝鮮の核問題、ICBM問題にどう向き合うか